今回は、「財務・会計 ~H24-17-1 財務指標の計算(8)~」について説明します。
ただし、二次試験(事例Ⅳ)の第1問(経営分析)で必要な「財務指標」は限られているため、あらかじめ確認(事例Ⅳ ~①経営分析~)してから、一次試験の勉強に取り組みましょう。
目次
財務・会計 ~平成24年度一次試験問題一覧~
平成24年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
財務指標の計算 -リンク-
本ブログにて「財務指標の計算」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 財務指標
- R3-10 財務指標の計算(14)
- R2-11 財務指標の計算(13)
- R1-11 財務指標の計算(12)
- H29-11 財務指標の計算(1)
- H28-9-2 財務指標の計算(2)
- H27-11 財務指標の計算(3)
- H26-9 財務指標の計算(4)
- H26-10 財務指標の計算(5)
- H25-5 財務指標の計算(7)
- H24-20-2 財務指標の計算(9)
- H23-9 財務指標の計算(10)
- H22-8 財務指標の計算(11)
株式指標 -リンク-
「株式指標」については、過去にも説明していますので、以下のページにもアクセスしてみてください。
ROE(自己資本当期純利益率/Return On Equity)
「ROE(自己資本当期純利益率)」とは、「純資産(株主資本、自己資本)」に対する「当期純利益(税引後当期純利益)」の比率を示す指標であり「自己資本利益率」「株主資本利益率」とも呼ばれます。
「ROE(自己資本当期純利益率)」は、企業の収益力を示す財務指標の一つであり、自己資本によってどれだけ効率的に利益を生み出すことができているかを表す重要な指標であり、数値が高いほど収益性が高いことを示しています。
企業は、「株主資本(自己資本)」と「負債(他人資本)」で構成される「資本」を投下して事業を行い、その結果として「営業利益」を獲得します。さらに、「営業利益」から「他人資本」の債務者に対して「利息」を支払った後の残額を「経常利益」といい、「経常利益」から法人税等を納付した後の残額を「税引後当期純利益」といいます。
したがって、債務者への支払額や法人税等の納付額を控除した「税引後当期純利益」が「株主資本(自己資本)」を元手にして獲得した純粋な利益であり、株主に対する配当金の源泉となるため、「税引後当期純利益」を「株主資本(自己資本)」で除して求めた「ROE(自己資本利益率)」は、配当金を受け取る株主にとって非常に重要な指標です。
「ROE(自己資本当期純利益率)」は、この後説明する「PER(株価収益率)」と「PBR(株価純資産倍率)」を用いて、以下の公式でも算出することができます。
ROEの分解による理解
上述の通り、「ROE(自己資本当期純利益率)」は「純資産(株主資本、自己資本)」に対する「当期純利益(税引後当期純利益)」の比率として表されますが、「収益性」と「効率性」と「安全性」の指標に分解すると、「ROE(自己資本当期純利益率)」を高めるためには「収益性を高める」「効率性を上げる」「負債の割合を増やす」という3つの方法があることが分かります。
財務レバレッジ
上図で出てきた「財務レバレッジ」とは安全性を示す財務指標であり、自己資本比率の逆数(総資本÷自己資本)で求められます。総資本に占める自己資本が小さくなるほど高くなるため、銀行からの借入金などの負債を増やすほど、財務レバレッジの数値が高くなります。
一般的に資本構成における負債の割合が高くなると倒産リスクが高まり経営上好ましくないと考えがちですが、借入金等により調達した資本で利益を上げることができれば、企業としては良い経営状態にあるということになります。
ここで注意が必要なのは、ROEを高くするためには、ただ単に借入金を増やせばよいのではなく、借入金により調達した資本で売上や当期純利益を高める必要があるということです。
「財務レバレッジ」の「レバレッジ」とは、日本語では「てこの原理」のことを示しており、少ない資金で大きな利益を手に入れるという意味で使われます。
つまり、少ない資金(自己資本)でも借入金(他人資本)を活用することで、事業の効率性を高める(大きな利益を手に入れる)ことができるということを示しています。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成24年度 第17問】
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
現在、X社は総資本10億円(時価ベース)の全額を株主資本で調達して事業活動を行っており、その税引前総資本営業利益率は12%である。また、ここでの税引前営業利益は税引前当期利益に等しく、また同時に税引前キャッシュフローにも等しいものとする。X社は今後の事業活動において、負債の調達と自己株式の買い入れによって総資本額を変えずに負債と株主資本との割合を4:6に変化させることを検討しており、その影響について議論している。
(設問1)
もし市場が完全で税金が存在しない場合、X社が資本構成を変化させたとき、ROE は何%となるか。最も適切な数値を選べ。なお、負債利子率は6%であり、資本構成の変化によって税引前総資本営業利益率は変化しないものとする。
ア 6%
イ 12%
ウ 16%
エ 18%
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問1)
今回の問題では、資本構成の変化により、株主資本に対する当期純利益(税引後利益)の比率を示す「ROE」がどのように変化するかを問われています。
今回の問題を解くにあたって必要な知識として「損益計算書の構成」を以下に示します。
続いて、問題文に記載されている情報から、資本構成変化前と資本構成変化後の損益計算書の状況を整理します。
資本構成変化前の状態
問題文の中で資本構成変化前の前提条件が以下の通り設定されています。
- 総資本10億円(時価ベース)の全額を株主資本で調達している。
- 税引前総資本営業利益率は12%である。
- ここでの税引前営業利益は税引前当期利益に等しい。
- 税金が存在しない。
上記の前提条件から、損益計算書の内容を整理すると以下の通りとなります。
- 総資本10億円に対して、税引前総資本営業利益率が12%のため、営業利益(税引前)は1.2億円である。
- 税引前営業利益は税引前当期利益に等しいということから、営業外収益、営業外費用、特別利益及び特別損失が発生していない状況である。
- さらには税金が存在しないため、税引前当期利益は当期純利益(税引後)に等しい。
- つまり、税引前総資本営業利益率は「ROE(自己資本当期純利益率)」を示している。
上記の整理結果に基づき、損益計算書を書いてみると以下の通りとなります。
資本構成変化後の状態
問題文の中で資本構成変化後の前提条件が以下の通り設定されています。
- 総資本額を変えずに負債と株主資本との割合を4:6に変化させる。
- 税引前総資本営業利益率は変化しない。
- 負債利子率は6%である。
- 税金が存在しない。
上記の前提条件から、損益計算書の内容を整理すると以下の通りとなります。
- 負債が4億円、株主資本が6億円の資本構成となる。
- 営業利益(税引前)は資本構成変更前と等しく、1.2億円である。
- 負債が4億円あり負債利子率が6%のため、0.24億円の支払利息(営業外費用)が発生する。
- 資本構成変更前と同様に、営業外収益、特別利益及び特別損失は発生しない。
- さらには税金が存在しないため、税引前当期利益は当期純利益(税引後)に等しい。
上記の整理結果に基づき、損益計算書を書いてみると以下の通りとなります。
最後に、「ROE(自己資本当期純利益率)」を求めます。
ROE(自己資本当期純利益率/Return On Equity)
「ROE(自己資本当期純利益率)」とは、「純資産(株主資本、自己資本)」に対する「当期純利益(税引後当期純利益)」の比率を示す指標であり、以下の公式により算出することができます。
資本構成変更後の「純資産(株主資本)」は「6億円」であり、「当期純利益」は「0.96億円」であるため、ROEは以下の通りとなります。
- 0.96億円 ÷ 6億円 × 100% = 16%
答えは(ウ)です。
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