今回は、「経済学・経済政策 ~H26-19 市場構造と競争モデル(4)独占市場(供給独占)~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成26年度一次試験問題一覧~
平成26年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
完全競争市場・独占市場(供給独占)・独占的競争市場 -リンク-
本ブログにて「完全競争市場」「独占市場(供給独占)」「独占的競争市場」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 完全競争市場・独占市場(供給独占)・独占的競争市場のまとめ
- R4-17 市場構造と競争モデル(6)完全競争と不完全競争
- R3-19 市場構造と競争モデル(5)独占市場(供給独占)
- R2-20 製品差別化と独占的競争(1)独占的競争市場
- R1-16-2 市場構造と競争モデル(1)完全競争市場(短期)
- H30-13 資源配分機能(7)余剰分析(独占市場)
- H27-15 費用曲線とサンクコスト(4)費用曲線
- H27-17 市場構造と競争モデル(2)完全競争市場
- H24-19 費用曲線とサンクコスト(7)利潤
独占(供給独占)
「独占(供給独占)」とは、供給者が1社であり財が差別化されている市場のことをいいます。
完全競争市場 | 独占的競争市場 | 独占(供給独占) | |
供給者 | 多数 | 多数 | 1社 |
市場で扱う財 | 同一 | ある程度差別化 | 差別化 |
価格支配力 | なし | あり | あり |
市場への参入と退出 | 長期的には可能 | 長期的には可能 | 不可能 |
「独占市場(供給独占)」においては、財が差別化されており市場への新規参入も不可能であるため、「独占企業」が価格支配力を有する「プライスメイカー」として、自らの利潤を最大化させるように価格を設定することができます。
独占企業の直面する需要曲線(D)
「独占市場(供給独占)」においては、市場における供給者が1社しか存在しておらず、全ての需要者は唯一の供給者である「独占企業」から供給される財を需要するため、「独占企業」の直面する需要曲線は、市場全体の需要曲線と同じく右下がりの曲線となります。
したがって、「独占企業」は、財の「生産量」を減らしてその価格を高く設定したり、財の価格を低く設定して「生産量」を増やすことができます。
ちなみに、「完全競争市場」においては、各企業は市場全体で決定した価格を受容する「プライステイカー」であるため、各企業が直面する需要曲線は水平となります。
「完全競争市場」の各企業が直面する水平な需要曲線(以下左図)と「独占企業」の直面する右下がりの需要曲線(以下右図)を以下に示します。
完全競争市場と独占市場(供給独占)の需要曲線
各企業が直面する需要曲線は「d」で表され、市場全体の需要曲線を表す場合は「D」と表されますが、市場を独占する企業の直面する需要曲線は、市場全体の需要曲線と同一であるため「D」と表されます。
各企業の生産量は「q」で表され、市場全体の生産量を表す場合は「Q」と表されますが、市場を独占する企業の生産量は、市場全体の生産量と同一であるため「Q」と表されます。
限界収入(MR:Marginal Revenue)
「限界収入(MR)」とは、生産量を1単位増加したときの総収入の増加分のことをいいます。
「完全競争市場」においては、各企業の「需要曲線(d)」が水平の曲線であったため「限界収入曲線(MR)」は「需要曲線(d)」と同じく水平(MR=d)でしたが、「独占市場(供給独占)」においては「需要曲線(D)」が右下がりの曲線であるため「限界収入曲線(MR)」と「需要曲線(D)」は異なる曲線(MR≠D)となります。
完全競争市場と独占市場(供給独占)の限界収入曲線(MR)
「限界収入曲線(MR)」と「需要曲線(D)」が異なる曲線(MR≠D)であることを数式から確認していきます。
右下がりの曲線(直線)である「需要曲線(D)」は、Y軸との切片を「a」、傾きを「-b」、生産量(横軸)を「Q」とした場合、以下の関数により表すことができます。
- 需要曲線(D)
D = a-bQ
「総収入(TR)」は「価格」に「生産量」を乗じることにより算出できるため、「価格」を「P」とした場合「総収入(TR)= P × Q」として求めることができます。また、「価格(P)」は「需要曲線(D)」上の点であるため「P=D」の関係が成立します。
- 総収入(TR)= 価格(需要曲線上の点)× 生産量
TR = P × Q = D × Q =( a-bQ )× Q = aQ-bQ²
「限界収入曲線(MR)」は「生産量を1単位増加したときの総収入の増加分」であるため「総収入(TR)」の関数を「生産量(Q)」で微分することにより算出することができます。
- 限界収入曲線(MR)
⊿TR ÷ ⊿Q = a-2bQ
「需要曲線(D)」と「限界収入(MR)」の関数を比較すると、どちらもY軸の切片は「a」ですが、傾きは「需要曲線(D)」では「-b」であり、「限界収入曲線(MR)」では「-2b」となっていることが分かります。
したがって、「独占企業」の「限界収入曲線(MR)」は「需要曲線(D)」とY軸の切片が同じで傾きが2倍の曲線となります。
独占企業の需要曲線(D)と限界収入曲線(MR)
利潤を最大化させる生産量の決定(MR=MC)
「独占企業」は、利潤を最大化させる「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」の交点において「生産量(Qm)」を決定するため、財の価格は「生産量(Qm)」における「需要曲線(D)」の高さ(Pm)で決定します。
なお、「生産量(Qm)」における「需要曲線(D)」上の点のことを「クールノーの点(M)」といいます。
独占市場(供給独占)における利潤の最大化
ラーナーの独占度
「ラーナーの独占度」とは「独占企業」の価格支配力の強さを表す指標であり、以下の公式により求めることができます。
「ラーナーの独占度」の数値が大きいほど「限界収入(MR)」が大きく当該企業による独占度が高いことを表しています。
なお、「完全競争市場」においては「価格(P)= 限界収入(MR)」であり、利潤を最大化させる条件が「限界収入(MR)= 限界費用(MC)」であるため、「ラーナーの独占度」の分子である「価格(P)- 限界費用(MC)」はゼロとなります。
また、「ラーナーの独占度」は「需要の価格弾力性」の逆数という関係があります。(需要の価格弾力性については別途説明します)
利潤を最大化させる生産量における総収入・総費用・利潤の大きさ
利潤を最大化させる「生産量(Qm)」における「独占企業」の「総収入(平均収入)」「総費用(平均費用)」「利潤(平均利潤)」の大きさについて説明していきます。
総収入/平均収入
利潤を最大化させる「生産量(Qm)」における「独占企業」の「平均収入」は縦軸の高さ(Pm)となり、「総収入」は「平均収入(Pm)」に「生産量(Qm)」を乗じた面積となります。
独占企業の平均収入と総収入
総費用/平均費用
利潤を最大化させる「生産量(Qm)」における「独占企業」の「平均費用」は縦軸の高さ(CAC)となり、「総費用」は「平均費用(CAC)」に「生産量(Qm)」を乗じた面積となります。
独占企業の平均費用と総費用
利潤/平均利潤
利潤を最大化させる「生産量(Qm)」における「独占企業」の「平均利潤」は「平均収入(Pm)」から「平均費用(CAC)」を控除した縦軸の高さ(Pm-CAC)となり、「利潤」は「平均利潤(Pm-CAC)」に「生産量(Qm)」を乗じた面積となります。
独占企業の平均利潤と利潤
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成26年度 第19問】
下図は、独占市場におけるある企業の短期の状況を描いたものである。ACは平均費用曲線、MCは限界費用曲線、Dは需要曲線、MRは限界収入曲線であり、独占企業が選択する最適な生産量は、MCとMRの交点で定まるWとなる。この図に関する説明として最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア この独占企業が得る利潤は、□ALMBで示される。
イ この独占企業が得る利潤は、□ALNCで示される。
ウ 生産量Wのとき、限界収入曲線が平均費用を下回るため、□BMNCの損失が発生する。
エ 生産量Wのとき、需要曲線が平均費用を上回るため、□ALMBの損失が発生する。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
利潤を最大化させる生産量において独占企業が得る利潤の大きさに関する知識を問う問題です。
「独占企業」が、利潤を最大化させる「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」の交点(N)において「生産量(W)」を決定するため、財の価格は「生産量(W)」における「需要曲線(D)」の高さ(A)で決定します。
問題で与えられた図において「生産量(W)」における「収入」「利潤」「総費用」を表すと以下のようになります。
(ア) 適切です。
利潤を最大化させる「生産量(W)」における「独占企業」の「利潤」は「平均利潤(A-B)」に「生産量(W)」を乗じた面積であり「四角形ABML」で表されます。
したがって、この独占企業が得る利潤は、□ALMBで示されるため、選択肢の内容は適切です。
(イ) 不適切です。
利潤を最大化させる「生産量(W)」における「独占企業」の「利潤」は「平均利潤(A-B)」に「生産量(W)」を乗じた面積であり「四角形ABML」で表されます。
したがって、この独占企業が得る利潤は、□ALNCではなく□ALMBで示されるため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
「独占企業」が、利潤を最大化させる「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」の交点(N)において「生産量(W)」を決定したとき、財の価格は「生産量(W)」における「需要曲線(D)」の高さ(A)で決定します。
「生産量(W)」において、限界収入を表している「限界収入曲線(MR)」の高さ(C)と、平均費用を表している「平均費用曲線(AC)」の高さ(B)を比較しても「独占企業」の収支状況を確認することはできません。
なお、利潤を最大化させる「生産量(W)」における「独占企業」の「利潤」は「平均利潤(A-B)」に「生産量(W)」を乗じた面積であり「四角形ABML」で表されます。
したがって、生産量Wのとき、限界収入曲線が平均費用を下回りますが、需要曲線が平均費用を上回るため、□BMNCの損失ではなく□ALMBの利潤が発生します。選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「独占企業」が、利潤を最大化させる「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」の交点(N)において「生産量(W)」を決定したとき、財の価格は「生産量(W)」における「需要曲線(D)」の高さ(A)で決定します。
「生産量(W)」において、価格を表している「需要曲線(D)」の高さ(A)が、平均費用を表している「平均費用曲線(AC)」の高さ(B)を上回っているということは、「独占企業」の利潤が「プラス」であることを示しています。
なお、利潤を最大化させる「生産量(W)」における「独占企業」の「利潤」は「平均利潤(A-B)」に「生産量(W)」を乗じた面積であり「四角形ABML」で表されます。
したがって、生産量Wのとき、需要曲線が平均費用を上回るため、□ALMBの損失ではなく□ALMBの利潤が発生します。選択肢の内容は不適切です。
答えは(ア)です。
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