今回は、「経済学・経済政策 ~H27-17 市場構造と競争モデル(2)完全競争市場~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成27年度一次試験問題一覧~
平成27年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
完全競争市場・独占市場(供給独占)・独占的競争市場 -リンク-
本ブログにて「完全競争市場」「独占市場(供給独占)」「独占的競争市場」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 完全競争市場・独占市場(供給独占)・独占的競争市場のまとめ
- R4-17 市場構造と競争モデル(6)完全競争と不完全競争
- R3-19 市場構造と競争モデル(5)独占市場(供給独占)
- R2-20 製品差別化と独占的競争(1)独占的競争市場
- R1-16-2 市場構造と競争モデル(1)完全競争市場(短期)
- H30-13 資源配分機能(7)余剰分析(独占市場)
- H27-15 費用曲線とサンクコスト(4)費用曲線
- H26-19 市場構造と競争モデル(4)独占市場(供給独占)
- H24-19 費用曲線とサンクコスト(7)利潤
完全競争市場
「完全競争市場」とは、財を提供する供給者と需要者が多数存在しており、財が差別化されておらず同質である市場のことをいいます。
完全競争市場 | 独占的競争市場 | 独占(供給独占) | |
供給者 | 多数 | 多数 | 1社 |
市場で扱う財 | 同一 | ある程度差別化 | 差別化 |
価格支配力 | なし | あり | あり |
市場への参入と退出 | 長期的には可能 | 長期的には可能 | 不可能 |
「完全競争市場」においては、財が差別化されておらず同質であるため、各企業は市場全体で決定した価格を受容する「プライステイカー」として、自らの利潤を最大化させるように生産量を決定します。
完全競争市場における需要曲線
「完全競争市場」においては、財の価格が上昇するとその需要量が減少し、財の価格が下落するとその需要量が増加するため、「需要曲線(D)」は右下がりの曲線となります。
また、右下がりの曲線である「需要曲線(D)」と右上がりの曲線である「供給曲線(S)」が均衡する「交点(E)」で、財の「価格(P0)」と「生産量(Q0)」が決定します。
完全競争市場の需要曲線(D)と供給曲線(S)
完全競争市場の各企業が直面する需要曲線
「完全競争市場」において「需要曲線(D)」と「供給曲線(S)」が均衡する「交点(E)」における価格が「P0」であった場合、市場全体で決定した価格を受容する「プライステイカー」である各企業においては、「生産量」を増減しても財の価格は変動せず「価格(P0)」で固定されるため、各企業が直面する「需要曲線(d)」は水平となります。
「完全競争市場」における「需要曲線(D)」が右下がりの曲線であるのに対して、各企業の「需要曲線(d)」が水平となるのは「生産量」の規模が大きく異なるためであり、仮に「完全競争市場」に参入している1つの企業が「生産量(q)」を大量に増やしたとしても、市場全体の「生産量(Q)」には影響を与えない程度であるということを表しています。
完全競争市場の各企業が直面する需要曲線(d)
なお、市場全体の需要曲線を表す場合は「D」と表記されます。
各企業の生産量は「q」で表されます。
なお、市場全体の生産量を表す場合は「Q」と表記されます。
限界収入(MR:Marginal Revenue)
「限界収入(MR)」とは、生産量を1単位増加したときの総収入の増加分のことをいいます。
「完全競争市場」の各企業は、各企業が直面する「需要曲線(d)」は水平であり、財の「生産量」に関わらず「価格(P0)」で販売できるため、「生産量」を1単位増加すると収入が「価格(P0)」だけ増加します。
したがって、「限界収入(MR)=価格(P0)」となるため、「完全競争市場」において各企業が直面する「限界収入曲線(MR)」は「需要曲線(d)」と同じく水平(MR=d)となります。
完全競争市場の各企業が直面する限界収入曲線(MR)
限界費用(MC:Marginal Cost)
「限界費用(MC)」とは、生産量を1単位増加したときの総費用の増加分のことをいいます。
「限界費用(MC)」は生産量を1単位増加したときの総費用の増加分であるため、「総費用曲線(TC曲線)」の傾き(総費用関数を生産量で微分)として求めることができます。
以下に示す図の通り、「限界費用曲線(MC曲線)」は「U字型」となります。
総費用曲線(上)と限界費用曲線(下)
利潤を最大化させる生産量の決定
各企業は、利潤を最大化させるように「生産量(q)」を決定します。
利潤を最大化させる生産量は「限界収入(MR)」から「限界費用(MC)」を控除した「限界利益(MR-MC)」で考えていきます。
「限界利益(MR-MC)」とは、生産量を1単位増加したときの利潤の増加分であるため、「限界利益(MR-MC)」が「プラス」であれば、企業が財を生産すればするほどその利潤は大きくなりますが、「限界利益(MR-MC)」が「マイナス」であれば、企業が財を生産すればするほどその利潤は小さくなってしまいます。
これまでに説明した「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」を組み合わせて「限界利益(MR-MC)」のイメージを図にすると以下のようになります。
完全競争市場の各企業における利潤の最大化
「限界利潤(MR-MC)」が「ゼロ」となる「生産量(Q0)」までは、生産量を1単位増加する度に、企業の利潤は増加していきますが、「生産量(Q0)」を超えると「限界利潤(MR-MC)」が「マイナス」となり、生産量を1単位増加する度に、企業の利潤が減少してしまうことが分かります。
したがって、「完全競争市場」の各企業は利潤を最大化させる生産量として「限界利潤(MR-MC)」が「ゼロ(MR=MC)」となる「交点E」の「生産量(Q0)」に決定します。
利潤を最大化させる生産量における総収入・総費用・利潤の大きさ
利潤を最大化させる生産量における「総収入(平均収入)」「総費用(平均費用)」「可変費用(平均可変費用)」「固定費用(平均固定費用)」「利潤(平均利潤)」の大きさについて説明していきます。
総収入/平均収入
利潤を最大化させる「生産量(q)」における「平均収入」は縦軸の高さ(P)として「総収入」は「平均収入(P)」に「生産量(q)」を乗じた面積として表されます。
完全競争市場の各企業における平均収入と総収入
総費用/平均費用
利潤を最大化させる「生産量(q)」における「平均費用」は縦軸の高さ(CAC)として「総費用」は「平均費用(CAC)」に「生産量(q)」を乗じた面積として表されます。
完全競争市場の各企業における平均費用と総費用
可変費用/平均可変費用
利潤を最大化させる「生産量(q)」における「平均可変費用」は縦軸の高さ(CAVC)として「可変費用」は「平均可変費用(CAVC)」に「生産量(q)」を乗じた面積として表されます。
完全競争市場の各企業における平均可変費用と可変費用
固定費用/平均固定費用
利潤を最大化させる「生産量(q)」における「平均固定費用」は「平均費用(CAC)」から「平均可変費用(CAVC)」を控除した縦軸の高さ(CAC-CAVC)として「固定費用」は「平均固定費用(CAC-CAVC)」に「生産量(q)」を乗じた面積として表されます。
完全競争市場の各企業における平均固定費用と固定費用
利潤/平均利潤
利潤を最大化させる「生産量(q)」における「平均利潤」は「平均収入(P)」から「平均費用(CAC)」を控除した縦軸の高さ(P-CAC)として「利潤」は「平均利潤(P-CAC)」に「生産量(q)」を乗じた面積として表されます。
完全競争市場の各企業における平均利潤と利潤
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成27年度 第17問】
いま、下図において、ある財の平均費用曲線と限界費用曲線、および当該財の価格が描かれており、価格と限界費用曲線の交点dによって利潤を最大化する生産量qが与えられている。この図に関する説明として、最も適切なものを以下の解答群から選べ。
[解答群]
ア 利潤が最大となる生産量のとき、四角形adqoによって平均可変費用の大きさが示される。
イ 利潤が最大となる生産量のとき、四角形adqoによって利潤の大きさが示される。
ウ 利潤が最大となる生産量のとき、四角形bcqoによって収入の大きさが示される。
エ 利潤が最大となる生産量のとき、四角形bcqoによって総費用の大きさが示される。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
利潤を最大化する生産量における収入と費用の大きさに関する知識を問う問題です。
財やサービスを供給している場合「MR(限界収入)= MC(限界費用)」となる生産量が利潤を最大化させるため、今回の問題においても「価格曲線(限界収入曲線)」と「限界費用曲線」の「交点(d)」で「生産量(q)」を決定しています。
問題で与えられた図において「生産量(q)」における「収入」「利潤」「総費用」を表すと以下のようになります。
なお、問題で与えられた図には「平均可変費用曲線(AVC)」が描画されていないため「平均可変費用」と「平均固定費用」を求めることはできません。
(ア) 不適切です。
利潤が最大となる生産量qのとき、四角形adqoの面積で表されているのは「収入」です。
なお、問題で与えられた図には「平均可変費用曲線(AVC)」が描画されていないため「平均費用」しか求めることはできません。
したがって、利潤が最大となる生産量のとき、四角形adqoによって平均可変費用の大きさではなく収入の大きさが示されるため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
利潤が最大となる生産量qのとき、四角形adqoの面積で表されているのは「収入」です。
利潤が最大となる生産量qのとき、利潤の大きさを表しているのは四角形adcbです。
したがって、利潤が最大となる生産量のとき、四角形adqoによって利潤の大きさではなく収入の大きさが示されるため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
利潤が最大となる生産量qのとき、四角形bcqoの面積で表されているのは「総費用」です。
利潤が最大となる生産量qのとき、収入の大きさを表しているのは四角形adqoです。
したがって、利潤が最大となる生産量のとき、四角形bcqoによって収入の大きさではなく総費用の大きさが示されるため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
利潤が最大となる生産量qのとき、四角形bcqoの面積で表されているのは「総費用」です。
したがって、利潤が最大となる生産量のとき、四角形bcqoによって総費用の大きさが示されるため、選択肢の内容は適切です。
答えは(エ)です。
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