今回は、「経済学・経済政策 ~H30-13 資源配分機能(7)余剰分析(独占市場)~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成30年度一次試験問題一覧~
平成30年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
完全競争市場・独占市場(供給独占)・独占的競争市場 -リンク-
本ブログにて「完全競争市場」「独占市場(供給独占)」「独占的競争市場」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 完全競争市場・独占市場(供給独占)・独占的競争市場のまとめ
- R4-17 市場構造と競争モデル(6)完全競争と不完全競争
- R3-19 市場構造と競争モデル(5)独占市場(供給独占)
- R2-20 製品差別化と独占的競争(1)独占的競争市場
- R1-16-2 市場構造と競争モデル(1)完全競争市場(短期)
- H27-15 費用曲線とサンクコスト(4)費用曲線
- H27-17 市場構造と競争モデル(2)完全競争市場
- H26-19 市場構造と競争モデル(4)独占市場(供給独占)
- H24-19 費用曲線とサンクコスト(7)利潤
余剰分析
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
例:社会的総余剰(消費者余剰+生産者余剰)
完全競争市場
「完全競争市場」とは、財を提供する供給者と需要者が多数存在しており、財が差別化されておらず同質である市場のことをいいます。
完全競争市場 | 独占的競争市場 | 独占(供給独占) | |
供給者 | 多数 | 多数 | 1社 |
市場で扱う財 | 同一 | ある程度差別化 | 差別化 |
価格支配力 | なし | あり | あり |
市場への参入と退出 | 長期的には可能 | 長期的には可能 | 不可能 |
「完全競争市場」においては、財が差別化されておらず同質であるため、各企業は市場全体で決定した価格を受容する「プライステイカー」として、自らの利潤を最大化させるように生産量を決定します。
独占(供給独占)
「独占(供給独占)」とは、供給者が1社であり財が差別化されている市場のことをいいます。
完全競争市場 | 独占的競争市場 | 独占(供給独占) | |
供給者 | 多数 | 多数 | 1社 |
市場で扱う財 | 同一 | ある程度差別化 | 差別化 |
価格支配力 | なし | あり | あり |
市場への参入と退出 | 長期的には可能 | 長期的には可能 | 不可能 |
「独占市場(供給独占)」においては、財が差別化されており市場への新規参入も不可能であるため、「独占企業」が価格支配力を有する「プライスメイカー」として、自らの利潤を最大化させるように価格を設定することができます。
利潤を最大化させる生産量の決定(MR=MC)
「独占企業」は、利潤を最大化させる「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」の交点において「生産量(Qm)」を決定するため、財の価格は「生産量(Qm)」における「需要曲線(D)」の高さ(Pm)で決定します。
なお、「生産量(Qm)」における「需要曲線(D)」上の点のことを「クールノーの点(M)」といいます。
独占市場(供給独占)における利潤の最大化
余剰分析(独占市場(供給独占))
「独占市場(供給独占)」の「余剰(利益)」について考えていきます。
「独占市場(供給独占)」においては「限界収入曲線(MR)」は「需要曲線(D)」と異なり、Y軸の切片が同じで傾きが2倍の曲線となります。
「独占市場(供給独占)」においては「プライスメーカー」である「独占企業」が利潤を最大化させる「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」の交点で「生産量(Qm)」を決定するため、財の価格は「生産量(Qm)」における「需要曲線(D)」の高さ(Pm)で決定します。
独占市場(供給独占)の余剰分析
「消費者余剰」は、価格の上昇と生産量(消費量)の減少により「完全競争市場」の場合よりも減少します。
「生産者余剰」は、価格の上昇により増加する分と生産量(供給量)の減少により減少する分があるため、「完全競争市場」と比較したとき、一概に増加するか減少するかを判断することはできません。
「消費者余剰」と「生産者余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰」は「完全競争市場」の場合よりも減少しますが、減少してしまう「余剰」のことを「余剰の損失(死荷重)」といいます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成30年度 第13問】
下図は、独占企業が生産する財の需要曲線D、限界収入曲線MR、限界費用曲線MCを示している。この図に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 独占企業が利潤を最大にするとき、完全競争を想定した場合と比較して、消費者余剰は減少する。
b 独占企業が利潤を最大にするとき、完全競争を想定した場合と比較して、総余剰は増加する。
c 独占企業の利潤が最大になる生産量はQ1であり、そのときの価格はP1である。
d 独占企業の利潤が最大になる生産量はQ1であり、そのときの価格はP2である。
[解答群]
ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
完全競争市場と独占市場(供給独占)における余剰の違いに関する知識を問う問題です。
完全競争市場と独占市場(供給独占)における余剰の違い
最初に「完全競争市場」の「余剰(利益)」について考えていきます。
「完全競争市場」においては「限界収入曲線(MR)」は「需要曲線(D)」と同じであり「限界費用曲線(MC)」は「供給曲線(S)」と同じです。
「完全競争市場」においては「需要曲線(D)」と「供給曲線(S)」の交点で「生産量(Q0)」と「価格(P0)」に決定します。
余剰分析(完全競争市場)
「完全競争市場」における「消費者余剰」「生産者余剰」「社会的総余剰(総余剰)」は以下の通りです。
余剰の種類 | 余剰の大きさ |
消費者余剰 | 三角形AP0E |
生産者余剰 | 三角形P0BE |
社会的総余剰(総余剰) | 三角形ABE |
続いて「独占市場(供給独占)」の「余剰(利益)」について考えていきます。
「独占市場(供給独占)」においては「限界収入曲線(MR)」は「需要曲線(D)」と異なり、Y軸の切片が同じで傾きが2倍の曲線となります。
「独占市場(供給独占)」においては「プライスメーカー」である「独占企業」が利潤を最大化させる「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」の交点で「生産量(Q1)」を決定するため、財の価格は「生産量(Q1)」における「需要曲線(D)」の高さ(P1)で決定します。
したがって、「独占市場(供給独占)」において決定される生産量と価格を「完全競争市場」の場合と比較すると「X財」の生産量(消費量)は「Q0個」から「Q1個」に減少し「X財」の価格は「P0」から「P1」に上昇します。
余剰分析(独占市場(供給独占))
「独占市場(供給独占)」における「消費者余剰」「生産者余剰」「社会的総余剰(総余剰)」は以下の通りです。
余剰の種類 | 余剰の大きさ | 完全競争市場からの変化 |
消費者余剰 | 三角形AP1M | =三角形AP0E-四角形P1P0EM |
生産者余剰 | 四角形P1BCM | =三角形P0BE+四角形P1P0DM-三角形DCE |
社会的総余剰(総余剰) | 四角形ABCM | =三角形ABE-三角形MCE |
「消費者余剰」は「三角形AP0E」から「三角形AP1M」に減少します
「生産者余剰」は、価格の上昇により余剰が増加する分(四角形P1P0DM)と生産量の減少により余剰が減少する分(三角形DCE)があるため、一概に増加するか減少するかを判断することはできませんが、今回の問題で与えられた図においては「三角形DCE」よりも「四角形P1P0DM」の方が大きく見えるため「生産者余剰」が増加していると考えられます。
また、「社会的総余剰(総余剰)」は「三角形ABE」から「四角形ABCM」に減少しますが、減少する「三角形MCE」のことを「余剰の損失(死荷重)」といいます。
したがって、独占企業の利潤を最大化させる場合、完全競争市場を想定した場合と比較して「消費者余剰」と「社会的総余剰(余剰)」は減少するため、選択肢(a)に記述されている内容が適切です。
独占企業の利潤を最大化させる生産量と価格の決定
「独占市場(供給独占)」においては「プライスメーカー」である「独占企業」が利潤を最大化させる「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」の交点で「生産量(Q1)」を決定するため、財の価格は「生産量(Q1)」における「需要曲線(D)」の高さ(P1)で決定します。
したがって、独占企業の利潤を最大化させる生産量は「Q1」であり、そのときの価格は「需要曲線(D)」の高さである「P1」となるため、選択肢(c)に記述されている内容が適切です。
(a)と(c)に記述されている内容が適切であるため、答えは(ア)です。
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