経済学・経済政策 ~R1-16-2 市場構造と競争モデル(1)完全競争市場(短期)~

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今回は、「経済学・経済政策 ~R1-16-2 市場構造と競争モデル(1)完全競争市場(短期)~」について説明します。

 

記事が長くなってしまったため「令和元年度 第16問」を2回に分けて解説しています。

今回は「経済学・経済政策 ~R1-16-1 費用曲線とサンクコスト(1)費用曲線~」の続きです。

前回は、財の生産活動において発生する様々な「費用曲線」について説明しましたが、今回は「完全競争市場(短期)」について説明していきます。

 

目次

経済学・経済政策 ~令和元年度一次試験問題一覧~

令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。

 

完全競争市場・独占市場(供給独占)・独占的競争市場 -リンク-

本ブログにて「完全競争市場」「独占市場(供給独占)」「独占的競争市場」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。

 

 

完全競争市場

「完全競争市場」とは、財を提供する供給者と需要者が多数存在しており、財が差別化されておらず同質である市場のことをいいます。

 

完全競争市場 独占的競争市場 独占(供給独占)
供給者 多数 多数 1社
市場で扱う財 同一 ある程度差別化 差別化
価格支配力 なし あり あり
市場への参入と退出 長期的には可能 長期的には可能 不可能

 

「完全競争市場」においては、財が差別化されておらず同質であるため、各企業は市場全体で決定した価格を受容する「プライステイカー」として、自らの利潤を最大化させるように生産量を決定します。

 

完全競争市場における需要曲線

「完全競争市場」においては、財の価格が上昇するとその需要量が減少し、財の価格が下落するとその需要量が増加するため、「需要曲線(D)」は右下がりの曲線となります。

また、右下がりの曲線である「需要曲線(D)」と右上がりの曲線である「供給曲線(S)」が均衡する「交点(E)」で、財の「価格(P0)」と「生産量(Q0)」が決定します。

 

完全競争市場の需要曲線(D)と供給曲線(S)

 

完全競争市場の各企業が直面する需要曲線

「完全競争市場」において「需要曲線(D)」と「供給曲線(S)」が均衡する「交点(E)」における価格が「P0」であった場合、市場全体で決定した価格を受容する「プライステイカー」である各企業においては、「生産量」を増減しても財の価格は変動せず「価格(P0)」で固定されるため、各企業が直面する「需要曲線(d)」は水平となります

「完全競争市場」における「需要曲線(D)」が右下がりの曲線であるのに対して、各企業の「需要曲線(d)」が水平となるのは「生産量」の規模が大きく異なるためであり、仮に「完全競争市場」に参入している1つの企業が「生産量(q)」を大量に増やしたとしても、市場全体の「生産量(Q)」には影響を与えない程度であるということを表しています。

 

完全競争市場の各企業が直面する需要曲線(d)

 

各企業が直面する需要曲線は「d」で表されます。
なお、市場全体の需要曲線を表す場合は「D」と表記されます。
各企業の生産量は「q」で表されます。
なお、市場全体の生産量を表す場合は「Q」と表記されます。

 

限界収入(MR:Marginal Revenue)

「限界収入(MR)」とは、生産量を1単位増加したときの総収入の増加分のことをいいます。

「完全競争市場」の各企業は、各企業が直面する「需要曲線(d)」は水平であり、財の「生産量」に関わらず「価格(P0)」で販売できるため、「生産量」を1単位増加すると収入が「価格(P0)」だけ増加します。

したがって、「限界収入(MR)=価格(P0)」となるため、「完全競争市場」において各企業が直面する「限界収入曲線(MR)」は「需要曲線(d)」と同じく水平(MR=d)となります。

 

完全競争市場の各企業が直面する限界収入曲線(MR)

 

限界費用(MC:Marginal Cost)

「限界費用(MC)」とは、生産量を1単位増加したときの総費用の増加分のことをいいます。

 

 

「限界費用(MC)」は生産量を1単位増加したときの総費用の増加分であるため、「総費用曲線(TC曲線)」の傾き(総費用関数を生産量で微分)として求めることができます。

以下に示す図の通り、「限界費用曲線(MC曲線)」は「U字型」となります

 

総費用曲線(上)と限界費用曲線(下)

 

利潤を最大化させる生産量の決定

各企業は、利潤を最大化させるように「生産量(q)」を決定します。

利潤を最大化させる生産量は「限界収入(MR)」から「限界費用(MC)」を控除した「限界利益(MR-MC)」で考えていきます。

「限界利益(MR-MC)」とは、生産量を1単位増加したときの利潤の増加分であるため、「限界利益(MR-MC)」が「プラス」であれば、企業が財を生産すればするほどその利潤は大きくなりますが、「限界利益(MR-MC)」が「マイナス」であれば、企業が財を生産すればするほどその利潤は小さくなってしまいます

これまでに説明した「限界収入曲線(MR)」と「限界費用曲線(MC)」を組み合わせて「限界利益(MR-MC)」のイメージを図にすると以下のようになります。

 

完全競争市場の各企業における利潤の最大化

 

「限界利潤(MR-MC)」が「ゼロ」となる「生産量(Q0)」までは、生産量を1単位増加する度に、企業の利潤は増加していきますが、「生産量(Q0)」を超えると「限界利潤(MR-MC)」が「マイナス」となり、生産量を1単位増加する度に、企業の利潤が減少してしまうことが分かります。

したがって、「完全競争市場」の各企業は利潤を最大化させる生産量として「限界利潤(MR-MC)」が「ゼロ(MR=MC)」となる「交点E」の「生産量(Q0)」に決定します

 

利潤を最大化させる生産量における企業の収支状況(短期)

完全競争市場の各企業においては、市場全体で決定した価格に基づき、利潤を最大化( MR=MC )する生産量に決定しますが、利潤を最大化させる生産量であったとしても、完全競争市場において決定される価格によって、企業における収支の状況は異なります

 

財の価格が平均費用(AC)よりも高い場合

完全競争市場において財の価格が「P1」であった場合、企業が利潤を最大化( MR=MC )する生産量は「q1」となり、「MR=MC」の交点(E1)は「AC」よりも高くなります

「MR=MC」の交点(E1)が「AC」よりも高くなるということは、総収入が総費用を上回っており、企業が生産活動により利潤を得られる状態であることを示しています。

 

財の価格が平均費用(AC)よりも高い場合

 

財の価格が平均費用(AC)と等しい場合=損益分岐点

完全競争市場において財の価格が「P2」であった場合、企業が利潤を最大化( MR=MC )する生産量は「q2」となり、「MR=MC」の交点(E2)は「AC」と等しくなります

「MR=MC」の交点(E2)が「AC」と等しくなるということは、総収入と総費用が等しく、企業が生産活動により得られる利潤が「ゼロ」となる状態であることを示しています。

価格が「P2」である場合の「MR=MC=AC」の交点(E2)のことを「損益分岐点」といいます。

 

財の価格が平均費用(AC)と等しい場合

 

財の価格が平均費用(AC)より低く平均可変費用(AVC)より高い場合

完全競争市場において財の価格が「P3」であった場合、企業が利潤を最大化( MR=MC )する生産量は「q3」となり、「MR=MC」の交点(E3)は「AC」よりも低く「AVC」よりも高くなります

「MR=MC」の交点(E3)が「AC」よりも低く「AVC」よりも高くなるということは、固定費用の一部を回収できない状態であることを示しています。

企業の得られる利潤が「マイナス」とはなりますが、少しでも固定費用を回収できているため、企業は生産活動を継続します

 

財の価格がACより低くAVCより高い場合

 

財の価格が平均可変費用(AVC)と等しい場合=操業停止点

完全競争市場において財の価格が「P4」であった場合、企業が利潤を最大化( MR=MC )する生産量は「q4」となり、「MR=MC」の交点(E4)は「AVC」と等しくなります

「MR=MC」の交点(E4)が「AVC」と等しくなるということは、可変費用については回収できているが、固定費用については全く回収できていない状態であることを示しているため、企業は生産活動を停止して、完全競争市場から退出します

価格が「P4」である場合の「MR=MC=AVC」の交点(E4)のことを「操業停止点」といいます。

 

財の価格が平均可変費用(AVC)と等しい場合

 

財の価格が平均可変費用(AVC)より低い場合

完全競争市場において財の価格が「P5」であった場合、企業が利潤を最大化( MR=MC )する生産量は「q5」となり、「MR=MC」の交点(E5)は「AVC」よりも低くなってしまいます

「MR=MC」の交点(E5)が「AVC」よりも低くなるということは、固定費用だけでなく、可変費用の一部すら回収できない状態であることを示しているため、企業は生産活動を停止して、完全競争市場から退出します

 

財の価格が平均可変費用(AVC)より低い場合

 

試験問題

それでは、実際の試験問題を解いてみます。

【令和元年度 第16問】

短期の完全競争市場における、価格と最適生産の関係を考える。下図には、限界費用曲線MC、平均費用曲線AC、平均可変費用曲線AVCが描かれている。
この図に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。

 

 

[解答群]

ア 価格がP1とP2の間に与えられると、固定費用はすべて損失になる。
イ 価格がP1より低い場合、操業を停止することで損失を固定費用のみに抑えることができる。
ウ 価格がP2より高い場合、総費用が総収入を上回る。
エ 平均固定費用は、生産量の増加に応じて上昇する。

 

中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

 

考え方と解答

完全競争市場で決定する価格の変動による企業の収支状況の変化に関する知識を問う問題です。

 

完全競争市場の各企業においては、市場全体で決定した価格に基づき、利潤を最大化( MR=MC )する生産量に決定しますが、利潤を最大化させる生産量であったとしても、完全競争市場において決定される価格によって、企業における収支の状況は異なります

 

(ア) 不適切です。

完全競争市場において財の価格が「P1」と「P2」の間の「P3」であった場合、企業が利潤を最大化( MR=MC )する生産量は「Q3」となり、「MR=MC」の交点(E3)は「AC」よりも低く「AVC」よりも高くなります

「MR=MC」の交点(E3)が「AC」よりも低く「AVC」よりも高くなるということは、固定費用の一部を回収できない状態であることを示しています。

 

 

したがって、価格がP1とP2の間に与えられると、固定費用はすべて損失になるのではなく、固定費用の一部が損失になるため、選択肢の内容は不適切です

 

(イ) 適切です。

完全競争市場において財の価格が「P1」より低い「P4」であった場合、企業が利潤を最大化( MR=MC )する生産量は「Q4」となり、「MR=MC」の交点(E4)は「AVC」よりも低くなってしまいます

「MR=MC」の交点(E4)が「AVC」よりも低くなるということは、固定費用だけでなく、可変費用の一部すら回収できない状態であることを示しているため、企業は生産活動を停止して、完全競争市場から退出します

 

 

したがって、価格がP1より低い場合、操業を停止することで損失を固定費用のみに抑えることができるため、選択肢の内容は適切です

 

(ウ) 不適切です。

完全競争市場において財の価格が「P2」より高い「P5」であった場合、企業が利潤を最大化( MR=MC )する生産量は「Q5」となり、「MR=MC」の交点(E5)は「AC」よりも高くなります

「MR=MC」の交点(E5)が「AC」よりも高くなるということは、総収入が総費用を上回っており、企業が生産活動により利潤を得られる状態であることを示しています。

 

 

したがって、価格がP2より高い場合、総費用が総収入を上回るのではなく、総収入が総費用を上回るため、選択肢の内容は不適切です

 

(エ) 不適切です。

「平均固定費用(AFC)」とは、生産物1単位当たりの固定費用のことをいい「固定費用(FC)」を生産量で除して求めることができます。

「固定費用」は生産量に関わらず一定額で発生する費用であるため「平均固定費用(AFC)」は生産量の増加に伴い減少します

 

 

したがって、平均固定費用は、生産量の増加に応じて上昇するのではなく、生産量の増加に伴い減少するため、選択肢の内容は不適切です

 

答えは(イ)です。


 

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