今回は、「財務・会計 ~R1-17 ポートフォリオ理論(12)相関係数~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
ポートフォリオ理論(効率的フロンティア・資本市場線・証券市場線) -リンク-
本ブログにて「ポートフォリオ理論(効率的フロンティア・資本市場線・証券市場線)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- ポートフォリオ理論(効率的フロンティア・資本市場線・証券市場線)のまとめ
- R5-18 ポートフォリオ理論(18)
- R4-15 ポートフォリオ理論(16)ポートフォリオの標準偏差
- R4-16 ポートフォリオ理論(17)効率的フロンティア
- R3-20 ポートフォリオ理論(15)効率的フロンティア
- R2-19 ポートフォリオ理論(13)ポートフォリオの期待収益率
- R2-22 ポートフォリオ理論(14)証券市場線
- R1-15 ポートフォリオ理論(11)
- H30-17 ポートフォリオ理論(9)効率的フロンティア
- H30-18 ポートフォリオ理論(10)ポートフォリオの期待収益率
- H29-19 ポートフォリオ理論(7)相関係数
- H29-23 ポートフォリオ理論(8)ポートフォリオの選択
- H28-18-1 ポートフォリオ理論(5)効率的フロンティア
- H28-18-2 ポートフォリオ理論(6)効率的フロンティア
- H27-19 リスクの種類(2)ポートフォリオ理論のリスク
- H26-17 ポートフォリオ理論(4)相関係数
- H23-18 ポートフォリオ理論(3)ポートフォリオの選択
- H22-16 ポートフォリオ理論(1)相関係数
- H22-17-2 ポートフォリオ理論(2)証券収益率
金融資産の分類
投資家が投資する金融資産には「安全資産(無リスク資産)」と「リスク資産」の2種類があります。
安全資産(無リスク資産)
「安全資産(無リスク資産)」は、基本的に債務不履行のリスクがなく、預貯金や国債のようにあらかじめ将来のリターンが確定されている金融資産のことをいいます。
安全資産の収益率は「安全利子率(無リスク利子率・リスクフリーレート)」といいますが、将来のリターンが確定されているということは「安全利子率」が定数であることを意味しています。
「安全利子率」が定数ということは、リターンのばらつきを示す「分散・標準偏差」がゼロであり、「リスク資産」の価格変動と関連性がないため「相関係数」もゼロとなります。
リスク資産
「リスク資産」は、株式投資のように高利回りが期待されるが元本割れの危険もあり将来のリターンが不確実な金融資産のことをいいます。
「リスク資産」は、その名の通りリスクのある金融資産ということになりますが、1つの金融資産に投資するよりも、複数の金融資産に分散投資することでリスクを低減することができます。
ポートフォリオ理論では「投資家は合理的でリスク回避的である」という前提に基づき、リターンのばらつきを示す「分散・標準偏差」でリスクを数値化して、低いリスクで大きなリターンを得られる効率的な金融資産への投資構成比率を決定していきます。
リスクリターングラフ
「リスクリターングラフ」とは「リスク(リターンの標準偏差)」を横軸に「リターン(期待収益率)」を縦軸に設定したグラフのことをいいます。
リスクリターングラフ
- リスク(リターンの標準偏差)
「リスク(リターンの標準偏差)」とは、投資により将来の獲得が期待できる収益のバラツキのことをいい、「リスク(リターンの標準偏差)」の値(収益のバラツキ)が大きいほどリスク(不確実性)が高いことを表しています。
ポートフォリオの「リスク(リターンの標準偏差)」の算出方法を以下に示します。
- リターン(期待収益率)
「リターン(期待収益率)」とは、投資により将来の獲得が期待できる収益の平均値のことをいい、「リターン(期待収益率)」の値が大きいほど優れていることを表しています。
ポートフォリオの「リターン(期待収益率)」は、ポートフォリオを構成するそれぞれの投資資産の「リターン(期待収益率)」を投資構成比率で加重平均して算出します。
安全資産(無リスク資産)のリスクリターングラフ
「安全資産(無リスク資産)」は「リターン(期待収益率)」を示す「安全利子率」が定数であり「リスク(リターンの標準偏差)」がゼロであるため、「リスクリターングラフ」において縦軸上にプロットします。
リスクリターングラフ(安全資産)
リスク資産(2種類)のリスクリターングラフ
「投資A(ハイリスク・ハイリターン)」と「投資B(ローリスク・ローリターン)」の2種類の「リスク資産」でポートフォリオを構成する場合の「リスクリターングラフ」について考えていきます。
投資Aと投資Bのプロット
まずは「リスクリターングラフ」に「投資A」と「投資B」をプロットします。
「投資A」はハイリスク・ハイリターンであるため「リスクリターングラフ」の右上方にプロットし、「投資B」はローリスク・ローリターンであるため「リスクリターングラフ」の左下方にプロットします。
リスクリターングラフ(投資Aと投資B)
投資構成比率の変動に伴うリスクとリターンの変化
ローリスク・ローリターンである「投資B」のみに投資したことを示す「点B」から、ハイリスク・ハイリターンである「投資A」の投資構成比率を徐々に増やしていった場合の「リスク」と「リターン」の変化を以下に示します。
一般的に、「投資A」の投資構成比率を徐々に増やしていくと、一定の投資構成比率(点C)までは分散投資の効果が働いて「リスク」が低くなり「リターン」が大きくなっていきますが、「投資A」の投資構成比率が「点C」を超えると「リスク」が徐々に高まっていく形に変化していきます。(ここでいう「一般的に」とは、次に説明する「投資A」と「投資B」の相関関係により「リスクリターングラフ」の形状が変わってくることを意図しています。)
リスクリターングラフ(2種類のリスク資産)
リスク資産(2種類)の相関関係によるリスクリターングラフの変化
「投資A(ハイリスク・ハイリターン)」と「投資B(ローリスク・ローリターン)」の2種類の「リスク資産」でポートフォリオを構成する場合、「投資A」と「投資B」の「相関関係」により「リスクリターングラフ」がどのように変化するかについて考えていきます。
相関関係
「相関関係」とは、2つのデータが存在する場合において、片方のデータが変動すると、それに応じて他方のデータも変動する関係のことをいい、パターンに応じて「正の相関」「負の相関」と呼ばれます。
2種類の「リスク資産」に当てはめると、片方の「リスク資産」のリターンが変動すると、それに応じて他方の「リスク資産」のリターンも変動する関係のことをいいます。
- 正の相関
片方の「リスク資産」のリターンが変動すると、それに応じて他方「リスク資産」のリターンも同じ方向に変動する関係のこと。 - 負の相関
片方の「リスク資産」のリターンが変動すると、それに応じて他方の「リスク資産」のリターンが逆の方向に変動する関係のこと。
相関係数
「相関係数」とは2つのデータの「相関関係」を示す数値であり「ρ(ロー)」で表されます。
「相関係数」は「-1 ≦ ρ ≦ 1」の範囲で推移し、その数値は以下の意味を示しています。
相関係数 | 説明 |
ρ=1 | 2つのデータは、片方のデータが変動すると他方のデータもそれに応じて完全に同じ方向に変動する。 |
0<ρ<1 | 2つのデータは、片方のデータが変動すると他方のデータもそれに応じて同じ方向に変動する。 「1」に近いほど「正」の相関関係が強い。 |
ρ=0 | 2つのデータの変動には、全く関連性がない。 |
-1<ρ<0 | 2つのデータは、片方のデータが変動すると他方のデータもそれに応じて逆の方向に変動する。 「-1」に近いほど「負」の相関関係が強い。 |
ρ=-1 | 2つのデータは、片方のデータが変動すると他方のデータもそれに応じて完全に逆の方向に変動する。 |
相関係数とリスクリターングラフの関係
「投資A(ハイリスク・ハイリターン)」と「投資B(ローリスク・ローリターン)」の2種類の「リスク資産」でポートフォリオを構成する場合において、2種類の「リスク資産」の「相関係数」と「リスクリターングラフ」の関係について考えていきます。
相関係数が「ρ=1」の場合
「ρ=1」の場合、2種類の「リスク資産」は完全に同じ動きをします。
「リスクリターングラフ」では、「B点」から「投資A」の投資構成比率を増やしていっても分散効果が働かないため「A点」と「B点」が直線的に結ばれるように推移します。
リスクリターングラフ
(相関係数が「ρ=1」の場合)
相関係数が「ρ=-1」の場合
「ρ=-1」の場合、2種類の「リスク資産」は完全に逆の動きをします。
「リスクリターングラフ」では、「B点」から「投資A」の投資構成比率を増やしていくと「リスク」が「0」になるまで直線的に低下していき、さらに「投資A」の投資構成比率を増やしていくと「リスク」が「A点」まで直線的に上昇するように推移します。
リスクリターングラフ
(相関係数が「ρ=-1」の場合)
リスクリターングラフ(相関係数による変化)
2種類の「リスク資産」でポートフォリオを構成する場合、2種類の「リスク資産」の「相関係数」が大きい(ρ=1に近づく)ほど分散効果が小さくなり、相関係数が小さい(ρ=-1に近づく)ほど分散効果が大きくなります。
リスクリターングラフと相関係数の関係
(2種類のリスク資産)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第17問】
次の文章は、X、Yの2資産から構成されるポートフォリオのリターンとリスクの変化について、説明したものである。空欄A~Dに入る語句の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
以下の図は、X、Yの2資産から構成されるポートフォリオについて、投資比率をさまざまに変化させた場合のポートフォリオのリターンとリスクが描く軌跡を、2資産間の[ A ]が異なる4つの値について求めたものである。
X、Yの[ A ]が[ B ]のとき、ポートフォリオのリターンとリスクの軌跡は①に示されるように直線となる。[ A ]が[ C ]なるにつれて、②、③のようにポートフォリオのリスクをより小さくすることが可能となる。
[ A ]が[ D ]のとき、ポートフォリオのリスクをゼロにすることが可能となり、④のような軌跡を描く。
[解答群]
ア A:相関係数 B:-1 C:大きく D:ゼロ
イ A:相関係数 B:+1 C:小さく D:-1
ウ A:ベータ値 B:ゼロ C:大きく D:+1
エ A:ベータ値 B:+1 C:小さく D:-1
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
ポートフォリオのリターンとリスクの変化に関する知識を問う問題です。
相関係数
「相関係数」とは2つのデータの「相関関係」を示す数値であり「ρ(ロー)」で表されます。
「相関係数」は「-1 ≦ ρ ≦ 1」の範囲で推移し、その数値は以下の意味を示しています。
相関係数 | 説明 |
ρ=1 | 2つのデータは、片方のデータが変動すると他方のデータもそれに応じて完全に同じ方向に変動する。 |
0<ρ<1 | 2つのデータは、片方のデータが変動すると他方のデータもそれに応じて同じ方向に変動する。 「1」に近いほど「正」の相関関係が強い。 |
ρ=0 | 2つのデータの変動には、全く関連性がない。 |
-1<ρ<0 | 2つのデータは、片方のデータが変動すると他方のデータもそれに応じて逆の方向に変動する。 「-1」に近いほど「負」の相関関係が強い。 |
ρ=-1 | 2つのデータは、片方のデータが変動すると他方のデータもそれに応じて完全に逆の方向に変動する。 |
相関係数が「ρ=1」の場合
「ρ=1」の場合、2種類の「リスク資産」は完全に同じ動きをします。
「リスクリターングラフ」では、「B点」から「投資A」の投資構成比率を増やしていっても分散効果が働かないため「A点」と「B点」が直線的に結ばれるように推移します。
リスクリターングラフ
(相関係数が「ρ=1」の場合)
相関係数が「ρ=-1」の場合
「ρ=-1」の場合、2種類の「リスク資産」は完全に逆の動きをします。
「リスクリターングラフ」では、「B点」から「投資A」の投資構成比率を増やしていくと「リスク」が「0」になるまで直線的に低下していき、さらに「投資A」の投資構成比率を増やしていくと「リスク」が「A点」まで直線的に上昇するように推移します。
リスクリターングラフ
(相関係数が「ρ=-1」の場合)
リスクリターングラフ(相関係数による変化)
2種類の「リスク資産」でポートフォリオを構成する場合、2種類の「リスク資産」の「相関係数」が大きい(ρ=1に近づく)ほど分散効果が小さくなり、相関係数が小さい(ρ=-1に近づく)ほど分散効果が大きくなります。
リスクリターングラフと相関係数の関係
(2種類のリスク資産)
穴埋め文章
上述の内容に基づき、問題文を穴埋めすると以下の文章となります。
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以下の図は、X、Yの2資産から構成されるポートフォリオについて、投資比率をさまざまに変化させた場合のポートフォリオのリターンとリスクが描く軌跡を、2資産間の相関係数が異なる4つの値について求めたものである。
X、Yの相関係数が+1のとき、ポートフォリオのリターンとリスクの軌跡は①に示されるように直線となる。相関係数が小さくなるにつれて、②、③のようにポートフォリオのリスクをより小さくすることが可能となる。
相関係数が-1のとき、ポートフォリオのリスクをゼロにすることが可能となり、④のような軌跡を描く。
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答えは(イ)です。
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