今回は、「財務・会計 ~R1-19 株式指標(6)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
株式指標 -リンク-
一次試験に向けて「株式指標」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R5-14 株式指標(9)
- R4-17 株式指標(7)サスティナブル成長率
- R4-23 株式指標(8)配当政策による影響
- H30-21 株式指標(5)
- H26-20-2 株式指標(1)
- H25-20 株式指標(2)
- H23-20-3 株式指標(3)
- H22-19 株式指標(4)
ROE(自己資本当期純利益率/Return On Equity)
「ROE(自己資本当期純利益率)」とは、「純資産(株主資本、自己資本)」に対する「当期純利益(税引後当期純利益)」の比率を示す指標であり「自己資本利益率」「株主資本利益率」とも呼ばれます。
「ROE(自己資本当期純利益率)」は、企業の収益力を示す財務指標の一つであり、自己資本によってどれだけ効率的に利益を生み出すことができているかを表す重要な指標であり、数値が高いほど収益性が高いことを示しています。
企業は、「株主資本(自己資本)」と「負債(他人資本)」で構成される「資本」を投下して事業を行い、その結果として「営業利益」を獲得します。さらに、「営業利益」から「他人資本」の債務者に対して「利息」を支払った後の残額を「経常利益」といい、「経常利益」から法人税等を納付した後の残額を「税引後当期純利益」といいます。
したがって、債務者への支払額や法人税等の納付額を控除した「税引後当期純利益」が「株主資本(自己資本)」を元手にして獲得した純粋な利益であり、株主に対する配当金の源泉となるため、「税引後当期純利益」を「株主資本(自己資本)」で除して求めた「ROE(自己資本利益率)」は、配当金を受け取る株主にとって非常に重要な指標です。
「ROE(自己資本当期純利益率)」は、この後説明する「PER(株価収益率)」と「PBR(株価純資産倍率)」を用いて、以下の公式でも算出することができます。
ROEの分解による理解
上述の通り、「ROE(自己資本当期純利益率)」は「純資産(株主資本、自己資本)」に対する「当期純利益(税引後当期純利益)」の比率として表されますが、「収益性」と「効率性」と「安全性」の指標に分解すると、「ROE(自己資本当期純利益率)」を高めるためには「収益性を高める」「効率性を上げる」「負債の割合を増やす」という3つの方法があることが分かります。
財務レバレッジ
上図で出てきた「財務レバレッジ」とは安全性を示す財務指標であり、自己資本比率の逆数(総資本÷自己資本)で求められます。総資本に占める自己資本が小さくなるほど高くなるため、銀行からの借入金などの負債を増やすほど、財務レバレッジの数値が高くなります。
一般的に資本構成における負債の割合が高くなると倒産リスクが高まり経営上好ましくないと考えがちですが、借入金等により調達した資本で利益を上げることができれば、企業としては良い経営状態にあるということになります。
ここで注意が必要なのは、ROEを高くするためには、ただ単に借入金を増やせばよいのではなく、借入金により調達した資本で売上や当期純利益を高める必要があるということです。
「財務レバレッジ」の「レバレッジ」とは、日本語では「てこの原理」のことを示しており、少ない資金で大きな利益を手に入れるという意味で使われます。
つまり、少ない資金(自己資本)でも借入金(他人資本)を活用することで、事業の効率性を高める(大きな利益を手に入れる)ことができるということを示しています。
PER(株価収益率/Price Earning Ratio)
「PER(株価収益率)」とは、企業の収益性と株価を比較して、投資家が株価の妥当性を判断するために用いられる指標です。
「PER(株価収益率)」では、「株価」が「1株当たり当期純利益」の何倍で取引されているかを確認することができ、業界平均と比較してその数値が高ければ当該企業の株価が割高であり、低ければ当該企業の株価が割安であると判断されます。
「PER(株価収益率)」は、発行済み株式全体で捉えて、以下の計算式で算出することもできます。
PBR(株価純資産倍率/Price Book Value Ratio)
「PBR(株価純資産倍率)」とは、企業の資産規模と株価を比較して、投資家が株価の妥当性を判断するために用いられる指標です。
「PBR(株価純資産倍率)」が1倍の場合、当該企業の株価が解散価値と等しいことを示しています。さらに、「PBR」が1倍より小さい場合は、資産価値が株価よりも安いことを示しているため、「PBR」が低い数値で推移している企業は買収の対象とされやすくなります。
「PBR(株価純資産倍率)」は、発行済み株式全体で捉えて、以下の計算式で算出することもできます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第19問】
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「自己資本利益率(ROE)」に関する知識を問う問題ではありますが、「自己資本利益率(ROE)」を知らなくても数式を分析すれば解くことができるラッキー問題です。
(ア) 不適切です。
「1株当たり利益 ÷ 株価」は「PER(株価収益率)」の逆数です。「PER(株価収益率)」は「株価」が「1株当たり当期純利」の何倍で取引されているかを確認する指標であり、業界平均と比較して「PER(株価収益率)」が高ければ株価が割高であり、低ければ割安であると判断します。
したがって、「1株当たり利益 ÷ 株価」は、「加重平均資本コスト(WACC)」ではなく「PER(株価収益率)」の逆数を表しているため、選択肢の内容は不適切です。
なお、「加重平均資本コスト(WACC)」とは、「負債コスト(時価)」と「株主資本コスト(時価)」の加重平均で「資本コスト」を算出する方法のことをいいます。
(イ) 適切です。
「株価」が下がって「株価 ÷ 1株当たり自己資本簿価」が小さくなっても、「1株当たり利益」が上がれば「株価」が下がった影響を受けることなく「ROE(自己資本利益率)」は大きくなります。
したがって、「株価 ÷ 1株当たり自己資本簿価」が小さくなっても、ROEが低くなるとは限らないため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
「株価 ÷ 1株当たり自己資本簿価」により算出される株式指標は「PBR(株価純資産倍率)」です。「PBR(株価純資産倍率)」は「株価」と「資産」を比較する指標であり、「PBR」が1倍より小さい場合は、純資産額より時価総額の方が安いことを示しています。また、「PBR」が低い数値で推移している企業は買収の対象とされやすくなります。
したがって、「株価 ÷ 1株当たり自己資本簿価」は、「PER(株価収益率)」ではなく「PBR(株価純資産倍率)」を表しているため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「ROE(自己資本利益率)」が「1株当たり利益 ÷ 株価」を上回るためには「株価 ÷ 1株当たり自己資本簿価」が1よりも大きい数値である必要があります。
したがって、「ROE(自己資本利益率)」が「1株当たり利益 ÷ 株価」を上回る場合には、「株価」は「1株当たり自己資本簿価」より大きくなるため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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