財務・会計 ~R5-7 剰余金の配当と処分(6)剰余金の配当~

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今回は、「財務・会計 ~R5-7 剰余金の配当と処分(6)剰余金の配当~」について説明します。

 

目次

財務・会計 ~令和5年度一次試験問題一覧~

令和5年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。

 

剰余金の配当と処分 -リンク-

本ブログにて「剰余金の配当と処分」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。

 

 

引当金 -リンク-

本ブログにて「引当金」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。

 

 

剰余金の配当

会社法(第453条)の施行により、平成18年5月1日以降、株式会社は株主に「剰余金の配当」を行うことができるようになりました。

もちろん、会社法(第453条)の施行以前も株式会社は株主に配当を行っていましたが、それは「剰余金の配当」ではなく「利益の配当」として行われていました。

そのため、配当の回数も、定時株主総会の決議による各事業年度の決算で確定した利益を原資とした1事業年度に1度の「期末配当」と、取締役会の決議による1事業年度に1度の「中間配当」の最大2回までに制限されていました。

 

配当の条件

株式会社が「剰余金の配当」を行うためには「純資産額による制限」と「分配可能額による制限」の条件を満たしていなければなりません。

逆に言うと、「純資産額による制限」と「分配可能額による制限」の条件を満たしていない株式会社は「剰余金の配当」を行うことができません

 

  • 純資産額による制限
    株式会社の純資産額が300万円以上であること
  • 分配可能額による制限
    「剰余金の配当」により株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額が、その効力発生日の分配可能額を超えていないこと(分配可能額の計算方法は非常に複雑です。)

 

自己株式への配当

株式会社が「自己株式」を保有している場合、「自己株式」に「剰余金の配当」を行うことはできません

 

配当の原資

株式会社は「繰越利益剰余金」や「その他資本剰余金」を原資として「剰余金の配当」を行うことができます。

 

配当の回数制限

株式会社は「株主総会」の決議により、1事業年度に何度でも「剰余金の配当」を行うことができます。

なお、「剰余金の配当」を行うときは、その都度「株主総会」の決議が必要です。

ただし、会計監査人を設置しており、取締役の任期をその選任後1年以内の最終の決算期に関する定時株主総会の終結の時までとする取締役会を設置している株式会社は、定款に定めることにより「株主総会」ではなく「取締役会」の決議によって剰余金の配当を行うことができます。

さらに、「取締役会設置会社」は、定款に定めることにより「取締役会」の決議により1事業年度に1度だけ「中間配当(金銭配当のみ)」を行うことができます。

 

現物配当

配当は「金銭配当」ではなく自社商品等による「現物配当」とすることができます。

「金銭配当」の場合は「株主総会」の普通決議(総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、かつその議決権の過半数の賛成を得る)により行うことができますが、「現物配当」の場合は、原則として「株主総会」の特別決議(総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、かつその議決権の3分の2以上の賛成を得る)が必要です。

 

法定準備金の積み立て

株式会社が、株主に剰余金の配当を行う場合、資本金の「4分の1」に達するまで「法定準備金(資本準備金/利益準備金)」を積み立てる必要があります

「法定準備金(資本準備金/利益準備金)」の積立金額が、資本金の「4分の1」に達していない場合は、以下の計算式により求められた金額のうち低い方を「法定準備金(資本準備金/利益準備金)」として積み立てます

 

 

なお、「繰越利益剰余金」を原資として配当を行う場合は「利益準備金」に「その他資本剰余金」を原資として配当を行う場合は「資本準備金」に「法定準備金」を積み立てます。

 

仕訳

株式会社が、株主に配当する場合の「法定準備金」の積み立て額を「配当金の10分の1」とした場合の仕訳を以下に示します。

 

繰越利益剰余金を原資として配当を行う場合

「繰越利益剰余金」を原資として配当を行う場合の仕訳は以下の通りです。

 

借方 貸方
繰越利益剰余金 11,000 現金(配当金)
利益準備金(法定準備金)
10,000
1,000

 

その他資本剰余金を原資として配当を行う場合

「その他資本剰余金」を原資として配当を行う場合の仕訳は以下の通りです。

 

借方 貸方
その他資本剰余金 11,000 現金(配当金)
資本準備金(法定準備金)
10,000
1,000

 

その他資本剰余金による配当を受けた企業の仕訳

「その他資本剰余金」により配当を行う場合は、配当を行う企業よりも、配当を受け取る企業の仕訳が複雑です。

これは、「その他資本剰余金」による配当が、株主から預かった資金を投資して得ることができた利益からの配当ではなく、資本金の払い戻しという意味合いが強いためです。

 

売買目的有価証券以外の有価証券を保有している場合

「その他資本剰余金」による配当を受けた株主が保有する株式が「売買目的有価証券以外」の場合は、当該の有価証券の帳簿価額から減額する仕訳を実施します。

借方 貸方
現金 1,000 その他有価証券 1,000

 

売買目的有価証券の場合

「その他資本剰余金」による配当を受けた株主が保有する株式が「売買目的有価証券」の場合は、通常通り「受取配当金」として仕訳を実施します。

借方 貸方
現金 1,000 受取配当金 1,000

 

 

引当金

 

引当金の目的

「引当金」とは、債権者や株主等の利害関係者が企業の状況に関する判断を誤らないように「適正な期間損益計算」や「保守主義の原則」に則った会計処理を行って必要な会計事実を明瞭に表示するため、貸借対照表の負債の部(または資産の部から控除)に計上する将来の特定の費用または損失に備える準備金のことをいいます。

当期以前の活動に起因して次期以降に費用または損失が発生する可能性が高い場合「引当金」にその金額を繰り入れます。「引当金繰入額」は当期の損益計算書に計上して「引当金」は貸借対処表の負債の部(または資産の部から控除)に計上します。

また、次期以降に費用または損失が実際に発生した場合は「引当金」を切り崩して、その金額を支払います

「引当金」の中でも有名な「貸倒引当金」では、当期以前の売上に関する「売上債権(売掛金・受取手形)」を、次期以降に回収できない可能性が高い場合に、その金額を「貸倒引当金」として当期以前の売上に関する「売上債権(売掛金・受取手形)」から控除する形で「貸借対照表」に表示します。

 

適正な期間損益計算への対応

「貸倒引当金」を例にすると、取引先の業績悪化などの理由により、当期に販売した商品や製品の「売上債権(売掛金・受取手形)」を次期以降に回収できなかった場合、「売上債権(売掛金・受取手形)」を回収できなかったという事実は次期以降に発生したとしても、その「売上債権(売掛金・受取手形)」は商品や製品を当期に販売したという事実に起因するため、回収できない可能性が高い金額は「費用収益対応の原則」や「発生主義の原則」に則り、当期の費用として計上します

 

保守主義の原則への対応

「保守主義の原則」では、予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理を行うことを要請しています。

「貸倒引当金」を例にすると、次期以降に「売上債権(売掛金・受取手形)」を回収できない可能性が高く(予測される将来の危険に備えて)、その金額を合理的に見積もることができる場合は、将来の費用または損失を先延ばしすることなく当期の損益計算に含める(慎重な判断に基づく会計処理を行う)必要があります

 

引当金の定義

引当金は、「企業会計原則」の「企業会計原則注解(注18)」に定義されています。

 

企業会計原則注解(注18) ~引当金について~

将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。

製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金等がこれに該当する。

発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。

 

引当金の計上条件

「引当金」を計上するために満たすべき4つの条件を以下に示します。

 

  1. 将来の特定の費用または損失であること
  2. その費用又は損失が当期以前の事象に起因していること
  3. その費用又は損失が発生する可能性が高いこと
  4. その金額を合理的に見積もることができること

 

なお、発生の可能性が低い「偶発事象」に関する費用または損失を「引当金」に計上することはできません

 

偶発事象とは

偶発事象とは、現在は発生していないが、将来発生する可能性があり、その発生が偶発的(不確実)である事象のことをいいます。例えば、偶発事象には「受取手形の裏書譲渡」や「受取手形の割引」などのケースなどがあります。

 

受取手形の裏書譲渡

「取引先A」から受け取った「受取手形」を、仕入商品の支払代金として「仕入先B」に裏書きして譲り渡すことを「受取手形の裏書譲渡」といいますが、仮に、裏書譲渡した手形が不渡り(「取引先A」の破産等により発生)となった場合は、「仕入先B」からその手形を買い戻さなければならない義務が発生します。

「取引先B」に譲り渡した手形が満期日に無事決済されるまでの間、もしかしたら買い戻さなければならないという偶発債務が発生します。

 

受取手形の割引

「取引先A」から受け取った「受取手形」を、満期日よりも前に銀行に買い取ってもらうことを「受取手形の割引」といいますが、仮に割引した手形が不渡り(「取引先A」の破産等により発生)となった場合は、銀行からその手形を買い戻さなければならない義務が発生します。

銀行に譲り渡した手形が満期日に無事決済されるまでの間、もしかしたら買い戻さなければならないという偶発債務が発生します。

 

 

引当金の種類(賞与引当金のみ)

主な引当金の種類を以下に説明します。

 

賞与引当金

賞与支払規定などに基づき、従業員に次期に支給する賞与のうち、当期以前の職務に対する賞与支払相当額を「賞与引当金」に計上します。

例えば、「3月末決算」の企業において「6月」と「12月」が賞与支給日となっている場合、決算のタイミングで「12月」に賞与を支払った後の3か月分(1月~3月分)は、従業員の勤務に起因して将来の賞与支払義務が発生しています。この場合、当期に発生した「3ヶ月分」の賞与支払相当額を「賞与引当金」に計上します。

なお、「企業会計原則」には明記されていませんが、従業員に支給する賞与とは別に役員に対する賞与の支給について計上する「役員賞与引当金」という引当金もあります。

 

役員賞与引当金

従業員に支給する賞与と同様に、役員に支給する賞与についても、次期に支給する賞与のうち、当期以前の職務に対する役員賞与支払相当額を「役員賞与引当金」に計上します。

 

役員賞与の支給に関する仕訳

役員に賞与を支給するには株主総会における決議が必要となるため「役員賞与引当金」の計上から株主総会における決議を経て賞与を支給するまでの仕訳について説明します。

 

決算日(役員賞与引当金の計上)

企業の決算日に、当期の職務に対する「役員賞与」の見込み金額を「役員賞与引当金」に計上します。

 

借方 貸方
役員賞与引当金繰入 500,000 役員賞与引当金 500,000

 

株主総会における決議

株主総会における決議により確定した「役員賞与」の支給額を「役員賞与引当金」から「未払役員賞与」に付け替えます

 

借方 貸方
役員賞与引当金 500,000 未払役員賞与 500,000

 

役員賞与の支給

役員に「役員賞与」を「現金」で支給します

 

借方 貸方
未払役員賞与 500,000 現金 500,000

 

試験問題

それでは、実際の試験問題を解いてみます。

【令和5年度 第7問】

剰余金の配当と処分に関する記述として、最も適切なものはどれか。

 

ア 株式会社は、1事業年度につき、中間配当と期末配当の最大2回の配当を行うことができる。

イ 株式会社は、資本剰余金を原資とする配当を行うことはできない。

ウ 取締役会設置会社は、取締役会の決議によって中間配当を実施することができる旨を定款で定めることができる。

エ 役員賞与を支払う場合、その10分の1の額を利益準備金として積み立てなければならない。

 

中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

 

考え方と解答

剰余金の配当に関する知識を問う問題です。

 

会社法(第453条)の施行により、平成18年5月1日以降、株式会社は株主に「剰余金の配当」を行うことができるようになりました。

もちろん、会社法(第453条)の施行以前も株式会社は株主に配当を行っていましたが、それは「剰余金の配当」ではなく「利益の配当」として行われていました。

そのため、配当の回数も、定時株主総会の決議による各事業年度の決算で確定した利益を原資とした1事業年度に1度の「期末配当」と、取締役会の決議による1事業年度に1度の「中間配当」の最大2回までに制限されていました。

 

(ア)不適切です。

株式会社は「株主総会」の決議により、1事業年度に何度でも「剰余金の配当」を行うことができます。

 

したがって、株式会社は、1事業年度につき、中間配当と期末配当の最大2回ではなく、1事業年度につき、何度でも配当を行うことができるため、選択肢の内容は不適切です

 

(イ)不適切です。

株式会社は「繰越利益剰余金」や「その他資本剰余金」を原資として「剰余金の配当」を行うことができます。

 

したがって、株式会社は、資本剰余金を原資とする配当を行うことはできないのではなく、資本剰余金を原資とする配当を行うことができるため、選択肢の内容は不適切です

 

(ウ)適切です。

株式会社は「株主総会」の決議により、1事業年度に何度でも「剰余金の配当」を行うことができます。

なお、「剰余金の配当」を行うときは、その都度「株主総会」の決議が必要です。

ただし、会計監査人を設置しており、取締役の任期をその選任後1年以内の最終の決算期に関する定時株主総会の終結の時までとする取締役会を設置している株式会社は、定款に定めることにより「株主総会」ではなく「取締役会」の決議によって剰余金の配当を行うことができます。

さらに、「取締役会設置会社」は、定款に定めることにより「取締役会」の決議により1事業年度に1度だけ「中間配当(金銭配当のみ)」を行うことができます。

 

したがって、取締役会設置会社は、取締役会の決議によって中間配当を実施することができる旨を定款で定めることができるため、選択肢の内容は適切です

 

(エ)不適切です。

株式会社が、株主に剰余金の配当を行う場合、資本金の「4分の1」に達するまで「法定準備金(資本準備金/利益準備金)」を積み立てる必要があります

「法定準備金(資本準備金/利益準備金)」の積立金額が、資本金の「4分の1」に達していない場合は、以下の計算式により求められた金額のうち低い方を「法定準備金(資本準備金/利益準備金)」として積み立てます

 

 

なお、「繰越利益剰余金」を原資として配当を行う場合は「利益準備金」に「その他資本剰余金」を原資として配当を行う場合は「資本準備金」に「法定準備金」を積み立てます。

 

繰越利益剰余金を原資として配当を行う場合の仕訳

「法定準備金」の積み立て額を「配当金の10分の1」として「繰越利益剰余金」を原資に配当を行う場合の仕訳を以下に示します。

 

借方 貸方
繰越利益剰余金 11,000 現金(配当金)
利益準備金(法定準備金)
10,000
1,000

 

したがって、役員賞与を支払う場合、その10分の1の額を利益準備金として積み立てる必要はありませんが、株主に剰余金の配当を行う場合、資本金の「4分の1」に達するまで「法定準備金(資本準備金/利益準備金)」を積み立てなければならないため、選択肢の内容は不適切です

 

役員賞与引当金

従業員に支給する賞与と同様に、役員に支給する賞与についても、次期に支給する賞与のうち、当期以前の職務に対する役員賞与支払相当額を「役員賞与引当金」に計上します。

役員に賞与を支給するには株主総会における決議が必要となるため「役員賞与引当金」の計上から株主総会における決議を経て賞与を支給するまでの仕訳について説明します。

 

決算日(役員賞与引当金の計上)

企業の決算日に、当期の職務に対する「役員賞与」の見込み金額を「役員賞与引当金」に計上します。

 

借方 貸方
役員賞与引当金繰入 500,000 役員賞与引当金 500,000

 

株主総会における決議

株主総会における決議により確定した「役員賞与」の支給額を「役員賞与引当金」から「未払役員賞与」に付け替えます

 

借方 貸方
役員賞与引当金 500,000 未払役員賞与 500,000

 

役員賞与の支給

役員に「役員賞与」を「現金」で支給します

 

借方 貸方
未払役員賞与 500,000 現金 500,000

 

 

答えは(ウ)です。


 

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