今回は、「財務・会計 ~R4-10 自己株式(3)~」について説明します。
目次
自己株式 -リンク-
一次試験に向けて「自己株式」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
利益還元政策 -リンク-
自己株式の取得は、株主にとってもキャピタルゲインの増加を期待できるうれしい「利益還元政策」であるため、「利益還元政策」に関する問題の中で必要な知識として求められます。
一次試験に向けて「利益還元政策」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
自己株式の取得
自己株式の「取得」とは、一般的に「自社株買い」という言葉で表現され、企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことをいいます。
なお、取得する自己株式の期間や数量などについての制限はありません。(以前は制限がありましたが廃止されました)
自己株式の貸借対照表への表示
貸借対照表において、自己株式は「取得原価」で「純資産の部」の「株主資本」から控除する形で表示します。「控除する」とは「▲(マイナス)」で表示することを意味しています。
仕訳
現金預金により、自己株式を「取得」する場合の仕訳を以下に示します。
自己株式は、純資産の部において株主資本から控除する形で表示されるため、自己株式を「取得」すると「純資産」が減少します。
借方 | 貸方 | ||
自己株式 (自己株式の増加=純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 現金預金 (流動資産の減少) |
XX,XXX,XXX |
自己株式の「取得」に際して付随費用が発生する場合は、「支払手数料」などの科目で「営業外費用」に計上します。
借方 | 貸方 | ||
自己株式 支払手数料 |
XX,XXX,XXX XX,XXX |
現金預金 | XX,XXX,XXX |
自社株式価値への影響
企業が自己株式を「取得」すると、発行済み株式総数と純資産の減少により「EPS(1株当たり純利益)」「PER(株価収益率)」「ROE(自己資本当期純利益率)」などの株式指標が改善して自社株式の価値が高まるため、株式市場において株価が上昇する可能性があります。
自社の株式を買い戻した後の処理方法
自己株式の「取得」により、株式市場から買い戻した自社の株式を処理する方法には「処分」と「消却」の2種類があります。
なお、保有する自己株式の期間や数量などについての制限はありません。(以前は制限がありましたが廃止されました)
自己株式の処分
自己株式の「処分」とは、株式市場から買い戻した自社の株式を株式市場にもう一度売却することをいいます。
仕訳
自己株式を「処分」する対価として、現金預金を受け取る場合の仕訳を以下に示します。
自己株式は、純資産の部において株主資本から控除する形で表示されるため、自己株式を「処分」すると「純資産」が増加します。
借方 | 貸方 | ||
現金預金 (流動資産の増加) |
XX,XXX,XXX | 自己株式 (自己株式の減少=純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
自己株式の「処分」に際して自己株式の帳簿価額と売却価額に差額がある場合は「自己株式処分差益」または「自己株式処分差損」として「その他資本剰余金」に計上します。
また、自己株式の「処分」に際して付随費用が発生する場合は「支払手数料」などの科目で「営業外費用」に計上するか「株式交付費」として「繰越資産」に計上します。
自己株式の処分価額が帳簿価額よりも高かった場合
借方 | 貸方 | ||
現金預金 支払手数料 or 株式交付費 |
XX,XXX,XXX XX,XXX |
自己株式 自己株式処分差益(その他資本剰余金) |
XX,XXX,XXX XXX,XXX |
自己株式の処分価額が帳簿価額よりも低かった場合
借方 | 貸方 | ||
現金預金 自己株式処分差損(その他資本剰余金) 支払手数料 or 株式交付費 |
XX,XXX,XXX XXX,XXX XX,XXX |
自己株式 | XX,XXX,XXX |
その他資本剰余金がマイナスとなった場合(期末の処理)
「その他資本剰余金」はゼロ以上である必要があります。
自己株式を「処分」した結果、「その他資本剰余金」の残高がマイナスとなった場合は、期末に「その他資本剰余金」の残高がゼロとなるまで「繰越利益剰余金」から補填しますが、「純資産」に属する科目同士で仕訳を行うため「純資産」の残高は変化しません。
借方 | 貸方 | ||
繰越利益剰余金 (純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | その他資本剰余金 (純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
自社株式価値への影響
企業が自己株式を「処分」すると、発行済み株式総数と純資産の増加により「EPS(1株当たり純利益)」「PER(株価収益率)」「ROE(自己資本当期純利益率)」などの株式指標が悪化して自社株式の価値が下がってしまうため、株式市場において株価の下落を引き起こす可能性があります。
自己株式の消却
自己株式の「消却」とは、取締役会での決議によって株式市場から買い戻した自社の株式を消滅させることをいいます。
仕訳
自己株式を「消却」する場合の仕訳を以下に示します。
自己株式を「消却」する場合、自己株式の帳簿価額を「その他資本剰余金」から減額しますが、どちらの科目も「純資産」に属するため「純資産」の残高は変化しません。
借方 | 貸方 | ||
その他資本剰余金 (純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 自己株式 (自己株式の減少=純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
その他資本剰余金がマイナスとなった場合(期末の処理)
「その他資本剰余金」はゼロ以上である必要があります。
自己株式を「消却」した結果、「その他資本剰余金」の残高がマイナスとなった場合は、期末に「その他資本剰余金」の残高がゼロとなるまで「繰越利益剰余金」から補填しますが、「純資産」に属する科目同士で仕訳を行うため「純資産」の残高は変化しません。
借方 | 貸方 | ||
繰越利益剰余金 (純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | その他資本剰余金 (純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
自社株式価値への影響
自己株式を「消却」しても、発行済み株式総数と純資産が変化しないため、株式市場における自社株式の価値への影響はありません。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和4年度 第10問】
自己株式の会計処理に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 自己株式の取得は、他社の株式を取得する場合と同様に処理される。
イ 自己株式の取得は純資産の減少、自己株式の売却は純資産の増加として処理する。
ウ 自己株式を消却した場合、その他利益剰余金が減少する。
エ 自己株式を消却した場合、資産が減少する。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
自己株式の「取得」「処分」「消却」に関する知識を問う問題です。
自己株式の「取得」とは、一般的に「自社株買い」という言葉で表現され、企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことをいいます。
自己株式の「取得」により、株式市場から買い戻した自社の株式を処理する方法には「処分」と「消却」の2種類があります。
自己株式の「処分」とは、株式市場から買い戻した自社の株式を株式市場にもう一度売却することをいい、自己株式の「消却」とは、取締役会での決議によって株式市場から買い戻した自社の株式を消滅させることをいいます。
自己株式の「取得」「処分」「消却」に関する仕訳を確認していきます。
自己株式の取得
自己株式の「取得」とは、一般的に「自社株買い」という言葉で表現され、企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことをいいます。
現金預金により、自己株式を「取得」する場合の仕訳を以下に示します。
自己株式は、純資産の部において株主資本から控除する形で表示されるため、自己株式を「取得」すると「純資産」が減少します。
なお、自己株式の「取得」に際して付随費用が発生する場合は、「支払手数料」などの科目で「営業外費用」に計上しますが、以下の仕訳では考慮していません。
借方 | 貸方 | ||
自己株式 (自己株式の増加=純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 現金預金 (流動資産の減少) |
XX,XXX,XXX |
自己株式の処分
自己株式の「処分」とは、株式市場から買い戻した自社の株式を株式市場にもう一度売却することをいいます。
自己株式を「処分」する対価として、現金預金を受け取る場合の仕訳を以下に示します。
自己株式は、純資産の部において株主資本から控除する形で表示されるため、自己株式を「処分」すると「純資産」が増加します。
なお、自己株式の「処分」に際して自己株式の帳簿価額と売却価額に差額がある場合は「自己株式処分差益」または「自己株式処分差損」として「その他資本剰余金」に計上しますが、以下の仕訳では考慮していません。
また、自己株式の「処分」に際して付随費用が発生する場合は「支払手数料」などの科目で「営業外費用」に計上するか「株式交付費」として「繰越資産」に計上しますが、以下の仕訳では考慮していません。
借方 | 貸方 | ||
現金預金 (流動資産の増加) |
XX,XXX,XXX | 自己株式 (自己株式の減少=純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
自己株式の消却
自己株式の「消却」とは、取締役会での決議によって株式市場から買い戻した自社の株式を消滅させることをいいます。
自己株式を「消却」する場合の仕訳を以下に示します。
自己株式を「消却」する場合、自己株式の帳簿価額を「その他資本剰余金」から減額しますが、どちらの科目も「純資産」に属するため「純資産」の残高は変化しません。
借方 | 貸方 | ||
その他資本剰余金 (純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 自己株式 (自己株式の減少=純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
「その他資本剰余金」はゼロ以上である必要があります。
自己株式を「消却」した結果、「その他資本剰余金」の残高がマイナスとなった場合は、期末に「その他資本剰余金」の残高がゼロとなるまで「繰越利益剰余金」から補填しますが、「純資産」に属する科目同士で仕訳を行うため「純資産」の残高は変化しません。
借方 | 貸方 | ||
繰越利益剰余金 (純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | その他資本剰余金 (純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
(ア) 不適切です。
自己株式を取得する場合と他社の株式を取得する場合の処理について確認していきます。
自己株式を取得する場合
自己株式の「取得」とは、一般的に「自社株買い」という言葉で表現され、企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことをいいます。
現金預金により、自己株式を「取得」する場合の仕訳を以下に示します。
借方 | 貸方 | ||
自己株式 (自己株式の増加=純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 現金預金 (流動資産の減少) |
XX,XXX,XXX |
貸借対照表において、自己株式は「取得原価」で「純資産の部」の「株主資本」から控除する形で表示します。「控除する」とは「▲(マイナス)」で表示することを意味しています。
他社の株式を取得する場合
問題では「他社の株式」とされていますが、まずは範囲を拡大して「有価証券」について説明していきます。
「有価証券」は、その保有目的により「売買目的有価証券」「満期保有目的の債券」「子会社株式・関連会社株式」「その他有価証券」に分類されます。
有価証券の種類 | 説明 |
売買目的有価証券 | 時価の変動により利益を得ることを目的(トレーディング目的)として保有する有価証券 |
満期保有目的の債券 | 満期まで保有することを目的としていると認められる社債その他の債券 あらかじめ償還日が定められており、かつ額面金額による償還が予定されている。 |
子会社株式 関連会社株式 |
他企業への支配、影響力の行使を目的として保有する株式 |
その他有価証券 | 上記に該当しない有価証券 |
「売買目的有価証券」「子会社株式」「関連会社株式」「その他有価証券」が他社の株式に該当しますが、「有価証券」はその種類に関わらず、貸借対照表において「資産の部」に表示します。(厳密には、売買目的有価証券および1年以内に満期が到来する社債などは流動資産に表示し、それ以外の有価証券は固定資産の投資その他の資産に表示します。)
例として、現金預金により、他社の株式である売買目的有価証券を取得する場合の仕訳を以下に示します。
借方 | 貸方 | ||
売買目的有価証券(流動資産) | XX,XXX,XXX | 現金預金(流動資産) | XX,XXX,XXX |
つまり、自己株式を取得する場合は、貸借対照表において「純資産の部」の「株主資本」から控除する形で表示し、他社の株式を取得する場合は、貸借対照表において「資産の部」に表示します。
したがって、自己株式の取得は、他社の株式を取得する場合とは異なる方法で処理されるため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
自己株式の取得と処分による純資産の変化について確認していきます。
自己株式の取得
自己株式の「取得」とは、一般的に「自社株買い」という言葉で表現され、企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことをいいます。
現金預金により、自己株式を「取得」する場合の仕訳を以下に示します。
自己株式は、純資産の部において株主資本から控除する形で表示されるため、自己株式を「取得」すると「純資産」が減少します。
借方 | 貸方 | ||
自己株式 (自己株式の増加=純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 現金預金 (流動資産の減少) |
XX,XXX,XXX |
自己株式の処分(売却)
自己株式の「処分」とは、株式市場から買い戻した自社の株式を株式市場にもう一度売却することをいいます。
自己株式を「処分」する対価として、現金預金を受け取る場合の仕訳を以下に示します。
自己株式は、純資産の部において株主資本から控除する形で表示されるため、自己株式を「処分」すると「純資産」が増加します。
借方 | 貸方 | ||
現金預金 (流動資産の増加) |
XX,XXX,XXX | 自己株式 (自己株式の減少=純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
したがって、自己株式の取得は純資産の減少、自己株式の売却は純資産の増加として処理するため、選択肢の内容は適切です。
(ウ)不適切です。
自己株式の「消却」とは、取締役会での決議によって株式市場から買い戻した自社の株式を消滅させることをいいます。
自己株式を「消却」する場合の仕訳を以下に示します。
自己株式を「消却」する場合、自己株式の帳簿価額を「その他資本剰余金」から減額しますが、どちらの科目も「純資産」に属するため「純資産」の残高は変化しません。
借方 | 貸方 | ||
その他資本剰余金 (純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 自己株式 (自己株式の減少=純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
したがって、自己株式を消却した場合、その他利益剰余金ではなく、その他資本剰余金が減少するため、選択肢の内容は不適切です。
(エ)不適切です。
自己株式の「消却」とは、取締役会での決議によって株式市場から買い戻した自社の株式を消滅させることをいいます。
自己株式を「消却」する場合の仕訳を以下に示します。
自己株式を「消却」する場合、自己株式の帳簿価額を「その他資本剰余金」から減額しますが、どちらの科目も「純資産」に属するため「純資産」の残高は変化しません。
借方 | 貸方 | ||
その他資本剰余金 (純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 自己株式 (自己株式の減少=純資産の増加) |
XX,XXX,XXX |
したがって、自己株式を消却しても資産は減少しないため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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