今回は、「財務・会計 ~R3-16 利益還元政策(2)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和3年度一次試験問題一覧~
令和3年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
利益還元政策 -リンク-
一次試験に向けて「利益還元政策」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
自己株式 -リンク-
自己株式の取得は「利益還元政策」の1つですが、自己株式についてもう少し詳しく知りたい方は、「自己株式」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
投資家の目的
投資家(株主)の多くは、キャピタルゲインとインカムゲインにより利益を得ることを目的として株式を運用しています。
キャピタルゲインとは、株式の値段が変動することによって得られる収益のことを示しており、保有している株式の価格が上昇したタイミングで売却することによって得られる値上がり益が該当します。
インカムゲインとは、継続的に受け取ることのできる現金収入のことを示しており、配当金や株主優待が該当します。
株主に対する利益還元政策
企業による株主への利益還元政策としては、大きく以下の3点が挙げられます。
なぜ、この3つの政策が株主にとって利益を享受できるのかについて説明していきます。
- 自己株式の取得
- 配当金の増額
- 株主優待制度の拡充
自己株式の取得
自己株式の「取得」とは、一般的に「自社株買い」という言葉で表現され、企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことをいいます。
なお、取得する自己株式の期間や数量などについての制限はありません。(以前は制限がありましたが廃止されました)
自己株式の貸借対照表への表示
貸借対照表において、自己株式は「取得原価」で「純資産の部」の「株主資本」から控除する形で表示します。「控除する」とは「▲(マイナス)」で表示することを意味しています。
仕訳
現金預金により、自己株式を「取得」する場合の仕訳を以下に示します。
自己株式は、純資産の部において株主資本から控除する形で表示されるため、自己株式を「取得」すると「純資産」が減少します。
借方 | 貸方 | ||
自己株式 (自己株式の増加=純資産の減少) |
XX,XXX,XXX | 現金預金 (流動資産の減少) |
XX,XXX,XXX |
自己株式の「取得」に際して付随費用が発生する場合は、「支払手数料」などの科目で「営業外費用」に計上します。
借方 | 貸方 | ||
自己株式 支払手数料 |
XX,XXX,XXX XX,XXX |
現金預金 | XX,XXX,XXX |
自社株式価値への影響
企業が自己株式を「取得」すると、発行済み株式総数と純資産の減少により「EPS(1株当たり純利益)」「PER(株価収益率)」「ROE(自己資本当期純利益率)」などの株式指標が改善して自社株式の価値が高まるため、株式市場において株価が上昇する可能性があります。
配当金
配当金は、株主から見ると「インカムゲイン」であり、配当金を通じて出資した企業から利益を享受することができます。一方、企業から見ると、株主が出資した資本により得られた利益の一部を株主に還元する仕組みです。
配当金には「普通配当」「特別配当」「記念配当」の3種類があります。
普通配当
利益の中から企業が株主に支払う配当であり、決算期末に支払われる期末配当と事業年度の途中に支払われる中間配当があります。
特別配当
通常期よりも高い利益を得た場合に普通配当に追加して支払われる配当である。利益が継続的に得られるか不透明なため、数期に限定して株主に支払われることが多い。
記念配当
「創立○○周年」や「東証一部上場」などのイベントを記念して普通配当に追加して支払われる配当であり、イベントが発生する決算期に限定して株主に支払われる。
「普通配当の増配」「特別配当の実施」「記念配当の実施」は、株主にとっても「インカムゲイン」が増えるため、うれしい利益還元政策です。
株主優待
株主優待とは、配当金とは別に、企業が株主に対して自社商品やサービス利用券を提供することを言います。
現金ではありませんが、株主から見ると現金相当の商品やサービスを受け取ることができるため、株主優待内容が拡充されれば、株主にとってもうれしい利益還元政策です。
配当性向
配当性向は、当期純利益(税引後利益)に対する配当金の比率を示す指標であり、当期純利益1円当たりいくらの配当金が支払われているかを示しています。
投資家にとって、配当性向は企業がどの程度の利益を還元しているかを確認する重要な指標です。
発行済み株式全体で考えた場合、配当性向は以下の式で表されることもあります。
配当利回り
配当利回りは、株価に対する配当金の比率を示す指標であり、1株当たりいくらの配当金が支払われているかを示しています。
投資家にとって、配当利回りは企業がどの程度の利益を還元しているかを確認する重要な指標です。
発行済み株式全体で考えた場合、配当利回りは以下の式で表されることもあります。
DOE(株主資本配当率/Dividend on Equity)
株主資本配当率(DOE)は、純資産(株主資本、自己資本)に対する配当金の比率を示す指標であり、企業が株主に対してどの程度の利益還元を行っているかを示す指標です。
株主への配当水準を示す指標としては、一般的に「配当性向(=配当金÷当期純利益)」という指標が用いられますが、「配当性向」を算出するための「当期純利益」は毎期の数値変動が大きいため、投資家は株主資本という金額変動の少ない数値を基準にした「株主資本配当率」を用いて配当水準を確認することもできます。
株主資本配当率(DOE)は「株主資本利益率(ROE)」と「配当性向」から以下の公式でも求めることができます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和3年度 第16問】
株主還元に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 自社株買いを行うと当該企業の純資産が減少するため、売買手数料をゼロとすれば株価は下落する。
イ 自社株買いを行った場合、取得した株式は一定期間のうちに消却しなければならない。
ウ 配当額を自己資本で除した比率を配当利回りという。
エ 有利な投資機会がない場合には、余裕資金を配当などで株主に還元することが合理的である。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
株主還元に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
自己株式の「取得」とは、一般的に「自社株買い」という言葉で表現され、企業が株式市場から自社の株式を買い戻すことをいいます。
企業が自己株式を「取得」すると、発行済み株式総数と純資産の減少により「EPS(1株当たり純利益)」「PER(株価収益率)」「ROE(自己資本当期純利益率)」などの株式指標が改善して自社株式の価値が高まるため、株式市場において株価が上昇する可能性があります。
したがって、自社株買いを行うと当該企業の純資産が減少するため、売買手数料をゼロとすれば株価は下落するのではなく上昇するため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
自己株式の「消却」とは、取締役会での決議によって株式市場から買い戻した自社の株式を消滅させることをいいますが、保有する自己株式の期間や数量などについての制限はありません。(以前は制限がありましたが廃止されました)
したがって、自社株買いを行った場合、取得した株式は一定期間のうちに消却しなければならないという制限はないため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
配当利回り
配当利回りは、株価に対する配当金の比率を示す指標であり、1株当たりいくらの配当金が支払われているかを示しています。
投資家にとって、配当利回りは企業がどの程度の利益を還元しているかを確認する重要な指標です。
発行済み株式全体で考えた場合、配当利回りは以下の式で表されることもあります。
DOE(株主資本配当率/Dividend on Equity)
株主資本配当率(DOE)は、純資産(株主資本、自己資本)に対する配当金の比率を示す指標であり、企業が株主に対してどの程度の利益還元を行っているかを示す指標です。
株主への配当水準を示す指標としては、一般的に「配当性向(=配当金÷当期純利益)」という指標が用いられますが、「配当性向」を算出するための「当期純利益」は毎期の数値変動が大きいため、投資家は株主資本という金額変動の少ない数値を基準にした「株主資本配当率」を用いて配当水準を確認することもできます。
したがって、選択肢には「配当額を自己資本で除した比率を配当利回りという。」と記述されていますが、「配当利回り」とは、1株当たり配当金を株価で除した比率のこと、または配当額を発行済み株式の時価総額で除した比率のことをいいます。配当金を自己資本(純資産)で除した比率のことは「DOE(株主資本配当率/Dividend on Equity)」というため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
「MM理論」では、完全市場においては企業の配当政策は企業価値に影響を与えないとされていますが、情報の非対称性が存在する場合、企業の配当政策が市場に様々な情報を伝達して企業価値に影響を与えるとされています。
情報の非対称性が存在する場合の配当政策が企業価値に与える影響に関する仮説には「シグナリング仮説」「ペッキングオーダー仮説」などがありますが、今回の問題で記述されているのは「フリーキャッシュフロー仮説」の内容となっています。
有望な投資機会が存在する場合には、余裕資金で投資を実行することにより企業価値を高めることができますが、有望な投資案件が存在しない場合には、経営者が自らの裁量により、必ずしも企業価値を高めるとは限らない投資案件を実行したり、必要のない福利厚生施設への支出を増やそうとする可能性があるとされています。
「フリーキャッシュフロー仮説」では、このように有望な投資案件が存在しない場合には、余裕資金を配当などにより株主に還元することによって、株主と経営者の間の利益相反に付随する「エージェンシー・コスト」を抑制できるとしています。(色々調べてみたのですが、正確な表現であるかは怪しいです。)
なお、「エージェンシー・コスト」とは、株主と経営者の間に生じる利益相反に付随するコストを表す概念であり、株主と経営者の間で情報の非対称性が高いほど「エージェンシー・コスト」も高くなるとされています。
したがって、有利な投資機会がない場合には、余裕資金を配当などで株主に還元することが合理的であるため、選択肢の内容は適切です。
答えは(エ)です。
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