今回は、「経済学・経済政策 ~R3-23 資源配分機能(17)余剰分析(自由貿易)~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和3年度一次試験問題一覧~
令和3年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
余剰分析(貿易) -リンク-
本ブログにて「余剰分析(貿易)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 余剰分析(貿易)のまとめ
- R5-21 資源配分機能(20)余剰分析(自由貿易)
- R1-18 資源配分機能(6)余剰分析(関税と補助金)
- H30-20 資源配分機能(10)余剰分析(自由貿易と関税)
- H29-21 資源配分機能(13)余剰分析(関税の引き下げ)
- H27-21 資源配分機能(14)余剰分析(関税の引き下げ)
- H26-21 資源配分機能(15)余剰分析(関税の撤廃)
- H24-15 資源配分機能(16)余剰分析(自由貿易と関税)
余剰分析
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
例:社会的総余剰(消費者余剰+生産者余剰)
余剰分析(貿易)
「財市場(完全競争市場)」において、貿易による「余剰(利益)」の変化について考えていきます。
輸入
自由貿易の場合(輸入品に対する関税や輸入量の制限がない場合)
「財市場(完全競争市場)」において、輸入品に対する関税や輸入量の制限がない自由貿易が行われ、財の価格は国内の需要曲線と供給曲線の交点で均衡していた国内価格(PE)から国際価格(Pi)に下落すると、消費者による需要量は「XE(点Eの需要量)」から「XG(点Gの需要量)」に増加して、生産者による供給量は「XE(点Eの供給量)」から「XF(点Fの供給量)」に減少します。
また、需要量の増加と供給量の減少により「超過需要」となりますが、供給量の不足分(XG-XF)は輸入財により賄われます。
「余剰(利益)」という観点で見ると「消費者余剰」は増加して「生産者余剰」は減少します。
余剰の変化(自由貿易(輸入))
自由貿易が行われていなかった場合と比較すると「社会的総余剰(総余剰)」は「三角形EFG」だけ増加します。
社会的総余剰の増加分(自由貿易(輸入))
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和3年度 第23問】
自由貿易協定によって、それまで輸入が禁止されていた果物の輸入が自由化されることになった。下図には、この果物に関する国内市場の需要曲線Dと供給曲線Sが描かれている。輸入自由化によって、国内価格がP0から国際価格P1になったときの消費者余剰と生産者余剰に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア 自由貿易協定によって、消費者余剰は(3)と(4)の分だけ増加する。
イ 自由貿易協定によって、生産者余剰は(1)よりも大きくなり、消費者余剰は(5)よりも大きくなる。
ウ 自由貿易協定による、生産者から消費者への再分配効果は(1)と(2)である。
エ 自由貿易協定による生産者余剰の減少分は(2)である。
オ 自由貿易協定による総余剰の増加分は(2)(3)を加えたものである。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
輸入自由化に伴う余剰の変化に関する知識を問う問題です。
「財市場(完全競争市場)」において、輸入品に対する関税や輸入量の制限がない自由貿易が行われ、財の価格は国内の需要曲線と供給曲線の交点で均衡していた国内価格(PE)から国際価格(Pi)に下落すると、消費者による需要量は「XE(点Eの需要量)」から「XG(点Gの需要量)」に増加して、生産者による供給量は「XE(点Eの供給量)」から「XF(点Fの供給量)」に減少します。
また、需要量の増加と供給量の減少により「超過需要」となりますが、供給量の不足分(XG-XF)は輸入財により賄われます。
「余剰(利益)」という観点で見ると「消費者余剰」は増加して「生産者余剰」は減少します。
余剰の変化(自由貿易(輸入))
自由貿易が行われていなかった場合と比較すると「社会的総余剰(総余剰)」は「三角形EFG」だけ増加します。
社会的総余剰の増加分(自由貿易(輸入))
問題で与えられた図に基づき、輸入自由化する前と輸入自由化した後の「消費者余剰」「生産者余剰」「社会的総余剰(総余剰)」は、以下のように変化します。
消費者余剰 | 生産者余剰 | 社会的総余剰(総余剰) | |
輸入自由化前 | (5) | (1)(2) | (1)(2)(5) |
輸入自由化後 | (2)(3)(4)(5) | (1) | (1)(2)(3)(4)(5) |
(ア) 不適切です。
輸入自由化による「消費者余剰」の変化は以下の通りです。
消費者余剰 | |
輸入自由化前 | (5) |
輸入自由化後 | (2)(3)(4)(5) |
したがって、自由貿易協定によって、消費者余剰は(3)と(4)の分だけではなく(2)と(3)と(4)の分だけ増加するため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
輸入自由化した後の「消費者余剰」と「生産者余剰」は以下の通りです。
消費者余剰 | 生産者余剰 | |
輸入自由化後 | (2)(3)(4)(5) | (1) |
したがって、自由貿易協定によって、生産者余剰は(1)よりも大きくなるのではなく(1)と等しくなり、消費者余剰は(5)よりも大きくなるため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
輸入自由化により「消費者余剰」は増加して「生産者余剰」は減少します。
生産者から消費者への再分配効果とは、もともと「生産者余剰」であった範囲が「消費者余剰」へと変化している範囲のことをいいます。
輸入自由化により「生産者余剰」から「消費者余剰」へと変化したのは(2)です。
消費者余剰 | 生産者余剰 | |
輸入自由化前 | (5) | (1)(2) |
輸入自由化後 | (2)(3)(4)(5) | (1) |
したがって、自由貿易協定による、生産者から消費者への再分配効果は(1)と(2)ではなく(2)であるため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
輸入自由化による「生産者余剰」の変化は以下の通りです。
生産者余剰 | |
輸入自由化前 | (1)(2) |
輸入自由化後 | (1) |
したがって、自由貿易協定による生産者余剰の減少分は(2)であるため、選択肢の内容は適切です。
(オ) 不適切です。
輸入自由化による「社会的総余剰(総余剰)」の変化は以下の通りです。
社会的総余剰(総余剰) | |
輸入自由化前 | (1)(2)(5) |
輸入自由化後 | (1)(2)(3)(4)(5) |
したがって、自由貿易協定による総余剰の増加分は(2)(3)を加えたものではなく(3)(4)を加えたものであるため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(エ)です。
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