今回は、「経済学・経済政策 ~R3-18 市場の失敗と外部性(5)外部経済-補助金の交付~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和3年度一次試験問題一覧~
令和3年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
余剰分析(外部経済・外部不経済) -リンク-
本ブログにて「余剰分析(外部経済)」「余剰分析(外部不経済)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 余剰分析(外部経済・外部不経済)のまとめ
- R2-18 市場の失敗と外部性(1)外部不経済-ピグー税
- H30-16 市場の失敗と外部性(2)外部不経済
- H26-20 市場の失敗と外部性(3)外部不経済
- H24-21 市場の失敗と外部性(4)外部不経済
余剰分析
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
例:社会的総余剰(消費者余剰+生産者余剰)
外部効果
「外部効果」とは、財市場の取引によって当事者である「消費者」や「生産者」以外の第三者に「便益」や「損害」を与えることをいいます。
取引当事者以外の第三者に「便益」を与えることを「外部経済」といい、取引当事者以外の第三者に「損害」を与えること「外部不経済」といいます。「外部不経済」は、工場の生産活動により周辺環境や周辺住民に悪影響を与えてしまうなどのケースが該当します。
「外部効果」が発生する財の「余剰分析」では、第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益や、第三者に与える「損害」を賠償するために社会全体が負担すべき費用も考慮する必要がありますが、政府が介入せずに財市場に取引を任せると、第三者に与える「便益」や「損害」が考慮されずに財の生産量が決定されるため、「社会的総余剰(総余剰)」が最大化されず、最適な資源配分が実現されなくなります。
外部効果が発生する財の供給曲線(限界費用曲線)
「外部効果」が発生する財の「余剰分析」においては「私的限界費用曲線(PMC)」と「社会的限界費用曲線(SMC)」の2種類の「供給曲線(限界費用曲線)」が描画されます。
- 私的限界費用曲線(PMC)
「私的限界費用曲線(PMC)」は、生産者が財を生産するための「供給曲線」であり、生産者が財を生産するための「限界費用」を表しています。 - 社会的限界費用曲線(SMC)
「社会的限界費用曲線(SMC)」は、生産者が財を生産するための「限界費用」に、第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益や、第三者に与える「損害」を賠償するために社会全体が負担すべき費用を加味した限界費用を表しています。
外部経済が発生する財の場合
「外部経済」が発生する財の場合、その取引によって社会全体が利益を享受することができるため、社会全体の限界費用を表す「社会的限界費用曲線(SMC)」は「私的限界費用曲線(PMC)」よりも下方にシフトします。
外部経済が発生する財(PMC/SMC)
余剰分析(外部経済)
「外部経済」とは、財市場の取引によって当事者である「消費者」や「生産者」以外の第三者に「便益」を与えることをいいます。
政府が介入せずに財市場に取引を任せた場合
「外部経済」が発生する財において、政府が介入せずに市場に取引を任せた場合の「社会的総余剰(総余剰)」について考えていきます。
消費者余剰と生産者余剰
政府が介入せずに「外部経済」が発生する財市場に取引を任せると、生産者はその取引が第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益を考慮しないため、生産者が財を生産するための「限界費用」である「私的限界費用曲線(PMC)」と「需要曲線」の交点で財の価格と生産量を決定します。
消費者余剰/生産者余剰
(財市場に取引を任せた場合)
外部経済による余剰(便益)
「外部経済」が発生する財を取引するごとに社会全体が享受する利益が増加していくため、生産者が財を生産するための「限界費用」である「私的限界費用曲線(PMC)」と、第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益を加味した「限界費用」である「社会的限界費用曲線(SMC)」の差額である「線GH」に「生産量(X1)」を乗じた面積(GH×X1)に相当する「外部経済による余剰(便益)」が発生します。
外部経済(財市場に取引を任せた場合)
社会的総余剰(総余剰)
「消費者余剰」と「生産者余剰」と「外部経済」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」は以下の通りです。
社会的総余剰(財市場に取引を任せた場合)
政府が介入する場合(補助金の交付)
財の生産量が増加すると社会全体が享受できる利益が増加する財の生産量を増加させるために、政府が生産者に補助金を交付した場合について考えていきます。
消費者余剰と生産者余剰
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、生産者が財を生産するための「限界費用」である「私的限界費用曲線(PMC)」が下方にシフト( S → S’ )するため、第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益を加味した「限界費用」である「社会的限界費用曲線(SMC)」と「需要曲線」の交点で財の価格と生産量が決定します。
その結果、「需要曲線」と「供給曲線」の交点が「G」から「J」にシフトして、財の消費量が「X1個」から「X0個」に増加するため、「消費者余剰」と「生産者余剰」が増加します。
消費者余剰/生産者余剰(補助金を交付した場合)
外部経済
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、「需要曲線」と「供給曲線」の交点が「G」から「J」にシフトして、財の消費量が「X1個」から「X0個」に増加するため「外部経済による余剰(便益)」についても「X0個」分に増加します。
外部経済(補助金を交付した場合)
政府余剰
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、政府としては「補助金の交付」に相当する「X0個」分の「政府余剰」が発生します。
政府余剰(補助金を交付した場合)
社会的総余剰(総余剰)
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」と「外部不経済」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」においては、「社会的総余剰(総余剰)」が最大化され、最適な資源配分が実現されていることが分かります。
社会的総余剰(補助金を交付した場合)
「外部経済」が発生する財においては、「政府が介入する場合(補助金の交付)」の方が「政府が介入せずに財市場に取引を任せた場合」よりも「社会的総余剰(総余剰)」が「三角形GHJ」だけ増加します。
社会的総余剰の増加分(補助金を交付した場合)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和3年度 第18問】
生産に外部経済が伴う場合の市場均衡を考える。下図には、需要曲線D、私的限界費用曲線S0、社会的限界費用曲線S1が描かれている。市場均衡は点Fで与えられ、均衡価格はP1、均衡取引量はQ1である。また、社会的な最適点は点Eで与えられている。
このとき、社会的に最適な状態を実現するために政府が生産者に対して補助金を交付するとする。交付される補助金の大きさとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア 四角形 CBEF
イ 四角形 CBEH
ウ 四角形 CBGF
エ 四角形 FGEH
オ 四角形 P1P2GF
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「外部経済」に関する知識を問う問題です。(外部不経済ではありません。ご注意ください。)
「外部経済」とは、財市場の取引によって当事者である「消費者」や「生産者」以外の第三者に「便益」を与えることをいいます。
「外部経済」が発生する財の「余剰分析」では、第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益も考慮する必要がありますが、政府が介入せずに財市場に取引を任せると、第三者に与える「便益」が考慮されずに財の生産量が決定されるため、「社会的総余剰(総余剰)」が最大化されず、最適な資源配分が実現されなくなります。
「外部経済」が発生する財の「余剰分析」においては「私的限界費用曲線(PMC)」と「社会的限界費用曲線(SMC)」の2種類の「供給曲線(限界費用曲線)」が描画されます。
「外部経済」が発生する財の場合、その取引によって社会全体が利益を享受することができるため、社会全体の限界費用を表す「社会的限界費用曲線(SMC)」は「私的限界費用曲線(PMC)」よりも下方にシフトします。
外部経済が発生する財(PMC/SMC)
補助金を交付した場合
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、生産者が財を生産するための「限界費用」である「私的限界費用曲線(PMC)」が下方にシフト( S0 → S1 )するため、第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益を加味した「限界費用」である「社会的限界費用曲線(SMC)」と「需要曲線」の交点で財の価格と生産量が決定します。
その結果、「需要曲線」と「供給曲線」の交点が「F」から「E」にシフトして、財の消費量が「Q1個」から「Q0個」に増加するため、「消費者余剰」と「生産者余剰」が増加します。
消費者余剰/生産者余剰(補助金を交付した場合)
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、「需要曲線」と「供給曲線」の交点が「F」から「E」にシフトして、財の消費量が「Q1個」から「Q0個」に増加するため「外部経済による余剰(便益)」についても「Q0個」分に増加します。
外部経済(補助金を交付した場合)
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、政府としては「補助金の交付」に相当する「Q0個」分の「政府余剰」が発生します。
問題文で与えられた図において「政府余剰」である「交付される補助金の大きさ」は「四角形 CBEH」となります。
政府余剰(補助金を交付した場合)
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」と「外部不経済」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」においては、「社会的総余剰(総余剰)」が最大化され、最適な資源配分が実現されていることが分かります。
社会的総余剰(補助金を交付した場合)
答えは(イ)です。
コメント
「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」と「外部不経済」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」においては、「社会的総余剰(総余剰)」が最大化され、最適な資源配分が実現されていることが分かります。
→ 「外部経済」が発生する財に、政府が生産者に補助金を交付した場合、「消費者余剰」と「生産者余剰」と「補助金を出したことによるマイナスの政府余剰」と「外部経済」を重ね合わせた〜
ではないでしょうか?