経済学・経済政策 ~H26-20 市場の失敗と外部性(3)外部不経済~

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今回は、「経済学・経済政策 ~H26-20 市場の失敗と外部性(3)外部不経済~」について説明します。

 

目次

経済学・経済政策 ~平成26年度一次試験問題一覧~

平成26年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。

 

余剰分析(外部経済・外部不経済) -リンク-

本ブログにて「余剰分析(外部経済)」「余剰分析(外部不経済)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。

 

 

余剰分析

「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。

「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。

 

例:社会的総余剰(消費者余剰+生産者余剰)

 

外部効果

「外部効果」とは、財市場の取引によって当事者である「消費者」や「生産者」以外の第三者に「便益」や「損害」を与えることをいいます。

取引当事者以外の第三者に「便益」を与えることを「外部経済」といい、取引当事者以外の第三者に「損害」を与えること「外部不経済」といいます。「外部不経済」は、工場の生産活動により周辺環境や周辺住民に悪影響を与えてしまうなどのケースが該当します。

「外部効果」が発生する財の「余剰分析」では、第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益や、第三者に与える「損害」を賠償するために社会全体が負担すべき費用も考慮する必要がありますが、政府が介入せずに財市場に取引を任せると、第三者に与える「便益」や「損害」が考慮されずに財の生産量が決定されるため、「社会的総余剰(総余剰)」が最大化されず、最適な資源配分が実現されなくなります

 

外部効果が発生する財の供給曲線(限界費用曲線)

「外部効果」が発生する財の「余剰分析」においては「私的限界費用曲線(PMC)」と「社会的限界費用曲線(SMC)」の2種類の「供給曲線(限界費用曲線)」が描画されます。

 

  • 私的限界費用曲線(PMC)
    「私的限界費用曲線(PMC)」は、生産者が財を生産するための「供給曲線」であり、生産者が財を生産するための「限界費用」を表しています。
  • 社会的限界費用曲線(SMC)
    「社会的限界費用曲線(SMC)」は、生産者が財を生産するための「限界費用」に、第三者に与える「便益」により社会全体が享受する利益や、第三者に与える「損害」を賠償するために社会全体が負担すべき費用を加味した限界費用を表しています。

 

外部不経済が発生する財の場合

「外部不経済」が発生する財の場合、その取引によって第三者が被った「損害」を賠償するために社会全体が負担すべき費用が追加となるため、社会全体の限界費用を表す「社会的限界費用曲線(SMC)」は「私的限界費用曲線(PMC)」よりも上方にシフトします。

 

外部不経済が発生する財(PMC/SMC)

 

余剰分析(外部不経済)

「外部不経済」とは、財市場の取引によって当事者である「消費者」や「生産者」以外の第三者に「損害」を与えることをいいます。

 

政府が介入せずに財市場に取引を任せた場合

「外部不経済」が発生する財において、政府が介入せずに市場に取引を任せた場合の「社会的総余剰(総余剰)」について考えていきます。

 

消費者余剰と生産者余剰

政府が介入せずに「外部不経済」が発生する財市場に取引を任せると、生産者はその取引が第三者に与える「損害」を賠償するための費用を考慮しないため、生産者が財を生産するための「限界費用」である「私的限界費用曲線(PMC)」と「需要曲線」の交点で財の価格と生産量を決定します。

 

消費者余剰/生産者余剰
(財市場に取引を任せた場合)

 

外部不経済による余剰(損失)

「外部不経済」が発生する財を取引するごとに「損害」を賠償するための費用が増加していくため、生産者が財を生産するための「限界費用」である「私的限界費用曲線(PMC)」と、第三者に与える「損害」を賠償するために社会全体で負担すべき費用を加味した「限界費用」である「社会的限界費用曲線(SMC)」の差額である「線IJ」に「生産量(X0)」を乗じた面積(IJ×X0)に相当する「外部不経済による余剰(損失)」が発生します。

 

 

外部不経済(財市場に取引を任せた場合)

 

社会的総余剰(総余剰)

「消費者余剰」と「生産者余剰」と「外部不経済」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」において「三角形GJI」の分だけ「余剰の損失」が発生します。

 

社会的総余剰(財市場に取引を任せた場合)

 

政府が介入する場合(ピグー税・補助金の交付)

「外部不経済」が発生する財において、政府が介入する場合の「社会的総余剰(総余剰)」について考えていきます。

「外部不経済」が発生する場合に「政府が介入する」手段としては「課税(ピグー税)」と「補助金の交付」の2種類があります。

 

  • 課税(ピグー税)
    「外部不経済」を引き起こしている財に対して、政府が「外部不経済」の金額に相当する「従量税」を課す方法
  • 補助金の交付
    「外部不経済」を引き起こしている財の「生産量」を減らすことに対して、政府が「補助金」を交付する方法

 

「従量税」とは、財の数量を基準として課税する方法のことをいい、政府は財の販売単位に対して一定額を課税します。

 

消費者余剰と生産者余剰と政府余剰

「外部不経済」が発生する財に、政府が生産者に「従量税(ピグー税)」を課した場合、生産者が財を生産するための「限界費用」である「私的限界費用曲線(PMC)」が上方にシフト( S → S’ )するため、第三者に与える「損害」を賠償するために社会全体で負担すべき費用を加味した「限界費用」である「社会的限界費用曲線(SMC)」と「需要曲線」の交点で財の価格と生産量が決定します。

その結果、「需要曲線」と「供給曲線」の交点が「J」から「G」にシフトして、財の消費量が「X0個」から「X1個」に減少するため、「消費者余剰」と「生産者余剰」が減少します

政府としては「従量税(ピグー税)」の税収に相当する「X1個」分の「政府余剰」が発生します

 

消費者余剰/生産者余剰/政府余剰(ピグー税を課した場合)

 

外部不経済

「外部不経済」が発生する財に、政府が生産者に「従量税(ピグー税)」を課した場合、「需要曲線」と「供給曲線」の交点が「J」から「G」にシフトして、財の消費量が「X0個」から「X1個」に減少するため、「外部不経済による余剰(損失)」についても「X1個」分に減少します。

 

外部不経済(ピグー税を課した場合)

 

社会的総余剰(総余剰)

「外部不経済」が発生する財に、政府が生産者に「従量税(ピグー税)」を課した場合、「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」と「外部不経済」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」においては、「余剰の損失」が発生せず、「社会的総余剰(総余剰)」が最大化され、最適な資源配分が実現されていることが分かります

 

社会的総余剰(ピグー税を課した場合)

 

政府が介入しない場合(コースの定理)

「コースの定理」とは、政府が介入しなくても、権利関係が明確(所有権が確定)になっており、交渉の取引費用がゼロに近い状態においては、加害者と被害者が交渉して自然に資源配分は最適化されるという理論のことをいいます。

「コースの定理」の例としては、農家と牧場が隣接している状況において牧場の牛が農家の作物を荒らした場合などが挙げられます。

例えば、牧場の経営者に損害賠償の責任が生じた場合、牧場は農家に賠償金を支払うことにより収益が減少しますが、農家は作物を荒らされた被害額が賠償金により補填されるため収益は変化しません。一方、牧場主に損害賠償の責任が生じない場合、農家は作物を荒らされた分だけ収益が減少しますが、牧場の収益は変化しません。

つまり、損害賠償の有無により、農家と牧場が得られる「所得配分」は変化していますが、農家と牧場が得られる収益の合計額である「資源配分」は変化していません

 

社会的総余剰(コースの定理)

 

試験問題

それでは、実際の試験問題を解いてみます。

【平成26年度 第20問】

下図には、企業Rが直面する競争的な財市場における私的限界費用曲線、社会的限界費用曲線が描かれている。社会的限界費用曲線と私的限界費用曲線との乖離は、企業Rの生産活動に負の外部性が伴うことを意味する。この負の外部性の負担者は企業Sのみであり、企業Rとの交渉を費用ゼロで行うことができる。また、企業Rの生産活動に対して、政府は外部性を相殺するピグー課税を導入することもできる。この図に関する説明として最も適切なものを下記の解答群から選べ。

ただし、下図で、△aefを単にA、□acgfを単にB、△acdを単にC、△abdを単にDと呼称し、価格はeで所与のものとする。

 

 

[解答群]

ア コースの定理に従えば、生産量はmとなる。
イ 自由放任の活動下で生産量がnのときに発生している死重損失はC+Dである。
ウ ピグー課税が導入されると、企業Rの余剰はA+Bになる。
エ ピグー課税が導入されると、政府の税収はB+C+Dとなる。

 

中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

 

考え方と解答

「外部不経済」に関する知識を問う問題です。

 

(ア) 適切です。

「コースの定理」とは、政府が介入しなくても、権利関係が明確(所有権が確定)になっており、交渉の取引費用がゼロに近い状態においては、加害者と被害者が交渉して自然に資源配分は最適化されるという理論のことをいいます。

今回の問題では「コースの定理」が成立する条件を満たしています。

 

  • 権利関係が明確
    外部性の負担者は企業Sのみである
  • 交渉の取引費用がゼロ
    企業Rとの交渉を費用ゼロで行うことができる

 

そのため、政府が介入しなくても、自然に資源配分は最適化され、生産量(m)となります

 

 

したがって、コースの定理に従えば、生産量はmとなるため、選択肢の内容は適切です

 

(イ) 不適切です。

政府が介入せずに「外部不経済」が発生している財市場に取引を任せると、第三者に与える「損害」を賠償するための費用が考慮されないため、企業Rは生産者の限界費用である「私的限界費用曲線」と「価格(完全競争市場の各企業が直面する需要曲線)」の交点において財の生産量(n)を決定します。

 

 

「外部不経済」が発生する財を取引するごとに「損害」を賠償するための費用が発生していくため、生産者の限界費用である「私的限界費用曲線」と、第三者に与える「損害」を賠償するために社会全体で負担すべき限界費用を含めた「社会的限界費用曲線」の差額である「線bd」に「生産量(n)」を乗じた面積(B+C+D)に相当する「外部不経済による余剰(損失)」が発生します。

 

 

その結果、「生産者余剰」と「外部不経済」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」において「余剰の損失(D)」が発生します。

 

 

したがって、自由放任の活動下で生産量がnのときに発生している死重損失はC+DではなくDであるため、選択肢の内容は不適切です

 

(ウ) 不適切です。

「外部不経済」が発生している財に「従量税(ピグー税)」を課した場合、生産者の供給曲線(限界費用)が上方にシフト(私的限界費用曲線→社会的限界費用曲線)するため、企業Rは「社会的限界費用曲線」と「価格(完全競争市場の各企業が直面する需要曲線)」の交点において財の生産量(m)を決定します。

「従量税(ピグー税)」を課していない場合と比較すると、財の生産量が「n」から「m」に減少するため、企業Rの「生産者余剰」は「A+B+C」から「A」に減少します。

 

 

したがって、ピグー課税が導入されると、企業Rの余剰はA+BではなくAになるため、選択肢の内容は不適切です

 

(エ) 不適切です。

「外部不経済」が発生している財に「従量税(ピグー税)」を課した場合、生産者の供給曲線(限界費用)が上方にシフト(私的限界費用曲線→社会的限界費用曲線)するため、企業Rは「社会的限界費用曲線」と「価格(完全競争市場の各企業が直面する需要曲線)」の交点において財の生産量(m)を決定します。

政府としては、生産量(m)分に相当する「従量税(ピグー税)」の税収が発生するため、「政府余剰」は「B」となります。

 

 

したがって、ピグー課税が導入されると、政府の税収はB+C+DではなくBとなるため、選択肢の内容は不適切です

 

答えは(ア)です。


 

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