今回は、「財務・会計 ~H29-4-1 工事契約(1)~」について説明します。
「平成29年度 第4問」について説明するため、今回から2回に分けて「工事契約」を説明していきます。
目次
財務・会計 ~平成29年度一次試験問題一覧~
平成29年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
工事契約 -リンク-
「工事契約」については、過去にも説明していますので、以下のページにもアクセスしてみてください。
工事契約の会計処理
工事契約の会計処理は「工事契約に関する会計基準」によって定められており、工事契約における工事収益及び工事原価に関して施工者における会計処理及び開示について規定しています。
「工事契約」とは、請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものと規定されています。また、受注制作のソフトウェアについても適用されます。
工事契約に係る認識基準
「工事契約に係る認識基準」において、工事収益及び工事原価を認識するための基準として「工事進行基準」と「工事完成基準」が定義されています。
工事契約に関して、工事が完成していない段階でも、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には「工事進行基準」を適用し、この要件を満たさない場合には「工事完成基準」を適用します。
以下に示す3つの要素について信頼性をもって見積もることができる場合にのみ、成果の確実性が認められ「工事進行基準」を適用することができます。
- 工事収益総額
- 工事原価総額
- 決算日における工事進捗度
2017年7月20日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から「収益認識基準」の草案が公開されました。
「収益認識基準」には、「財またはサービスを顧客に移転することにより、履行義務を充足した時点で収益を認識する」と記載されているため、この基準が適用された場合は、「工事契約」で規定された「工事進行基準」を適用できなくなる可能性がありますので、ご注意ください。(2018年1月現在)
工事進行基準
「工事進行基準」とは、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積もることができる場合、これに応じて各年度の工事収益及び工事原価を認識する方法をいいます。
「決算日における工事進捗度」は、原則として原価比例法で見積もります。
原価比例法とは「工事原価総額」に対する「当該年度の工事原価」の割合で工事進捗度を測定する方法です。
工事完成基準
「工事完成基準」とは、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積もることができないため、工事が完成して目的物の引渡しを行った時点で、工事収益及び工事原価を認識する方法をいいます。
例題
以下の工事概要に関する契約を「工事進行基準」と「工事完成基準」で認識した場合の各期における損益はいくらとなるか。
工事概要
- 請負金額(工事収益総額) :300,000千円
- 工事着手から完成までの期間:3年間
請負金額(工事収益総額)とは、顧客との契約金額(売上高)であり、契約を履行すれば顧客から受け取れる確定金額を示している。
工事原価
項目 | 第X1年度 | 第X2年度 | 第X3年度 |
工事原価 | ①90,000千円 | ④80,000千円 | ⑦90,000千円 |
翌期以降から工事完成までにかかる予想原価 | ②150,000千円 | ⑤80,000千円 | - |
工事原価総額 | ③240,000千円 | ⑥250,000千円 | ⑧260,000千円 |
各年度の工事原価総額については、以下の計算式により算出している。
- ③=①+②
- ⑥=①+④+⑤
- ⑧=①+④+⑦
第X2年度と第X3年度の「工事原価総額」が増えているのは、各年度において工事原価総額が当初見込んでいた金額より「10,000千円」ずつ増加していることを示している。
工事進行基準
工事進行基準では、「原価比例法」により、「工事原価総額」に対する「当該年度の工事原価」の割合から「工事進捗度」を測定して、各期における「工事収益」を算出します。
第X1年度~第X3年度の損益計算
各期における損益計算の結果は以下の通りとなります。
項目 | 第X1年度 | 第X2年度 | 第X3年度 | 工事全体 |
工事収益 | 112,500千円 | 91,500千円 | 96,000千円 | 300,000千円 |
工事原価 | 90,000千円 | 80,000千円 | 90,000千円 | 260,000千円 |
工事利益 | 22,500千円 | 11,500千円 | 6,000千円 | 40,000千円 |
第X1年度
「工事収益総額」に「工事原価総額」に対する「第X1年度に発生した工事原価」の割合を乗じて「第X1年度の工事収益」を算出します。
なお、「工事原価総額」は、「第X1年度に発生した工事原価」と「第X2年度以降から工事完成までにかかる予想原価」を加算して算出します。
第X2年度
「工事収益総額」に「工事原価総額」に対する「第X1年度と第X2年度に発生した工事原価の合計」の割合を乗じて「工事収益累計額(第X1年度と第X2年度の工事収益)」を算出した後、「第X1年度の工事収益」を差し引いて「第X2年度の工事収益」を算出します。
なお、「工事原価総額」は、「第X1年度と第X2年度に発生した工事原価の合計」と「第X3年度の工事完成までにかかる予想原価」を加算して算出します。
第X3年度(工事完成年度)
第X3年度(工事完成年度)における工事収益は、「工事収益総額」から「前年度までの工事収益累計額」を差し引いて算出します。
工事完成基準
工事完成基準では、工事が完成して目的物の引渡しを行った時点で、工事収益と工事原価を認識するため、第X3年度に工事収益と工事原価を計上します。
第X1年度~第X3年度の損益計算
各期における損益計算の結果は以下の通りとなります。
項目 | 第X1年度 | 第X2年度 | 第X3年度 | 工事全体 |
工事収益 | 0千円 | 0千円 | 300,000千円 | 300,000千円 |
工事原価 | 0千円 | 0千円 | 260,000千円 | 260,000千円 |
工事利益 | 0千円 | 0千円 | 40,000千円 | 40,000千円 |
第X1年度
工事が完了していないため、工事収益と工事原価は計上しません。
第X2年度
工事が完了していないため、工事収益と工事原価は計上しません。
第X3年度(工事完成年度)
工事が完了したため(厳密には顧客に目的物の引き渡しが完了していること)、工事収益と工事原価の総額を損益計算に計上します。
次回は、引き続き「財務・会計 ~H29-4-2 工事契約(2)~」として、工事契約の会計処理について説明します。
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