今回は、「財務・会計 ~H29-7 固定資産の減損会計(1)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成29年度一次試験問題一覧~
平成29年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
固定資産の減損会計 -リンク-
本ブログにて「固定資産の減損会計」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
固定資産の減損会計とは
固定資産の減損会計は「固定資産の減損に係る会計基準」によって定められた会計処理であり、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった固定資産を対象に、固定資産の帳簿価額を「回収可能価額」まで減額して、帳簿価額と回収可能価額との差額を「特別損失」として計上することをいいます。
固定資産の減損処理は、将来に損失を繰り延べないために、減損損失を認識した段階で実施する必要があります。
固定資産の減損会計の対象
「固定資産の減損に係る会計基準」が対象としているのは「固定資産(有形固定資産と無形固定資産)」ですが、これには土地や建物だけでなく、設備、運搬具、知的財産権、のれんも含まれています。
一方、他の会計基準で減損に関する定めがされている「金融資産」や「繰延税金資産」は対象ではありません。
資産のグルーピング
資産のグルーピングは、他の資産または資産グループのキャッシュフローからおおむね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位で行う。とされています。
言葉が難しいのでよくわかりませんが、例えば、事業Aと事業Bがあり、それぞれの事業が独立採算となっていれば、事業Aを構成する固定資産グループAと事業Bを構成する固定資産グループBを単位として減損の管理を行う。というイメージで理解してもらえればと思います。
固定資産の減損会計手順
固定資産の減損会計は、資産または資産グループについて「減損の兆候の把握」を行い、「減損の兆候がある」と判定された資産または資産グループについて「減損損失の認識」を行い、「減損損失を認識する」と判定された資産または資産グループについて「減損損失の測定と計上」を行うという手順を踏んで実行されます。
減損の兆候の把握
資産または資産グループについて、「減損の兆候(減損が生じている可能性を示す事象)」があるかどうかを判定します。減損の兆候に関する事例は以下の通りです。
- 資産または資産グループを使用した営業活動の損益またはキャッシュフローが継続してマイナスとなっているか、あるいは継続してマイナスとなる見込みがあること
- 資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは生じる見込みがあること
- 資産または資産グループを使用した事業の経営環境が著しく悪化したか、悪化する見込みがあること
- 資産または資産グループの市場価値が著しく低下したこと
減損損失の認識
「減損の兆候がある」と判定された資産または資産グループについて、減損損失を認識するかどうかを判定します。
具体的には、資産または資産グループの帳簿価額と、当該資産をそのまま使い続けた場合に得られる収益と処分に必要な見込み費用を合計した割引前将来キャッシュフローとを比較して行います。
資産または資産グループの収益性(割引前将来キャッシュフロー)が、帳簿価額よりも低くなっている場合は、減損損失を認識することとなります。
- 帳簿価額 ≦ 割引前将来キャッシュフロー ⇒ 減損損失を認識しない
- 帳簿価額 > 割引前将来キャッシュフロー ⇒ 減損損失を認識する
減損損失の測定と計上
「減損損失を認識する」と判定された資産または資産グループについて、貸借対照表における固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額して、帳簿価額と回収可能価額との差額を損益計算書において「特別損失」として計上します。
なお、固定資産の減損処理を行った場合は、その後収益性の回復が認められたとしても戻し入れは行いません。
回収可能価額
ここでいう「回収可能価額」とは、「正味売却価額」と「使用価値(将来キャッシュ・フローの割引現在価値)」のいずれか高い方の金額と定義されています。
正味売却価額
資産または資産グループを売却した場合の価額であり、その時価から処分に必要な見込み費用を控除した金額をいいます。
使用価値
資産または資産グループをそのまま使い続けた場合に得られる収益と処分に必要な見込み費用を合計した将来キャッシュフローの割引現在価値をいいます。
「減損損失の認識」においては、資産または資産グループの帳簿価額と「割引前将来キャッシュフロー」を比較します。その後、「減損損失の測定と計上」において帳簿価額を回収可能価額まで減額しますが、この時の回収可能価額には正味売却価額か使用価値(割引後将来キャッシュフロー)の高い方を採用します。
「割引前」か「割引後」かについて注意が必要です。
減損会計の仕訳
貸借対照表における固定資産の表記方法には直接控除法と間接控除法の2種類がありますので、その2パターンにおける仕訳を以下に示しておきます。
直接控除法
借方 | 貸方 | ||
減損損失 | 10,000 | 固定資産 | 10,000 |
間接控除法
借方 | 貸方 | ||
減損損失 | 10,000 | 減損損失累計額 | 10,000 |
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成29年度 第7問】
固定資産の減損に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 減損処理を行った場合でも、収益性の回復が認められる場合には減損損失の戻入れを行う。
イ 減損損失は、原則として特別損失とする。
ウ 減損損失を認識するかどうかの判定は、個別の資産について行わなければならず、複数の資産からなる資産グループについて行ってはならない。
エ 固定資産の回収可能価額とは、再調達原価である。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
固定資産の減損に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
固定資産の減損処理を行った場合は、その後収益性の回復が認められたとしても戻し入れは行いません。したがって、選択肢(ア)は不適切な記述です。
(イ) 適切です。
減損損失は、原則として特別損失として計上するため、選択肢(イ)は適切な記述です。
(ウ) 不適切です。
「固定資産の減損会計」では、固定資産をグルーピングして、資産または資産グループについて「減損の兆候の把握」「減損損失の認識」「減損損失の測定と計上」という手順で処理を行っていくため、選択肢(ウ)は不適切な記述です。
(エ) 不適切です。
固定資産の減損処理では、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額します。
ここでいう、固定資産の回収可能価額とは、「正味売却価額」と「使用価値(将来のキャッシュ・フローの割引現在価値)」のいずれか高い方の金額と定義されているため、選択肢(エ)は不適切な記述です。
答えは(イ)です。
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