今回は、「財務・会計 ~H24-16 加重平均資本コスト(WACC)(5)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成24年度一次試験問題一覧~
平成24年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
加重平均資本コスト(WACC) -リンク-
本ブログにて「加重平均資本コスト(WACC)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R3-15 加重平均資本コスト(WACC)(9)
- R1-21 加重平均資本コスト(WACC)(8)
- H29-24 加重平均資本コスト(WACC)(1)
- H28-14 加重平均資本コスト(WACC)(2)
- H27-14 加重平均資本コスト(WACC)(3)
- H25-14 加重平均資本コスト(WACC)(4)
- H23-16 加重平均資本コスト(WACC)(6)
- H22-17-1 加重平均資本コスト(WACC)(7)
配当割引モデル -リンク-
本ブログにて「配当割引モデル」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R3-21 配当割引モデル(4)
- H29-18/H28-16 配当割引モデル(1)
- H26-19 配当割引モデル(2)
- H26-20-3 企業価値(2)DCF法
- H23-20-2 配当割引モデル(3)
- H22-14-1 企業価値(5)株主資本収益率
資本コスト
「資本コスト」とは、企業が存続する限り最低限発生するコストであり、企業が投資を実行するべきか判断する際に使用する重要な基準です。
投資をしても「資本コスト」以上の利益を生みだす成果が得られない限り、企業としては投資をやるべきではないと判断します。なぜなら、企業としては存続するだけで最低限発生するコスト(=資本コスト)以上の利益を生み出さないと徐々に資金が減少してしまうからです。
「資本コスト」は、「加重平均資本コスト(WACC)」により「負債コスト」と「株主資本コスト」の加重平均で算出します。
加重平均資本コスト(WACC)
「加重平均資本コスト(WACC)」は、「負債コスト(時価)」と「株主資本コスト(時価)」の加重平均で「資本コスト」を算出する方法であり、その公式は以下の通りです。
「加重平均資本コスト(WACC)」を求める問題では、以下2点のポイントがあります。
- 加重平均資本コストの計算には「株主資本コスト」と「他人資本コスト(負債)」の「時価」を使用します。
- 加重平均資本コストの計算には「税引後負債コスト」を使用します。
負債コスト
負債とは借入金です。負債(借入金)があるということは借入先に「支払利息」を支払わなくてはなりません。これが負債コストであり「支払利息 ÷ 負債総額」で算出することができます。
「支払利息 ÷ 負債総額」で算出される負債コストは「税引前負債コスト」といいますが、黒字経営の企業の場合、支払利息を払うことにより利益が減少するため、節税効果により支払う法人税が少なくなります。この節税効果を加味して「税引後負債コスト」を算出します。
自己資本コスト(株主資本コスト)
「株主資本コスト(株主の期待収益率)」は、立場の違いによっていろいろな呼び方がありますが、「自己資本コスト = 株主資本コスト = 株主の期待収益率 = 証券の期待収益率」です。
企業から見ると「株主資本コスト(自己資本コスト)」と呼ばれ、投資家から見ると「株主の期待収益率(証券の期待収益率)」と呼ばれます。
「株主資本(自己資本)」とは資本金などの純資産です。資本金を調達するために株式を発行している場合、株主に対して「配当金」を支払わなくてはなりません。これが「株主資本コスト(自己資本コスト)」です。
逆に、投資家の視点から見ると、企業の株式を購入することで「配当金」によるリターン(収益)を期待しています。これが「株主の期待収益率(証券の期待収益率)」といいます。
なお、投資家は株価の低下や企業の倒産等により投資資金を失うリスクがあるため、投資家が株式を購入したときは銀行に預けた時に受け取る利息よりも高いリターン(収益)を期待しています。
配当割引モデル
「配当割引モデル」とは、将来支払われる配当の現在価値の合計が株式の本質的価値であるとして、「配当」と「株主の期待収益率」から「理論株価」を算出する方法のことをいいます。
「配当割引モデル」には、毎年一定の割合で配当額が成長するという仮定をおいた「定率成長配当割引モデル」と、毎年一定の配当額が支払われるという仮定をおいた「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」があります。
定率成長配当割引モデル
「定率成長配当割引モデル」とは、毎年一定の割合で配当額が成長するという仮定をおいた配当割引モデルのことをいいます。
「定率成長配当割引モデル」では、以下の公式により「理論株価」を算出します。
定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)
「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」とは、毎年一定の配当額が支払われるという仮定をおいた配当割引モデルのことをいいます。
「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」では、以下の公式により「理論株価」を算出します。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成24年度 第16問】
以下のデータに基づいて、加重平均資本コストを計算したとき、最も適切な数値を下記の解答群から選べ。なお、自己資本コストは配当割引モデルによって求めるものとする。
(単位:万円) 時価 負債 5,000 自己資本 5,000
発行済み株式数:100万株
現在の1株当たり配当金:5円
配当成長率:10%
負債の税引前コスト:4%
実効税率:40%
[解答群]
ア 6.7 %
イ 7%
ウ 11.3 %
エ 11.7 %
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「自己資本コスト(株主資本コスト)」を算出した後、その値を使って負債(時価)と自己資本(時価)の割合から「加重平均資本コスト(WACC)」を求める典型的な問題です。
「自己資本コスト(株主資本コスト)」を求めるには「配当割引モデル」により算出する方法や「資本資産評価モデル(CAPM)」により算出する方法などがありますが、今回の問題では「配当割引モデル」により「自己資本コスト(株主資本コスト)」を算出します。
自己資本コストの算出
今回の問題では配当成長率が「10%」と設定されているため、「定率成長配当割引モデル」により「自己資本コスト(株主資本コスト)」を算出します。
「定率成長配当割引モデル」を利用するときは、分子に「1年後の配当金」を使用する点に注意が必要です。
上記の公式に問題文の数値を当てはめると以下の通り「自己資本コスト」を算出することができます。
1株当たりの株価 = 株式時価総額(自己資本総額)÷ 発行済み株式数
5,000万円 ÷ 100万株 = 50円/1株
1株当たりの株価 =1年後の配当金 ÷ (自己資本コスト-配当金の成長率)
50円 = 5円×(100%+10%)÷(自己資本コスト- 10%)
自己資本コスト = 21%
加重平均資本コストの算出
「加重平均資本コスト(WACC)」は、「負債コスト(時価)」と「株主資本コスト(時価)」の加重平均で「資本コスト」を算出する方法であり、その公式は以下の通りです。
「加重平均資本コスト(WACC)」は、問題文に与えられている以下のデータと上述で求めた自己資本コストから求めることができます。
- 負債総額(時価):5,000万円
- 株式時価総額(時価):5,000万円
- 負債の税引前コスト:4%
- 実効税率:40%
- 自己資本コスト:21%
加重平均コスト(WACC)を求める問題のポイントは、以下2点です。
- 加重平均資本コストの算出には「株主資本コスト」と「他人資本コスト(負債)」の「時価」を使用します。
- 加重平均資本コストの算出には「税引後負債コスト」を使用します。
「加重平均資本コスト(WACC)」を算出するために、以下の公式により「税引前負債コスト」を「税引後負債コスト」に変換します。
なお、問題文中の「実効税率」とは、法人税の金額計算で適用された税率のことであり、以下の公式に当てはめる場合は「法人税率」と同じです。
上記の資本構造における「加重平均資本コスト(WACC)」は以下の通りです。
- 5,000万円 ÷(5,000万円 + 5,000万円)× 4% ×(1-40%)+ 5,000万円 ÷(5,000万円 + 5,000万円)× 21% = 11.7%
答えは(エ)です。
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