今回は、「財務・会計 ~H26-20-3 企業価値(2)DCF法~」について説明します。
試験問題では、企業価値の評価方法に関する知識、株式指標に関する知識、企業価値の算出に関する知識を求められていますので、3日に分けて説明してきました。
最終日の3日目は「企業価値の算出に関する知識」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成26年度一次試験問題一覧~
平成26年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
企業価値 -リンク-
本ブログにて「企業価値」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R3-22 企業価値(6)企業価値の評価方法
- H26-20-1 企業価値(1)企業価値の評価方法
- H24-20-1 企業価値(3)企業価値の評価方法
- H23-20-1 企業価値(4)企業価値の評価方法
- H22-14-1 企業価値(5)株主資本収益率
配当割引モデル -リンク-
本ブログにて「配当割引モデル」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R3-21 配当割引モデル(4)
- H29-18/H28-16 配当割引モデル(1)
- H26-19 配当割引モデル(2)
- H24-16 加重平均資本コスト(WACC)(5)
- H23-20-2 配当割引モデル(3)
- H22-14-1 企業価値(5)株主資本収益率
WACC・FCF -リンク-
今回、説明する企業価値の算出に必要な知識である「WACC」と「FCF」については、以下のページでも説明していますので参考としてください。
企業価値の算出
DCF法により企業価値を求めるには2つの方法があります。
- 「株式価値」と「負債価値」を合計して算出する方法
- 「FCF」から算出する方法
さらに「FCF」から算出するには、以下の2つの方法があります。
- FCFを資本コストで除して求める方法
- 将来発生するFCFの割引現在価値を算出して合計する方法
今回は「FCFを資本コストで除して求める方法」について説明します。
FCFを資本コストで除して企業価値を求める方法
ゼロ成長モデル
FCFと資本構成が永続的に変化しないという前提の場合、以下の公式により企業価値を求めることができます。
配当割引モデル
「配当割引モデル」とは、将来支払われる配当の現在価値の合計が株式の本質的価値であるとして、「配当」と「株主の期待収益率」から「理論株価」を算出する方法のことをいいます。
「配当割引モデル」には、毎年一定の割合で配当額が成長するという仮定をおいた「定率成長配当割引モデル」と、毎年一定の配当額が支払われるという仮定をおいた「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」があります。
定率成長配当割引モデル
「定率成長配当割引モデル」とは、毎年一定の割合で配当額が成長するという仮定をおいた配当割引モデルのことをいいます。
「定率成長配当割引モデル」では、以下の公式により「理論株価」を算出します。
定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)
「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」とは、毎年一定の配当額が支払われるという仮定をおいた配当割引モデルのことをいいます。
「定額配当割引モデル(ゼロ成長モデル)」では、以下の公式により「理論株価」を算出します。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
(設問1)(設問2)の説明は「H26-20-1 企業価値(1)」と「H26-20-2 株式指標(1)」にアクセスしてください。
【平成26年度 第20問】
企業価値評価に関する次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
企業価値評価では、一般的に①PBRやPER などの諸比率を用いた[ ]に代表されるマーケット・アプローチと呼ばれる手法のほか、企業の期待キャッシュフローの割引現在価値によって評価額を推計する②DCFアプローチ、企業の保有する資産や負債の時価などから企業価値を評価するコスト・アプローチといった手法も用いられている。
(設問3)
文中の下線部②について、以下の問いに答えよ。A社の財務データは以下のとおりである。なお、A社の営業利益は、利息・税引前キャッシュフローに等しく、将来も永続的に期待されている。A社は負債を継続的に利用しており、その利息は毎年一定である。また、A社の法人税率は40%であり、税引後利益はすべて配当される。負債の利子率が5%、株式の要求収益率が9%であるとき、負債価値と株主資本価値とを合わせたA社の企業価値をDCF法によって計算した場合、最も適切な金額を下記の解答群から選べ。
【A社のデータ】 (単位:万円)
営業利益 1,100
支払利息 500
税引前利益 600
法人税(税率:40%) 240
税引後利益 360
[解答群]
ア 4,000万円
イ 6,000万円
ウ 14,000万円
エ 14,333万円
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問3)(株式価値と負債価値を合計して算出)
今回の問題は、「株式価値」と「負債価値」を合計して算出する方法により企業価値を算出するパターンです。
問題文を読むと、「A社の営業利益は、利息・税引前キャッシュフローに等しく、将来も永続的に期待されている。」と記載されているため、FCFを資本コストで除して企業価値を求める方法と考えてしまいますが、実際には資本コストを算出するために負債と株主資本の資本構造を確認する過程で、企業価値を求めることができてしまいます。
株主資本と負債の資本構造
問題文に記載されている情報から、株主資本と負債の資本構造を図に整理します。
問題文に「株主資本コスト」だけが記載されていませんが、「税引後利益はすべて配当される」との条件から株主資本コストが「税引後利益:360万円」であることを読み取る必要があります。
上図の情報から、負債(X)と株主資本(Y)と総資産(Z)を求めます。
- 負債X :500万円 ÷ 5% = 10,000万円
- 株主資本Y:360万円 ÷ 9% = 4,000万円
- 総資産Z :10,000万円 + 4,000万円 = 14,000万円
上記で求めた「総資産Z」が企業価値です。
答えは(ウ)です。
考え方と解答(設問3)(FCFを資本コストで除して算出)
企業価値の公式
問題文に「A社の営業利益は、利息・税引前キャッシュフローに等しく、将来も永続的に期待されている。」という条件と「A社は負債を継続的に利用しており、その利息は毎年一定である。」という条件が記載されており、FCFと資本構成が永続的に変化しないという前提で解答を求めることとなるため、ゼロ成長モデルの公式により企業価値を求めます。
FCFの計算
FCFは、資金提供者である金融機関への利息の支払いや借入金の返済、社債を保有している人への利息の支払いや返済、株主への配当に充てることができるキャッシュのことをいいます。
問題文に「A社の営業利益は、利息・税引前キャッシュフローに等しく」との条件が設定されており、「減価償却費」「設備投資」「正味運転資本」の加減算については考慮する必要はありません。
なお、FCFは法人税を支払ったあとのキャッシュとなるため、「FCF=営業利益×(1-法人税率)」で求めます。
- FCF = 1,100万円 ×(1-40%)= 660万円
「FCF」の定義
FCFとは、企業が営業活動により手に入れたキャッシュから、企業の営業活動に必要な設備投資などで支出したキャッシュを差し引いた残りのキャッシュであり、資金提供者である金融機関への利息の支払いや借入金の返済、社債を保有している人への利息の支払いや返済、株主への配当に充てることができるキャッシュのことを意味しています。
FCFは損益計算書と貸借対照表の数値から、以下の公式により求めることができます。
加重平均資本コスト(WACC)の算出
問題を解くにあたって整理した負債と株主資本の資本構造から加重平均資本コスト(WACC)を算出します。
負債と株主資本の資本構造から「加重平均資本コスト(WACC)」を求めます。
加重平均資本コスト(WACC)
加重平均資本コスト(WACC)は、負債(時価)と株主資本(時価)の比率から資本コストを算出する方法です。
加重平均資本コスト(WACC)は、以下の公式により求めることができます。
企業価値の計算
最後に「FCF」「加重平均資本コスト(WACC)」から企業価値を求めます。
「株式価値」と「負債価値」を合計して算出する方法と同じく、答えは(ウ)です。
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