今回は、「財務・会計 ~R5-22 リスクの種類(5)市場リスク~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和5年度一次試験問題一覧~
令和5年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
リスクの種類 -リンク-
一次試験に向けて「リスクの種類」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- リスクの種類のまとめ
- H30-16 リスクの種類(4)アンシステマティック・リスクとシステマティック・リスク
- H29-22 リスクの種類(1)流動性リスク
- H27-19 リスクの種類(2)ポートフォリオ理論のリスク
- H26-21 リスクの種類(3)システマティック・リスク
リスク
一般的に「リスク」とは「危険」を表す言葉として認知されていますが、正確には「リスク」とは「不確実性さ」を意味しています。
例えば、「ハイリスクハイリターン」な金融商品とは、大損をする可能性もあれば大儲けできる可能性もある商品のことをいいますが、これは「危険が大きいので儲けも大きくなる可能性がある」のではなく「不確実性が高いため儲けも損も大きくなる可能性がある」ということを意味しています。
企業のリスク管理
企業はリスクを管理することによって、被る損失を事前に回避したり軽減する必要があります。
企業にとってのリスクは、「災害リスク」「システムリスク」「法的リスク」「損害賠償リスク」など多岐にわたりますが、以下では「財務・会計」に関連するリスクについて説明します。
信用リスク
「信用リスク」とは、取引相手先の信用状況の変化(債務超過、倒産など)により、債権回収ができなくなるリスクのことをいいます。
海外企業が取引先だった場合、戦争や革命などが起きて債権が回収できなくなる「カントリーリスク」も含まれます。
市場リスク
「市場リスク」には「為替変動リスク」や「金利変動リスク」があります。
為替変動リスク
「為替変動リスク」とは、為替相場の変動により外貨取引で為替差損益が発生するリスクのことをいいます。
輸入や輸出など海外企業と取引を行う企業は、デリバティブ取引(為替予約、オプション取引)を活用して、為替相場の変動による損失を回避します。
金利変動リスク
「金利変動リスク」とは、金利の変動により債券などの資産価値が変動するリスクのことをいいます。
債券は金利変動による影響を受けやすく、市場の金利が高くなれば債券の価値は下がり、市場の金利が低くなれば債券の価値が上がります。
価格変動リスク
「価格変動リスク」とは、投資対象である金融商品の価格変動により投資資産の価値が変動するリスクのことをいいます。
一般的に大きいリターンが期待できる金融商品は「価格変動リスク」も大きく、小さいリターンしか期待できない金融商品は「価格変動リスク」も小さくなります。
「価格変動リスク」は、標準偏差などの統計指標を用いて分析します。
流動性リスク
「流動性リスク」には「市場流動性リスク」や「資金調達リスク」があります。
市場流動性リスク
「市場流動性リスク」とは、市場における取引ができなくなったり、通常より著しく不利な価格でしか売ることができなくなるリスクのことをいいます。
そのような事態が発生するのは、そもそも市場での取引量が少ない商品(流動性が低い商品)の場合や、大暴落、システム停止、災害、戦争などにより取引自体ができなくなるケースが考えられます。
資金調達リスク
「資金調達リスク」とは、通常より著しく不利な価格でしか資金を調達できなくなるリスクのことをいいます。
例えば、上述した「市場流動性リスク」により資金を回収できなかったり、通常より著しく高い金利でしか借入ができなかったりというケースが考えられます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和5年度 第22問】
市場リスクに関する記述として、最も適切な組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 外貨建取引の場合に、為替レートの変動で損益が生じるリスク
b 貸付先の財務状況の悪化などにより、貸付金の価値が減少ないし消失し、損害を被るリスク
c 債券を売却するときに、金利変動に伴って債券の市場価格が変動するリスク
d 市場取引において需給がマッチしないために売買が成立しなかったり、資金繰りに失敗するリスク
[解答群]
ア aとb
イ aとc
ウ aとd
エ bとc
オ bとd
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
市場リスクに関する知識を問う問題です。
(a)適切です。
「市場リスク」には「為替変動リスク」や「金利変動リスク」があります。
為替相場の変動により外貨取引で為替差損益が発生するリスクのことを「為替変動リスク」といいます。
したがって、外貨建取引の場合に、為替レートの変動で損益が生じるリスクは「市場リスク(為替変動リスク)」であるため、選択肢の内容は適切です。
(b)不適切です。
取引相手先の信用状況の変化(債務超過、倒産など)により、債権回収ができなくなるリスクのことを「信用リスク」といいます。
したがって、貸付先の財務状況の悪化などにより、貸付金の価値が減少ないし消失し、損害を被るリスクは「信用リスク」であり「市場リスク」ではないため、選択肢の内容は不適切です。
(c)適切です。
「市場リスク」には「為替変動リスク」や「金利変動リスク」があります。
金利の変動により債券などの資産価値が変動するリスクのことを「金利変動リスク」といいます。
したがって、債券を売却するときに、金利変動に伴って債券の市場価格が変動するリスクは「市場リスク(金利変動リスク)」であるため、選択肢の内容は適切です。
(d)不適切です。
「流動性リスク」には「市場流動性リスク」や「資金調達リスク」があります。
市場における取引ができなくなったり、通常より著しく不利な価格でしか売ることができなくなるリスクのことを「市場流動性リスク」といいます。
また、通常より著しく不利な価格でしか資金を調達できなくなるリスクのことを「資金調達リスク」といいます。
したがって、市場取引において需給がマッチしないために売買が成立しなかったり、資金繰りに失敗するリスクは「流動性リスク(市場流動性リスク・資金調達リスク)」であり「市場リスク」ではないため、選択肢の内容は不適切です。
(a)と(c)に記述されている内容が適切であるため、答えは(イ)です。
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