今回は、「財務・会計 ~R2-3 有価証券の評価(1)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和2年度一次試験問題一覧~
令和2年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
有価証券に関する会計処理
有価証券に関する会計処理は「金融商品に関する会計基準」で規定されています。
有価証券の種類
有価証券は、その保有目的により「売買目的有価証券」「満期保有目的の債券」「子会社株式・関連会社株式」「その他有価証券」に分類されます。
有価証券の種類 | 説明 |
売買目的有価証券 | 時価の変動により利益を得ることを目的(トレーディング目的)として保有する有価証券 |
満期保有目的の債券 | 満期まで保有することを目的としていると認められる社債その他の債券 あらかじめ償還日が定められており、かつ額面金額による償還が予定されている。 |
子会社株式 関連会社株式 |
他企業への支配、影響力の行使を目的として保有する株式 |
その他有価証券 | 上記に該当しない有価証券 |
有価証券の評価
有価証券の種類ごとに、その評価方法を説明していきます。
なお、以下に説明する有価証券の評価方法は、有価証券の「時価(時価のある株式)」または「実質価額(時価のない株式)」が著しく下落していないことを前提としています。
「有価証券の時価(時価のある株式)または実質価額(時価のない株式)が著しく下落している状態」とは、一般的に「有価証券の時価または実質価額が、取得原価に比べて50%程度以上下落している状態」のことを示しています。
「有価証券の時価(時価のある株式)または実質価額(時価のない株式)が著しく下落している状態」の場合、「満期保有目的の債券」「子会社株式・関連会社株式」「その他有価証券」については「減損処理」を行わなければなりませんが、「有価証券の減損処理」については、今回は説明を割愛しています。
売買目的有価証券
「売買目的有価証券」は、「時価」で「貸借対照表」に表示し、「時価」の変動により発生する「取得原価」と「時価」の評価差額は、財務活動の成果と考えられることから、「当期の損益」として「損益計算書」の「有価証券評価損益(営業外収益/営業外費用)」に表示します。
複数の「売買目的有価証券」を保有している場合は、時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額(利益)と時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額(損失)を相殺した純額で「有価証券評価損益(営業外収益/営業外費用)」に表示します。
また、「有価証券評価損益」は、「売買目的有価証券」の売却によって生じる「有価証券売却損益」に含めて表示することもできます。
満期保有目的の債券
「満期保有目的の債券」は、「取得原価」で「貸借対照表」に表示します。
ただし、「満期保有目的の債券」を「額面金額」より低い価額または高い価額で取得した場合で、「取得価額」と「額面金額」との差額の性格が金利の調整(金利調整差額)と認められるときは、「償却原価法」に基づいて算定された「償却原価」で「貸借対照表」に表示します。
取得方法 | 貸借対照表価額 | |
取得価額=額面金額 | 取得原価 | |
取得価額<>額面金額 | 「取得価額」と「額面金額」との差額の性格が金利の調整(金利調整差額)と認められる場合 | 償却原価 |
「取得価額」と「額面金額」との差額の性格が金利の調整(金利調整差額)と認められない場合 | 取得原価 |
償却原価法
償却原価法とは、金融債権を「債権金額」より低い価額または高い価額で取得した場合に、「債権金額」と「取得価額」の差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却期に至るまで、毎期一定の方法で「取得価額」にその差額を加減していく方法をいいます。なお、その加減する金額は「受取利息」または「支払利息」として処理します。
償却原価法には「利息法」と「定額法」の2つの方法があり、原則として「利息法」を適用するものとされていますが、継続適用を条件として「定額法」を適用することも認められています。
子会社株式・関連会社株式の評価
「子会社株式・関連会社株式」は、事業投資の位置付けで保有する株式であり、時価の変動により財務活動の成果を得ることを目的としたものではないことから、「取得原価」で「貸借対照表」に表示します。
その他有価証券の評価
「その他有価証券」は、「売買目的有価証券」「満期保有目的の債券」「子会社株式・関連会社株式」に分類することができない有価証券ですが、長期的には売却することが想定される有価証券であることから、「時価」で「貸借対照表」に表示し、「取得原価」と「時価」の評価差額は以下のいずれかの方法により処理します。
- 全部純資産直入法
時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額と、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額を相殺した純額を、「貸借対照表」の「純資産の部」に「その他有価証券評価差額金」として表示します。 - 部分純資産直入法
時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額は「貸借対照表」の「純資産の部」に「その他有価証券評価差額金」として表示し、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額は「当期の損益」として「損益計算書」の「その他有価証券評価損(営業外費用)」に表示します。
なお、法人税法上において、「その他有価証券」は原価で評価されるため、「その他有価証券」の評価差額に対しては、「税効果会計」を適用しなければなりません。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和2年度 第3問】
有価証券の期末評価に関する記述として、最も適切なものはどれか。なお、有価証券の時価は著しく下落していないものとする。
ア 子会社株式および関連会社株式は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。
イ その他有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理する。
ウ 売買目的有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は貸借対照表の純資産の部に直接計上する。
エ 満期保有目的の債券を額面金額と異なる価額で取得した場合、取得価額と債券の額面金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、額面金額をもって貸借対照表価額とする。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「有価証券の評価」に関する知識を問う問題です。
「有価証券」は、その保有目的により「売買目的有価証券」「満期保有目的の債券」「子会社株式・関連会社株式」「その他有価証券」に分類され、その分類ごとに会計処理が異なります。
ちなみに、保有している有価証券の時価が、取得原価に比べて50%程度以上下落するなど、有価証券の時価が著しく下落している場合は、「満期保有目的の債券」「子会社株式・関連会社株式」「その他有価証券」については「減損処理」を行わなければなりませんが、今回の問題文の最後にある「有価証券の時価は著しく下落していないものとする。」という記述は、そのような「減損処理」は考慮せずに、通常の評価手順に則って解答するように。ということを意図しています。
(ア) 適切です。
「子会社株式・関連会社株式」は、事業投資の位置付けで保有する株式であり、時価の変動により財務活動の成果を得ることを目的としたものではないことから、「取得原価」で「貸借対照表」に表示します。
したがって、「子会社株式および関連会社株式は、取得原価をもって貸借対照表価額とする」いう記述は正しいため、選択肢の内容は適切です。
(イ) 不適切です。
「その他有価証券」は、「売買目的有価証券」「満期保有目的の債券」「子会社株式・関連会社株式」に分類することができない有価証券ですが、長期的には売却することが想定される有価証券であることから、「時価」で「貸借対照表」に表示し、「取得原価」と「時価」の評価差額は以下のいずれかの方法により処理します。
- 全部純資産直入法
時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額と、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額を相殺した純額を、「貸借対照表」の「純資産の部」に「その他有価証券評価差額金」として表示します。 - 部分純資産直入法
時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額は「貸借対照表」の「純資産の部」に「その他有価証券評価差額金」として表示し、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額は「当期の損益」として「損益計算書」の「その他有価証券評価損(営業外費用)」に表示します。
したがって、「時価をもって貸借対照表価額とし」いう記述は正しいですが、「評価差額は当期の損益として処理する」という記述は誤っているため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
「売買目的有価証券」は、「時価」で「貸借対照表」に表示し、「時価」の変動により発生する「取得原価」と「時価」の評価差額は、財務活動の成果と考えられることから、「当期の損益」として「損益計算書」の「有価証券評価損益(営業外収益/営業外費用)」に表示します。
したがって、「時価をもって貸借対照表価額とし」いう記述は正しいですが、「評価差額は貸借対照表の純資産の部に直接計上する」という記述は誤っているため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「満期保有目的の債券」は、「取得原価」で「貸借対照表」に表示します。
ただし、「満期保有目的の債券」を「額面金額」より低い価額または高い価額で取得した場合で、「取得価額」と「額面金額」との差額の性格が金利の調整(金利調整差額)と認められるときは、「償却原価法」に基づいて算定された「償却原価」で「貸借対照表」に表示します。
したがって、満期保有目的の債券を額面金額と異なる価額で取得した場合、取得価額と債券の額面金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、「額面金額」ではなく「償却原価法」に基づいて算定された「償却原価」をもって貸借対照表価額とするため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(ア)です。
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