今回は、「経済学・経済政策 ~R5-16 予算制約と消費者の選択行動(7)エンゲル曲線~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和5年度一次試験問題一覧~
令和5年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
需要の所得弾力性・上級財・中立財・下級財・エンゲル曲線 -リンク-
本ブログにて「需要の所得弾力性」「上級財・中立財・下級財」「エンゲル曲線」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 需要の所得弾力性・上級財・中立財・下級財・エンゲル曲線のまとめ
- R3-17 消費者行動(1)上級財・中立財・下級財
- H30-17 予算制約と消費者の選択行動(2)エンゲル曲線
- H28-16 代替効果と所得効果(3)代替効果と所得効果
- H26-16 代替効果と所得効果(5)代替効果と所得効果
- H24-17 代替効果と所得効果(7)代替効果と所得効果
需要の所得弾力性(η:エータ)
「需要の所得弾力性」とは「所得」が「1%」増減したときに「需要(消費)」がどれだけ反応するかを表しており、「所得の変化率」に対する「需要(消費)の変化率」として求めることができます。
ここで重要なのは「需要の所得弾力性」が「所得の変化量」に対する「需要(消費)の変化量」ではなく「価格の変化率」に対する「需要(消費)の変化率」として表されるということです。
「所得」が増加したときに「需要(消費)」が増加する場合「需要の所得弾力性」は「プラス」であり、「所得」が増加したときに「需要(消費)」が減少する場合「需要の所得弾力性」は「マイナス」です。
また、「需要の所得弾力性」が大きければ、「所得」が増加したときに「需要(消費)」の増加幅が大きいことを示しています。
上級財・中立財・下級財
消費者の所得が増減したときに需要(消費)がどのように変化するかによって、財は「上級財(正常財)」「中立財」「下級財(劣等財)」に分類されます。
財の分類は、一般論として決まっている訳ではなく、消費者の嗜好や所得により変化します。
大分類 | 説明 | 需要の所得弾力性 | 小分類 | 需要の所得弾力性 |
上級財 (正常財) |
所得が増加(減少)すると需要(消費)が増加(減少)する財 | η > 0 | 奢侈財 | η>1 |
必需財 | 0<η<1 | |||
中立財 | 所得が増加(減少)しても需要(消費)が変わらない財 | η = 0 | - | - |
下級財 (劣等財) |
所得が増加(減少)すると需要(消費)が減少(増加)する財 | η < 0 | - | - |
上級財(正常財)
「上級財(正常財)」とは、所得が増加(減少)すると需要(消費)も増加(減少)する財であり、「需要の所得弾力性」が「プラス」である財( η>0 )のことをいいます。
- 所得が増加すると需要(消費)も増加する財
- 所得が減少すると需要(消費)も減少する財
- 「需要の所得弾力性」が「プラス」である財( η>0 )
奢侈財(しゃしざい)と必需財
「上級財(正常財)」は、「需要の所得弾力性」の大きさにより「奢侈財」と「必需財」に分類されます。
奢侈財(しゃしざい)
「奢侈財」とは「上級財(正常財)」の中で「所得の変化率」よりも「需要の変化率」の方が高い財であり「需要の所得弾力性」が「1」より大きい財( η>1 )のことをいいます。
「奢侈財」には、所得が増加して生活に余裕が出てくれば需要(消費)が大幅に増加して、所得が減少して生活が厳しくなれば需要(消費)が極端に減少する「ブランドバック」などの贅沢品が該当します。(ブランドバックに魅力を感じない消費者の場合は除く)
- 所得が増加すると需要(消費)が大幅に増加する財
- 所得が減少すると需要(消費)が大幅に減少する財
- 「需要の所得弾力性」が「1」より大きい財( η>1 )
必需財
「必需財」とは「上級財(正常財)」の中で「所得の変化率」よりも「需要の変化率」の方が低い財であり「需要の所得弾力性」が「1」より小さい財( 0<η<1 )のことをいいます。
「必需財」には、所得が増加したからと言って需要(消費)が大量に増加するわけでもなく、また所得が減少したからといって需要(消費)を極端に減少することもできない「お米」などの生活必需品が該当します。
ただし、「必需財」が常に「必需財」であるとは限りません。所得の大幅な増加により外食などが増えて「お米」の需要(消費)が減少するようであれば「お米」は「必需財」から「下級財」に変化する可能性があります。
- 所得が増加すると需要(消費)が少しだけ増加する財
- 所得が減少すると需要(消費)が少しだけ減少する財
- 「需要の所得弾力性」が「0」より大きく「1」より小さい財( 0<η<1 )
中立財
「中立財」とは、所得が増加(減少)しても需要(消費)が変わらない財であり、「需要の所得弾力性」が「ゼロ」である財( η=0 )のことをいいます。
- 所得が増加しても需要(消費)が変わらない財
- 所得が減少しても需要(消費)が変わらない財
- 「需要の所得弾力性」が「ゼロ」である財( η=0 )
下級財(劣等財)
「下級財(劣等財)」とは、所得が増加(減少)すると需要(消費)が減少(増加)する財であり、「需要の所得弾力性」が「マイナス」である財( η<0 )のことをいいます。
- 所得が増加すると需要(消費)が減少する財
- 所得が減少すると需要(消費)が増加する財
- 「需要の所得弾力性」が「マイナス」である財( η<0 )
エンゲル曲線
「エンゲル曲線」とは、縦軸に「財の需要」を、横軸に「所得」を取ったグラフで表される「消費者の所得と財の需要(消費)の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
「エンゲル曲線」の形状は「上級財(正常財)」「中立財」「下級財(劣等財)」といった財の分類により異なります。
上級財(正常財)
「上級財(正常財)」とは、所得が増加(減少)すると需要(消費)も増加(減少)する財であり、「需要の所得弾力性」が「プラス」である財( η>0 )のことをいいます。
「上級財(正常財)」の「エンゲル曲線」は、右上がりの曲線として表されます。
エンゲル曲線の形状(上級財(正常財))
中立財
「中立財」とは、所得が増加(減少)しても需要(消費)が変わらない財であり、「需要の所得弾力性」が「ゼロ」である財( η=0 )のことをいいます。
「中立財」の「エンゲル曲線」は、水平の曲線として表されます。
エンゲル曲線の形状(中立財)
下級財(劣等財)
「下級財(劣等財)」とは、所得が増加(減少)すると需要(消費)が減少(増加)する財であり、「需要の所得弾力性」が「マイナス」である財( η<0 )のことをいいます。
「下級財(劣等財)」の「エンゲル曲線」は、右下がりの曲線として表されます。
エンゲル曲線の形状(下級財(劣等財))
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和5年度 第16問】
下図は、所得水準と、ある財の消費量の関係を表したエンゲル曲線である。この図から読み取れる記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
a 所得Y1の領域では、この財は奢侈財であると判断される。
b 所得Y2の領域では、この財は上級財であると判断される。
c 所得Y3の領域では、この財は必需財であると判断される。
[解答群]
ア a:正 b:正 c:正
イ a:正 b:誤 c:誤
ウ a:誤 b:正 c:正
エ a:誤 b:正 c:誤
オ a:誤 b:誤 c:正
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
エンゲル曲線に関する知識を問う問題です。
「エンゲル曲線」とは、縦軸に「財の需要」を、横軸に「所得」を取ったグラフで表される「消費者の所得と財の需要(消費)の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
「エンゲル曲線」の形状は「上級財(正常財)」「中立財」「下級財(劣等財)」といった財の分類により異なります。
(a)不適切です。
問題で与えられた図の所得Y1の領域において「エンゲル曲線」は右上がりの曲線となっています。
これは、所得Y1の領域において、この財が所得が増加すると消費量も増加する「上級財(正常財)」であることを示しています。
「上級財(正常財)」ではありますが、さらに「奢侈財」であるか「必需財」であるかを判断するため、所得Y1の領域における「需要の所得弾力性(η)」を確認します。
「需要の所得弾力性(η)」が「0<η<1」であるため、所得Y1の領域において、この財は「必需財」であると判断することができます。
したがって、所得Y1の領域では、この財は奢侈財ではなく必需財であると判断されるため、選択肢の内容は不適切です。
(b)適切です。
問題で与えられた図の所得Y2の領域において「エンゲル曲線」は右上がりの曲線となっています。
これは、所得Y2の領域において、この財が所得が増加すると消費量も増加する「上級財(正常財)」であることを示しています。
したがって、所得Y2の領域では、この財は上級財であると判断されるため、選択肢の内容は適切です。
(c)不適切です。
問題で与えられた図の所得Y3の領域において「エンゲル曲線」は右下がりの曲線となっています。
これは、所得Y3の領域において、この財が所得が増加すると消費量が減少する「下級財(劣等財)」であることを示しています。
したがって、所得Y3の領域では、この財は必需財ではなく下級財(劣等財)であると判断されるため、選択肢の内容は不適切です。
「a:誤 b:正 c:誤」であるため、答えは(エ)です。
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