経済学・経済政策 ~R5-18 情報の非対称性(3)モラルハザード~

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今回は、「経済学・経済政策 ~R5-18 情報の非対称性(3)モラルハザード~」について説明します。

 

目次

経済学・経済政策 ~令和5年度一次試験問題一覧~

令和5年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。

 

逆選択・モラルハザード -リンク-

本ブログにて「逆選択」「モラルハザード」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。

 

 

情報の非対称性

「情報の非対称性」とは、財・サービスの取引主体(売り手と買い手)が保有する情報に格差がある状態のことをいいます。

財・サービスの取引主体(売り手と買い手)の間に「情報の非対称性」があると、契約前に「逆選択」が発生したり、契約後に「モラルハザード」が発生する可能性があります。

 

  • 逆選択
    • 買い手が契約したいと思っている財・サービスではないものを選択してしまうこと
    • 売り手が契約して欲しいと思っている対象ではない買い手が財・サービスを選択してしまうこと
  • モラルハザード
    • 買い手(売り手)が財・サービスを契約したから安心だと考えて気を緩めた行動をすること

 

逆選択

「逆選択」とは、買い手(売り手)が知ることができない売り手(買い手)の「隠された情報」など、それぞれの取引主体(売り手と買い手)が保有する情報の格差(情報の非対称性)により契約前に発生する問題のことをいいます。

「逆選択」を簡単に言うと、買い手が契約したいと思っている財・サービスではないものを選択してしまうこと、または売り手が契約して欲しいと思っている対象ではない買い手が財・サービスを選択してしまうことです。

 

中古車市場(レモン市場)

「逆選択」の事例としては、アメリカの理論経済学者ジョージ・アカロフにより発表された「中古車市場(レモン市場)」が有名です。

ちなみに「レモン」とは、アメリカにおける品質が悪い中古車の俗語であり「レモン」の外見から中身の見分けがつかないことに由来しています。

中古車市場において、中古車を販売する店は販売しようとしている中古車それぞれの品質を知っていますが、中古車を購入しようとする人が中古車それぞれの品質に関する情報を知るのは難しく、ここに「情報の非対称性」が発生します

品質が悪い中古車を安値で販売する店は、わざわざ安値である理由を説明しないため、中古車を購入しようとする人は「中古車市場」における平均価格を参考にして品質が悪いとは知らずに安値の中古車を購入してしまいます。

その結果、品質の悪い安値の中古車は売れますが、品質の良い高値の中古車は売れ残ってしまうため、最終的に中古車市場から品質の良い高値の中古車は姿を消し、品質の悪い安値の中古車だけが出回るようになります

本来、中古車を購入しようとする人は品質が良くて価格の低い中古車を購入したいと考えているはずですが、「逆選択」の結果、中古車市場に品質の悪い中古車しか出回らなくなるため、品質の良い中古車を購入できなくなってしまいます

 

医療保険への加入

医療保険において、医療保険への加入を希望する人は自分の健康状態を知っていますが、医療保険を提供する保険会社が医療保険への加入を希望する人の健康状態を知るのは難しく、ここに「情報の非対称性」が発生します

保険会社が、健康であり病気になるリスクが低いと考えられる人と、健康に不安があり病気になるリスクが高いと考えられる人を見分けることができない状態で、平均的に病気になる確率を用いて保険料を設定すると、健康であり病気になるリスクが低いと考える人にとっては割高な保険料となってしまいます。

そのため、健康であり病気になるリスクが低いと考える人は、病気になって保険会社から受け取る保険金よりも保険会社に支払う保険料の方が高くなり損をすると考えるため医療保険に加入せず、健康に不安があり病気になるリスクが高いと考える人は、保険会社に支払う保険料よりも病気になって保険会社から受け取る保険金の方が高くなり得をすると考えるため医療保険に加入します。

本来、保険会社としては健康であり病気になるリスクが低いと考えられる人と、健康に不安があり病気になるリスクが高いと考えられる人の両者が保険に加入すると想定して保険料金を設定していますが、結果として健康に不安があり病気になるリスクが高いと考えられる人のみが医療保険に加入するという「逆選択」が発生してしまいます。

 

モラルハザード

「モラルハザード」とは、売り手(買い手)が監視(モニタリング)できない買い手(売り手)の「隠された行動」など、それぞれの取引主体(売り手と買い手)が保有する情報の格差(情報の非対称性)により契約後に発生する問題のことをいいます。

「モラルハザード」を簡単に言うと、買い手(売り手)が財・サービスを契約したから安心だと考えて気を緩めた行動をすることです。

 

医療保険加入者の行動

医療保険に加入した人は、病気になったり怪我をしても保険会社から支給される保険金で治療できると考え、病気や怪我に対する注意や努力を怠りがちになるという「モラルハザード」が発生する可能性があります。

また、病気になったり怪我をしたとき、保険会社から支給される保険金で治療できると考え、過剰な治療を受ける行為も「モラルハザード」に該当します。

 

自動車保険加入者の行動

自動車保険に加入した人は、事故を起こしても保険会社から支給される保険金で車を修理したり損害を賠償できると考え、自動車保険に加入する前より無謀な運転(ちょっと極端ですが)をするようになるという「モラルハザード」が発生する可能性があります。

 

労働者の勤怠

企業から時給制で雇われた労働者は、労働時間が長いほど受け取る給料が多くなると考え、集中して取り組めば3時間で完成する作業を5時間かけて完成させるような働き方をするという「モラルハザード」が発生する可能性があります。

 

試験問題

それでは、実際の試験問題を解いてみます。

【令和5年度 第18問】

情報の不完全性に起因するモラルハザードを軽減することを主な目的として行われる事例として、最も適切なものはどれか。

 

ア 家電製品の製造業者が、顧客が製品を購入してから一定の期間内までは無償の保証サービスを提供する。

イ 企業が投資資金を調達するにあたって、自社が発行する債券への格付けを民間の格付け会社から取得する。

ウ 被保険者の医療費をカバーする健康保険制度において、保険料の負担が被保険者である労働者だけでなく、雇用主側にも課せられる。

エ 保険会社が、契約者であるドライバーが対物事故を起こした場合に、当該事故に伴う損害費用のうち一定金額を超える部分のみ補償を行う。

オ 持ち家の所有者が旅行者に宿泊サービスを提供する場合、当該サービス取引の仲介業者が、住宅の貸し手に過去の利用者によるサービス評価を公表することを義務付ける。

 

中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

 

考え方と解答

「モラルハザード」に関する知識を問う問題です。

 

「情報の非対称性」とは、財・サービスの取引主体(売り手と買い手)が保有する情報に格差がある状態のことをいいます。

財・サービスの取引主体(売り手と買い手)の間に「情報の非対称性」があると、契約前に「逆選択」が発生したり、契約後に「モラルハザード」が発生する可能性があります。

 

  • 逆選択
    • 買い手が契約したいと思っている財・サービスではないものを選択してしまうこと
    • 売り手が契約して欲しいと思っている対象ではない買い手が財・サービスを選択してしまうこと
  • モラルハザード
    • 買い手(売り手)が財・サービスを契約したから安心だと考えて気を緩めた行動をすること

 

(ア)不適切です。

家電製品の製造業者が、顧客が製品を購入してから一定の期間内まで無償の保証サービスを提供すると、顧客は無償の保証サービスに安心して、一定の期間内までは製品が壊れても無償で修理してもらえると考えて製品を乱暴に使用するという「モラルハザード」が発生します。

 

したがって、家電製品の製造業者が、顧客が製品を購入してから一定の期間内までは無償の保証サービスを提供しても、モラルハザードを軽減することはできないため、選択肢の内容は不適切です

 

(イ)不適切です。

財・サービスの取引主体(売り手と買い手)の間に「情報の非対称性」があると、契約前に「逆選択」が発生したり、契約後に「モラルハザード」が発生する可能性があります。

選択肢に「企業が投資資金を調達するにあたって、自社が発行する債券への格付けを民間の格付け会社から取得する」と記述されていますが、これは投資資金を提供する企業など(例:金融機関・投資家)と投資資金の調達を希望する企業が契約する前に「情報の非対称性」を軽減する事例です。

投資資金を提供する企業など(例:金融機関・投資家)が、投資資金を提供することを選択する前に、第三者である民間の格付け会社から発行された投資資金の調達を希望する企業の債券の格付けを確認することができれば「逆選択」を軽減することができます

 

したがって、企業が投資資金を調達するにあたって、自社が発行する債券への格付けを民間の格付け会社から取得することは、投資資金を調達する企業ではなく投資資金を提供することを検討する企業など(例:金融機関・投資家)の逆選択を防止することを目的として行われる事例であるため、選択肢の内容は不適切です

 

(ウ)不適切です。

「逆選択」や「モラルハザード」は、財・サービスの取引主体(売り手と買い手)の間に「情報の非対称性」がある場合に発生します。

選択肢に「保険料の負担が被保険者である労働者だけでなく、雇用主側にも課せられる」と記述されていますが、健康保険制度の取引主体は「保険会社」と「被保険者である労働者」であり「雇用主」は取引主体ではありません

「被保険者である労働者」としては、第三者である「雇用主」に保険料の負担が課せられたとしても、被保険者である労働者自身が負担する保険料は変わらないため、医療費を使用しないように努力しようとは考えません。その結果「モラルハザード」を軽減することはできません。

 

したがって、被保険者の医療費をカバーする健康保険制度において、保険料の負担が被保険者である労働者だけでなく、雇用主側にも課せられたとしても、モラルハザードを軽減することはできないため、選択肢の内容は不適切です

 

(エ)適切です。

保険会社が、契約者であるドライバーが対物事故を起こした場合に、当該事故に伴う損害費用のうち一定金額を超える部分のみ補償を行う場合、ドライバーは対物事故を起こすと当該事故に伴う損害費用の一定金額を必ず負担することとなるため、対物事故を起こさないよう安全運転を心がけるようになります。その結果「モラルハザード」が軽減されます。

 

したがって、保険会社が、契約者であるドライバーが対物事故を起こした場合に、当該事故に伴う損害費用のうち一定金額を超える部分のみ補償を行うことは、モラルハザードを軽減することを主な目的として行われる事例であるため、選択肢の内容は適切です

 

(オ)不適切です。

財・サービスの取引主体(売り手と買い手)の間に「情報の非対称性」があると、契約前に「逆選択」が発生したり、契約後に「モラルハザード」が発生する可能性があります。

選択肢に「持ち家の所有者が旅行者に宿泊サービスを提供する場合、当該サービス取引の仲介業者が、住宅の貸し手に過去の利用者によるサービス評価を公表することを義務付ける」と記述されていますが、これは旅行者が仲介業者を介して宿泊サービス提供者を提供する持ち家の所有者と宿泊サービスを契約する前に「情報の非対称性」を軽減する事例です。

旅行者が、宿泊サービスを選択する前に、過去の利用者によるサービス評価を確認することができれば「逆選択」を軽減することができます

 

したがって、持ち家の所有者が旅行者に宿泊サービスを提供する場合、当該サービス取引の仲介業者が、住宅の貸し手に過去の利用者によるサービス評価を公表することを義務付けることは、宿泊サービスの利用を検討している旅行者の逆選択を軽減することを目的として行われる事例であるため、選択肢の内容は不適切です

 

答えは(エ)です。


 

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