今回は、「経済学・経済政策 ~R5-10-2 国際収支と為替変動(11)IS-LM-BP分析~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和5年度一次試験問題一覧~
令和5年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
IS-LM-BP分析 -リンク-
本ブログにて「IS-LM-BP分析」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- IS-LM-BP分析のまとめ
- R3-10 国際収支と為替変動(8)IS-LM-BP分析
- R2-11-1 国際収支と為替変動(2)BP曲線
- R2-11-2 国際収支と為替変動(3)IS-LM-BP分析
- H30-9 国際収支と為替変動(5)IS-LM-BP分析
IS-LM-BP分析とは
「IS-LM-BP曲線」とは、縦軸に「利子率(r)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「財市場」が均衡する点の組み合わせを表す「IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)」が均衡する点の組み合わせを表す「LM曲線」と「国際収支」が均衡する点の組み合わせを表す「BP曲線」を同時に表現して、「財政政策」や「金融政策」による「財市場」への効果と「資本市場(貨幣市場)」への効果と「国際収支」への効果を同時に分析するグラフのことをいいます。
IS-LM-BP曲線(資本移動が完全に自由な場合)
BP曲線
「BP曲線」とは、縦軸に「利子率(r)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「国際収支」が均衡する点の組み合わせを表す曲線のことをいいます。
「BP曲線」の形状は「資本移動」の有無により変化します。
- 資本移動が完全に自由な場合(水平)
- 資本移動がない場合(垂直)
- 資本移動が不完全な場合(右上がり)
「資本移動」とは、国際金融取引の総称のことをいいますが、ここでは「円買いドル売り(資本流入)」と「円売りドル買い(資本流出)」のことだと理解しておけばよいと思います。
なお、「BP曲線」の「BP」は「Balance of Payments(国際収支)」を表しています。
資本移動が完全に自由な場合
資本移動が完全に自由な場合、「GDP(Y)」に関係なく「国内利子率(r)」と「国際利子率(rf)」が同じになる点で「国際収支」が均衡するため「BP曲線」は水平の曲線として表されます。
例えば、資本移動が完全に自由な場合において「国内利子率(r)」の方が「国際利子率(rf)」よりも低ければ、利子率の低い「円」を売り、利子率の高い「ドル」を買います。これを「円売りドル買い(資本流出)」といいます。
このとき、国際市場の方が国内市場よりもはるかに大きいため「円売りドル買い(資本流出)」により「国内利子率(r)」が高くなっていきます。(「国際利子率(rf)」は低くなってきません)
「国内利子率(r)」が「国際利子率(rf)」よりも低い限り「円売りドル買い(資本流出)」が続き、最終的に「国内利子率(r)」が「国際利子率(rf)」と同じになった時点で「国際収支」が均衡して「円売りドル買い(資本流出)」が発生しなくなります。
BP曲線(資本移動が完全に自由な場合)
水平なBP曲線の上下の領域
「国内利子率(r)」が「国際利子率(rf)」よりも高い状況(BP曲線よりも上側の領域)では「円買いドル売り(資本流入)」が発生して「国際収支(資本収支)」がプラスとなるため「BP曲線」よりも上側の領域では「BP>0(黒字)」となっています。
逆に、「国内利子率(r)」が「国際利子率(rf)」よりも低い状況(BP曲線よりも下側の領域)では「円売りドル買い(資本流出)」が発生して「国際収支(資本収支)」がマイナスとなるため「BP曲線」よりも下側の領域では「BP<0(赤字)」となっています。
国際通貨制度
変動相場制
「変動相場制」とは「為替市場」における需要と供給により、為替レートが決定される通貨制度のことをいいます。
固定相場制
「固定相場制」とは「中央銀行(日本銀行)」が介入して為替レートを特定の水準に固定もしくは変動を極小幅に限定する通貨制度のことをいいます。
「為替市場」において円高に推移してしまいそうな場合は「中央銀行(日本銀行)」が「円売りドル買い」介入を実施して、円高にならないように為替レートを維持します。
「中央銀行(日本銀行)」が「円売りドル買い」介入を実施した結果、「資本市場(貨幣市場)において「ハイパワードマネー(H)」が増加して「貨幣供給量(M)」が増加します。
逆に、「為替市場」において円安に推移してしまいそうな場合は「中央銀行(日本銀行)」が「円買いドル売り」介入を実施して、円安にならないように為替レートを維持します。
「中央銀行(日本銀行)」が「円買いドル売り」介入を実施した結果、「資本市場(貨幣市場)において「ハイパワードマネー(H)」が減少して「貨幣供給量(M)」が減少します。
財政政策や金融政策の効果(資本移動が完全に自由な場合)
資本移動が完全に自由な場合、「GDP(Y)」に関係なく「国内利子率(r)」と「国際利子率(rf)」が同じになる点で「国際収支」が均衡するため「BP曲線」は水平の曲線として表されます。
IS-LM-BP曲線(資本移動が完全に自由な場合)
資本移動が完全に自由な場合、「変動相場制」と「固定相場制」で「財政政策」と「金融政策」の効果が完全に逆転することが特徴です。
変動相場制 | 固定相場制 | |
財政拡張政策 | 無効 | 極めて有効 |
金融緩和政策 | 極めて有効 | 無効 |
変動相場制の場合
「変動相場制」における「財政政策」と「金融政策」の効果を説明していきます。
特に、資本移動が完全に自由で「変動相場制」を採用している場合の「IS-LM-BP分析」のことを「マンデル=フレミング・モデル」といいます。
財政拡張政策
「変動相場制」における「財政拡張政策」は景気対策として無効となります。
変動相場制 | 固定相場制 | |
財政拡張政策 | 無効 | 極めて有効 |
金融緩和政策 | 極めて有効 | 無効 |
「財政拡張政策」を行った場合に「財市場/IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)/LM曲線」が変化していく流れを以下に示します。
- 「財政拡張政策」により「IS曲線」が右方にシフトする
- 「国内利子率」が「国際利子率(rf)」よりも高くなるため「円買いドル売り(資本流入)」が発生する
- 「円買いドル売り(資本流入)」により「円高ドル安」となるため「輸出(EX)」が減少して「輸入(IM)」が増加する
- 「輸出(EX)」が減少して「輸入(IM)」が増加するため、「財市場」において「YD=C+I+G+EX-IM」で表される「総需要(YD)」が減少して「IS曲線」が左方にシフトする
- 「国内利子率」が「国際利子率(rf)」よりも高い限り「IS曲線」が左方にシフトし続けて「国内利子率」が「国際利子率(rf)」と同じになった時点で均衡する(最終的に「IS曲線」は元の位置まで戻ってしまう)
金融緩和政策
「変動相場制」における「金融緩和政策」は景気対策として極めて有効となります。
変動相場制 | 固定相場制 | |
財政拡張政策 | 無効 | 極めて有効 |
金融緩和政策 | 極めて有効 | 無効 |
「金融緩和政策」を行った場合に「財市場/IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)/LM曲線」が変化していく流れを以下に示します。
- 「金融緩和政策」により「LM曲線」が下方(右方)にシフトする
- 「国内利子率」が「国際利子率(rf)」よりも低くなるため「円売りドル買い(資本流出)」が発生する
- 「円売りドル買い(資本流出)」により「円安ドル高」となるため「輸出(EX)」が増加して「輸入(IM)」が減少する
- 「輸出(EX)」が増加して「輸入(IM)」が減少するため、「財市場」において「YD=C+I+G+EX-IM」で表される「総需要(YD)」が増加して「IS曲線」が右方にシフトする
- 「国内利子率」が「国際利子率(rf)」よりも低い限り「IS曲線」が右方にシフトし続けて「国内利子率」が「国際利子率(rf)」と同じになった時点で均衡する
固定相場制の場合
「固定相場制」における「財政政策」と「金融政策」の効果を説明していきます。
財政拡張政策
「固定相場制」における「財政拡張政策」は景気対策として極めて有効となります。
変動相場制 | 固定相場制 | |
財政拡張政策 | 無効 | 極めて有効 |
金融緩和政策 | 極めて有効 | 無効 |
「財政拡張政策」を行った場合に「財市場/IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)/LM曲線」が変化していく流れを以下に示します。
- 「財政拡張政策」により「IS曲線」が右方にシフトする
- 「国内利子率」が「国際利子率(rf)」よりも高くなるため「円買いドル売り(資本流入)」が発生する
- 「中央銀行(日本銀行)」は為替相場を一定に保つため「円買いドル売り(資本流入)」により「円高ドル安」とならないよう「円売りドル買い」介入を行う
- 「中央銀行(日本銀行)」による「円売りドル買い」介入により「ハイパワードマネー(H)」が増加して「貨幣供給量(M)」が増加するため「LM曲線」が下方(見た目は右方)にシフトする
- 「国内利子率」が「国際利子率(rf)」よりも高い限り「中央銀行(日本銀行)」による「円売りドル買い」介入が続けられ「国内利子率」が「国際利子率(rf)」と同じになった時点で均衡する
金融緩和政策
「固定相場制」における「金融緩和政策」は景気対策として無効となります。
変動相場制 | 固定相場制 | |
財政拡張政策 | 無効 | 極めて有効 |
金融緩和政策 | 極めて有効 | 無効 |
「金融緩和政策」を行った場合に「財市場/IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)/LM曲線」が変化していく流れを以下に示します。
- 「金融緩和政策」により「LM曲線」が下方(右方)にシフトする
- 「国内利子率」が「国際利子率(rf)」よりも低くなるため「円売りドル買い(資本流出)」が発生する
- 「中央銀行(日本銀行)」は為替相場を一定に保つため「円売りドル買い(資本流出)」により「円安ドル高」とならないよう「円買いドル売り」介入を行う
- 「中央銀行(日本銀行)」による「円買いドル売り」介入により「ハイパワードマネー(H)」が減少して「貨幣供給量(M)」が減少するため「LM曲線」が上方(見た目は左方)にシフトする
- 「国内利子率」が「国際利子率(rf)」よりも低い限り「中央銀行(日本銀行)」による「円買いドル売り」介入が続けられ「国内利子率」が「国際利子率(rf)」と同じになった時点で均衡する(最終的に「LM曲線」は元の位置に戻ってしまう)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和5年度 第10問】
下図は、開放経済下における小国のマクロ経済モデルを描いている。この図に基づいて、下記の設問に答えよ。
(設問2)
この国が変動為替レート制を採用しているとき、GDPの変化に関する記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
a 政府支出の増加は、IS曲線を右方にシフトさせるが、自国通貨高による純輸出の減少によってその効果は相殺され、自国のGDPに影響しない。
b 政府支出の増加は、自国通貨高を防ぐための名目貨幣供給の増加を伴って、自国のGDPを増加させる。
c 名目貨幣供給の増加は、LM曲線を右方にシフトさせるが、自国通貨安を防ぐための名目貨幣供給の減少によってその効果は相殺され、自国のGDPに影響しない。
d 外国利子率の低下は、海外からの資本流入によって自国通貨高を招き、自国のGDPを減少させる。
[解答群]
ア a:正 b:誤 c:正 d:正
イ a:正 b:誤 c:正 d:誤
ウ a:正 b:誤 c:誤 d:正
エ a:誤 b:正 c:誤 d:正
オ a:誤 b:正 c:誤 d:誤
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問2)
マンデル=フレミング・モデルにおける「政府支出の増加(財政拡大政策)」と「名目貨幣供給の増加(金融緩和政策)」による効果と「外国利子率の低下」による変化に関する知識を問う問題です。
資本移動が完全に自由で「変動相場制」を採用している場合の「IS-LM-BP分析」のことを「マンデル=フレミング・モデル」といいます。
財政拡張政策の効果
マンデル=フレミング・モデルにおける「財政拡張政策」は景気対策として無効となります。
金融緩和政策の効果
マンデル=フレミング・モデルにおける「金融緩和政策」は景気対策として極めて有効となります。
(a)適切です。
マンデル=フレミング・モデルにおける「財政拡張政策」は景気対策として無効となります。
「政府支出の増加(財政拡張政策)」を行った場合に「財市場/IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)/LM曲線」が変化していく流れを以下に示します。
- 「政府支出の増加(財政拡張政策)」により「IS曲線」が右方にシフトする
- 「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」よりも高くなるため「円買いドル売り(資本流入)」が発生する
- 「円買いドル売り(資本流入)」により「円高ドル安」となるため「輸出(EX)」が減少して「輸入(IM)」が増加する
- 「輸出(EX)」が減少して「輸入(IM)」が増加するため、「財市場」において「YD=C+I+G+EX-IM」で表される「総需要(YD)」が減少して「IS曲線」が左方にシフトする
- 「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」よりも高い限り「IS曲線」が左方にシフトし続けて「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」と同じになった時点で均衡する(最終的に「IS曲線」は元の位置まで戻ってしまう)
したがって、政府支出の増加は、IS曲線を右方にシフトさせるが、自国通貨高による純輸出の減少によってその効果は相殺され、自国のGDPに影響しないため、選択肢の内容は適切です。
(b)不適切です。
マンデル=フレミング・モデルにおける「財政拡張政策」は景気対策として無効となります。
したがって、政府支出の増加は、自国通貨高を防ぐための名目貨幣供給の増加を伴って、自国のGDPを増加させるのではなく、IS曲線を右方にシフトさせるが、自国通貨高による純輸出の減少によってその効果は相殺され、自国のGDPに影響しないため、選択肢の内容は不適切です。
(c)不適切です。
マンデル=フレミング・モデルにおける「金融緩和政策」は景気対策として極めて有効となります。
「名目貨幣供給の増加(金融緩和政策)」を行った場合に「財市場/IS曲線」と「資本市場(貨幣市場)/LM曲線」が変化していく流れを以下に示します。
- 「名目貨幣供給の増加(金融緩和政策)」により「LM曲線」が下方(右方)にシフトする
- 「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」よりも低くなるため「円売りドル買い(資本流出)」が発生する
- 「円売りドル買い(資本流出)」により「円安ドル高」となるため「輸出(EX)」が増加して「輸入(IM)」が減少する
- 「輸出(EX)」が増加して「輸入(IM)」が減少するため、「財市場」において「YD=C+I+G+EX-IM」で表される「総需要(YD)」が増加して「IS曲線」が右方にシフトする
- 「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」よりも低い限り「IS曲線」が右方にシフトし続けて「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」と同じになった時点で均衡する
したがって、名目貨幣供給の増加は、LM曲線を右方にシフトさせるが、自国通貨安を防ぐための名目貨幣供給の減少によってその効果は相殺され、自国のGDPに影響しないのではなく、LM曲線を右方にシフトさせ、自国通貨安による純輸出の増加を伴って、自国のGDPを増加させるため、選択肢の内容は不適切です。
(d)適切です。
「外国利子率の低下」により「BP曲線」と「財市場/IS曲線」が変化していく流れを以下に示します。
- 「外国利子率の低下」により「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」よりも高くなるため「円買いドル売り(資本流入)」が発生して「BP曲線」が下方にシフトする
- 「円買いドル売り(資本流入)」により「円高ドル安」となるため「輸出(EX)」が減少して「輸入(IM)」が増加する
- 「輸出(EX)」が減少して「輸入(IM)」が増加するため、「財市場」において「YD=C+I+G+EX-IM」で表される「総需要(YD)」が減少して「IS曲線」が左方にシフトする
- 「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」よりも高い限り「IS曲線」が左方にシフトし続けて「国内利子率」が「外国利子率(国際利子率(rf))」と同じになった時点で均衡する
したがって、外国利子率の低下は、海外からの資本流入によって自国通貨高を招き、自国のGDPを減少させるため、選択肢の内容は適切です。
答えは(ウ)です。
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