今回は、「経済学・経済政策 ~R5-13 資源配分機能(19)余剰分析(価格規制)~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和5年度一次試験問題一覧~
令和5年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
余剰分析(補助金の交付・課税・価格規制) -リンク-
本ブログにて「余剰分析(補助金の交付)」「余剰分析(課税)」「余剰分析(価格規制)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 余剰分析(補助金の交付・課税・価格規制)のまとめ
- R2-17 資源配分機能(2)余剰分析(補助金の効果)
- R2-19 資源配分機能(3)余剰分析(課税-従価税)
- H30-15 資源配分機能(8)余剰分析(税金の負担)
- H29-11 資源配分機能(12)余剰分析(税金の負担)
余剰分析
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
例:社会的総余剰(消費者余剰+生産者余剰)
余剰分析(政府が介入する場合)
完全競争市場に政府が介入する場合の「余剰(利益)」の変化について考えていきます。
政府が介入する場合には「補助金の交付」「課税」「価格規制」などがあります。
価格規制による効果
「財市場(完全競争市場)」において、政府が財の価格を規制した場合の効果について説明します。
価格を規制しない場合
「財市場(完全競争市場)」では、消費者が財を消費するために支払ってもよいと考えている価格と「需要量」の関係を表している「需要曲線(D)」と、「財市場(完全競争市場)」において決定される財の価格と「供給量」の関係を表す曲線であり、生産者が財を生産するときの「限界費用曲線」を表している「供給曲線(S)」の「交点(E)」で均衡して、財の価格が「PE円」に、消費量と供給量が「XE個」に決定します。
消費者余剰と生産者余剰(価格を規制しない場合)
価格を規制する場合
「財市場(完全競争市場)」において、政府が財の価格を規制した場合に「余剰」がどのように変化するかを考えていきます。
需要曲線と供給曲線
政府が財の価格を規制しても、消費者が財を消費するために支払ってもよいと考えている価格と「需要量」の関係は変化しないため「需要曲線(D)」はシフトしません。
また、政府が財の価格を規制しても、財を生産するときの限界費用(1単位を生産するための費用)は変化しないため「供給曲線(S)」もシフトしません。
消費者余剰
「需要曲線(D)」や「供給曲線(S)」はシフトしませんが、価格の低下により生産者が提供する「供給量」が「XE個」から「XG個」に減少するため「消費者余剰」は減少します。
消費者余剰(価格規制後)
生産者余剰
「需要曲線」や「供給曲線」はシフトしませんが、価格の低下により生産者が提供する「供給量」が「XE個」から「XG個」に減少するため「生産者余剰」は減少します。
生産者余剰(価格規制後)
政府余剰
政府が財の価格を規制しても、政府が得られる収入も負担する支出も発生しないため「政府余剰」は発生しません。
社会的総余剰・余剰の損失(死荷重)
政府が財の価格を規制すると、「消費者余剰」と「生産者余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」は財の価格を規制しない場合よりも減少します。
政府が財の価格を規制することにより失われる「余剰の損失(死荷重)」は、価格を規制しない場合と価格を規制した場合の「社会的総余剰(総余剰)」の差分(三角形HGE)として表されます。
社会的総余剰(価格規制後)と余剰の損失(死荷重)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和5年度 第13問】
一定の賃貸住宅について、下図の需要曲線Dと供給曲線Sの下で当初の市場価格(家賃)がP0、均衡取引量がQ0であったとする。ここで、政府が価格P1を上限とする家賃規制を導入した場合の効果に関する記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
a 家賃規制導入後の消費者余剰は、三角形AP1Fで示される。
b 家賃規制導入後の生産者余剰は、三角形P1BCで示される。
c 家賃規制導入後の住宅供給者の収入は、四角形P1OQ1Cで示される。
d 家賃規制導入によって生じた死荷重は、三角形ECFで示される。
[解答群]
ア a:正 b:正 c:正 d:誤
イ a:正 b:誤 c:誤 d:誤
ウ a:誤 b:正 c:正 d:正
エ a:誤 b:正 c:正 d:誤
オ a:誤 b:誤 c:誤 d:正
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「政府が介入する場合(価格規制)」の余剰分析に関する知識を問う問題です。
「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。
「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。
「需要曲線(D)」は、消費者が財を消費するために支払ってもよいと考えている価格と「需要量」の関係を表していますが、政府が財の価格を規制しても、消費者が財を消費するために支払ってもよいと考えている価格と「需要量」の関係は変化しないため「需要曲線(D)」はシフトしません。
「供給曲線(S)」は、「財市場(完全競争市場)」において決定される財の価格と「供給量」の関係を表す曲線であり、生産者が財を生産するときの「限界費用曲線」を表していますが、政府が財の価格を規制しても、生産者が財を生産するときの限界費用(1単位を生産するための費用)は変化しないため「供給曲線(S)」もシフトしません。
「需要曲線(D)」や「供給曲線(S)」はシフトしませんが、価格の低下により生産者が提供する「供給量」が「Q0」から「Q1」に減少するため「消費者余剰」と「生産者余剰」は減少します。
家賃規制導入による余剰の変化
(a)不適切です。
政府が家賃規制を導入すると、生産者が提供する「供給量」は「Q0」から「Q1」に減少します。
消費者としては、消費するために支払ってもよいと考えている価格よりも安価に供給されている財をもっと消費したいと考えますが、生産者が供給する量(Q1)より多くの数量を消費することはできないため、「消費者余剰」は「三角形AP0E」から「四角形AP1CG」に減少します。
消費者余剰(家賃規制導入後)
したがって、家賃規制導入後の消費者余剰は、三角形AP1Fではなく四角形AP1CGで示されるため、選択肢の内容は不適切です。(問題で与えられた図に「点G」を追加しています。)
(b)適切です。
政府が家賃規制を導入すると、生産者が提供する「供給量」は「Q0」から「Q1」に減少するため、「生産者余剰」が「三角形P0BE」から「三角形P1BC」に減少します。
生産者余剰(家賃規制導入後)
したがって、家賃規制導入後の生産者余剰は、三角形P1BCで示されるため、選択肢の内容は適切です。
(c)適切です。
住宅供給者の収入は「家賃(価格)× 数量」であるため「四角形P1OQ1C」として表されます。
住宅供給者の収入(家賃規制導入後)
したがって、家賃規制導入後の住宅供給者の収入は、四角形P1OQ1Cで示されるため、選択肢の内容は適切です。
(d)不適切です。
政府が家賃を規制すると、「消費者余剰」と「生産者余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」は「三角形ABE」から「四角形ABCG」に減少します。
政府が家賃を規制することにより失われる「余剰の損失(死荷重)」は、家賃を規制しない場合と家賃を規制した場合の「社会的総余剰(総余剰)」の差分(三角形GCE)として表されます。
家賃規制導入による余剰の損失(死荷重)
したがって、家賃規制導入によって生じた死荷重は、三角形ECFではなく三角形GCEで示されるため、選択肢の内容は不適切です。(問題で与えられた図に「点G」を追加しています。)
「a:誤 b:正 c:正 d:誤」であるため、答えは(エ)です。
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