今回は、「財務・会計 ~H22-2-2 特殊な販売形態(1)委託販売~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成22年度一次試験問題一覧~
平成22年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
特殊な販売形態 -リンク-
原則として、収益は「実現主義の原則」に基づき認識します。
また、「実現主義の原則」により収益を認識する判断基準のことを「販売基準」といいます。
しかし、実際の商品販売には「販売基準」だけでは適切に業績を評価することができない「特殊な販売形態」があります。
「特殊な販売形態」には「委託販売」「試用販売」「予約販売」「割賦販売」など様々な形態がありますので、平成22年度第2問を解くために、本日から5回に渡って「特殊な販売形態」について説明していきます。
今回は、「特殊な販売形態(1)委託販売」として「委託販売」について説明します。
一次試験に向けて「特殊な販売形態」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R4-3 特殊な販売形態(6)
- H22-2-3 特殊な販売形態(2)試用販売/予約販売
- H22-2-4 特殊な販売形態(3)割賦販売
- H22-2-5 特殊な販売形態(4)未着品販売/荷為替手形
- H22-2-6 特殊な販売形態(5)委託販売と荷為替の取り組み/生産基準
実現主義の原則
収益は「実現主義の原則」に基づき、認識されます。
収益の認識については「企業会計原則」の「損益計算書原則」において以下の通り定義されています。
売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。ただし、長期の未完成請負工事等については、合理的に収益を見積り、これを当期の損益計算に計上することができる
実現主義とは、①商品や製品が買い手に引き渡されることまたはサービスの提供が行われたことと、②商品、製品およびサービス提供の対価を受け取る(受取手形や売掛金などの計上を含む)という2つの要件を満たしたときに収益を認識することをいい、この判断基準を「販売基準」といいます。
なお、文章後半の「長期の未完成請負工事等については、合理的に収益を見積り、これを当期の損益計算に計上することができる」という記述は、工事契約に係る「工事進行基準」のことを示しています。
特殊な販売形態
しかし、実際の商品販売には「特殊な販売形態」があり、「販売基準」だけでは適切に業績を評価することができない場合があるため、企業会計原則において「販売基準」以外の収益認識基準も認められています。
「企業会計原則」では、「委託販売」「試用販売」「予約販売」「割賦販売」といった「特殊な販売形態」に関する収益の認識に関する基準が規定されています。
また、「企業会計原則」には記載されていませんが、特殊な販売形態として「未着品販売」であったり、販売形態ではありませんが「荷為替手形」という代金の回収方法についても説明していきます。
委託販売
「委託販売」とは、商品や製品の販売に関する代理店契約などにより、手数料を支払って自社の商品や製品の販売を代理店に委託する販売形態のことをいいます。
委託販売における収益の認識
「委託販売」における収益の認識基準には、以下の2種類があります。
- 販売基準(原則)
受託者が委託品を販売した日をもって売上収益の実現の日とする。 - 仕切精算書到達日基準(例外)
仕切精算書が販売のつど送付されている場合は、当該仕切精算書が到着した日をもって売上収益の実現の日とみなす。
「企業会計原則」では、以下の通り定義されています。
委託販売については、受託者が委託品を販売した日をもって売上収益の実現の日とする。従って、決算手続中に仕切精算書(売上計算書)が到達すること等により決算日までに販売された事実が明らかとなったものについては、これを当期の売上収益に計上しなければならない。ただし、仕切精算書が販売のつど送付されている場合には、当該仕切精算書が到達した日をもって売上収益の実現の日とみなすことができる。
委託販売の特徴
委託販売では、商品を提供する会社のことを委託者、商品の提供を受け販売する会社のことを受託者といいます。また、委託者が委託先(受託者)に商品を発送することを積送といい、委託する商品のことを積送品といいます。
委託販売の特徴は、商品はあくまで委託者の資産であり、受託者は委託者の商品を顧客へ販売することを受託しているということであり、受託者としては商品が売れ残った場合は委託元(委託者)に返送すればよいため、在庫リスクを負うことはありません。
また、受託者は販売価格の何%といった契約条件に基づき、委託者から手数料を受け取ります。
委託者による仕訳(販売基準)
委託販売においては、原則として「販売基準」により収益を認識します。
「販売基準」では、受託者が委託品を販売した日をもって売上収益の実現の日とします。
「販売基準」により収益を認識する場合の仕訳の流れを以下に示します。
なお、委託販売では様々な仕訳方法が認められているため、その都度補足していきます。
委託品を発送したとき
委託者から委託先(受託者)に商品を発送(積送)する際、「仕入」勘定から「積送品」勘定に振り替える仕訳を行います。
- 委託者が商品(10,000円)を委託先(受託者)に積送する。
- なお、積送に際して、発送料金(1,000円)が発生したため、現金で支払った。
借方 | 貸方 | ||
積送品 | 11,000 | 仕入 現金 |
10,000 1,000 |
積送に際して発生した費用については、「積送諸掛(販売費および一般管理費)」勘定に計上する方法もあります。
借方 | 貸方 | ||
積送品 積送諸掛 |
10,000 1,000 |
仕入 現金 |
10,000 1,000 |
仕切精算書(売上計算書)を受け取ったとき
委託先(受託者)から仕切精算書(売上計算書)を受領した場合、書類に記載されている商品を販売した日付の取引として、以下の仕訳を行います。
- 受託者は商品(15,000円)を顧客に販売した。
- 受託者が商品を販売する際に、引取費、発送費、保管料、手数料などの費用(2,000円)が発生した。
借方 | 貸方 | ||
積送売掛金(未収金) 積送諸掛 |
13,000 2,000 |
積送品売上(売上) | 15,000 |
受託者において発生した諸費用を除いた価額を売上に計上する方法(純学法)もあります。
借方 | 貸方 | ||
積送売掛金(未収金) | 13,000 | 積送品売上(売上) | 13,000 |
また、受託者によって販売された商品の原価を「積送品」勘定から「仕入」勘定に振り替えます。(商品を積送した際に「仕入」から「積送品」に振り替えた価額の振り戻し)
なお、受託者によって商品が販売されずに返品された場合も同様の仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 11,000 | 積送品 | 11,000 |
受託者によって販売されたタイミングで「積送品」勘定から「仕入」勘定に振り替えるのではなく、決算時期に一括して振り替える方法もあります。
委託先(受託者)から現金を受け取ったとき
委託先(受託者)から現金を受け取ったとき、以下の仕訳を行います。
- 受託者が商品の販売価格から、引取費、発送費、保管料、手数料などの費用を差し引いた金額(13,000円)を受け取った。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 13,000 | 積送売掛金(未収金) | 13,000 |
委託者による仕訳(仕切精算書到達日基準)
委託販売においては、例外として「仕切精算書到達日基準」により収益を認識することも認められています。
「仕切精算書到達日基準」では、委託先(受託者)が商品を販売するたびに仕切精算書を送付してくる場合のみに適用することができ、この仕切精算書が到着した日をもって売上収益の実現の日とみなすことができます。
「販売基準」と「仕切精算書到達日基準」で仕訳が異なるのは「仕切精算書(売上計算書)を受け取ったとき」です。ただし、仕訳内容が異なるのではなく、収益を計上するタイミングが異なるだけです。
「販売基準」と「仕切精算書到達日基準」の違い
収益の認識基準 | 説明 |
販売基準 |
|
仕切精算書到達日基準 |
|
受託者による仕訳
委託販売における受託者の仕訳について説明していきます。
受託者は、自社の商品ではなく、あくまで委託者の資産である商品の販売業務を受託しているという位置づけにあるため、商品を販売した場合、販売価格の何%といった契約条件に基づき委託者から受け取る「販売手数料」だけを収益として計上することとなります。
委託者が負担すべき費用を立て替えた場合や、商品を販売して顧客から代金を受け取った場合は「受託販売」勘定を用いて仕訳を行い、委託者に対する債権・債務として管理していきます。
委託品を受け取ったとき
商品を受け取ったとしても、あくまで委託者の商品を預かっているだけなので、「仕入」勘定などには計上しません。
また、委託品の受け取りに際して引取費用などを支払った場合は、委託者が負担すべき費用を立て替えたと考え、委託者に対する「債権」として「受託販売」勘定に計上します。
- 受託者は、委託者から商品(10,000円)を受け取った。
- なお、商品の受け取りに際して、引取費用として「200円」を現金で支払った。
借方 | 貸方 | ||
受託販売(引取費用) | 200 | 現金 | 200 |
商品を販売したとき
商品を販売したとしても、あくまで委託者から預かっている商品を販売しただけなので、収益は計上しません。
顧客から商品の代金を受け取っても、委託者に支払うまでの間一時的に預かっているという位置づけとなるため、委託者に対する「債務」として「受託販売」勘定に計上します。
また、商品の販売に際して顧客への発送費用などが発生した場合は、委託者が負担すべき費用を立て替えたと考え、委託者に対する「債権」として「受託販売」勘定に計上します。
- 受託者は商品1個を「15,000円」で販売した。
- なお、商品の販売に際して、顧客への発送費用として「500円」を現金で支払った。
借方 | 貸方 | ||
現金 受託販売(発送費用) |
15,000 500 |
受託販売(販売価格) 現金 |
15,000 500 |
仕切精算書(売上計算書)を送付したとき
委託者に仕切精算書(売上計算書)を送付した場合、既に計上した費用(引取費用や発送費用)以外にも委託者が負担すべき費用が発生している場合には「債権」として「受託販売」勘定に計上します。
また、契約条件に基づき委託者から受け取る「販売手数料」を収益として「受託販売手数料」勘定に計上します。
- 委託者に仕切精算書(売上計算書)を送付した。
- 引取費用や発送費用以外に、商品を倉庫に保管するための費用として「300円」を現金で支払った。
- 委託者との契約により、販売手数料は商品1個につき「1,000円」と定められている。
借方 | 貸方 | ||
受託販売(保管料) 受託販売(販売手数料) |
300 1,000 |
現金 受託販売手数料(売上) |
300 1,000 |
委託元(委託者)に現金を支払ったとき
商品の販売価格から、引取費、発送費、保管料、手数料などの費用を差し引いた「受託販売」勘定の債務を、委託者に現金で支払ったとき、以下の仕訳を行います。
- 商品の販売価格から、引取費、発送費、保管料、手数料などの費用を差し引いた金額(13,000円)を支払った。
借方 | 貸方 | ||
受託販売(すべて) | 13,000 | 現金 | 13,000 |
以上で、「委託販売」に関する説明は終了です。
明日は、引き続き「財務・会計 ~H22-2-3 特殊な販売形態(2)試用販売/予約販売~」について説明していきます。
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