今回は、「財務・会計 ~H22-2-6 特殊な販売形態(5)委託販売と荷為替の取り組み/生産基準~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成22年度一次試験問題一覧~
平成22年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
特殊な販売形態 -リンク-
平成22年度第2問を解くために、様々な「特殊な販売形態」について説明しています。
3回目までに説明してきた「委託販売」「試用販売」「予約販売」「割賦販売」は「企業会計原則」に記載されていますが、前回は「企業会計原則」に記載されていない特殊な販売形態である「未着品販売」と、販売形態ではありませんが「荷為替手形」という代金の回収方法について説明してきました。
最終回の今回は、「特殊な販売形態(5)委託販売と荷為替の取り組み/生産基準」として「委託販売と荷為替の取り組み」と「発生主義の原則」に基づく収益実現の認識基準である「生産基準」について説明した後、試験問題の説明を実施していきます。
一次試験に向けて「特殊な販売形態」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R4-3 特殊な販売形態(6)
- H22-2-2 特殊な販売形態(1)委託販売
- H22-2-3 特殊な販売形態(2)試用販売/予約販売
- H22-2-4 特殊な販売形態(3)割賦販売
- H22-2-5 特殊な販売形態(4)未着品販売/荷為替手形
委託販売と荷為替手形の取り組み
委託者が、販売業務を委託する委託先(受託者)に商品を積送する際、その委託先(受託者)が遠隔地であった場合は、代金の早期回収を目的として、運送会社から受け取った貨物代表証券を担保にした荷為替手形に取り組むことがあります。
委託販売の詳細については「財務・会計 ~H22-2-2 特殊な販売形態(1)委託販売~」を、荷為替手形の詳細については「財務・会計 ~H22-2-5 特殊な販売形態(4)未着品販売/荷為替手形~」を参照してください。
委託販売と荷為替手形の取り組みにおける仕訳処理
委託販売において、「販売基準」で収益の認識をしている委託者が荷為替手形に取り組むことを前提とした仕訳について説明します。
委託品を発送したとき(荷為替手形の取り組み)
委託販売では、委託者から委託先(受託者)に商品を発送(積送)する際、「仕入」勘定から「積送品」勘定に振り替える仕訳を行います。
今回は、さらに商品を積送する際に「荷為替手形の取り組み」を行いますが、この段階では収益を認識していないため、受け取った現金は「前受金」勘定で仕訳します。
- 委託者が商品(10,000円)を委託先(受託者)に積送する。
- なお、積送に際して、発送料金(1,000円)が発生したため、現金で支払った。
- 「貨物代表証券」を担保として「自己受為替手形(7,000円)」を振り出した。
- 銀行で「自己受為替手形(7,000円)」を割り引いて、現金(6,500円)を受け取った。
借方 | 貸方 | ||
積送品 . 当座預金 手形売却損 |
11,000 . 6,500 500 |
仕入 現金 前受金 . |
10,000 1,000 7,000 . |
仕切精算書(売上計算書)を受け取ったとき
委託先(受託者)から仕切精算書(売上計算書)を受領した場合、書類に記載されている商品を販売した日付の取引として、以下の仕訳を行います。
なお、「荷為替手形の取り組み」で受け取った「前受金」を差し引いた金額で「積送売掛金」に計上します。
- 受託者は商品(15,000円)を顧客に販売した。
- 受託者が商品を販売する際に、引取費、発送費、保管料、手数料などの費用(2,000円)が発生した。
借方 | 貸方 | ||
積送売掛金(未収金) 積送諸掛 前受金 |
6,000 2,000 7,000 |
積送品売上(売上) | 15,000 |
また、受託者によって販売された商品の原価を「積送品」勘定から「仕入」勘定に振り替えます。(商品を積送した際に「仕入」から「積送品」に振り替えた価額の振り戻し)
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 11,000 | 積送品 | 11,000 |
委託先(受託者)から現金を受け取ったとき
委託先(受託者)から現金を受け取ったとき、以下の仕訳を行います。
委託先(受託者)は、銀行に「為替手形(7,000円)」の金額を支払うため、委託先が受け取る金額は「積送売掛金(6,000円)」です。
- 受託者が商品の販売価格から、引取費、発送費、保管料、手数料などの費用、および「為替手形で銀行に支払った金額」を差し引いた金額(6,000円)を受け取った。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 6,000 | 積送売掛金(未収金) | 6,000 |
生産基準
企業会計原則により、収益の認識は「実現主義の原則」に基づくと規定されておりますが、例外として「発生主義の原則」に基づく「生産基準」という収益の認識基準が認められています。
「生産基準」には、大きく分けて「時間基準」「工事進行基準」「収穫基準」の3種類があります。
時間基準
不動産賃貸業や貸金業のように、継続的なサービス提供契約が前提となっている場合は、「時間基準」により収益の認識を行います。「時間基準」とは、「時間の経過」に伴い収益を認識する判断基準です。
工事進行基準
請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものや受注制作のソフトウェアについては、工事が完成していない段階でも、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には「工事進行基準」により収益の認識を行うことが認められています。
収穫基準
公定価格のある農産物、安定した販売市場が存在する鉱産物(金銀など)は「収穫基準」により収益の認識を行います。「収穫基準」とは、農産物を収穫した時点、鉱産物を採掘した時点で収益を認識する判断基準です。
「生産基準」が採用される理由は、公定価格のある農産物、安定した販売市場が存在する鉱産物は、安定した販売価格による収益の獲得が保証されていること、および生産原価の計算が容易ではなく、棚卸資産価額の評価が困難であること、が上げられます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成22年度 第2問】
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
収益の認識は、一般に、商品等の販売または役務の給付によって①実現したことをもって行われるとされている。しかし、長期の未完成請負工事等については、工事[ A ]基準とともに、工事[ B ]基準が認められてきた。
工事契約に係る収益(工事収益)およびその原価(工事原価)に関して定めた②企業会計基準第15号「工事契約に係る会計基準」では、工事の進行途上においても、その進捗部分について[ C ]の確実性が認められる場合には、工事[ B ]基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事[ A ]基準を適用するとされる。
(設問2)
文中の下線部①の実現したことに相当する事項として、最も適切なものはどれか。
ア 委託販売における積送品に対する荷付為替手形の取り組み
イ 市場性が高い鉱産物の採掘
ウ 試用販売における得意先による買い取りの意思表示
エ 予約販売における予約金の受け取り
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問2)
(ア)不適切です。
「委託販売」における「荷付為替手形の取り組み」は、委託者から受託者に対して商品を発送している段階であり、商品等の販売または役務の給付を満たしていないため、選択肢の内容は不適切です。
(イ)不適切です。
「市場性が高い鉱産物の採掘」においては、「実現主義の原則」ではなく、「発生主義の原則」に基づき、市場性が高い鉱産物を採掘した時点で売上収益の実現が認められているため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ)適切です。
「試用販売」においては、得意先が買取りの意思を表示した日をもって売上収益の実現の日とするため、選択肢の内容は適切です。
「試用販売」の詳細については、以下のページを参照してください。
(エ)不適切です。
「予約販売」においては、予約金の受け取りだけでなく、商品の引渡し又は役務の給付が完了した日をもって売上収益の実現の日とするため、選択肢の内容は不適切です。
「予約販売」の詳細については、以下のページを参照してください。
答えは(ウ)です。
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