今回は、「財務・会計 ~H22-2-3 特殊な販売形態(2)試用販売/予約販売~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成22年度一次試験問題一覧~
平成22年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
特殊な販売形態 -リンク-
原則として、収益は「実現主義の原則」に基づき認識します。
また、「実現主義の原則」により収益を認識する判断基準のことを「販売基準」といいます。
しかし、実際の商品販売には「販売基準」だけでは適切に業績を評価することができない「特殊な販売形態」があります。
「委託販売」「試用販売」「予約販売」「割賦販売」など、平成22年度第2問を解くために、様々な「特殊な販売形態」における収益の認識に関する判断基準と仕訳の方法などついて説明しています。
今回は、「特殊な販売形態(2)試用販売/予約販売」として「試用販売」と「予約販売」について説明します。
一次試験に向けて「特殊な販売形態」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R4-3 特殊な販売形態(6)
- H22-2-2 特殊な販売形態(1)委託販売
- H22-2-4 特殊な販売形態(3)割賦販売
- H22-2-5 特殊な販売形態(4)未着品販売/荷為替手形
- H22-2-6 特殊な販売形態(5)委託販売と荷為替の取り組み/生産基準
試用販売
「試用販売」とは、取引先に商品を発送して一定期間、試用品として使用してもらい、取引先が買取りの意思を表示したときに収益を認識する販売形態のことをいいます。
試用販売における収益の認識
「試用販売」における収益の認識は以下の通りです。
- 販売基準(原則)
得意先が買取りの意思を表示した日をもって売上収益の実現の日とする。
「企業会計原則」では、以下の通り定義されています。
試用販売については、得意先が買取りの意思を表示することによって売上が実現するのであるから、それまでは、当期の売上高に計上してはならない。
試用販売における仕訳処理
試用販売においては、得意先による試用品の買取りの意思表示をもって売上収益の実現の日(販売基準)とします。
「試用販売」により収益を認識する場合の仕訳の流れを以下に示します。
商品を発送したとき
取引先に試用として商品を発送する際、備忘録として「試用販売」と「試用販売売掛金」という対照勘定を使って仕訳を行います。なお、仕訳をする際には「販売価格」で計上します。
- 取引先から商品の試用について申し込みを受けたため、商品を発送した。
- 発送した商品の販売価格は「10,000円」である。
借方 | 貸方 | ||
試用販売売掛金 | 10,000 | 試用販売 | 10,000 |
「試用販売」と「試用販売売掛金」ではなく、「試用仮売上」と「試用販売契約」という対照勘定で仕訳する方法もあります。
借方 | 貸方 | ||
試用販売契約 | 10,000 | 試用仮売上 | 10,000 |
取引先から商品買取の意思表示を受けたとき
取引先から、試用している商品を買い取りたいとの意思表示を受けた場合、「試用売上」勘定で売上を計上します。
また、商品を発送する際に行った「試用販売」と「試用販売売掛金」の仕訳を取り消すための逆仕訳を行います。
- 取引先から、試用品の買取意思の表示を受けた。
借方 | 貸方 | ||
売掛金 試用販売 |
10,000 10,000 |
試用売上(売上) 試用販売売掛金 |
10,000 10,000 |
取引先から商品代金を受け取ったとき
取引先から現金を受け取ったとき、以下の仕訳を行います。
- 取引先から、商品代金として「10,000円」を現金で受け取った。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 10,000 | 売掛金 | 10,000 |
手許商品区分法による商品の仕訳
試用販売における「収益の認識」に関する仕訳処理は上述の通りですが、手許にある商品と試用のため顧客に引き渡している商品(手元にない商品)を区別して管理する「手許商品区分法」により商品を管理することもあります。
「特殊な販売形態(1)」で説明した「委託販売」の「積送品」勘定による処理も、同じく「手許商品区分法」の考え方に基づく商品の管理方法です。
商品を発送したとき
取引先に試用として商品を発送する際、「仕入」勘定から「試用品」勘定に振り替える仕訳を行います。なお、仕訳をする際には「販売価格」ではなく「仕入価格」で計上します。
借方 | 貸方 | ||
試用品 | 8,000 | 仕入 | 8,000 |
取引先から商品買取の意思表示を受けたとき
取引先から試用している商品を買い取りたいとの意思表示を受けた場合、「売上収益」の計上と合わせて、買取りの意思表示を受けた商品の原価を「試用品」勘定から「仕入」勘定に振り替えます。(商品を発送した際に「仕入」から「試用品」に振り替えた価額の振り戻し)
なお、取引先から試用品が返品された場合も同様の仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 8,000 | 試用品 | 8,000 |
取引先から試用している商品を買い取りたいとの意思表示を受けたタイミングで「試用品」勘定から「仕入」勘定に振り替えるのではなく、決算時期に一括して振り替える方法もあります。
予約販売
「予約販売」とは、予約金として前もって商品や役務の代金を受け取り、後から商品を発送したり役務を提供する販売形態のことをいいます。
予約販売における収益の認識
「予約販売」における収益の認識は以下の通りです。
- 販売基準(原則)
予約金受取額のうち、商品の引渡し又は役務の給付が完了した日をもって売上収益の実現の日とする。
「企業会計原則」では、以下の通り定義されています。
予約販売については、予約金受取額のうち、決算日までに商品の引渡し又は役務の給付が完了した分だけを当期の売上高に計上し、残額は貸借対照表の負債の部に記載して次期以後に繰延べなければならない。
予約販売における仕訳処理
予約販売においては、予約金として前もって商品や役務の代金を受け取った顧客に対して、商品を引き渡した日または役務の提供が完了した日をもって売上収益の実現の日(販売基準)とします。
「予約販売」により収益を認識する場合の仕訳の流れを以下に示します。
予約金を受け取ったとき
顧客から予約金として前もって商品や役務の代金を現金で受け取った場合は、予約金を受け取った顧客に対する「債務」として「前受金」勘定に計上します。
- 顧客から、商品の予約金として「10,000」円を受け取った。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 10,000 | 前受金 | 10,000 |
商品の引渡しまたは役務の提供が完了したとき
商品を引き渡した時点または役務の提供が完了した時点で、収益が実現したと認識されるため「前受金」を取り崩して「売上」を計上します。
- 商品の発送準備ができたため、予約金を受け取った顧客に商品を発送した。
借方 | 貸方 | ||
前受金 | 10,000 | 売上 | 10,000 |
「前受金」と「前受収益」の違いについて
予約販売では「前受金」勘定を用いて仕訳を説明していますが、「前受金」と「前受収益」の違いについて補足しておきます。
「前受収益」とは、一定の契約に従い、継続的に役務を提供する場合に使用する「経過勘定科目」です。一方で、「前受金」とは、予約販売における商品の引き渡しや単発で役務を提供する場合に使用します。
例えば、1年契約でビルの清掃業務を契約する際に、契約締結の時点で料金を一括で受け取った場合は、「継続的に役務を提供する場合」に該当するため、ビル清掃業者は「前受収益」として計上して、役務の提供(ビルの清掃)の実態に合わせて、徐々に「前受収益」を取り崩して「売上」を計上していきます。
一方で、エアコンの清掃業務(1回)を契約して、契約締結の時点で料金を一括で受け取った場合は、「前受金」として計上して、役務の提供(エアコンの清掃業務)が完了した時点で「前受金」を全額取り崩して「売上」を計上します。
明日は、引き続き「財務・会計 ~H22-2-4 特殊な販売形態(3)割賦販売~」について説明していきます。
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