今回は、「財務・会計 ~R2-6 企業結合(のれん)(4)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~令和2年度一次試験問題一覧~
令和2年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
企業結合(のれん) -リンク-
本ブログにて「企業結合(のれん)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
企業結合(のれん)の会計処理
企業結合(のれん)に関する会計処理は「企業結合に関する会計基準」の中で定められています。
「企業結合に関する会計基準」では、企業結合に該当する取引を以下の3種類に分類しています。
- 取得
「取得」とは、ある企業が他の企業に対する支配を獲得することをいい、共同支配企業の形成及び共通支配下の取引以外の企業結合をいう。 - 共同支配企業の形成
「共同支配企業」とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいい、「共同支配企業の形成」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、当該共同支配企業を形成する企業結合をいう。 - 共同支配事業の取引
結合当事企業(又は事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいう。親会社と子会社の合併及び子会社同士の合併は、共通支配下の取引に含まれる。
取得
「取得」とは、共同支配企業の形成及び共通支配下の取引以外の全ての企業結合と定義されているため非常に範囲が広いですが、一番イメージしやすいのは企業の買収であり、ある企業が他の企業に対する支配を獲得することをいいます。
企業を買収する場合、買収する側の企業を「取得企業」といい、買収される側の企業を「被取得企業」といいます。(厳密にはもう少し細かい定義があります。)
企業(取得企業)は買収することによって、企業そのものだけでなく、買収される側の企業(被取得企業)の信用力や技術力といった見えないブランド力を手に入れることができます。このように、見えない価値であるブランド力を金額に換算したものを「のれん」といいます。
例えば、「純資産(資産-負債)」が「100億円」の企業を「120億円」で買収した場合は、被取得企業の純資産だけではなく、金額としては現れないブランド力を「20億円」で手に入れたと考えます。この金額を「のれん」といいます。
また、「純資産(資産-負債)」が「100億円」の企業を「80億円」で買収した場合は、被取得企業の純資産を「20億円分」分割安で手に入れたと考えます。この金額を「負ののれん」といいます。
のれんの会計処理
「のれん」が生じた場合は、貸借対照表に「無形固定資産」として計上します。
「のれん」は、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法によって規則的に償却を行い、「販売費及び一般管理費」として計上します。
ただし、「のれん」の金額に重要性が乏しい場合には「のれん」が生じた事業年度の損益計算書において費用として処理することもできます。
負ののれんの会計処理
「負ののれん」は、原則として「負ののれん」が生じた事業年度の損益計算書において「特別利益」として計上します。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和2年度 第6問】
C社はD社を吸収合併し、新たにC社株式200千株を交付した。合併期日におけるC社の株価は1株当たり400円であった。D社の貸借対照表は以下のとおりであった。商品の時価は24,000千円であったが、その他の資産および負債の時価は帳簿価額と同額である。C社は増加すべき株主資本のうち、2分の1を資本金、残りを資本準備金とした。
合併に伴い発生するのれんと、増加する資本金の金額の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
D社貸借対照表 (単位:千円) 資産の部 負債・純資産の部 現金預金 10,000 買掛金 35,000 売掛金 35,000 資本金 30,000 商品 20,000 資本剰余金 15,000 建物 40,000 利益剰余金 25,000 資産合計 105,000 負債・純資産合計 105,000
[解答群]
ア のれん:6,000千円 資本金:37,000千円
イ のれん:6,000千円 資本金:40,000千円
ウ のれん:10,000千円 資本金:37,000千円
エ のれん:10,000千円 資本金:40,000千円
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「企業結合(のれん)」に関する知識を問う問題です。
「C社(取得企業)」による「D社(被取得企業)」の吸収合併によって発生する「のれん」と、増加する「資本金」の金額を求められています。
企業の吸収合併は、企業結合の「取得」に分類され、その吸収合併に伴う会計処理は「パーチェス法」を用いて行われます。
「パーチェス法」では、時価で評価した「被取得企業」の資産および負債から「純資産(資産-負債)」を算定して、その「純資産」と「取得企業」が支払う「取得原価(時価)」との差分から「のれん(または負ののれん)」を求めていきます。
まず、今回の吸収合併にあたって、「C社(取得企業)」は「1株当たり400円」の新株を「200千株」交付しているため、「取得価額(時価)」は「1株当たり400円 × 200千株 = 80,000千円」です。
続いて、「D社(被取得企業)」の「資産(時価)」と「負債(時価)」から「純資産(資産-負債)」を求めていきます。
- 資産(時価)= 資産(簿価)+( 商品(時価)- 商品(簿価))= 105,000千円 + ( 24,000千円 - 20,000千円 )= 109,000千円
- 負債(時価)= 負債(簿価)= 35,000千円
- 純資産(資産-負債)= 資産(時価)- 負債(時価)= 109,000千円 - 35,000千円 = 74,000千円
この結果、「D社(被取得企業)」の「純資産(資産-負債)」は「74,000千円」となるため、「C社(取得企業)」は「企業価値:74,000千円」である「D社(被取得企業)」を「取得価額:80,000千円」で購入したこととなり、その差額が「のれん:6,000千円」ということになります。
最後に、「C社(取得企業)」は、新たに交付した株式により増加した株主資本のうち、2分の1を資本金、残りを資本準備金としているため、吸収合併に伴う仕訳は以下の通りとなります。
借方 | 貸方 | ||
資産 のれん |
109,000千円 6,000千円 |
負債 資本金 資本準備金 |
35,000千円 40,000千円 40,000千円 |
したがって、吸収合併に伴い発生する「のれん」と、増加する「資本金」の金額の組み合わせは、「のれん:6,000千円/資本金:40,000千円」です。
新株発行における資本金への組み入れ額
企業が株式を発行して資金を調達する場合、資本金に計上すべき金額は「会社法」によって以下の通り定められています。
原則 | 払込金額の全額を資本金とする。 |
容認 | 払込金額の2分の1以上を資本金とし、残額は資本準備金(株式払込剰余金)とする。 |
上表の通り、株主から払い込まれたすべての資金を資本金として計上する必要はありません。
例えば、資本金が大きくなると、中小企業の優遇税制が受けられなくなるなどのデメリットがあるため、資本金ではなく資本準備金に計上するケースも考えられます。
ちなみに、資本準備金とは、会社の業績が悪化した場合に発生した欠損金の填補などに使用されます。
答えは(イ)です。
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