今回は、「運営管理 ~H27-35 商品在庫管理(6)商品在庫管理~」について説明します。
目次
運営管理 ~平成27年度一次試験問題一覧~
平成27年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
在庫管理
「在庫管理」は、「部品・材料・仕掛品・商品・製品」といった一時的に保管する物品について、適切な在庫水準を設定して維持管理していくことを目的としています。
「在庫管理方式」には、「定量発注方式」「定期発注方式」「ダブルビン方式」といった方式があり、「ABC分析」によって、それぞれに適した「在庫管理方式」を採用して運用します。
在庫管理
必要な資材を、必要なときに、必要な量を、必要な場所へ供給できるように、各種品目の在庫を好ましい水準に維持するための諸活動。
備考 在庫管理の方式として、定量発注方式と定期発注方式に大別される。(JISZ8141-7301)
在庫管理方式
「在庫管理方式」には、「定量発注方式」「定期発注方式」「ダブルビン方式」といった方式があります。それぞれの「在庫管理方式」の概要を以下に示します。
在庫管理方式の概要
- 定期発注方式
「定期発注方式」とは、「あらかじめ定めた発注間隔」で、発注の都度、必要な発注量を計算して発注する「在庫管理方式」のことをいいます。 - 定量発注方式
「定量発注方式」とは、在庫量がある一定量まで減少した時点で、「あらかじめ定められた一定量」を発注する「在庫管理方式」のことをいいます。 - ダブルビン方式
「ダブルビン方式」とは、複棚法、二棚法、ツービン法とも呼ばれる「在庫管理方式」であり、同じ容量のビン(容器・箱)を2つ用意して、片方のビン(容器・箱)が空となり、他方のビン(容器・箱)に入った在庫を使用し始めたタイミングで、空となったビン(容器・箱)の分だけ発注する方式です。
発注する容量は、ビン(容器・箱)の大きさで一定量となるため、定量発注方式の簡易版と位置づけられます。
在庫管理方式のメリットとデメリット
「定期発注方式」「定量発注方式」「ダブルビン方式」のメリットとデメリットを以下に示します。
在庫管理方式 | メリット | デメリット |
定期発注方式 | 需要変動の激しいものであっても、発注量の調整によって、品切れや過剰在庫を防ぐことができるため、適正在庫水準の維持管理に適している。 | 発注の都度、必要な発注量を計算して発注するため、手間がかかり運用管理が複雑である。 |
定量発注方式 | 手間がかからず運用管理が容易である。 | 需要変動の激しいものの場合、品切れや過剰在庫を起こしやすいため不向きである。 |
ダブルビン方式 | 最も手間がかからず運用管理が容易である。 | 需要変動の激しいものの場合、品切れや過剰在庫を起こしやすいため不向きである。 |
それぞれの物品に、どの在庫管理方式を適用するかについて検討するためには、「ABC分析」を活用します。
定量発注方式
「定量発注方式」とは、在庫量がある一定の量まで減少した時点(発注点)で、あらかじめ定められた一定量(発注量)を発注する在庫管理方式です。
定量発注方式
発注時期になるとあらかじめ定められた一定量を発注する在庫管理方式。
備考 一般には、発注点方式を指す。(JISZ8141-7312)
定量発注方式のメリットとデメリット
あらかじめ「発注点」と「発注量」を設定すれば、機械的に在庫を管理することができるため、手間がかからず運用管理が容易であること、さらに自動発注等の仕組みを取り入れれば、事務処理の効率化も実現することができるというメリットがあります。
ただし、機械的に在庫をするため、需要変動の激しいものの在庫管理には不向きというデメリットもあります。「定量発注方式」が不向きとされているものには以下のようなものがあります。
- 需要変動の激しいもの
- 調達期間が長期間を要するもの
定量発注方式のイメージ
「定量発注方式」のイメージを以下に示します。(各言葉の定義は本ページの下方で説明していきます。)
- 品切れを起こさないように、最低限保有しておくべき「安全在庫」を設定して、在庫量が「安全在庫」を下回らないように在庫管理を行います。
- 「安全在庫」と「調達リードタイムの消費量」を元に設定した「発注点」まで在庫量が減少したら発注を行います。
- 1回当たりの発注量は「在庫関連費用」を最も少なく抑える「経済的発注量」に設定します。
安全在庫
急な需要の増減等により品切れが発生すると、売上の機会を逃す(機会損失が発生する)だけでなく、顧客からの信用失墜を招く恐れがあるため、企業にとって「品切れ」を回避することは重要な課題です。
「安全在庫」は、そのような「品切れ」を防止するため、需要のバラつきと発注してから納品されるまでの期間である「調達リードタイム」を考慮した上で、必要最低限ストックしておくべき在庫のことをいいます。
「品切れ」を防止するという観点だけ考えれば、「安全在庫」は多ければ多いほどそのリスクを回避する可能性を高めることができますが、「安全在庫」が多くなるとその保管スペースが必要であったり、売れ残り商品が増えるなど過剰在庫のリスクが高まってくるため、「安全在庫」を決定するときには、品切れが発生したときの影響度も考慮して設定する必要があります。
「安全在庫」を求める公式を以下に示します。(難しいです。)
安全在庫
需要変動又は補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫。(JISZ8141-7304)
発注点
「定量発注方式」では、在庫量が「発注点」まで減少したら発注を行います。
つまり、「発注点」とは、発注するためのトリガーとなる在庫量です。
「発注点」は、在庫切れを防ぐための「安全在庫」に、発注してから納品されるまでの期間中に消費される在庫量である「推定需要量」を加算して設定します。
発注してから納品されるまでの期間中に消費される在庫量である「推定需要量」は、以下の計算式により求めることができます。
発注点
発注点方式において、発注を促す在庫水準。
備考 注文点ともいい、調達期間中の推定需要量と安全在庫の和として求められる。
(JISZ8141-7314)
経済的発注量(EOQ:Economic Order Quantity)
「定量発注方式」では、在庫量が「発注点」まで減少した時点で、あらかじめ定められた一定量(発注量)を発注します。
「在庫管理」においては、在庫を保管するために発生する費用(保管費用)と発注処理や受入処理のために発生する費用(発注費用)が発生しますが、「保管費用」を抑えるために1回当たりの発注量を減らすと発注回数が増えるため「発注費用」が増加します。逆に「発注費用」を抑えるために1回当たりの発注量を増やすと「保管費用」が増加します。
このようにトレードオフの関係にある「保管費用」と「発注費用」を合計した「在庫関連費用」を最も少なく抑える1回当たりの発注量のことを「経済的発注量」といいます。
「経済的発注量」は、以下の公式により算出することができます。
経済的発注量
一定期間の在庫関連費用を最小にする1回当たりの発注量。
備考1. 一般的には、発注費と保管費の和を最小にする発注量を指し、次の式で表される。Q:経済発注量
R:1期当たりの推定所要量
c:1回の発注費用
h:1個1期当たりの保管費備考2. 経済的注文量又は経済発注量ともいう。(JISZ8141-7313)
フェイシング管理
「フェイス」とは、商品を陳列したときに顧客の目に見える面のことをいい、「フェイシング管理」とは、棚に陳列する商品の「フェイス数」を決定することをいいます。
棚に商品を陳列するときに「フェイス数」を増やすと、顧客の目に付きやすくなるため、商品の売上を増加させる効果がありますが、「フェイス数」を増やした商品の売上増加率は逓減していくため、「フェイス数」を1から10に増やしても売上が10倍に増加するわけではありません。
フェイス数を増やすことによる効果
「フェイシング管理」では、商品の販売実績に基づき、売れ筋商品の「フェイス数」は増やし、売れ行きの良くない商品については「フェイス数」を少なくするというのが基本的な考え方です。
「フェイス数」を増やして商品を陳列した場合に得られる効果は以下の通りです。
- 売上の増加
- 品切れによる販売機会の損失の防止
- 商品の補充回数の削減
売上の増加
棚に商品を陳列するときに「フェイス数」を増やすと、顧客の目に付きやすくなるため、商品の売上を増加させる効果があります。
売れ筋商品だけでなく、新商品やプライベート商品など販売を促進したい商品についても「フェイス数」を増やすことによって、商品の認知度が上がり、売上増加を期待することができます。
品切れによる販売機会の損失の防止
「売れ筋商品」であれば、陳列している商品が他の商品よりも早く減少していきます。
売れ筋商品の「フェイス数」を増やすと、陳列できる商品の数量が増えるため、品切れなどによる販売機会の損失を防ぐすることができます。
商品の補充回数の削減
「売れ筋商品」であれば、陳列している商品が他の商品よりも早く減少していきます。
売れ筋商品の「フェイス数」を増やすと、陳列できる商品の数量が増えるため、倉庫に保管している商品を店頭に陳列する補充作業の回数を削減することができます。
棚卸
「棚卸」とは、一定時点における商品・製品・原材料などの資産の保有総量(在庫有高)を確認することをいいます。
棚卸の目的
企業会計において、商品・製品・原材料などの資産のことを「棚卸資産」といいます。
「棚卸資産」は、日々の業務においてその数量が増減するため、受入や払出の状況を帳簿に記録して管理しますが、実際には帳簿への記録ミスなどの理由により、実在する在庫量とズレが発生するため、「棚卸」を実施して、一定時点における帳簿上の在庫量と実在する在庫量を一致させる必要があります。
棚卸の手順
「棚卸」の手順としては、実在する在庫量(実在庫)を確認(実地棚卸)して、その結果が帳簿上の在庫量(理論在庫)と一致していない場合は、実在する在庫量に合わせて帳簿を修正(帳簿棚卸)します。
なお、「棚卸」に際しては、「棚卸資産」の数量だけを確認するのではなく、「品質低下」や「陳腐化」などの理由により利用価値を失っている資産についても確認を行います。利用価値を失っている資産は廃棄などの対処を行うこととなり、企業の売上には貢献できないため、「棚卸資産」の在庫から控除する必要があります。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成27年度 第35問】
店舗における商品の在庫管理に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 売場の棚に陳列する商品のフェイス数は、均一にした方が補充頻度を一定にしやすい。
イ 需要予測を実需が上回った場合、過剰在庫が発生しやすい。
ウ 店舗では、リードタイム期間の平均需要量を発注点とすると、欠品を起こすことがない。
エ 発注から納品までのリードタイムを短くすると、発注点を低くできる。
オ 万引き等によるロスがあると、自動発注時の発注量が増加する。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
店舗における商品の在庫管理に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
「フェイス」とは、商品を陳列したときに顧客の目に見える面のことをいいます。
売場の棚に商品を陳列するときに「フェイス数」を増やすと、顧客の目に付きやすくなり、商品の売上を増加させる効果があるため、商品の販売実績に基づき、売れ筋商品の「フェイス数」は増やし、売れ行きの良くない商品については「フェイス数」を少なくするというのが基本的な考え方です。
「売れ筋商品」は売場の棚に陳列している商品が他の商品よりも早く減少していくため、売れ筋商品の「フェイス数」を増やすと、商品を棚に陳列する補充作業の回数を削減することができます。
したがって、売場の棚に陳列する商品のフェイス数を均一にすると、売れ筋商品の方が他の商品よりも早く減少していき、他の商品よりも補充頻度が高くなってしまうため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
店舗では、商品の在庫数量、POSシステムで収集した販売実績データ、需要予測などの情報に基づき、商品の発注数量を決定します。
その結果、需要予測などの情報に基づき設定した商品の発注数量よりも実際の販売数量(実需)が上回った場合は、商品の在庫は不足してしまい、最悪の場合は品切れが発生します。
逆に、需要予測などの情報に基づき設定した商品の発注数量よりも実際の販売数量(実需)が下回った場合は、商品の在庫は余剰となってしまい、売れ残りが発生します。
したがって、需要予測を実需が上回った場合、過剰在庫が発生するのではなく、商品の在庫は不足するため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ)不適切です。
「発注点」とは、商品を発注するためのトリガーとなる在庫量であり、管理している商品の在庫量が「発注点」まで減少した時点で、店舗は商品を補充するために発注を行います。
「発注点」は、需要のバラつきによる「品切れ」を防ぐための「安全在庫」に、発注してから納品されるまでの期間中に消費される在庫量である「推定需要量」を加算して設定します。
「安全在庫」とは、商品の「品切れ」を防止するため、需要のバラつきと発注してから納品されるまでの期間である「調達リードタイム」を考慮した上で、必要最低限ストックしておくべき在庫のことをいいます。
したがって、店舗で欠品を防止するためには、商品を発注してから納品されるまでのリードタイム期間の平均需要量(推定需要量)だけでなく、需要のバラつきを考慮した「安全在庫」も加味して「発注点」を設定する必要があるため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
「発注点」とは、商品を発注するためのトリガーとなる在庫量であり、管理している商品の在庫量が「発注点」まで減少した時点で、店舗は商品を補充するために発注を行います。
「発注点」は、需要のバラつきによる「品切れ」を防ぐための「安全在庫」に、発注してから納品されるまでの期間中に消費される在庫量である「推定需要量」を加算して設定しますが、発注から納品までのリードタイムを短くすると「安全在庫」「推定需要量」ともに数量を少なく設定することができます。
したがって、発注から納品までのリードタイムを短くすると、発注点を低くできるため、選択肢の内容は適切です。
(オ) 不適切です。
店舗では、商品の在庫数量、POSシステムで収集した販売実績データ、需要予測などの情報に基づき、商品の発注数量を決定しますが、POSシステムで自動収集される商品の販売実績データには、あくまで買物客がレジを介して会計した商品しか反映されません。
そのため、万引きや品質低下などの理由による商品の在庫減少については、「棚卸」により、実在する在庫量を確認して、手動でPOSシステム(帳簿)に反映する必要があります。
したがって、万引き等によるロスがあったとしても、自動発注時の発注量には反映されないため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(エ)です。
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