今回は、「事例Ⅲ ~平成28年度 解答例(5)(第4問)~」について説明します。
目次
事例Ⅲ ~平成28年度試験問題一覧~
平成28年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
新規事業の開発
「新規事業の開発」においては、計画段階では「自社の強みを生かせる事業であること」と「市場の調査・分析による需要予測」、実行段階では「計画的かつ段階的に進めていくこと」が重要なポイントです。
「新規事業の開発」といっても、いろいろなパターンが考えられるので、「新規事業の種類」「新規事業の開発体制」「新規事業の進出先」という観点で以下に分類してみます。
新規事業の種類
「新規事業の種類」は「新製品」と「新サービス」に分類することができますが、「新規事業の開発」の進め方は、その種類には関係なく、基本的な考え方は変わりません。
- 新製品
- 新サービス
新規事業の開発体制
「新規事業の開発体制」は「C社単独で開発を進めるのか」と「取引先と連携して開発を進めるのか」に分類することができます。
- C社単独で開発を進める
- 取引先と連携して開発を進める
「C社単独で開発を進める」場合の重要なポイントは、上述の通り、計画段階では「自社の強みを生かせる事業であること」と「市場の調査・分析による需要予測」、実行段階では「計画的かつ段階的に進めていくこと」ですが、「取引先と連携して開発を進める」場合は、「自社が主体的となって市場分析を行うこと」と「協力体制で計画を進めること」というようなポイントが追加されます。
二次試験で出題される企業が「新規事業の開発」に失敗するパターンとして一番出題されやすいのは、「他社からの勧めにより新規事業の開発を進めたため失敗した。」ではないかと考えられます。他社から勧められた場合でも、必ず自社で市場分析を行い、自社で開発すべきかどうかを判断すべきです。
新規事業の進出先
「新規事業の進出先」は「国内」と「海外」に分類することができます。
- 国内展開
- 海外展開
「新規事業の進出先」が「海外」の場合は、「従業員が現地に赴いて、現地の市場調査を行うこと」と「従業員が現地に赴任して、生産管理を行いながら現地従業員を教育していくこと」というようなポイントが追加されます。
C社単独における新規事業開発(国内)
C社単独における新規事業開発(国内)のポイント
- 自社の強みを生かせる事業であること
- 市場の調査・分析による需要予測を行うこと
- 計画的かつ段階的に進めていくこと
C社単独における新規事業開発(国内)の流れ
- SWOT分析により自社の特性を把握する。
- 新規参入しようとしている市場の調査・分析を行い需要を予測する。
- 需要予測に基づく自社の収支計画を立案する。
- 予め製品の量産化や撤退基準を明確に設定する。
- 定期的に収支計画に対する進捗状況を確認する。
第4問
第4問(配点30点)
C社社長は、経営体質の強化を目指し、今後カット野菜の新事業による収益拡大を狙っている。またその内容は、顧客からの新たな取引の要望、およびC社の生産管理レベルや経営資源などを勘案して計画しようとしている。この計画について、中小企業診断士としてどのような新事業を提案するか、その理由、その事業を成功に導くために必要な社内対応策とともに160字以内で述べよ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
解答の方向性
第4問では、C社の顧客動向など外部環境を把握した上で、今後野菜の加工事業を強化して収益拡大を図るために必要な戦略について、中小企業診断士として助言する能力を問われています。
C社社長が有望と考えている2つの新事業から、どちらかを選択して解答していきます。
- カット野菜を原料としたソースや乾燥野菜などの高付加価値製品の事業であり、設備投資を必要とする事業
- 新鮮さを売りものにしている中小地場スーパーマーケットなどから要望がある一般消費者向けのサラダ用や調理用のカット野菜パックの事業であり、現在の製造工程を利用できる事業
ちなみに、どちらの事業を選択するかで「正解・不正解」が決まるような採点はされないはずです。どちらの事業を選択したとしても、C社の顧客動向など外部環境を把握した上で、論理的に説明ができているかがポイントです。
また、与件文において「まず現状の生産管理を見直し、早急に収益改善を図ることを第1の目標としているが、それが達成された後には新事業に着手してさらなる収益拡大を目指す。」と記述されているため、限界利益がマイナスとなっている現在の経営状況は改善されていることが大前提となっています。
与件文で関連しそうな箇所
与件文において、【C社の概要】の前半に記述されている「カット野菜需要の傾向」と後半に記載されている「新事業の2つの案」の内容に基づき、「C社に提案すべき新事業の選定理由と成功に導くための社内対応策」に活用できそうな箇所を抜粋していきます。
問題文の中では、以下の部分が該当します。
詳細に示すと以下の通りとなります。
- カット野菜とは、皮むき、切断、スライス、整形など生野菜を料理素材として下処理した加工製品である。外食産業や総菜メーカーなど向けの千切り、角切りなどに加工された製品が需要の中心で、最近ではスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで販売されている袋に入ったサラダやカップサラダにも広がっている。国内の野菜需要全体に占めるカット野菜需要の割合は年々増加している。
⇒若干「事例Ⅱ」の視点となりますが、「国内の野菜需要全体に占めるカット野菜需要の割合は年々増加している」と記述されているため「カット野菜パックの事業」については収益の拡大を見込むことができると推測されます。
逆に「ソースや乾燥野菜などの高付加価値製品の事業」の市場調査に関する記述は見当たらないため、収益の拡大を図れるのか判断することができません。 - 現在取引関係にある顧客や関連する業界から、C社とX農業法人との関係に注目した新たな取引の要望がある。その中でC社社長が有望と考えている二つの新事業がある。一つは、カット野菜を原料としたソースや乾燥野菜などの高付加価値製品の事業であり、設備投資を必要とする事業である。もう一つは、新鮮さを売りものにしている中小地場スーパーマーケットなどから要望がある一般消費者向けのサラダ用や調理用のカット野菜パックの事業であり、現在の製造工程を利用できる事業である。
⇒設備投資が必要な「ソースや乾燥野菜などの高付加価値製品の事業」とするか、設備投資が不要で現在の製造工程を利用できる「カット野菜パックの事業」とするか、二者択一であることが分かります。 - C社社長は、まず現状の生産管理を見直し、早急に収益改善を図ることを第1の目標としているが、それが達成された後には新事業に着手してさらなる収益拡大を目指すことを考えている。
⇒当然のことながら、赤字経営の状況で新事業を展開することはあり得ません。
おそらく、受験者がそういう解答をしないように予防線を張っている文章です。
私が選択した新事業
私は、以下の事業を提案することとしました。
- 新鮮さを売りものにしている中小地場スーパーマーケットなどから要望がある一般消費者向けのサラダ用や調理用のカット野菜パックの事業であり、現在の製造工程を利用できる事業
事業を選択した理由
私が「一般消費者向けのカット野菜パックの事業」を選択した理由は以下の2点です。
- 与件文において「国内の野菜需要全体に占めるカット野菜需要の割合は年々増加している」と記述されているため「カット野菜パックの事業」については収益の拡大を見込むことができるため。
- 新たな設備投資を必要とせず現在の製造工程や製造技術で対応でき、事業展開に失敗したときの投資回収リスクを抑えることができるため。
問題文において「C社の生産管理レベルや経営資源などを勘案して」と記述されている点にも適合していると考えられます。
新事業を成功に導くために必要な社内対応策
事例Ⅲの問題では、与件文に記載されている問題や課題を網羅的に解答のどこかに盛り込むべきであり、記載した問題や課題は放置せずに、その対応策を盛り込むべきです。
平成28年度の問題では、第1問で解答した「カット野菜業界におけるC社の弱み」で述べた「通年取引ができていない」ことに対する対策がどこでも触れられていないため、第4問の対応策として記述していくこととします。
カット野菜業界における「C社の弱み」を解決できれば、C社が新事業の展開を成功に導く可能性を高めることができるため、問題文に記述されている「事業を成功に導くために必要な社内対応策」とも合致します。
- 第1問(C社の弱み)
通年取引ができず衛生管理レベルに課題があるなど販売先の要望に応えられていないこと。
「衛生管理レベルの改善」については、第3問の中で「衛生管理ルールの整備と従業員への継続的教育」という対応策を解答していますので、第4問では「通年取引ができていないこと」に対する対応策を解答します。
- 通年取引ができるように規格外野菜を調達できるX農業法人以外の業者を確保すること
解答例
ここまでに整理してきた内容を160文字以内にまとめます。
一般消費者向けのカット野菜パック事業を提案する。理由は、国内の野菜需要全体に占めるカット野菜需要の割合が年々増加しているため収益の拡大が見込めることと新たな設備投資を必要とせず現在の製造工程や製造技術で対応できることである。対応策は、通年取引ができるように規格外野菜を調達できるX農業法人以外の業者を確保することである。(160文字) |
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