経済学・経済政策 ~H30-15 資源配分機能(8)余剰分析(税金の負担)~

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今回は、「経済学・経済政策 ~H30-15 資源配分機能(8)余剰分析(税金の負担)~」について説明します。

 

目次

経済学・経済政策 ~平成30年度一次試験問題一覧~

平成30年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。

 

余剰分析(補助金の交付・課税・価格規制) -リンク-

本ブログにて「余剰分析(補助金の交付)」「余剰分析(課税)」「余剰分析(価格規制)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。

 

 

余剰分析

「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。

「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。

 

例:社会的総余剰(消費者余剰+生産者余剰)

 

余剰分析(政府が介入する場合)

完全競争市場に政府が介入する場合の「余剰(利益)」の変化について考えていきます。
政府が介入する場合には「補助金の交付」「課税」「価格規制」などがあります。

 

課税による効果

「財市場(完全競争市場)」において、政府が財に課税した場合の効果について説明します。政府による課税の種類には「従量税」「従価税」「定額税」があります。

 

従量税 財の数量を基準として課税する方法
従価税 財の価格を基準として課税する方法
定額税 財の数量や価格に関わらず、生産者に対して一定額を課税する方法

 

文章による説明だけでは「従量税」と「従価税」の違いが理解しにくいため、以下に例を示します。

 

【例:従量税(1単位当たり10円の場合)】

単価 数量 販売価格
(税抜き)
税金 販売価格
(税込み)
\100 100 ¥10,000 ¥1,000 ¥11,000
\110 100 ¥11,000 ¥1,000 ¥12,000
\120 100 ¥12,000 ¥1,000 ¥13,000

 

【例:従価税(販売価格の10%の場合)】

単価 数量 販売価格
(税抜き)
税金 販売価格
(税込み)
¥100 100 ¥10,000 ¥1,000 ¥11,000
¥110 100 ¥11,000 ¥1,100 ¥12,100
¥120 100 ¥12,000 ¥1,200 ¥13,200

 

課税しない場合

「財市場(完全競争市場)」では、消費者による財の価格と購買意欲の関係を表す「需要曲線(D)」と、生産者が財を生産するための限界費用を表す「供給曲線(S)」の「交点(G)」で均衡して、価格が「PG円」に、消費量と供給量が「XG個」に決定します。

 

 

課税する場合(従量税)

「財市場(完全競争市場)」において、政府が「従量税」を課した場合に「余剰」がどのように変化するかを考えていきます。

「従量税」とは、財の数量を基準として課税する方法のことをいい、政府は財の販売数量に対して一定額を課税します。

 

【例:従量税(1単位当たり10円の場合)】

単価 数量 販売価格
(税抜き)
税金 販売価格
(税込み)
\100 100 ¥10,000 ¥1,000 ¥11,000
\110 100 ¥11,000 ¥1,000 ¥12,000
\120 100 ¥12,000 ¥1,000 ¥13,000

 

供給曲線の上方シフト

財の販売数量に応じた税金を課されるということは、生産者が財を1単位販売するごとに一定額の税金を納付することを表しているため、財の限界費用(1単位を生産するための費用)が増加して「供給曲線」は平行に上方シフトします。

一方、「需要曲線」は「従量税」を課されてもシフトしません。

その結果、「需要曲線」と「供給曲線」の交点が「G」から「E」にシフトして、財の価格が「PG」から「PE」に上昇して、消費量と供給量が「XG個」から「XE個」に減少します。

 

 

社会的総余剰(その1)

政府が「従量税」を課した場合、財の消費量と供給量の減少により「消費者余剰」と「生産者余剰」は減少しますが、政府は税金の収入額に相当する「XE個」分の「政府余剰」を得ることができるようになります。

 

 

社会的総余剰(その2)

政府が「従量税」を課した場合の「従量税」による「社会的総余剰」は以下の図のように示すこともできます。「従量税」による「社会的総余剰」については「社会的総余剰(その1)」の図だけでなく、こちらの図も理解しておく必要があります

「社会的総余剰(その1)」の図において「政府余剰」は「平行四辺形CDFE」として表されましたが、以下の図に示すように「政府余剰」を「長方形PEBFE」に置き換えても「余剰」の大きさを表すその面積は変わりません

また、「生産者余剰」を「三角形PECE」から「三角形BDF」に置き換えても「余剰」の大きさを表すその面積は変わりません

 

 

超過負担(死荷重)

「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰」は、課税しない場合よりも減少します。

なお、課税しない場合の「社会的総余剰」より減少してしまう「余剰」のことを「余剰の損失(死荷重)」または課税による「超過負担」といいます。

 

 

課税する場合(従価税)

「財市場(完全競争市場)」において、政府が「従価税」を課した場合に「余剰」がどのように変化するかについて考えていきます。

「従価税」とは、財の価格を基準として課税する方法のことをいい、政府は財の販売価格に対して一定率を課税します。

 

【例:従価税(販売価格の10%の場合)】

単価 数量 販売価格
(税抜き)
税金 販売価格
(税込み)
¥100 100 ¥10,000 ¥1,000 ¥11,000
¥110 100 ¥11,000 ¥1,100 ¥12,100
¥120 100 ¥12,000 ¥1,200 ¥13,200

 

供給曲線の上方シフト

財の販売価格に応じた税金を課されるということは、生産者が財を1単位販売するごとに販売単価に一定率を乗じた税金を納付することを表しているため、財の限界費用(1単位を生産するための費用)が増加して「供給曲線」は上方にシフトします。(従量税とは異なり「平行」ではありません。)

一方、「需要曲線」は「従価税」を課されてもシフトしません。

その結果、「需要曲線」と「供給曲線」の交点が「G」から「E」にシフトして、財の価格が「PG」から「PE」に上昇して、消費量と供給量が「XG個」から「XE個」に減少します。

 

 

社会的総余剰

政府が「従価税」を課した場合、財の消費量と供給量の減少により「消費者余剰」と「生産者余剰」は減少しますが、政府は税金の収入額に相当する「XE個」分の「政府余剰」を得ることができるようになります。

 

 

政府余剰の誤った事例

政府が「従価税」を課した場合における誤った余剰分析の事例を以下に示します。

 

 

政府が「従価税」を課した場合、供給曲線が「S」から「S’」にシフトするため、税金の収入額に相当する「政府余剰」が「S」と「S’」に囲まれた範囲と思ってしまいがちですが、税金の収入額は販売単価「PE円」に販売数量「XE個」を乗じた金額となります。

したがって、税金の収入額に相当する「政府余剰」は、課税しない場合と課税した場合の販売単価の差額である「EF」に販売数量「XE個」を乗じた「四角形PEBFE」として表されるため、この図は間違っています

 

 

超過負担(死荷重)

「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰」は、課税しない場合よりも減少します。

なお、課税しない場合の「社会的総余剰」より減少してしまう「余剰」のことを「余剰の損失(死荷重)」または課税による「超過負担」といいます。

 

 

課税する場合(定額税)

「財市場(完全競争市場)」において、政府が「定額税」を課した場合に「余剰」がどのように変化するかについて考えていきます。

 

「定額税」とは、財の価格や数量に関わらず、政府が生産者に対して一定の金額を課税する方法のことをいいます。

財の価格や数量に関わらず一定額の税金を納付するため、「定額税」が課されても財の限界費用(1単位を生産するための費用)は変化せず「供給曲線」もシフトしません

一方、「需要曲線」も「定額税」を課されてもシフトしません。

したがって、「需要曲線」と「供給曲線」の交点は「G」からシフトしないため「消費者余剰」と「生産者余剰」と「社会的総余剰」は変化しません

 

 

税金の負担

「財市場(完全競争市場)」において、政府が「従量税」または「従価税」を課した場合、「消費者余剰」と「生産者余剰」が減少して、税金の収入額に相当する「XE個」分の「政府余剰」が増加しますが、このとき「消費者」と「生産者」のどちらが税金を負担しているのかについて考えていきます。

以下の図は「従量税」を前提としていますが「従価税」においても税金の負担に関する考え方は変わりません。

 

 

「消費者」にとっては、課税されていなければ「価格(PG)」で財を消費することができていたはずですが、課税されたことにより「価格(PE)」だけ支払わないと消費できなくなってしまうため、「価格(PG)」と「価格(PE)」の差分である「四角形PEPGHE」を負担しているということになります。

「生産者」にとっては、課税されていなければ「価格(PG)」の収入を得ることができていたはずですが、課税されたことにより「価格(PE)」から政府への納税額を差し引いた「点Bの価格」の収入しか得ることができなくなってしまうため、「価格(PG)」と「点Bの価格」の差分である「四角形PGBFH」を負担しているということになります。

 

「消費者」と「生産者」のどちらが税金を負担しているのかを、以下の図のように表すこともできますが、以下の図を用いて「消費者」と「生産者」のどちらが税金を負担しているのかを説明するのは難しいです。

もし、試験で以下の図が出題されたときは、先に説明した図に置き換えて理由を考えることができるようにしておくことをお薦めします。

 

 

 

供給曲線が水平の場合

「供給曲線」は、生産者が財を生産するための限界費用(生産量を1単位増加すると追加で発生する費用)を表す曲線のことをいいます。

「供給の価格弾力性」が無限大の場合「供給曲線」は水平となり「社会的総余剰」は以下の図のように「消費者余剰」のみで構成されます。

 

 

ここに課税した場合、「供給曲線」は上方にシフトして「社会的総余剰」は以下の図のように変化します。

 

 

「消費者」にとっては、課税されていなければ「価格(PG)」で財を消費することができていたはずですが、課税されたことにより「価格(PE)」だけ支払わないと消費できなくなってしまうため、課税されたことにより「消費者」が負担している金額は「価格(PG)」と「価格(PE)」の差分を表している「四角形PEPGHE」ということになります。

「生産者」にとっては、課税されていなければ「価格(PG)」の収入を得ることができ、課税されたとしても「価格(PE)」から政府への納税額を差し引いた「価格(PG)」の収入を得ることができるため、課税されても税金の負担はないということになります。

つまり、「供給曲線」が水平である財に課税した場合「消費者」が全ての税金を負担することとなります。

 

需要曲線が垂直の場合

「需要曲線」は、消費者が財を消費するために支払ってもよいと考えている「価格」と「需要量」の組み合わせを表す曲線のことをいいます。

「需要の価格弾力性」がゼロの場合「需要曲線」は垂直となり「社会的総余剰」は以下の図のように「生産者余剰」のみで構成されます。

 

 

ここに課税した場合、「供給曲線」は上方にシフトして「社会的総余剰」は以下の図のように変化します。

 

 

「消費者」にとっては、課税されていなければ「価格(PG)」で財を消費することができていたはずですが、課税されたことにより「価格(PE)」だけ支払わないと消費できなくなってしまうため、課税されたことにより「消費者」が負担している金額は「価格(PG)」と「価格(PE)」の差分を表している「四角形PEPGGE」ということになります。

「生産者」にとっては「生産者余剰」は変化せず、課税されていなければ「価格(PG)」の収入を得ることができ、課税されたとしても「価格(PE)」から政府への納税額を差し引いた「価格(PG)」の収入を得ることができるため、課税されても税金の負担はないということになります。

つまり、「需要曲線」が垂直である財に課税した場合「消費者」が全ての税金を負担することとなります。

 

試験問題

それでは、実際の試験問題を解いてみます。

【平成30年度 第15問】

消費税の課税については、価格、取引量の変化や税収の金額に加えて、実際に税金を負担するのは誰かという問題も重要となる。下図では、供給の価格弾力性が無限大である場合を考える。ここで、生産物1単位当たりT円の課税を行うと、供給曲線S0は新しい供給曲線S1へとシフトする。また、需要曲線はDである。

この図に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

 

 

a 消費税の課税により、市場価格はP0からP1に上昇し、取引量はQ0からQ1に減少する。
b 消費税の課税を行うと、消費者余剰は△AEP0から、△EFGの分だけ減少する。
c 消費税の課税を行うと、税負担の一部が生産者に転嫁される。
d 消費税の課税により、政府に入る税収は、□P1FGP0である。

 

[解答群]

ア aとb
イ aとc
ウ aとd
エ bとc
オ cとd

 

中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

 

考え方と解答

課税による消費者と生産者の負担に関する知識を問う問題です。

 

「余剰分析」とは、財市場において資源配分の効率性を分析する手法のことをいいます。

「余剰」とは、財市場の取引により得られる「利益」のことを表しており、「余剰分析」では「消費者余剰」と「生産者余剰」と「政府余剰」を重ね合わせた「社会的総余剰(総余剰)」に基づき、資源配分が効率的になっているかを確認していきます。

 

(a) 適切です。

課税されていない場合、「供給曲線(S0)」と「需要曲線(D)」の交点である「点E」で均衡するため「価格(P0)」「取引量(Q0)」で決定しますが、課税されることにより「供給曲線」が「S0」から「S1」に上方シフトして「供給曲線」と「需要曲線」の均衡する点(交点)が「点E」から「点F」にシフトするため、価格は「P0」から「P1」に上昇して、取引量は「Q0」から「Q1」に減少します。

 

 

したがって、消費税の課税により、市場価格はP0からP1に上昇し、取引量はQ0からQ1に減少するため、選択肢の内容は適切です

 

(b) 不適切です。

課税されていない場合の「消費者余剰」は「三角形AP0E」ですが、課税されることにより「供給曲線」が「S0」から「S1」に上方シフトして「供給曲線」と「需要曲線」の均衡する点(交点)が「点E」から「点F」にシフトするため「消費者余剰」は「三角形AP1F」となります。

つまり、課税されることにより「消費者余剰」は「四角形P1P0EF」だけ減少します。

 

 

したがって、消費税の課税を行うと、消費者余剰は△AEP0から、△EFGの分ではなく、□P1P0EFの分だけ減少するため、選択肢の内容は不適切です

 

(c) 不適切です。

「供給曲線」が水平の場合、課税されていない状態の「社会的総余剰」は「消費者余剰」のみで構成されますが、課税されることにより「供給曲線」が「S0」から「S1」に上方シフトして「供給曲線」と「需要曲線」の均衡する点(交点)が「点E」から「点F」にシフトすると「消費者余剰」は「三角形AP1F」へと減少して、税金の収入額に相当する「政府余剰」が「四角形P1P0GF」だけ発生します。

「政府余剰」は税金の収入額に相当する金額を表していますが、ここでは「消費者」と「生産者」のどちらがその税金を負担しているのかについて考えていきます。

 

 

「消費者」にとっては、課税されていなければ「価格(P0)」で財を消費することができていたはずですが、課税されたことにより「価格(P1)」だけ支払わないと消費できなくなってしまうため、課税により「価格(P0)」と「価格(P1)」の差分である「四角形P1P0GF」を負担すということになります。

「生産者」にとっては、課税されていなければ「価格(P0)」の収入を得ることができ、課税されたとしても「価格(P1)」から政府への納税額を差し引いた「価格(P0)」の収入を得ることができるため、課税されても税金の負担はないということになります。

つまり、「供給曲線」が水平である財に課税した場合「消費者」が全ての税金を負担することとなります。

 

したがって、消費税の課税を行うと、税負担の一部が生産者に転嫁されるのではなく、税負担の全てが消費者に転嫁されるため、選択肢の内容は不適切です

 

(d) 適切です。

「供給曲線」が水平の場合、課税されていない状態の「社会的総余剰」は「消費者余剰」のみで構成されますが、課税されることにより「供給曲線」が「S0」から「S1」に上方シフトして「供給曲線」と「需要曲線」の均衡する点(交点)が「点E」から「点F」にシフトすると「消費者余剰」は「三角形AP1F」へと減少して、税金の収入額に相当する「政府余剰」が「四角形P1P0GF」だけ発生します。

 

 

したがって、消費税の課税により、政府に入る税収は、□P1FGP0であるため、選択肢の内容は適切です

 

(a)と(d)に記述されている内容が適切であるため、答えは(ウ)です。


 

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