今回は、「経済学・経済政策 ~H29-20 比較生産費と貿易理論(2)絶対優位と比較優位~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成29年度一次試験問題一覧~
平成29年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
絶対優位・比較優位 -リンク-
本ブログにて「絶対優位」「比較優位」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 絶対優位・比較優位のまとめ
- R4-18 比較生産費と貿易理論(1)絶対優位と比較優位
- H28-19 比較生産費と貿易理論(3)絶対優位と比較優位
比較優位論
「比較優位論」とは、イギリスの経済学者のデヴィッド・リカードによって提唱された「自由貿易」に関する最も基本的な概念のことをいい、アダム・スミスが提唱した「絶対優位」の概念を修正する形で提唱されました。
「比較優位論」では、自由貿易において、それぞれの国が自国で最も得意とする財(機会費用が少なく自国の利益を最大化できる財)を生産して、そうではない財を他国から輸入すれば、それぞれの国の労働生産性を増大させるとともに高品質の財や高い利益を得られるようになると説明しています。
複数の国と財で考えると複雑になるため、A国とB国という2つの国で、X財とY財という2つの財を生産または輸出入するという前提で「比較優位論」を説明していきます。
なお、「比較優位論」は、自由貿易に関する概念であるため、自由貿易を事例として説明されることが多いですが、企業や個人などの様々なケースに当てはめることができます。
絶対優位と比較優位
「絶対優位」とは、2つの国で比較したとき生産性が高い(優位である)ことをいいます。
「比較優位」とは、それぞれの国において2つの財の生産性を比較して求めた「比較生産費(=機会費用)」を2つの国で比較したとき「比較生産費(=機会費用)」が小さい(優位である)ことをいいます。
「比較優位論」では、「比較優位」である国で財を生産した方が双方の国にとって有益であることを示しています。
絶対優位
「絶対優位」とは、2つの国で比較したとき生産性が高い(優位である)ことをいいます。
以下の図では「A国」の方が2つの財の生産性が高く「絶対優位」であることを示しています。
絶対優位
比較生産費(=機会費用)
「比較生産費(=機会費用)」とは、同一国で2つの財の生産性を比較して求められる相対的な生産性であり、費用が小さい方が優位であることを表しています。
以下の図では「A国」では「X財」の方が「比較生産費(=機会費用)」が小さく、「B国」では「Y財」の方が「比較生産費(=機会費用)」が小さいことを示しています。
比較生産費(=機会費用)
比較優位
「比較優位」とは、それぞれの国において2つの財の生産性を比較して求めた「比較生産費(=機会費用)」を2つの国で比較したとき「比較生産費(=機会費用)」が小さい(優位である)ことをいいます。
以下の図では「X財」は「A国」の方が「比較生産費(=機会費用)」が小さく「比較優位」であり「A国」で生産した方が2つの国にとって有益であり、「Y財」は「B国」の方が「比較生産費(=機会費用)」が小さく「比較優位」であり「B国」で生産した方が双方の国にとって有益であることを示しています。
比較優位
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成29年度 第20問】
下表に基づき、国際分業と比較優位について考える。製品P1個を生産するのに、A国では5人の労働が必要であり、B国では30人の労働が必要である。また、製品Q1個を生産するのに、A国では5人の労働が必要であり、B国では60人の労働が必要である。
このような状況に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
A国 B国 製品P1個当たりの労働量 5人 30人 製品Q1個当たりの労働量 5人 60人
[解答群]
ア A国では、製品Qの労働生産性が相対的に高いので、製品Qの相対価格が高くなる。
イ A国は製品Qに絶対優位があり、B国は製品Pに絶対優位がある。
ウ B国は、A国に比べて、製品Pについては1/6、製品Qについては1/12の生産性なので、製品Qに比較優位を持つ。
エ 1人当たりで生産できる個数を同じ価値とすると、A国では、製品P1個と製品Q1個を交換でき、B国では製品P2個と製品Q1個を交換することができる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「比較優位論」に関する知識を問う問題です。
「比較優位論」とは、イギリスの経済学者のデヴィッド・リカードによって提唱された「自由貿易」に関する最も基本的な概念のことをいい、アダム・スミスが提唱した「絶対優位」の概念を修正する形で提唱されました。
「比較優位論」では、自由貿易において、それぞれの国が自国で最も得意とする財(機会費用が少なく自国の利益を最大化できる財)を生産して、そうではない財を他国から輸入すれば、それぞれの国の労働生産性を増大させるとともに高品質の財や高い利益を得られるようになると説明しています。
絶対優位
「絶対優位」は、「製品P」と「製品Q」に分けて、2国の生産性を比較します。
製品Pの場合
- A国が製品Pを1個生産するのに必要な労働は「5人」ですが、B国は「30人」必要となるため、A国の方が生産性が高く「絶対優位」である。
A国 | B国 | |
製品P1個当たりの労働量 | 5人 | 30人 |
製品Qの場合
- A国が製品Qを1個生産するのに必要な労働は「5分」ですが、B国は「60人」必要となるため、A国の方が生産性が高く「絶対優位」である。
A国 | B国 | |
製品Q1個当たりの労働量 | 5人 | 60人 |
比較生産費
「比較生産費」は、「A国」と「B国」に分けて「製品P」と「製品Q」を生産する場合の生産性を比較して求めます。
A国の場合
- 製品Pを1個生産するのに必要な労働は、製品Qを1個生産するのに必要な労働と同じ「5人/5人=1.0」となります。
- 同様に、製品Qを1個生産するのに必要な労働は、製品Pを1個生産するのに必要な労働と同じ「5人/5人=1.0」となります。
A国 | |
製品P1個当たりの労働量 | 5人/5人=1.0 |
製品Q1個当たりの労働量 | 5人/5人=1.0 |
B国の場合
- 製品Pを1個生産するのに必要な労働は、製品Qを1個生産するのに必要な労働と同じ「30人/60人=0.5」となります。
- 製品Qを1個生産するのに必要な労働は、製品Pを1個生産するのに必要な労働と同じ「60人/30人=2.0」となります。
B国 | |
製品P1個当たりの労働量 | 30人/60人=0.5 |
製品Q1個当たりの労働量 | 60人/30人=2.0 |
比較優位
「比較優位」は、「製品P」と「製品Q」に分けて「比較生産費」により2国の生産性を比較します。
製品Pの場合
- A国の「比較生産費」が「1.0」であるのに対して、B国は「0.5」であるため、製品Pを生産することに関しては「比較生産費」が小さいB国の方が「比較優位」である。
A国 | B国 | |
製品P1個当たりの労働量 | 5人/5人=1.0 | 30人/60人=0.5 |
製品Qの場合
- A国の「比較生産費」が「1.0」であるのに対して、B国は「2.0」であるため、製品Qを生産することに関しては「比較生産費」が小さいA国の方が「比較優位」である。
A国 | B国 | |
製品Q1個当たりの労働量 | 5人/5人=1.0 | 60人/30人=2.0 |
ここまでの結果を整理すると以下の通りとなります。
「製品P」と「製品Q」のいずれを生産するのも「A国」の方が「絶対優位」である(生産性が高い)が、「製品P」については「B国」の方が「比較優位」であり、「製品Q」については「A国」の方が「比較優位」である。
(ア) 不適切です。
「比較生産費」は、「A国」と「B国」に分けて「製品P」と「製品Q」を生産する場合の生産性を比較して求めます。
A国の場合
- 製品Pを1個生産するのに必要な労働は、製品Qを1個生産するのに必要な労働と同じ「5人/5人=1.0」となります。
- 同様に、製品Qを1個生産するのに必要な労働は、製品Pを1個生産するのに必要な労働と同じ「5人/5人=1.0」となります。
A国 | |
製品P1個当たりの労働量 | 5人/5人=1.0 |
製品Q1個当たりの労働量 | 5人/5人=1.0 |
したがって、選択肢には「A国では、製品Qの労働生産性が相対的に高いので、製品Qの相対価格が高くなる」と記述されていますが、A国では製品Pと製品Qの生産性(労働生産性)は同一であるため、製品Pと製品Qの相対価格も同じとなるため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
「絶対優位」は、「製品P」と「製品Q」に分けて、2国の生産性を比較します。
製品Pの場合
- A国が製品Pを1個生産するのに必要な労働は「5人」ですが、B国は「30人」必要となるため、A国の方が生産性が高く「絶対優位」である。
A国 | B国 | |
製品P1個当たりの労働量 | 5人 | 30人 |
製品Qの場合
- A国が製品Qを1個生産するのに必要な労働は「5分」ですが、B国は「60人」必要となるため、A国の方が生産性が高く「絶対優位」である。
A国 | B国 | |
製品Q1個当たりの労働量 | 5人 | 60人 |
したがって、選択肢には「A国は製品Qに絶対優位があり、B国は製品Pに絶対優位がある」と記述されていますが、A国は製品Pと製品Qのいずれを生産する場合にも絶対優位があるため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
「比較優位」は、「製品P」と「製品Q」に分けて「比較生産費」により2国の生産性を比較します。
製品Pの場合
- A国の「比較生産費」が「1.0」であるのに対して、B国は「0.5」であるため、製品Pを生産することに関しては「比較生産費」が小さいB国の方が「比較優位」である。
A国 | B国 | |
製品P1個当たりの労働量 | 5人/5人=1.0 | 30人/60人=0.5 |
製品Qの場合
- A国の「比較生産費」が「1.0」であるのに対して、B国は「2.0」であるため、製品Qを生産することに関しては「比較生産費」が小さいA国の方が「比較優位」である。
A国 | B国 | |
製品Q1個当たりの労働量 | 5人/5人=1.0 | 60人/30人=2.0 |
したがって、選択肢には「B国は、A国に比べて、製品Pについては1/6、製品Qについては1/12の生産性なので、製品Qに比較優位を持つ」と記述されていますが、「A国」と「B国」に分けて「製品P」と「製品Q」を生産する場合の生産性(労働生産性)を比較して「比較生産費」求めた後、「製品P」と「製品Q」に分けて「A国」と「B国」の「比較生産費」を比較して、どちらの国が製品の生産に関して「比較優位」であるかを求めていきます。その結果、「製品P」は「B国」が「比較優位」を持つが、「製品Q」は「A国」が「比較優位」を持つため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
1人当たりで生産できる個数を同じ価値とした場合に、「A国」と「B国」で「製品P」と「製品Q」を交換することができる組み合わせを考えていきます。
A国の場合
「A国」においては、「製品P」と「製品Q」のいずれにおいても、1個生産するのに必要な労働は「5人」であるため、1人当たりで生産できる個数を同じ価値とするとした場合、「製品P×1個=5人」と「製品Q×1個=5人」を交換することができます。
- 製品P × 1個 = 5人 × 1個 = 5人
- 製品Q × 1個 = 5人 × 1個 = 5人
- 製品P × 1個 = 製品Q × 1個 = 5人
B国の場合
「B国」においては、「製品P」を1個生産するのに必要な労働は「30人」であり、「製品Q」を1個生産するのに必要な労働は「60人」であるため、1人当たりで生産できる個数を同じ価値とするとした場合、「製品P×2個=60人」と「製品Q×1個=60人」を交換することができます。
- 製品P × 2個 = 30人 × 2個 = 60人
- 製品Q × 1個 = 60人 × 1個 = 60人
- 製品P × 2個 = 製品Q × 1個 = 60人
したがって、1人当たりで生産できる個数を同じ価値とすると、A国では、製品P1個と製品Q1個を交換でき、B国では製品P2個と製品Q1個を交換することができるため、選択肢の内容は適切です。
答えは(エ)です。
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