今回は、「経済学・経済政策 ~H27-12 効用理論(4)無差別曲線(完全補完財)~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成27年度一次試験問題一覧~
平成27年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
無差別曲線 -リンク-
本ブログにて「無差別曲線」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 無差別曲線・予算制約線・最適消費点・代替効果と所得効果のまとめ
- R3-15 効用理論(6)無差別曲線(右上がりの曲線)
- R2-14 効用理論(1)無差別曲線(完全補完財)
- R1-12 効用理論(2)無差別曲線(限界代替率)
- H29-12 効用理論(3)無差別曲線(垂直の無差別曲線)
- H24-16 効用理論(5)無差別曲線(完全代替材)
効用
消費者は、財を消費することによって「効用」を得ることができます。
「効用」とは「財の消費によって消費者が得られる満足度」のことをいいます。
無差別曲線
「無差別曲線」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、縦軸に「Y財の消費量」を、横軸に「X財の消費量」を取ったグラフで表される「ある消費者が等しい効用水準を得られる2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
消費が増加すると効用が高まる一般的な2つの財の「無差別曲線」は以下の図のようになります。
「無差別曲線」では、「同一の無差別曲線上においてはどの点を取っても効用水準は等しい」という特徴を理解しておくことが重要です。
また、もう一つ、「無差別曲線」は以下の図のように「3本」しかないわけではなく無数に存在するという特徴も理解しておくことが重要です。
無差別曲線の特徴
「無差別曲線」に関する4つの特徴を以下に示します。
- 右下がりの曲線となる(単調性の仮定)
- グラフの右上にある無差別曲線ほど効用水準が高い(非飽和の仮定)
- 効用水準の異なる無差別曲線は互いに交わらない(推移性の仮定)
- 原点に対して凸の曲線となる(限界代替率逓減の法則)
上記の特徴を踏まえ、無差別曲線を描写すると以下の通りとなります。
限界代替率逓減の法則
「限界代替率」とは、縦軸に「Y財の消費量」を、横軸に「X財の消費量」を取ったグラフで表される「ある消費者が得られる効用水準が一定という条件において、X財の消費を1単位増加したときのY財の消費の減少分」のことをいい、「無差別曲線」の接線の傾きの絶対値として表されます。
「限界代替率逓減の法則」とは、X財の消費量の増加に伴い「限界代替率」が徐々に減少していく(逓減する)ことをいい、この法則に基づき描画した「無差別曲線」は、原点に対して凸の形状となります。
特殊な形状の無差別曲線
「無差別曲線」は、2つの財の関係により、特殊な形状となるケースがあります。
- 完全代替材(右下がりの直線)
- 完全補完財(L字型)
- 限界代替率逓増(原点に対して凹の曲線)
- 効用が増加する財と効用が減少する財の組み合わせ(右上がりの曲線)
完全代替材(右下がりの直線)
「2財モデル」において、片方の金額が値上がりして需要が減少すると、もう片方の需要が増加するような関係にある財のことを「粗代替財」といいます。
- X財の価格(PX)↑ → X財の需要(X)↓ → Y財の需要(Y)↑
この代替関係が100%である「完全代替財」の「無差別曲線」は「右下がりの直線」となります。
完全補完財(L字型)
「2財モデル」において、片方の金額が値上がりして需要が減少すると、もう片方の需要も減少するような関係にある財のことを「粗補完財」といいます。
- X財の価格(PX)↑ → X財の需要(X)↓ → Y財の需要(Y)↓
この補完関係が100%である「完全補完財」の「無差別曲線」は「L字型」となります。
「2財を1セットとして消費する財」を例として説明します。
- 左足用の靴と右足用の靴
- ボルトとナット
実際にはそんなことはありませんが、仮に「左足用の靴」と「右足用の靴」が別々に販売されているとした場合の「効用」について考えてみます。
- 「左足用の靴」だけ購入しても使い物にならないため「効用」が得られません。
- 「左足用の靴」を1足購入して「右足用の靴」を1足購入すれば「1セット」の靴として使えるため「効用」が得られます。
- 「左足用の靴」を1足購入して「右足用の靴」を2足購入したとしても、靴としては「1セット」としてしか使えないため「左足用の靴」と「右足用の靴」を「1セット(1足ずつ)」購入したときと同じ「効用」しか得られません。
- 「左足用の靴」を2足購入して「右足用の靴」を2足購入すれば、「2セット」の靴として使えるため「1セット」の靴を購入したときよりも「効用」が高まります。
この「効用」の変化を「無差別曲線」として表すと、以下のように「L字型」となります。
限界代替率逓増(原点に対して凹の曲線)
一般的な「無差別曲線」は「限界代替率逓減の法則」に基づいているため、原点に対して凸の曲線となりますが、「限界代替率」が逓増する場合の「無差別曲線」は「原点に対して凹の曲線」となります。
効用が増加する財と効用が減少する財の組み合わせ(右上がりの曲線)
「金融商品」を例として考えてみた場合、一般的に「リスク」の低い金融商品は「リターン」が低く、「リスク」の高い金融商品は「リターン」も高くなっていますが、消費者は「効用」を高めるために、できるだけ「リスク」が低く「リターン」が高い金融商品を探します。
この「リスク」と「リターン」と「効用」の関係を示すと以下の通りです。
- リスクが高く↑+ リターンが低い↓= 効用が低い↓
- リスクが低く↓+ リターンが高い↑= 効用が高い↑
「リターン」を縦軸に「リスク」を横軸に取り、この「効用」の変化を「無差別曲線」として表すと、以下のように「右上がりの曲線」となります。
「リターン」を縦軸に「リスク」を横軸に取った「無差別曲線」が、令和元年度の「財務・会計 第13問」で出題されています。
また、「投資の期待収益率」を縦軸に「当該投資収益率の標準偏差」を横軸に取った「無差別曲線」が、平成25年度の「財務・会計 第19問」で出題されています。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成27年度 第12問】
常に一定の固定比率で一緒に消費されるような財を完全補完財という。完全補完財であるような2財の無差別曲線を示す図として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア 図A
イ 図B
ウ 図C
エ 図D
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
無差別曲線に関する知識を問う問題です。
「効用」とは「財の消費によって消費者が得られる満足度」のことをいいます。
「無差別曲線」とは「ある消費者が等しい効用水準を得られる2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
「2財モデル」において、片方の金額が値上がりして需要が減少すると、もう片方の需要も減少するような関係にある財のことを「粗補完財」といい、この補完関係が100%である「完全補完財」の「無差別曲線」は「L字型」となります。
したがって、完全補完財であるような2財の無差別曲線を示しているのは「図B」です。
答えは(イ)です。
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