経済学・経済政策 ~H29-7 貨幣理論と金融政策(3)マネタリーベース~

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今回は、「経済学・経済政策 ~H29-7 貨幣理論と金融政策(3)マネタリーベース~」について説明します。

 

目次

経済学・経済政策 ~平成29年度一次試験問題一覧~

平成29年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。

 

貨幣理論と金融政策 -リンク-

本ブログにて「貨幣理論と金融政策」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。

 

 

貨幣供給

 

ハイパワードマネー(マネタリーベース)(H)

「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」とは、中央銀行である日本銀行が供給する流通貨幣(通貨)の総量のことをいい、「現金(日本銀行券発行高+貨幣流通高)」と「日銀当座預金」の合計として表されます。

 

 

中小企業診断士試験では「ハイパワードマネー」ではなく「マネタリーベース」として出題されていることが多いようですが、公式等で記号に「H」を使って表現するため、本ページでは「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」として説明します。

「マネタリーベース」で出題されると、後述する「マネーストック」と混同してしまう恐れがあるため、しっかりと覚える必要があります。

 

日銀当座預金

「日銀当座預金」とは、日本銀行が保有する金融機関等向けの当座預金のことをいい、主に以下の3つの役割を担っています。

 

  • 金融機関が他の金融機関や日本銀行あるいは国と取引を行う場合の決済手段
  • 金融機関が個人や企業に支払う現金通貨の支払準備
  • 準備預金制度の対象となっている金融機関の準備預金

 

準備預金制度

「準備預金制度」とは、金融不安などにより金融機関の資金繰りが悪化した場合に備えることを目的として、金融機関に対して「預かり資産(預金)の一定比率以上の金額を日本銀行に預け入れること」を義務付けた制度のことをいいます。

日本銀行に預け入れなければならない最低比率のことを「法定準備率」といい「預かり資産(預金)× 法定準備率」で求められる日本銀行に預け入れなければならない最低金額のことを「法定準備預金額」といいます。

なお、金融機関は「日銀当座預金」に「法定準備預金額」以上の通貨を預け入れることができ、金融機関が「日銀当座預金」に預け入れている通貨のことを「準備預金(支払準備金)」といいます。

 

金融機関が「法定準備預金額」を超えて「日銀当座預金」に預け入れている金額のことを「超過準備」といい、2016年1月から導入されている「マイナス金利」は、この「超過準備」に対して適用されています

日本銀行としては「日銀当座預金」に通貨を眠らせることなく市場に流通させたいという思惑があることが分かります。

 

ハイパワードマネー(マネタリーベース)(H)

試験においては「日銀当座預金」のことを「準備預金(支払準備金)」として表すことが多いため「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」は以下の関係式で表されます。

 

 

なお「預かり資産(預金)」に対する「準備預金(支払準備金)」の比率のことを「預金準備率(支払準備率)」といい、以下の式で表されます。

 

 

マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)(M)

「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」とは、日本銀行を含む金融部門から経済全体に供給されている流通貨幣(通貨)の総量のことをいい、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(金融機関や中央政府を除く)が保有する「現金通貨」や「預金通貨」などの通貨量の残高として表されます。

 

 

「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」は、経済における取引により「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」の何倍にも膨らんでいくため、「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」に「信用乗数(貨幣乗数)」を乗じた以下の関係式で表されます。

 

 

信用乗数(貨幣乗数)(m)

「信用乗数(貨幣乗数)」とは「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」が「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」の何倍であるかを示す乗数のことをいい、以下の式で表されます。

 

 

さらに「信用乗数(貨幣乗数)」は上記の式に「M = 現金(C)+預金(D)」と「H = 現金(C)+ 準備預金(支払準備金)(R)」を代入して変形した以下の式として表されます。

 

 

金融政策

中央銀行である日本銀行は、景気や物価の安定などを目的として「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」を増減させるために「金融政策」を実施します。

「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」は、以下の式で表されます。

 

 

したがって、「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」を増減させる「金融政策」には「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」を増減させる政策と「信用乗数(貨幣乗数)」を上下させる政策があります。

 

  1. ハイパワードマネー(マネタリーベース)を増減させる政策
  2. 信用乗数(貨幣乗数)を上下させる政策

 

公開市場操作

「公開市場操作」とは、日本銀行が市場で債券を売買して貨幣を出し入れすることにより「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」を増減させる政策のことをいいます。

「公開市場操作」には「買いオペレーション」と「売りオペレーション」があります。

「買いオペレーション」では、日本銀行が市場で債券を購入して貨幣を支払うことにより「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」を増加させ、「売りオペレーション」では、日本銀行が市場で債券を売却して貨幣を受け取ることにより「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」を減少させます

 

買いオペレーション 日本銀行が市場で債券を購入して貨幣を支払うと「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」が増加して「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」が増加する。
売りオペレーション 日本銀行が市場で債券を売却して貨幣を受け取ると「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」が減少して「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」が減少する。

 

日銀貸付

「日銀貸付」とは、日本銀行が金融機関に貸し付ける貨幣量を増減させて「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」を増減させる政策のことをいいます。

 

法定準備率操作

「法定準備率操作」とは、日本銀行が「法定準備率」を操作して「信用乗数(貨幣乗数)」を上下させる政策のことをいいます。なお、「法定準備率」を上下させると「預金準備率(支払準備率)」が上下します

 

法定準備率の引き上げ 日本銀行が法定準備率を引き上げると預金準備率(支払準備率)が上昇して「信用乗数(貨幣乗数)」が下降して「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」が減少する。
法定準備率の引き下げ 日本銀行が法定準備率を引き下げると預金準備率(支払準備率)が減少して「信用乗数(貨幣乗数)」が上昇して「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」が増加する。

 

例:預金準備率(支払準備率)を引き上げた場合

 

公定歩合操作

「公定歩合操作」とは、日本銀行が市中銀行などの金融機関に対して貸し付けを行う際に適用される基準金利である「公定歩合」を操作して、市場の預金金利などといった各種金利を変動させることにより「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」を調整する政策のことをいいますが、1994年に金利が自由化されて、これらの各種金利が「公定歩合」に直接的に連動することはなくなった現在においては、日本銀行が「公定歩合」を変更しても市場へのアナウンス効果程度の影響力しかありません

 

公定歩合

「公定歩合」とは、日本銀行が金融機関に対して貸し付けを行う際に適用される基準金利のことをいいます。

金利が規制されていた1994年までは、日本銀行が「公定歩合」を変更すると預金金利などといった各種金利も連動する仕組みとなっていましたが、1994年に金利が自由化されてからは、これらの各種金利が「公定歩合」に直接的に連動することはなくなりました。

2006年に「公定歩合」の名称は「基準割引率および基準貸付利率」に変更され、現在では「無担保コールレート翌日物」における短期金利の変動上限としての役割を担っています。

 

 

マイナス金利政策

2016年1月に、日本銀行(中央銀行)が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を発表して、同年2月から「マイナス金利」が導入されました。

「マイナス金利」になると、金融機関に資金を預けたときに、預金者が金融機関から利息を受け取るのではなく、預金者が金融機関に利息を支払うこととなります。

日本銀行(中央銀行)が導入した「マイナス金利」は、民間の金融機関(市中銀行)が日本銀行(中央銀行)に預けている当座預金において一定金額を超過した部分に対して「マイナス金利(▲0.1%)」が適用されるというものであり、一般の家庭や企業が民間の金融機関(市中銀行)を利用した預金や借入金に「マイナス金利」が適用されるというものではありません。(「マイナス金利」にはなりませんが適用される金利は下がります。)

日本銀行(中央銀行)としては、民間の金融機関(市中銀行)が一定額以上の資金を日本銀行(中央銀行)に預けたら金利を支払うこととなるため、余剰資金を日本銀行(中央銀行)に預けるのではなく、企業への融資や投資に回すようになり、経済が活性化してデフレを脱却できると期待していました

日本銀行(中央銀行)としては、「マイナス金利」の導入により、2016年末には「年2%の物価上昇率(インフレ率)」を達成することを目指していましたが、実現することはできませんでした。

 

試験問題

それでは、実際の試験問題を解いてみます。

【平成29年度 第7問】

2016年9月、日本銀行は金融緩和強化のための新しい枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。この枠組みでは、「消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」こととされている。

マネタリーベースに関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

 

a マネタリーベースは、金融部門から経済全体に供給される通貨の総量である。
b マネタリーベースは、日本銀行券発行高、貨幣流通高、日銀当座預金の合計である。
c 日本銀行による買いオペレーションの実施は、マネタリーベースを増加させる。
d 日本銀行によるドル買い・円売りの外国為替市場介入は、マネタリーベースを減少させる。

 

[解答群]

ア aとc
イ aとd
ウ bとc
エ bとd

 

中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html

 

考え方と解答

マネタリーベースに関する知識を問う問題です。

 

ハイパワードマネー(マネタリーベース)(H)

「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」とは、中央銀行である日本銀行が供給する流通貨幣(通貨)の総量のことをいい、「現金(日本銀行券発行高+貨幣流通高)」と「日銀当座預金」の合計として表されます。

 

 

中小企業診断士試験では「ハイパワードマネー」ではなく「マネタリーベース」として出題されていることが多いようですが、公式等で記号に「H」を使って表現するため、本ページでは「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」として説明します。

「マネタリーベース」で出題されると、後述する「マネーストック」と混同してしまう恐れがあるため、しっかりと覚える必要があります。

 

(a) 不適切です。

「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」とは、中央銀行である日本銀行が供給する流通貨幣(通貨)の総量のことをいいます。

また、「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」とは、日本銀行を含む金融部門から経済全体に供給されている流通貨幣(通貨)の総量のことをいいます。

 

したがって、マネタリーベースは、中央銀行である日本銀行が供給する流通貨幣(通貨)の総量のことであり、金融部門から経済全体に供給される通貨の総量のことはマネーストックというため、選択肢の内容は不適切です

 

(b) 適切です。

「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」は、「現金(日本銀行券発行高+貨幣流通高)」と「日銀当座預金」の合計として表されます。

 

 

したがって、マネタリーベースは、日本銀行券発行高、貨幣流通高、日銀当座預金の合計であるため、選択肢の内容は適切です

 

(c) 適切です。

「公開市場操作」とは、日本銀行が市場で債券を売買して貨幣を出し入れすることにより「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」を増減させる政策のことをいいます。

「公開市場操作」には「買いオペレーション」と「売りオペレーション」があります。

「買いオペレーション」では、日本銀行が市場で債券を購入して貨幣を支払うことにより「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」を増加させ、「売りオペレーション」では、日本銀行が市場で債券を売却して貨幣を受け取ることにより「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」を減少させます

 

買いオペレーション 日本銀行が市場で債券を購入して貨幣を支払うと「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」が増加して「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」が増加する。
売りオペレーション 日本銀行が市場で債券を売却して貨幣を受け取ると「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」が減少して「マネーストック(マネーサプライ・貨幣供給量)」が減少する。

 

したがって、日本銀行による買いオペレーションの実施は、マネタリーベースを増加させるため、選択肢の内容は適切です

 

(d) 不適切です。

外国為替市場において日本銀行が「ドル買い・円売り」の介入をした場合、日本銀行が市場で「ドル」を購入して「円(貨幣)」を支払うため「ハイパワードマネー(マネタリーベース)」が増加します

 

したがって、日本銀行によるドル買い・円売りの外国為替市場介入は、マネタリーベースを減少ではなく増加させるため、選択肢の内容は不適切です

 

(b)と(c)に記述されている内容が適切であるため、答えは(ウ)です。


 

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