令和元年度の事例Ⅳの「第1問」に関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
昨日の記事「事例Ⅳ ~令和元年度 解答例(1)(経営分析)~」の続きです。
目次
事例Ⅳ ~令和元年度試験問題一覧~
令和元年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
第1問(設問1) 前回からの続き
Step3.財務諸表の数値分析(財務指標の絞り込み)
効率性
財務指標一覧(効率性)
効率性の財務指標を以下に示します。
財務指標(効率性) | 前期 | 当期 | 比較 |
総資本回転率 | 0.75回 | 0.73回 | × |
売上債権回転率 | 5.22回 | 5.45回 | ○ |
棚卸資産回転率 | 4.74回 | 3.13回 | × |
固定資産回転率 | 1.25回 | 1.32回 | ○ |
有形固定資産回転率 | 1.49回 | 1.64回 | ○ |
考察
- 「総資本回転率」が悪化しているが、その変化は軽微であるため選択候補とはしない。
- 「売上債権回転率」が改善しているが、与件文にはその理由が明確に記載されていない。理由を説明するのは難しいが、効率性の財務指標の中では、その数値の改善率が高いため、改善していると思われる財務指標の候補として残す。
- 「棚卸資産回転率」が悪化している。
これは与件文にも記載されている通り、建材配送の小口化による配送コストの増大や非効率な建材調達・在庫保有による影響によるものである。悪化していると思われる財務指標の候補として残す。 - 「固定資産回転率」と「有形固定資産回転率」が改善している。
与件文や連結財務諸表を見る限り、「固定資産」や「有形固定資産」の増減理由については記載されておらず、また簿価の増減もそれほど大きくはないことを考えると、「固定資産回転率」と「有形固定資産回転率」の数値が改善したのは、資産の運用が改善されたためではなく「売上高」が増加したためと判断することができる。
また、前期の数値と比較した場合、「固定資産」は増加しているが「有形固定資産」は減少していることを加味すると、「固定資産回転率」よりも「有形固定資産回転率」の方が前期と比較してその数値が改善していることをより適切に表すことができる。
したがって「有形固定資産回転率」を改善していると思われる財務指標の候補として残す。 - 改善していると思われる財務指標の候補に「売上債権回転率」と「有形固定資産回転率」が残っているが、いずれも与件文や連結財務諸表にその明確な理由は記載されておらず、いずれも売上高の増加によってその数値が改善しているという状況である。
選択が難しいが、連結貸借対照表において「売上債権」は増加しており「有形固定資産」は減少していることに着目すると、「有形固定資産」は減少しているにもかかわらず売上を伸ばしているという方が、効率性が高まっていると説明するに適切である。
したがって、「有形固定資産回転率」を改善していると思われる財務指標として選択する。
検討結果
悪化していると思われる財務指標として「棚卸資産回転率」を、改善していると思われる財務指標として「有形固定資産回転率」を候補とする。
安全性
財務指標一覧(安全性)
安全性の財務指標を以下に示します。
財務指標(安全性) | 前期 | 当期 | 比較 |
流動比率 | 96.50% | 88.65% | × |
当座比率 | 56.30% | 41.27% | × |
固定比率 | 191.30% | 192.33% | × |
固定長期適合率 | 102.45% | 111.68% | × |
自己資本比率 | 31.47% | 28.61% | × |
負債比率 | 217.81% | 249.49% | × |
考察
- 「安全性」については、全ての財務指標が前期よりも悪化しているため、悪化していると思われる財務指標を選択することとなる。
- 「短期安全性(流動比率/当座比率)」は、いずれも前期より悪化しているが、これは、円安や自然災害による建材の価格高騰や建材配送の小口化による配送コストの増大や非効率な建材調達・在庫保有によるものである。
連結貸借対照表では、流動資産である「棚卸資産」と流動負債である「仕入債務」「短期借入金」が大幅に増加している。財務指標の算出に際して、前期よりも増加している「棚卸資産」を分子に含めて算出する「流動比率」ではなく、「棚卸資産」を分子に含めずに算出する「当座比率」の方がその悪化度合が大きくなるため指摘するには適切である。
したがって、「当座比率」を悪化していると思われる財務指標の候補として残す。 - 「長期安全性(固定比率/固定長期適合率)」は、いずれも前期より悪化している。
連結貸借対照表では、「固定資産」や「純資産」の増加率よりも「固定負債」の減少率の方が高くなっている。財務指標の算出に際して、「固定負債」を分母に含めずに算出する「固定比率」ではなく、「固定負債」を分母に含めて算出する「固定長期適合率」の方がその悪化度合が大きくなるため指摘するには適切である。
したがって、「固定長期適合率」を悪化していると思われる財務指標の候補として残す。 - 「資本構造(自己資本比率/負債比率)」は、いずれも前期より悪化しているが、これも「短期安全性」が悪化している原因と同じで、円安や自然災害による建材の価格高騰や建材配送の小口化による配送コストの増大や非効率な建材調達・在庫保有によるものである。
連結貸借対照表では、固定負債である「長期借入金」の減少以上に流動負債である「仕入債務」「短期借入金」が増加しているため全体では負債が増加しているが、前期と比較して取り上げるべき事項は、負債が増加したことではなく「流動負債」が大幅に増加したことである。
したがって、「資本構造(自己資本比率/負債比率)」の財務指標は選択候補としない。 - 「短期安全性」の観点から「当座比率」を選択候補として、「長期安全性」の観点から「固定長期適合率」を選択候補としているが、「短期安全性(当座比率)」の方がその悪化度合が顕著に表れており、与件文に記載されている内容からその理由を明確に説明することができるため、「当座比率」を悪化していると思われる財務指標として選択する。
検討結果
悪化していると思われる財務指標として「当座比率」を選択する。
Step4.財務指標の確定
最後に、「収益性」「効率性」「安全性」のバランスを見て、問題の条件と一致しているか、指摘する内容や原因が重複していないか、論理的な矛盾がないか、などの確認を実施しながら、最終的に解答する財務指標を確定します。
-
収益性
- 考察の結果、悪化していると思われる財務指標として「売上高売上原価比率」を候補としている。
- 「効率性」において、改善していると思われる財務指標を選択すれば、矛盾はないため「売上高売上原価比率」で確定とする。
-
効率性
- 悪化していると思われる財務指標として「棚卸資産回転率」が、改善していると思われる財務指標として「有形固定資産回転率」が選択候補に残っている。
- 今回の問題では、悪化していると思われる財務指標を2つと、改善していると思われる財務指標を1つ解答するよう求められており、「収益性」と「安全性」で選択した財務指標がいずれも悪化していると思われる財務指標であることから、「効率性」においては改善していると思われる財務指標を選択する必要がある。
- したがって、「効率性」では改善していると思われる財務指標である「有形固定資産回転率」で確定とする。
-
安全性
- 考察の結果、悪化していると思われる財務指標として「当座比率」を候補としている。
- 「効率性」において、改善していると思われる財務指標を選択すれば、矛盾はないため「当座比率」で確定とする。
Step5.解答
確定した財務指標を解答します。
悪化していると思われる財務指標を①の欄に、改善していると思われる財務指標を②の欄に記載します。
(a) | (b) | |
① | 売上高売上原価比率 | 83.24(%) |
当座比率 | 41.27(%) | |
② | 有形固定資産回転率 | 1.64(回) |
第1問(設問2)
「設問2」では、D社の当期の財政状態及び経営成績を前期と比較した場合の特徴について考えていきます。
考え方
「設問2」では「収益性」「効率性」「安全性」の3つの観点を入れるのが鉄則です。
「収益性」「効率性」「安全性」に分けて、改善している点と悪化している点を記載します。
- 円安や自然災害による建材の価格高騰、建材配送の小口化による配送コストの増大、非効率な建材調達・在庫保有(※)により売上原価が増加したため「収益性」が悪化している。
(※)「非効率な建材調達・在庫保有」については、売上原価の増加には直接影響がないのではないかとも考えたが、過剰在庫による保管費用の増加が売上原価の増加にも影響を与えていると判断した。 - 地域における住宅着工戸数が順調に推移しており受注が増加したため、有形固定資産の「効率性」が改善している。
- 円安や自然災害による建材の価格高騰、建材配送の小口化による配送コストの増大、非効率な建材調達・在庫保有により、棚卸在庫と仕入債務と短期借入金が増加したため、「安全性」が悪化している。
解答
これを「50文字」以内にまとめます。
「効率性」が改善した理由として「受注増加により」という言葉も入れたいところですが文字数制限により割愛しました。
- 有形固定資産の効率性は改善、建材価格高騰や配送コスト増大や非効率な在庫管理で収益性と安全性は悪化した。(50文字)
コメント
いつも拝見させて頂いており、助かっております。
原価率が悪化した理由として、「建材配送の小口化による配送コストの増大」とありますが、
連結子会社の配送サービスの売上原価に相当するため、原価に配送コストが含まれる
という理解でよろしいでしょうか。
(だから連結では原価比率がアップしても、販管費があまり変わっていない。)
配送コストアップ→販管費アップとなりそうでしたが、連結で考えれば原価扱いなるかと思いました。
ご返信お待ちしております。
コメントをいただきましてありがとうございます。
じょう様のご認識の通りで問題ないと思います。
連結子会社は建材事業部の配送を専門に担当している企業であるため、配送コストは売上原価として計上されます。
したがって、D社の連結財務諸表においても、売上原価として計上されます。
今後とも、引き続きよろしくお願いいたします。