平成26年度の事例Ⅳに関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
目次
事例Ⅳ ~平成26年度試験問題一覧~
平成26年度の他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
経営分析
「経営分析」では、企業の財務諸表に基づき、その企業の経営状況を定量的に分析していきます。定量的に分析して企業の経営状況を正確に把握することによって、経営者が意思決定を行うための情報を提供することを目的としています。
第1問
与件文と財務諸表に基づき、経営分析を行う問題です。
第1問(配点24点)
D社の貸借対照表、損益計算書と同業他社の貸借対照表、損益計算書を比較して、D社が優れていると判断できる財務指標を1つ、財務上の課題となる財務指標を2つ、名称(a)とその数値(b)(単位を明記し、小数点第3位を四捨五入すること)を示し、そこから読み取れるD社の財政状態および経営成績(c)についてそれぞれ30字以内で述べよ。
なお、優れている指標については①の欄に、課題となる指標については②、③の欄に、それぞれ記入すること。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
Step1.条件の確認
経営分析を始める前に、問題の条件を確認しておきます
- 比較対象:D社の同業他社の財務諸表と比較
- 財務指標:優れていると判断できる財務指標を1つ、財務上の課題を示す財務指標を2つ
- 有効数字:小数点第3位を四捨五入
「優れていると判断できる財務指標」を「1つ」、「財務上の課題を示す財務指標」を「2つ」、解答するよう求められていますので、「収益性」「効率性」「安全性」の3つの観点からそれぞれ1つずつ、「合計3つ」の財務指標を選択します。
Step2.問題で与えられたデータに基づく予想
与件文と財務諸表を読み込み、対象となる企業の状況を把握して、選択する財務指標をある程度予想します。
ここではあくまで選択する財務指標を予想するだけで「Step3」で予想が正しいかを検証する必要があります。
与件文で気になる点(定性情報)
-
販売状況
- D社は老舗喫茶店を経営しており、古くからの顧客を中心にファンが多く、県内での知名度は高い。
- 従来は、主要な駅前、商店街の物件に出店するスタイルを続けてきたが、客足が落ちてきているため、近年はオフィス街のテナントや郊外のロードサイド店舗を開店して成功を収めている。
- インターネットのブログなどで地元のB級グルメとして注目を集めるようになったため、お土産として商品化に成功しており、収益の柱の一つとして見込んでいる。
-
生産状況
- セントラルキッチン方式を導入し、自社工場を保有している。
- 工場の生産能力にも限界があり、需要に合わせた商品群の整理も必要な時期に来ていると現社長は考えている。
-
今後の展開
- お土産としての商品化により、県外客へのD社の認知度を高めて、実際の店舗での飲食につなげたいと考えている。
- 新規顧客を創出するため、先に述べたロードサイド店舗の拡充や既存店の時代に合わせた改装など、新しい出店形態を模索している。
財務諸表で気になる点(定量情報)
同業他社の財務諸表の数値と比較した場合のD社の財務諸表の特徴を以下に示します。
-
貸借対照表
- 「流動資産(現金及び預金/棚卸資産)」が少ない。
- 「有形固定資産」全体の金額は、同業他社と比較して変わらないが、詳細の項目で比較すると「車両・工具」と「機械及び装置」が少なく「建物・構築物」と「土地」が多い。
- 「短期借入金」と「長期借入金」が多い。
- 「純資産」が少ない。
-
損益計算書
- D社と同業他社の総資本の比率(約83%)に比べると「売上高」が低すぎる(約67%)
- 「売上原価」が少ない。
- 「営業外費用」が多い。
この時点での予想
ここまで見た段階で、ある程度予想してみます。
ただし、あくまで予想なので、実際に「財務指標」を算出して、自分の予想が正しいかを検証する必要があります。
-
収益性
- 県内での知名度は高く、新しいスタイルの店舗展開やお土産としての商品化などに取り組んでいるため、収益性は高いことが予想される。(売上高総利益率:○/売上高営業利益率:○)
- セントラルキッチン方式を導入しているとの記述があるため、効率化が図られ製造原価が抑えられていることが予想される。(売上高売上原価比率:○)
- 複数店舗の展開などにより販売費及び一般管理費が高いことが予想される。(売上高販管費比率:×)
- 「短期借入金」「長期借入金」が多いため「営業外費用」が高いことが予想される。(売上高営業外費用比率:×)
-
効率性
- 与件文にある「工場の生産能力にも限界があり、需要に合わせた商品群の整理も必要な時期に来ている」という記述から、収益性の低い有形固定資産が多数あることが推測される。(有形固定資産回転率:×)
- 与件文にある「工場の生産能力にも限界があり、需要に合わせた商品群の整理も必要な時期に来ている」という記述から、売れ残りなどの余剰な商品在庫があることが予想される。(棚卸資産回転率:×)
- 「収益性」は優れていると推測されるため、D社と同業他社の総資産の比率を見る限りでは「流動資産」や「純資産」が少ないのではなく、「固定資産」や「負債」の割合が高すぎると予想される。(総資本回転率:×/固定資産回転率:×/有形固定資産回転率:×)
-
安全性
- 「収益性」は優れていると推測されるため、D社と同業他社の総資産の比率を見る限りでは「流動資産」や「純資産」が少ないのではなく、「固定資産」や「負債」の割合が高すぎると予想される。(すべての安全性に関する財務指標:×)
「収益性」以外の全ての財務指標が財務上の課題を示すと予想されている。その場合、「収益性」の財務指標から「優れていると判断できる財務指標」を選択することとなるため、「収益性」について再確認を行う。
「収益性」の再確認
与件文を見る限りでは、「収益性」以外に同業他社と比較して優れている財務指標が見当たらないため、「優れていると判断できる財務指標」は「収益性」の財務指標から選択して、「財務上の課題を示す財務指標」は「効率性」と「安全性」の財務指標から選択することになると予想される。
-
収益性(見直し)
- 県内での知名度は高く、新しいスタイルの店舗展開やお土産としての商品化などに取り組んでいるため、収益性は高いことが予想される。(売上高総利益率:○/売上高営業利益率:○)
- セントラルキッチン方式を導入しているとの記述があるため、効率化が図られ製造原価が抑えられていることが予想される。(売上高売上原価比率:○)
- 「売上高販管費比率」は選択候補から除外する。
- 「売上高営業外費用比率」は選択候補から除外する。
Step3.財務諸表の数値分析(財務指標の絞り込み)
収益性
財務指標一覧(収益性)
収益性の財務指標を以下に示します。
財務指標(収益性) | D社 | 同業他社 | 比較 |
売上高売上原価比率 | 28.00% | 30.00% | ○ |
売上高総利益率 | 72.00% | 70.00% | ○ |
売上高販管費比率 | 65.00% | 65.00% | - |
売上高営業利益率 | 7.00% | 5.00% | ○ |
売上高営業外費用比率 | 2.40% | 1.00% | × |
売上高経常利益率 | 5.00% | 4.67% | ○ |
総資本経常利益率 | 4.17% | 4.83% | × |
考察
- 「問題で与えられたデータに基づく予想」により、「収益性」の財務指標からは「優れていると判断できる財務指標」を選択する。
- 「売上高売上原価比率/売上高総利益率/売上高営業利益率/売上高経常利益率」が同業他社と比較して優れている。
- 「売上高総利益率」や「売上高営業利益率」が同業他社と比較して「2.00%」優れているのに対して「売上高経常利益率」は「0.34%」しか優れていないため、「売上高経常利益率」は選択候補から除外する。
- 「売上高売上原価比率/売上高総利益率/売上高営業利益率」が選択候補として残っている。(問題で与えられたデータに基づく予想の通り)
- 「売上高売上原価比率」と「売上高総利益率」のどちらを選択するか。
与件文において、「県内での知名度は高く、新しいスタイルの店舗展開やお土産としての商品化などに取り組んでいる」という「売上高」が高い理由と、「セントラルキッチン方式を導入している」という「売上原価」が低い理由が記載されている。
「売上原価」が低い理由だけが記載されているのであれば「売上高売上原価比率」を選択するが、「売上高」が高い理由も記載されているため、総合的に判断して「売上高売上原価比率」ではなく「売上高総利益率」を選択する方が好ましいと判断する。 - 「売上高総利益率」と「売上高営業利益率」のどちらを選択するか。
どちらの指標も同業他社と比較して「2.00%」優れている。
「売上高総利益率」では、製造コストが抑制されていることを示しているが、「売上高営業利益率」では、製造コストだけでなく販売コストや管理コストまで含めた企業本来の営業活動全般が優れていることを示しており、「売上高総利益率」よりも優れている範囲が広いため、「優れていると判断できる財務指標」としては「売上高営業利益率」を選択する。 - 「売上高営業利益率」が優れている理由について考えてみる。
前述の通り、「新しいスタイルの店舗展開やお土産としての商品化」による収益の増加と「セントラルキッチン方式」による製造コストの抑制が主な理由であるが、文字数が30文字に制限されているため、両方の理由を記載することは難しい。
少し与件文を見直してみると、「新しいスタイルの店舗展開」は現時点では実験的な段階であること、および「お土産商品」は収益の柱の1つとして見込んでいる状況であり、現時点では収益の柱とはなっているわけではない。
つまり、「新しいスタイルの店舗展開やお土産としての商品化」による収益の増加は、企業全体の業績で見ると一部に限られていると解釈することができる。
一方で「セントラルキッチン方式の導入」による製造コストの抑制は、既存店舗で販売しているすべての商品に対して効果があるため、「セントラルキッチン方式」による製造コストの抑制を「売上高営業利益率」が優れている理由とする。
検討結果
- 選択する財務指標
「売上高営業利益率」で決定 - 財政状態および経営成績
セントラルキッチンにより製造コストを抑制しており収益性が高い。(30文字)
明日も引き続き、「事例Ⅳ ~平成26年度 解答例(2)(経営分析)~」として、「第1問」の続きを説明していきます。
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