今回は、「財務・会計 ~H22-12 フリーキャッシュフロー(FCF)(2)~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成22年度一次試験問題一覧~
平成22年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
フリーキャッシュフロー(FCF)
「フリーキャッシュフロー(FCF)」は、二次試験の事例IVで出題される論点のため、一次試験の段階からしっかりと勉強しておいて損はありません。
「フリーキャッシュフロー(FCF)」については、過去にも説明していますので、以下のページにもアクセスしてみてください。
フリーキャッシュフロー(FCF)とは
「フリーキャッシュフロー」の「フリー」とは企業が資金提供者(金融機関、社債権者、株主など)に対して自由に分配できるキャッシュという意味です。
つまり、企業が営業活動により手に入れたキャッシュから、企業の営業活動に必要な設備投資などで支出したキャッシュを差し引いた残りのキャッシュであり、資金提供者である金融機関への利息の支払いや借入金の返済、社債を保有している人への利息の支払いや返済、株主への配当に充てることができるキャッシュのことを意味しています。
FCFの算出方法
FCFを求めるには2つの方法があり、問題によって使い分ける必要があります。
- 損益計算書、賃貸貸借表から算出する方法
- キャッシュフロー計算書から算出する方法
【公式1】損益計算書、貸借対照表から算出する方法
FCFは、損益計算書、貸借対照表の数値から、以下の公式で求めることができます。
- 企業が営業活動により手に入れた税引後営業利益を基本として、減価償却費、設備投資額、正味運転資本を加減算してFCFを算出します。
- 営業利益の算出過程において減価償却費は費用として差し引かれていますが、実際にキャッシュアウトしているわけではないため、税引後営業利益に加算します。
- 税引後営業利益の算出過程に反映されていない設備投資額を減算します。
設備投資額は、損益計算書や貸借対照表から読み解くのではなく、問題文で与えられるケースが多く見受けられます。 - 正味運転資本増加額は、貸借対照表に明記されている売掛金、棚卸資産などの流動資産や、買掛金などの流動負債の増減から算出されます。
例えば、今年度に商品が売れたが、実際に現金が振り込まれるのは来年度というように、収益発生(費用発生)と現金収入(現金支出)のタイミングのずれを正味運転資本の増減で調整します。
損益計算書、貸借対照表から算出する公式としては、上述の式を変形した以下の算出方法もあります。公式の違いをよく理解しておかないとケアレスミスを起こしやすい箇所なので、注意してください。
上記の式は「税引前営業利益」を以下の通り分解することで導くことができます。
【例題】
以下の数値データに基づくFCFを計算せよ。
ただし正味運転資本は増減していない。
売上収入 | 100百万円 |
原価支出 | 60百万円 |
減価償却費 | 10百万円 |
設備投資額 | 10百万円 |
法人税率 | 40% |
当然ながら、どちらの公式を使っても答えは同じになりますが、問題文によってはどちらかの公式しか適用できない場合もあるため、両方の公式を使いこなせるようにしておく必要があります。
(100-60-10)×(1-40%)+ 10 - 10 = 18百万円
(100-60)×(1-40%)+10 × 40% - 10 = 18百万円
【公式2】キャッシュフロー計算書から算出する方法
FCFは、キャッシュフロー計算書の数値から、以下の公式で求めることができます。
「FCF=営業CF+投資CF」?「FCF=営業CF-投資CF」?
インターネット上にFCFを説明するサイトが多数ありますが、「FCF=営業CF+投資CF」と書いているサイトと「FCF=営業CF-投資CF」と書いているサイトに別れています。
「FCF=営業CF-投資CF」と書いているサイトは、FCFの定義である「企業が営業活動により手に入れたキャッシュから、企業の営業活動に必要な設備投資などで支出したキャッシュを差し引いた残りのキャッシュ」に従って計算式を紹介していると推測されます。
実際には、キャッシュフロー計算書の投資CFでは、設備投資等により支出した場合は「マイナス」として表記されるため、「FCF=営業CF+投資CF」という記載方法でも正しいと思います。
どちらの書き方も間違いではないと思いますが、私の場合は「FCF=営業CF+投資CF」として紹介するようにしています。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成22年度 第12問】
A社の損益に関するデータは以下のとおりである。A社の減価償却費は1,000千円であり、これは全額更新投資にあてられる。また、実効税率は40%であり、運転資本の増減はない。このとき、A社のフリー・キャッシュ・フローの金額として最も適切なものを下記の解答群から選べ(単位:千円)。
(単位:千円) 営業利益 10,000 支払利息 4,000 税引前利益 6,000 法人税等 2,400 当期純利益 3,600
[解答群]
ア 4,600
イ 6,000
ウ 7,000
エ 7,400
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
今回の問題を解くうえで重要なのは「フリーキャッシュフロー(FCF)」の定義です。
「フリーキャッシュフロー(FCF)」とは企業が資金提供者(金融機関、社債権者、株主など)に対して自由に分配できるキャッシュという意味です。
今回の問題では、「支払利息」の扱いをどうするかという点がポイントです。
「フリーキャッシュフロー(FCF)」は資金提供者に分配できるキャッシュです。資金提供者の一つには金融機関も含まれています。つまり、金融機関に分配する前のキャッシュを算出する必要があるため「支払利息」を差し引いてはいけません。
フリーキャッシュフロー(FCF)の公式
「フリーキャッシュフロー(FCF)」は、損益計算書、貸借対照表の数値から、以下の公式で求めることができます。
問題の解釈
問題で与えられているデータをひとつずつ解釈していきます。
- 税引前営業利益は「10,000千円」である。
- FCFを計算するには「支払利息」は差し引かないため、「支払利息」の情報はダミーデータである。
- 実効税率は40%である。
- 減価償却費は1,000千円であり、これは全額更新投資にあてられる。
⇒「+ 減価償却費 - 設備投資 = 0」となります。 - 運転資本の増減はない。
⇒「正味運転資本増加額 = 0」となります。
フリーキャッシュフロー(FCF)の算出
公式に当てはめて「フリーキャッシュフロー(FCF)」を求めます。
- 営業利益 ×(1-法人税率)= 10,000千円×( 1 - 40%)= 6,000千円
答えは(イ)です。
コメント