今回は、「経済学・経済政策 ~R4-21 情報の非対称性(2)逆選択」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和4年度一次試験問題一覧~
令和4年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
逆選択・モラルハザード -リンク-
本ブログにて「逆選択」「モラルハザード」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
情報の非対称性
「情報の非対称性」とは、財・サービスの取引主体(売り手と買い手)が保有する情報に格差がある状態のことをいいます。
財・サービスの取引主体(売り手と買い手)の間に「情報の非対称性」があると、契約前に「逆選択」が発生したり、契約後に「モラルハザード」が発生する可能性があります。
- 逆選択
- 買い手が契約したいと思っている財・サービスではないものを選択してしまうこと
- 売り手が契約して欲しいと思っている対象ではない買い手が財・サービスを選択してしまうこと
- モラルハザード
- 買い手(売り手)が財・サービスを契約したから安心だと考えて気を緩めた行動をすること
逆選択
「逆選択」とは、買い手(売り手)が知ることができない売り手(買い手)の「隠された情報」など、それぞれの取引主体(売り手と買い手)が保有する情報の格差(情報の非対称性)により契約前に発生する問題のことをいいます。
「逆選択」を簡単に言うと、買い手が契約したいと思っている財・サービスではないものを選択してしまうこと、または売り手が契約して欲しいと思っている対象ではない買い手が財・サービスを選択してしまうことです。
中古車市場(レモン市場)
「逆選択」の事例としては、アメリカの理論経済学者ジョージ・アカロフにより発表された「中古車市場(レモン市場)」が有名です。
ちなみに「レモン」とは、アメリカにおける品質が悪い中古車の俗語であり「レモン」の外見から中身の見分けがつかないことに由来しています。
中古車市場において、中古車を販売する店は販売しようとしている中古車それぞれの品質を知っていますが、中古車を購入しようとする人が中古車それぞれの品質に関する情報を知るのは難しく、ここに「情報の非対称性」が発生します。
品質が悪い中古車を安値で販売する店は、わざわざ安値である理由を説明しないため、中古車を購入しようとする人は「中古車市場」における平均価格を参考にして品質が悪いとは知らずに安値の中古車を購入してしまいます。
その結果、品質の悪い安値の中古車は売れますが、品質の良い高値の中古車は売れ残ってしまうため、最終的に中古車市場から品質の良い高値の中古車は姿を消し、品質の悪い安値の中古車だけが出回るようになります。
本来、中古車を購入しようとする人は品質が良くて価格の低い中古車を購入したいと考えているはずですが、「逆選択」の結果、中古車市場に品質の悪い中古車しか出回らなくなるため、品質の良い中古車を購入できなくなってしまいます。
医療保険への加入
医療保険において、医療保険への加入を希望する人は自分の健康状態を知っていますが、医療保険を提供する保険会社が医療保険への加入を希望する人の健康状態を知るのは難しく、ここに「情報の非対称性」が発生します。
保険会社が、健康であり病気になるリスクが低いと考えられる人と、健康に不安があり病気になるリスクが高いと考えられる人を見分けることができない状態で、平均的に病気になる確率を用いて保険料を設定すると、健康であり病気になるリスクが低いと考える人にとっては割高な保険料となってしまいます。
そのため、健康であり病気になるリスクが低いと考える人は、病気になって保険会社から受け取る保険金よりも保険会社に支払う保険料の方が高くなり損をすると考えるため医療保険に加入せず、健康に不安があり病気になるリスクが高いと考える人は、保険会社に支払う保険料よりも病気になって保険会社から受け取る保険金の方が高くなり得をすると考えるため医療保険に加入します。
本来、保険会社としては健康であり病気になるリスクが低いと考えられる人と、健康に不安があり病気になるリスクが高いと考えられる人の両者が保険に加入すると想定して保険料金を設定していますが、結果として健康に不安があり病気になるリスクが高いと考えられる人のみが医療保険に加入するという「逆選択」が発生してしまいます。
モラルハザード
「モラルハザード」とは、売り手(買い手)が監視(モニタリング)できない買い手(売り手)の「隠された行動」など、それぞれの取引主体(売り手と買い手)が保有する情報の格差(情報の非対称性)により契約後に発生する問題のことをいいます。
「モラルハザード」を簡単に言うと、買い手(売り手)が財・サービスを契約したから安心だと考えて気を緩めた行動をすることです。
医療保険加入者の行動
医療保険に加入した人は、病気になったり怪我をしても保険会社から支給される保険金で治療できると考え、病気や怪我に対する注意や努力を怠りがちになるという「モラルハザード」が発生する可能性があります。
また、病気になったり怪我をしたとき、保険会社から支給される保険金で治療できると考え、過剰な治療を受ける行為も「モラルハザード」に該当します。
自動車保険加入者の行動
自動車保険に加入した人は、事故を起こしても保険会社から支給される保険金で車を修理したり損害を賠償できると考え、自動車保険に加入する前より無謀な運転(ちょっと極端ですが)をするようになるという「モラルハザード」が発生する可能性があります。
労働者の勤怠
企業から時給制で雇われた労働者は、労働時間が長いほど受け取る給料が多くなると考え、集中して取り組めば3時間で完成する作業を5時間かけて完成させるような働き方をするという「モラルハザード」が発生する可能性があります。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和4年度 第21問】
情報の非対称性がもたらす逆選択に関する記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
a 自動車保険における免責事項には、保険の契約後に生じる逆選択を減らす効果が期待できる。
b 医療保険制度を任意保険ではなく強制保険にすることには、病気になるリスクの高い人のみが医療保険に加入するという逆選択を減らす効果が期待できる。
c 企業が新たに従業員を雇う際に、履歴書だけではなく、その応募者のことをよく知っている人からの推薦状を求めることには、見込み違いの従業員を雇ってしまうという逆選択を減らすことが期待できる。
[解答群]
ア a:正 b:正 c:誤
イ a:正 b:誤 c:正
ウ a:誤 b:正 c:正
エ a:誤 b:正 c:誤
オ a:誤 b:誤 c:正
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「逆選択」に関する知識を問う問題です。
「情報の非対称性」とは、財・サービスの取引主体(売り手と買い手)が保有する情報に格差がある状態のことをいいます。
財・サービスの取引主体(売り手と買い手)の間に「情報の非対称性」があると、契約前に「逆選択」が発生したり、契約後に「モラルハザード」が発生する可能性があります。
- 逆選択
- 買い手が契約したいと思っている財・サービスではないものを選択してしまうこと
- 売り手が契約して欲しいと思っている対象ではない買い手が財・サービスを選択してしまうこと
- モラルハザード
- 買い手(売り手)が財・サービスを契約したから安心だと考えて気を緩めた行動をすること
(a) 不適切です。
自動車保険に加入した人は、事故を起こしても保険会社から支給される保険金で車を修理したり損害を賠償できると考え、自動車保険に加入する前より無謀な運転(ちょっと極端ですが)をするようになるという「モラルハザード」が発生する可能性があります。
しかし、自動車保険に「無謀な運転により起こした事故については保険金を支給しない」といった免責事項を付けておけば、自動車保険に加入した人による無謀な運転を抑制できると期待することができます。
つまり、自動車保険に免責事項を付けておけば、契約後に引き起こされる「モラルハザード」を減少させる効果を期待することができます。
したがって、自動車保険における免責事項には、保険の契約後に生じる逆選択ではなくモラルハザードを減らす効果が期待できるため、選択肢の内容は不適切です。
(b) 適切です。
医療保険制度を任意保険にすると、病気になるリスクの低い人は、病気になって保険会社から受け取る保険金よりも保険会社に支払う保険料の方が高くなり損をすると考えるため医療保険に加入せず、病気になるリスクが高い人は、保険会社に支払う保険料よりも病気になって保険会社から受け取る保険金の方が高くなり得をすると考えるため医療保険に加入します。
その結果、病気になるリスクが高い人のみが医療保険に加入するという「逆選択」が発生する可能性があります。
しかし、医療保険制度を強制保険にすれば、加入の希望有無に関わらず全ての人が医療保険に加入することとなるため、この「逆選択」を回避することができます。
したがって、医療保険制度を任意保険ではなく強制保険にすることには、病気になるリスクの高い人のみが医療保険に加入するという逆選択を減らす効果が期待できるため、選択肢の内容は適切です。
(c) 適切です。
応募者本人が記入する履歴書には、企業に採用されるような内容が記入されているため、企業が履歴書の内容を信じて採用すると、見込み違いの従業員を雇ってしまうという「逆選択」が発生する可能性があります。
しかし、その応募者のことをよく知っている人(第三者)から推薦状を提出してもらえば、応募者本人が記入した履歴書に記入されている内容の信憑性を高めることができるため、企業が見込み違いの従業員を雇ってしまう「逆選択」の可能性を減らすことを期待できます。
したがって、企業が新たに従業員を雇う際に、履歴書だけではなく、その応募者のことをよく知っている人からの推薦状を求めることには、見込み違いの従業員を雇ってしまうという逆選択を減らすことが期待できるため、選択肢の内容は適切です。
「a:誤 b:正 c:正」であるため、答えは(ウ)です。
コメント