今回は、「財務・会計 ~H25-21 資本資産評価モデル(CAPM)(5)β値~」について説明します。
目次
財務・会計 ~平成25年度一次試験問題一覧~
平成25年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
資本資産評価モデル(CAPM) -リンク-
本ブログにて「資本資産評価モデル(CAPM)」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- H29-20 資本資産評価モデル(CAPM)(1)
- H28-12 資本資産評価モデル(CAPM)(2)
- H27-18 資本資産評価モデル(CAPM)(3)
- H26-18 資本資産評価モデル(CAPM)(4)β値
- H26-19 配当割引モデル(2)
- H25-14 加重平均資本コスト(WACC)(4)
- H23-19 資本資産評価モデル(CAPM)(6)β値
- H23-20-2 配当割引モデル(3)
資本資産評価モデル(CAPM:Capital Asset Pricing Model)
「資本資産評価モデル(CAPM)」とは「株主資本コスト(株主の期待収益率)」を算出する方法のことをいいます。
株主資本コスト(株主の期待収益率)
「株主資本コスト(株主の期待収益率)」は、立場の違いによっていろいろな呼び方がありますが、「自己資本コスト = 株主資本コスト = 株主の期待収益率 = 証券の期待収益率」です。
企業から見ると「株主資本コスト(自己資本コスト)」と呼ばれ、投資家から見ると「株主の期待収益率(証券の期待収益率)」と呼ばれます。
「株主資本(自己資本)」とは資本金などの純資産です。資本金を調達するために株式を発行している場合、株主に対して「配当金」を支払わなくてはなりません。これが「株主資本コスト(自己資本コスト)」です。
逆に、投資家の視点から見ると、企業の株式を購入することで「配当金」によるリターン(収益)を期待しています。これが「株主の期待収益率(証券の期待収益率)」といいます。
なお、投資家は株価の低下や企業の倒産等により投資資金を失うリスクがあるため、投資家が株式を購入したときは銀行に預けた時に受け取る利息よりも高いリターン(収益)を期待しています。
CAPMによる株主資産コスト(株主の期待収益率)の算出
「株主資本コスト(株主の期待収益率)」は「資本資産評価モデル(CAPM)」を用いた以下の公式により算出することができます。
安全利子率(無リスク利子率・リスクフリーレート)
リスクを持たない資産(安全資産)により期待できる利子率です。
銀行の利子率をイメージすると分かりやすいかと。銀行に預けておけば、預金額が減ったりすることがないため安全ですが、得られる利子は少ないですよね。
分かりやすくするため銀行預金で話をしましたが、実際には長期国債の利回りが適用されます。
β値
「β値」とは、ある企業の株式の景気に対する感度を示しており、株式市場が1%変化したときに、その企業の株式から得られるリターンが何%変化するかを表す係数であるため、「β値」が大きいほど「ハイリスク・ハイリターン」であるということになります。
一般的に、景気変動の影響を受けにくい商品を扱う企業の数値は低く、金融業や最先端技術を扱う企業など景気変動の影響を受けやすい企業の数値は高くなります。
「β値」は、以下の計算式で求めることができます。
市場期待収益率
投資家が株式などの金融商品に投資することにより期待できる平均的な収益率です。
証券市場で扱っている株式全体の収益率をイメージするとわかりやすいかと。
上述していますが、投資家は株式を購入しても株価の低下や企業の倒産等により投資資金を失うリスクがあるため、銀行に預ける場合の利息(安全利子率)よりも高い収益率を期待しています。
投資のリスク
投資家は、利益を得るために投資を行いますが、投資には損失を被るという「投資のリスク」もあります。
「投資のリスク」は、複数の投資先への「分散投資」によって低減することができますが、損失を被るリスクをすべて回避することはできません。
それは、「投資のリスク」に、個別銘柄に起因する「アンシステマティック・リスク」と、市場そのものに起因する「システマティック・リスク」があり、「分散投資」をしても「システマティック・リスク」を回避することはできないためです。
アンシステマティック・リスク
「アンシステマティック・リスク」は「個別銘柄リスク」とも呼ばれ、「銘柄固有の理由によるリスク」であり「分散投資によって低減できるリスク」です。
- 銘柄固有の理由によるリスク
企業の業績動向など銘柄固有の理由により、株式等の価値が下落するリスクです。
- 分散投資によって低減できるリスク
「アンシステマティック・リスク」は、複数の銘柄への分散投資によって「投資のリスク」を低減することができます。
例えば、「企業A」「企業B」「企業C」の株式で構成しているポートフォリオでは、「企業A」の業績が著しく悪くて株式の価値が下落しても、「企業B」や「企業C」の株式が価値を維持している場合は、ポートフォリオへの影響は「企業A」の株式だけを保有しているよりも低減することができます。
システマティック・リスク
「システマティック・リスク」は「市場リスク」とも呼ばれ、「市場全体が影響を受けるリスク」であり、「分散投資によって低減できないリスク」です。
- 市場全体が影響を受けるリスク
海外市場の変動、金利の上昇や下落、政府要人の発言、災害・テロの発生などにより、市場全体が影響を受けるリスクです。
- 分散投資によって低減できないリスク
複数の銘柄に分散投資をしても、市場全体が受ける影響を回避することはできないため、投資のリスクを低減することはできません。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成25年度 第21問】
資本市場理論におけるベータ値に関する説明として、最も不適切なものはどれか。
ア 個々の証券の収益率の全変動におけるアンシステマティック・リスクを測定する値である。
イ 市場全体の変動に対して個々の証券の収益率がどの程度変動するかの感応度を表す値である。
ウ 市場ポートフォリオのベータ値は1である。
エ ベータ値は理論上マイナスの値もとりうる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
(ア)不適切です。
「β値」は以下の計算式により求めることができます。
「β値」は、十分に分散投資された株式市場全体の動向に対するある企業の株式動向に関する相関関係を示していることから、「システマティック・リスク」を表す指標であることが分かります。
(イ)適切です。
「β値」は簡単に言うと、ある企業の株式の景気に対する感度を示しており、株式市場が1%変化したときに、その企業の株式から得られるリターンが何%変化するかを表す係数です。
(ウ)適切です。
選択肢に記載の通り、市場ポートフォリオのβ値は「1」です。
「資本資産評価モデル(CAPM)」の公式を思い出してみると分かりやすいかと思います。「β=1」の場合が「市場ポートフォリオ」の期待収益率です。
(エ)適切です。
「β値」はマイナスの値となることもあります。
「β値」がマイナスの場合は、ある企業の株式が株式市場の変化とは逆の方向に推移することを示しています。
ただし、「β値」がマイナスの場合は、株主の期待収益率(株主資本コスト)もマイナスとなってしまうため、CAPMでは計算することができなくなります。
答えは(ア)です。
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