今回は、「経済学・経済政策 ~H30-7 市場均衡・不均衡(4)45度線分析~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成30年度一次試験問題一覧~
平成30年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
消費(C)
ケインズ型消費関数(税金を考慮しない場合)
税金を考慮しない場合の「ケインズ型消費関数」は、所得水準に関わらず発生する「基礎消費(a)」と、「限界消費性向(b)」に「GDP(Y)」を乗じた「変動消費(bY)」を合計することにより求めることができます。
基礎消費(a)
「基礎消費(a)」とは、所得水準に関わらず発生する消費のことをいいます。
限界消費性向(b)
「限界消費性向(b)」とは「所得(Y)」が1単位増加したときの「消費(C)」の変化量のことをいいます。
「 Y = C+I+G 」であり「 Y > C 」の関係が成立するため「限界消費性向(b)」は「0 < b < 1」の範囲で推移します。
「限界消費性向」は「ケインズ型消費曲線」の「傾き」として表されます。
平均消費性向( C ÷ Y )
「限界消費性向(b)」に似た指標として「平均消費性向」という指標があります。
「平均消費性向」は、「原点(0)」と「所得(Y)」により決定する「消費(C)」をつなぐ曲線の傾きとして表されます。
「平均消費性向」は「C(縦軸)÷ Y(横軸)」で求められます。
「基礎消費(a)」と「限界消費性向(b)」が一定であるとした場合、「平均消費性向」は「所得(Y)」が増加するにつれて小さくなります。
式で表さなくとも、上述のグラフで「所得(Y)」を増加させる(右に動かす)ことをイメージすると「所得(Y)」が増加するにつれて「平均消費性向(傾き)」が小さくなることが分かると思います。
ケインズ型消費関数(税金を考慮した場合)
税金を考慮した場合の「ケインズ型消費関数」は、所得水準に関わらず発生する「基礎消費(a)」と、「限界消費性向(b)」に「所得(Y)」から「税金(T)」を差し引いた「可処分所得(Yd)」を乗じた「変動消費(b(Y-T))」を合計することにより求めることができます。
税金(T)
「税金(T)」は、「定額税(T0)」と、「所得(Y)」に「税率(t)」を乗じた「定率税(tY)」を合計することにより求めることができます。
「税金(T)」を「定額税(T0)」と「定率税(tY)」で表した場合の「ケインズ型消費関数」を以下に示します。
貯蓄(S)
貯蓄関数(税金を考慮しない場合)
税金を考慮しない場合の「貯蓄関数」は「所得(Y)」から「消費(C)」を控除することにより求めることができます。
「貯蓄関数」に「ケインズ型消費関数( C = a + bY )」を代入して変形すると以下のようになります。
限界貯蓄性向(1-b)
「限界貯蓄性向(1-b)」とは「所得(Y)」が1単位増加したときの「貯蓄(S)」の変化量のことをいい、「限界貯蓄性向 = 1 - 限界消費性向」として求めることができます。
「 S = Y - C 」であり「 S < Y 」の関係が成立するため「限界貯蓄性向(1-b)」は「0 < 1-b < 1」の範囲で推移します。
「ケインズ型消費関数( C = a + bY )」を代入して変形した「貯蓄関数」から分かるように、「貯蓄(S)」は「傾き(1-b)」で「所得(Y)」に比例して増加する金額から「基礎消費(a)」を控除することにより求められます。
「限界貯蓄性向」は「貯蓄曲線」の「傾き」として表されます。
平均貯蓄性向( S ÷ Y )
「限界貯蓄性向(1-b)」に似た指標として「平均貯蓄性向」という指標があります。
「平均貯蓄性向」は、「原点(0)」と「所得(Y)」により決定する「貯蓄(S)」をつなぐ曲線の傾きとして表されます。
「平均貯蓄性向」は「S(縦軸)÷ Y(横軸)」で求められます。
「基礎消費(a)」と「限界貯蓄性向(1-b)」が一定であるとした場合、「平均貯蓄性向」は「所得(Y)」が増加するにつれて大きくなります。
式で表さなくとも、上述のグラフで「所得(Y)」を増加させる(右に動かす)ことをイメージすると「所得(Y)」が増加するにつれて「平均貯蓄性向(傾き)」が大きくなることが分かると思います。
45度線分析
「45度線分析」とは、「45度線図」を用いて、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」の関係を分析する手法のことをいいます。
財市場においては「総供給(YS)= GDP(Y)」の関係が成り立つため、縦軸に「総供給(YS)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「総供給曲線」が角度45度の曲線として描画されることから「45度線図」と呼ばれています。
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
様々な要因により「総需要(YD)」が増加(減少)すると、企業による生産量が調整されて「総供給(YS)」が増加(減少)していき、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図
総供給曲線
財市場の「総供給(YS)」が「GDP(Y)」と等しく「総供給(YS)= GDP(Y)」の関係が成り立つため、縦軸に「総供給(YS)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「総供給曲線」は角度45度の曲線となります。
45度線図(総供給曲線)
総需要曲線
財市場の「総需要(YD)」は、試験問題で与えられることが多いですが、「総需要関数」には国内取引のみを対象とした「閉鎖経済(YD = C+I+G)」や、海外との輸出入取引を含む「開放経済(YD = C+I+G+EX-IM)」などのパターンがあります。
なお、「消費(C)」には「ケインズ型消費関数」が用いられます。
- 閉鎖経済(国内取引のみ)
YD = C+I+G(消費:C、投資:I、政府支出:G) - 開放経済(輸出入含む)
YD = C+I+G+EX-IM(消費:C、投資:I、政府支出:G、EX:輸出、IM:輸入)
国内取引のみを対象とする「閉鎖経済」を前提とした「総需要曲線」を以下に示します。
45度線図(総需要曲線)
均衡GDP
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
45度線図(均衡GDP)
超過需要
「GDP(Y)」が「均衡GDP(YE)」よりも低い領域(左側の領域)では「総需要曲線」の方が「総供給曲線」よりも上に位置するため「超過需要(YD>YS)」となっています。
「超過需要(YD>YS)」となっている場合は、企業が生産量(供給量)を増加させていくため、「GDP(Y)」が徐々に増加して、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図(超過需要)
超過供給
「GDP(Y)」が「均衡GDP(YE)」よりも高い領域(右側の領域)では「総供給曲線」の方が「総需要曲線」よりも上に位置するため「超過供給(YD<YS)」となっています。
「超過供給(YD<YS)」となっている場合は、企業が生産量(供給量)を減少させていくため、「GDP(Y)」が徐々に減少して、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図(超過供給)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成30年度 第7問】
下図は45度線図である。総需要は AD = C + I(ただし、AD は総需要、C は消費、I は投資)、消費は C = C0 + cY(ただし、C0 は基礎消費、c は限界消費性向、Y は GDP )によって表されるものとする。
この図に基づいて、下記の設問に答えよ。
(設問1)
この図に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア GDPがY1であるとき、生産物市場にはGHだけの超過需要が生じている。
イ 均衡GDPの大きさはY0であり、このときの総需要の大きさはOHである。
ウ 図中で基礎消費の大きさはOGで表され、これは総需要の増加とともに大きくなる。
エ 図中で限界消費性向の大きさはFG÷EFで表され、これは総需要の増加とともに小さくなる。
(設問2)
均衡GDPの変化に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 限界消費性向が大きくなると、均衡GDPも大きくなる。
イ 限界貯蓄性向が大きくなると、均衡GDPも大きくなる。
ウ 貯蓄意欲が高まると、均衡GDPも大きくなる。
エ 独立投資が増加すると、均衡GDPは小さくなる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問1)
45度線図に関する知識を問う問題です。
「45度線分析」とは、「45度線図」を用いて、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」の関係を分析する手法のことをいいます。
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
様々な要因により「総需要(YD)」が増加(減少)すると、企業による生産量が調整されて「総供給(YS)」が増加(減少)していき、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図
(ア) 不適切です。
「GDP(Y)」が「均衡GDP(YE)」よりも低い領域(左側の領域)では「総需要曲線」の方が「総供給曲線」よりも上に位置するため「超過需要(YD>YS)」となっています。
「GDP」が「Y1」であるとき、生産物市場(財市場)には「超過需要(YD>YS)」が生じていますが、問題で与えられた図に記述されている点では「超過需要」の大きさを表すことができません。
したがって、GDPがY1であるとき、生産物市場には超過需要が生じていますが、その大きさはGHではないため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
「45度線図」において、生産物市場(財市場)の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
問題で与えられた図において「均衡GDP(YE)」は「Y0」であり、そのときの「総需要(YD)」の大きさは「OH」で表されています。
したがって、均衡GDPの大きさはY0であり、このときの総需要の大きさはOHであるため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
問題文において「総需要(AD)」は「AD = C + I」で与えられており、「消費(C)」は「GDP(Y)」に関わらず発生する「基礎消費(C0)」と、「限界消費性向(c)」に「GDP(Y)」を乗じた「変動消費(cY)」を合計する「ケインズ型消費関数」で与えられています。
- C = C0 + cY
「基礎消費(C0)」とは「GDP(Y)」に関わらず発生する「消費」のことをいいます。
問題で与えられた図において「基礎消費(C0)」は「OG」で表されており、総需要(YD)が増加しても「基礎消費(C0)」の大きさは変化しません。
したがって、図中で基礎消費の大きさはOGで表されていますが、これは総需要の増加とともに大きくなるのではなく、総需要が増加しても変化しないため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「限界消費性向」とは「GDP(Y)」が1単位増加したときの「消費」の変化量のことをいい、「ケインズ型消費関数」で表される「総需要曲線」の「傾き」として表されます。
したがって、図中で限界消費性向の大きさはFG÷EFではなくEF÷FGで表されており、これは総需要の増加とともに小さくなるのではなく、総需要が増加しても変化しないため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
考え方と解答(設問2)
45度線図において総需要曲線がシフトした場合の均衡GDPの変化に関する知識を問う問題です。
(ア) 適切です。
「限界消費性向」とは「GDP(Y)」が1単位増加したときの「消費」の変化量のことをいい、「ケインズ型消費関数」で表される「総需要曲線」の「傾き」として表されます。
「AD = C + I」で表される「総需要関数」に「C = C0 + cY」で表される「消費関数」を代入すると「総需要関数」は以下の通りとなります。
- AD = C + I
- AD =( C0 + cY )+ I
- AD = cY +( C0 + I )( c:傾き、C0 + I:Y軸の切片 )
「限界消費性向(c)」が大きくなると「総需要関数」の傾きが大きくなるため「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で表される「均衡GDP」は大きくなります。
したがって、限界消費性向が大きくなると、均衡GDPも大きくなるため、選択肢の内容は適切です。
(イ) 不適切です。
「限界貯蓄性向」とは「GDP(Y)」が1単位増加したときの「貯蓄」の変化量のことをいい、「限界貯蓄性向 = 1 - 限界消費性向」として求めることができます。
「限界貯蓄性向」を「α」とすると「限界消費性向(c)」は「c = 1-α」であるため「総需要関数」は以下の通りとなります。
- AD = C + I
- AD =( C0 + cY )+ I
- AD = { C0 +(1-α)Y }+ I
- AD = ( 1-α )Y +( C0 + I )( 1-α:傾き、C0 + I:Y軸の切片 )
「限界消費性向(α)」が大きくなると「総需要曲線」の傾きが小さくなるため「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で表される「均衡GDP」は小さくなります。
したがって、限界貯蓄性向が大きくなると、均衡GDPは大きくなるのではなく小さくなるため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
需要者の「貯蓄意欲」が高まると「限界消費性向」が大きくなります。
「選択肢(イ)」で説明した通り、「限界消費性向」が大きくなると「総需要関数」の傾きが小さくなるため「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で表される「均衡GDP」は小さくなります。
したがって、貯蓄意欲が高まると、均衡GDPは大きくなるのではなく小さくなるため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「独立投資」とは「GDP(Y)」に関わらず独立して発生する投資のことをいいます。
「独立投資」を「I0」とすると「投資(I)」は「I = I0(定数)」であるため「総需要関数」は以下の通りとなります。
- AD = C + I
- AD =( C0 + cY )+ I0
- AD = cY +( C0 + I0 )( c:傾き、C0 + I0:Y軸の切片 )
「独立投資(I0)」が大きくなると「総需要関数」においてY軸の切片が大きくなり上方に平行シフトするため、「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で表される「均衡GDP」は大きくなります。
したがって、独立投資が増加すると、均衡GDPは小さくなるのではなく大きくなるため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(ア)です。
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