今回は、「経済学・経済政策 ~R1-5-2 市場均衡・不均衡(3)45度線分析~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和元年度一次試験問題一覧~
令和元年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
45度線分析
「45度線分析」とは、「45度線図」を用いて、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」の関係を分析する手法のことをいいます。
財市場においては「総供給(YS)= GDP(Y)」の関係が成り立つため、縦軸に「総供給(YS)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「総供給曲線」が角度45度の曲線として描画されることから「45度線図」と呼ばれています。
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
様々な要因により「総需要(YD)」が増加(減少)すると、企業による生産量が調整されて「総供給(YS)」が増加(減少)していき、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図
総供給曲線
財市場の「総供給(YS)」が「GDP(Y)」と等しく「総供給(YS)= GDP(Y)」の関係が成り立つため、縦軸に「総供給(YS)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「総供給曲線」は角度45度の曲線となります。
45度線図(総供給曲線)
総需要曲線
財市場の「総需要(YD)」は、試験問題で与えられることが多いですが、「総需要関数」には国内取引のみを対象とした「閉鎖経済(YD = C+I+G)」や、海外との輸出入取引を含む「開放経済(YD = C+I+G+EX-IM)」などのパターンがあります。
なお、「消費(C)」には「ケインズ型消費関数」が用いられます。
- 閉鎖経済(国内取引のみ)
YD = C+I+G(消費:C、投資:I、政府支出:G) - 開放経済(輸出入含む)
YD = C+I+G+EX-IM(消費:C、投資:I、政府支出:G、EX:輸出、IM:輸入)
国内取引のみを対象とする「閉鎖経済」を前提とした「総需要曲線」を以下に示します。
45度線図(総需要曲線)
均衡GDP
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
45度線図(均衡GDP)
超過需要
「GDP(Y)」が「均衡GDP(YE)」よりも低い領域(左側の領域)では「総需要曲線」の方が「総供給曲線」よりも上に位置するため「超過需要(YD>YS)」となっています。
「超過需要(YD>YS)」となっている場合は、企業が生産量(供給量)を増加させていくため、「GDP(Y)」が徐々に増加して、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図(超過需要)
超過供給
「GDP(Y)」が「均衡GDP(YE)」よりも高い領域(右側の領域)では「総供給曲線」の方が「総需要曲線」よりも上に位置するため「超過供給(YD<YS)」となっています。
「超過供給(YD<YS)」となっている場合は、企業が生産量(供給量)を減少させていくため、「GDP(Y)」が徐々に減少して、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図(超過供給)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和元年度 第5問】
(※)「基礎消費」「独立投資」の記号表記を原文から変更しています。
下図は、開放経済における生産物市場の均衡を表す45度線図である。直線ADは総需要線であり、総需要ADは以下によって表される。
- AD = C + I + G + X - M
- C = C0 + c( Y-T )
- I = I0 - br
- M = mY
(AD:総需要、C:消費、C0:基礎消費、c:限界消費性向( 0 < c < 1 )、Y:所得、T:租税、I:投資、I0:独立投資、b:投資の利子感応度( b > 0 )、r:利子率、G:政府支出、X:輸出、M:輸入、m:限界輸入性向( c > m ))
この図に基づいて、下記の設問に答えよ。
(設問2)
均衡GDPは45度線と総需要線の交点によって与えられる。均衡GDPの変化に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 減税は、総需要線の傾きを急にすることを通じて、均衡GDPを増やす。
イ 政府支出の拡大は、総需要線の上方への平行移動を通じて、均衡GDPを増やす。
ウ 輸出の減少は、総需要線の傾きを緩やかにすることを通じて、均衡GDPを減らす。
エ 利子率の上昇は、総需要線の上方への平行移動を通じて、均衡GDPを増やす。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問2)
45度線図において総需要曲線を構成する要素が変動した場合の均衡GDPの変化に関する知識を問う問題です。
「45度線分析」とは、「45度線図」を用いて、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」の関係を分析する手法のことをいいます。
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
様々な要因により「総需要(YD)」が増加(減少)すると、企業による生産量が調整されて「総供給(YS)」が増加(減少)していき、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図
総需要関数の算出
問題文において、総需要(AD)は以下の式で与えられています。
- AD = C + I + G + X - M
- C = C0 + c( Y-T )
- I = I0 - br
- M = mY
(AD:総需要、C:消費、C0:基礎消費、c:限界消費性向( 0 < c < 1 )、Y:所得、T:租税、I:投資、I0:独立投資、b:投資の利子感応度( b > 0 )、r:利子率、G:政府支出、X:輸出、M:輸入、m:限界輸入性向( c > m ))
総需要曲線を表す「AD」に「C」と「I」と「M」を代入して「総需要関数」を求めます。
- AD = C + I + G + X - M
- AD = C0 + c( Y-T )+ I0 - br + G + X - mY
- AD =( c - m )Y+ C0 - cT + I0 - br + G + X
「総需要関数」の傾きとY軸の切片は以下の通りです。
- 傾き = c - m
- 切片 = C0 - cT + I0 - br + G + X
(ア) 不適切です。
租税は「T」で表されています。
減税により「T」の値が小さくなっても「傾き」は変化しませんが、「Y軸の切片」の値が大きくなるため「総需要曲線」は上方に平行シフトします。
- 傾き = c - m
- 切片↑ = C0 - cT↓ + I0 - br + G + X
「総需要曲線」は上方に平行シフトすると「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で表される「均衡GDP」は大きくなります。
したがって、減税は、総需要線の傾きを急にするのではなく総需要線の上方への平行移動を通じて、均衡GDPを増やすため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
政府支出は「G」で表されています。
政府支出の拡大により「G」の値が大きくなっても「総需要曲線」の「傾き」は変化しませんが、「Y軸の切片」の値が大きくなるため「総需要曲線」は上方に平行シフトします。
- 傾き = c - m
- 切片↑ = C0 - cT + I0 - br + G↑ + X
「総需要曲線」は上方に平行シフトすると「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で表される「均衡GDP」は大きくなります。
したがって、政府支出の拡大は、総需要線の上方への平行移動を通じて、均衡GDPを増やすため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
輸出は「X」で表されています。
輸出の減少により「X」の値が小さくなっても「総需要曲線」の「傾き」は変化しませんが、「Y軸の切片」の値が小さくなるため「総需要曲線」は下方に平行シフトします。
- 傾き = c - m
- 切片↓ = C0 - cT + I0 - br + G + X↓
「総需要曲線」は下方に平行シフトすると「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で表される「均衡GDP」は小さくなります。
したがって、輸出の減少は、総需要線の傾きを緩やかにするのではなく総需要線の下方への平行移動を通じて、均衡GDPを減らすため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
利子率は「r」で表されています。
利子率の上昇により「r」の値が大きくなっても「総需要曲線」の「傾き」は変化しませんが、「Y軸の切片」の値が小さくなるため「総需要曲線」は下方に平行シフトします。
- 傾き = c - m
- 切片↓ = C0 - cT + I0 - br↑ + G + X
「総需要曲線」は下方に平行シフトすると「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で表される「均衡GDP」は小さくなります。
したがって、利子率の上昇は、総需要線の上方への平行移動を通じて、均衡GDPを増やすのではなく、総需要線の下方への平行移動を通じて、均衡GDPを減らすため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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