今回は、「事例Ⅲ ~令和元年度 解答例(5)(第3問-設問2)~」について説明します。
目次
事例Ⅲ ~令和元年度試験問題一覧~
令和元年度のその他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
生産管理
「生産管理」とは、生産活動に関する「Q:品質」「C:コスト」「D:数量および納期」の最適化を図るため、「需要予測」「生産計画」「生産実施」「生産統制」を行うことをいいます。
生産管理のポイント
「生産管理」に関連する主なポイントは以下の通りです。
- 営業部門が入手した需要予測または受注情報を製造部門に迅速に連携して、迅速に生産計画に反映されるべきです。
- 生産計画は「大日程・中日程・小日程」に分割してできるだけ短い間隔で更新され、できるだけ短い期間を対象として作成されるべきです。
- 生産計画は、全ての製品および全ての工程を対象にして立案されるべきです。
- 生産計画に基づき、一元的に生産統制(進捗管理、現品管理、余力管理)されるべきです。
生産統制
「生産統制」とは、作成された生産計画にしたがって生産活動を実施できるように、生産活動の状況を把握して、計画に対する差異が発生した場合には、即座に対策を行って差異を解消させていくことをいいます。
生産計画と生産統制の関係
「生産統制」では「生産計画」と照らし合わせて「QCD」の観点から問題が発生していないかを管理していきますが、「生産統制」で管理する項目には「進捗管理」「現品管理」「余力管理」があります。
生産統制 | 生産計画 | 説明 |
進捗管理 | 日程計画 | 日々の作業の進行状況を把握して調整する管理活動 |
現品管理 | 材料・部材計画 | 在庫の品質を確保して、所在と数量を明確に把握して調整する管理活動 |
余力管理 | 工数計画 | 労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動 |
進捗管理(進度管理)
「進捗管理」とは、日々の作業の進行状況を把握して調整する管理活動のことをいいます。
「進捗管理」の一番の目的は納期を遵守することですが、生産計画よりも前倒しして作業を進めても、仕掛品・完成品を倉庫に保管するコストが増加してしまうなどの問題が発生するため、適切ではありません。
「進捗管理」では、早過ぎず遅過ぎず計画通りの日程で作業が進行するよう管理する必要があります。
進捗管理
仕事の進行状況を把握し、日々の仕事の進み具合を調整する活動。
備考 進度管理または納期管理ともいう。(JISZ8141-4104)
現品管理
「現品管理」とは、「資材」「仕掛品」「製品」などの在庫の品質を確保して、所在と数量を明確に把握して調整する管理活動のことをいいます。
状況 | 観点 |
外部業者からの受け入れ (原材料・部品) |
受け入れ数量の過不足確認 品質の確認(傷・変形・破損など) |
運搬 (原材料・部品・仕掛品・完成品) |
運搬数量の過不足確認 適正な運搬荷姿 - 現品の傷・変形・破損の防止 適正な運搬方法 - 現品の傷・変形・破損の防止 |
保管 (原材料・部品・仕掛品・完成品) |
保管数量の過不足確認 適正在庫の維持 - 在庫の長期保管による品質劣化の防止 適正な保管方法 - 積み上げによる荷崩れ等の防止 - 温度管理等による品質劣化の防止 |
外部業者への受け渡し (完成品) |
受け渡し数量の過不足確認 品質の確認(傷・変形・破損など) |
現品管理
資材、仕掛品、製品などの物について運搬・移動や停滞・保管の状況を管理する活動。
備考 現品の経済的な処理と数量、所在の確実な把握を目的とする。現物管理ともいう。(JISZ8141-4102)
余力管理
「余力管理」とは、労働者や機械の能力(例えば最大生産量など)に対する負荷状況を把握して、能力と負荷のバランスを調整する管理活動のことをいいます。
余力管理
各工程または個々の作業者について、現在の負荷状態と現有能力とを把握し、現在どれだけの余力または不足があるかを検討し、作業の再配分を行って能力と負荷を均衡させる活動。
備考 余力とは能力と負荷との差である。工数管理ともいう。(JISZ8141-4103)
プッシュ型管理方式
「プッシュ型管理方式」は、計画主導型の生産管理方式のことであり、管理部門が策定した生産計画に基づき、「各工程」が生産して「後工程」に部品を引き渡す(プッシュ)生産管理方式です。
「前工程」は、「後工程」の生産状況にかからわず管理部門が策定した生産計画に基づき必要な数量を生産するため、工程間における不要な在庫(仕掛品)が発生します。
「プッシュ型管理方式」の代表的な例としては、「MRP(広義)」が挙げられます。
MRP(広義)
「MRP(広義)」とは、「資材所要量計画」だけではなく、管理部門が「生産計画」を策定して全工程に作業指示を行い「生産統制」まで行う仕組みのことをいいます。
MRP(狭義)
「MRP(狭義)」とは、製品の生産計画である「基準生産計画(MPS)」に基づき、製品の生産に必要な部品や資材の数量を表す「部品構成表」と部品や資材の「在庫情報」「発注残情報」「調達リードタイム」から、発注すべき部品や資材の数量と時期を表す「資材所要量計画(MRP)」を作成する仕組みこのことをいいます。
プル型管理方式
「プル型管理方式」は、後工程引取型の生産管理方式のことであり、「後工程」が「前工程」に必要な部品の品番や数量を指示して「前工程」から部品を取り寄せる(プル)生産管理方式です。
「前工程」は「後工程」からの生産指示に基づき必要な数量だけ生産するため、工程間における不要な在庫(仕掛品)が発生しないのが特徴です。
「プル型管理方式」の代表的な例としては、トヨタ自動車が開発した「かんばん方式」が挙げられます。
かんばん方式
「かんばん方式」とは、トヨタ自動車が開発した生産管理方式であり、「ジャスト・イン・タイム(必要なものを必要な時に必要なだけ生産する)」の考え方に基づき、不要な在庫をできるだけ持たない仕組みのことをいいます。
「かんばん方式」では「かんばん」と呼ばれる「作業指示票」を使って、後工程が前工程に対して必要な部品の品番や数量を伝え、前工程は後工程から指示を受けた数量だけ部品を生産します。
「かんばん方式」は、もともと米国のスーパーマーケットをヒントに考えられた方式なので、実際のスーパーマーケットをイメージしてみると分かりやすいと思います。スーパーマーケットでは「お客様(後工程)は、必要な品物を必要なときに必要な量だけ購入」して、「お店(前工程)は、お客様(後工程)から引き取られた数量だけ品物を補充」します。
かんばん方式の概念図(トヨタ自動車ホームページより)
第3問(設問2)
第3問(配点40点)
X社から求められている新規受託生産の実現に向けたC社の対応について、以下の設問に答えよ。
(設問2)
X社とC社間で外注かんばんを使った後工程引取方式の構築と運用を進めるために、これまで受注ロット生産体制であったC社では生産管理上どのような検討が必要なのか、140字以内で述べよ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
解答の方向性
第3問(設問2)では、X社とC社間で外注かんばんを使った後工程引取方式を導入するにあたって、C社の生産管理上でどのような検討が必要になるのかを分析する能力を問われています。
「受注ロット生産体制」と「外注かんばんを使った後工程引取方式」という言葉にこだわりすぎると、非常に難しく感じてしまいますが、与件文に記述されている内容から、C社における現状の生産管理とX社から導入を提案されている後工程引取方式を導入した場合の生産管理の違いを整理して解答を構成していけば、思ってるほどには難しくありません。
与件文で関連しそうな箇所
与件文では、2ページ目の中央部に記述されている「生産の概要」の最後の段落と、2ページの最下行から3ページ前半の「自動車部品機械加工の受託生産計画」に記述されています。
「生産の概要」の最後の段落には、現状のC社における生産管理の実施方法が記述されており、「自動車部品機械加工の受託生産計画」には、X社から導入を提案されている後工程引取方式の概要が記述されています。
問題文の中では、以下の部分が該当します。
詳細に示すと以下の通りとなります。
- 生産プロセスは、受注内容によって以下のようになっている。
・機械加工を伴う受注:材料調達→機械加工→熱処理加工→出荷検査
・熱処理加工のみの受注:部品受入→熱処理加工→出荷検査
生産計画は、機械加工部と熱処理部それぞれで立案されるが、機械加工を伴う受注については熱処理加工との工程順や日程などを考慮して調整される。両部門とも受注生産であることから、納期を優先して月ごとに日程計画を作成し、それに基づいて日々の作業が差立てされる。納期の短い注文については、顧客から注文が入った時点で日程計画を調整、修正し、追加される。機械加工受注品に使用される材料の調達は、日程計画が確定する都度発注し、加工日の1週間前までに納品されるように材料商社と契約しており、材料在庫は受注分のみである。
⇒C社における現状の生産計画と生産統制ついて記述されています。生産計画は、機械加工部と熱処理部それぞれで立案されていますが、機械加工部と熱処理部において一元化して立案され、生産統制されるように改善すべきです。
⇒生産計画は、納期を優先して月ごとに日程計画を立案し、顧客から注文が入った時点で日程計画を調整、修正し、追加することにより調整を行っています。
⇒材料の調達は、日程計画が確定する都度発注し、加工日の1週間前までに納品されるように調整を行っています。
- また、この機械加工の受託生産の実施を機会に、X社で運用されている後工程引取方式を両社間の管理方式として運用しようとする提案がX社からある。具体的運用方法は、X社からは3カ月前に部品ごとの納品予定内示があり、1カ月ごとに見直しが行われ、納品3日前にX社からC社に届く外注かんばんによって納品が確定する。これら納品予定内示および外注かんばんは、通信回線を使用して両社間でデータを交換する計画である。
⇒X社で運用されている後工程引取方式を採用すると、3カ月前に納品予定内示があり、1カ月ごとにその見直しが行われ、納品確定は納品3日前と記述されているため、生産計画と材料の調達方法を見直す必要があります。
⇒生産計画は、1カ月ごとの納品予定内示の見直しに合わせて日程計画を立案することとし、納品3日前の納品確定に合わせて日程計画を調整、修正し、追加することにより調整を行います。また、納品確定が納品3日前であり、受注確定から納品までの期日が短いため、納期を遵守するための生産統制を強化する必要があります。
⇒材料の調達は、1カ月ごとの納品予定内示の見直しに合わせて作成された日程計画に基づき材料を発注して、加工日の1週間前までに納品されるように調整を行うこととします。
- 外注かんばんの電子データ化などのシステム構築は、X社の全面支援によって行われる予定となっているが、確定受注情報となる外注かんばんの社内運用を進めるためには、C社内で生産管理の見直しが必要になる。この後工程引取方式は、X社自動車部品の機械加工工程および自動車部品専用の熱処理工程に限定した運用範囲とし、その他の加工品については従来同様の生産計画立案と差立方法で運用する計画である。
⇒X社自動車部品の機械加工工程および自動車部品専用の熱処理工程については、外注かんばんを使った後工程引取方式で運用され、その他の加工品については従来同様の生産計画立案と差立方法で運用すると記述されています。
X社から求められている新規受託生産の実現に向けて、X社向け部品とその他の加工品で異なる生産管理体制について検討する必要があります。
生産管理上の必要な検討内容
与件文から抜き出した内容を元にして「生産管理上の必要な検討内容」を整理していきます。
- X社から求められている新規受託生産の実現に向けて、X社向け部品とその他の加工品で異なる生産管理体制について検討する必要があります。
- X社向け部品の生産計画は、1カ月ごとの納品予定内示の見直しに合わせて日程計画を立案することとし、納品3日前の納品確定に合わせて日程計画を調整、修正し、追加することにより調整を行います。また、納品確定が納品3日前であり、受注確定から納品までの期日が短いため、納期を遵守するための生産統制を強化する必要があります。
- X社向け部品の材料調達は、1カ月ごとの納品予定内示の見直しに合わせて作成された日程計画に基づき材料を発注して、加工日の1週間前までに納品されるように調整を行うこととします。
- その他の加工品の生産計画は、機械加工部と熱処理部それぞれで立案されていますが、機械加工部と熱処理部において一元化して立案され、生産統制されるように改善すべきです。
文章を1つにまとめます。
- C社で検討が必要なのは、X社向け部品とその他の加工品で異なる生産管理体制である。X社向け部品においては、1カ月ごとの納品予定内示の見直しに合わせて作成された日程計画に基づき材料を発注して、納品確定が納品3日前であり、受注確定から納品までの期日が短いため、納期を遵守するための生産統制を強化する。その他の加工品において、機械加工部と熱処理部において一元化して立案され、生産統制されるように改善すべきである。(201文字)
文章が長すぎるため、簡潔にします。
- C社で検討が必要なのはX社向け部品とその他の加工品で異なる生産管理体制である。X社向け部品では納品予定内示の見直しを反映した日程計画に基づく材料の発注と3日前に確定する短納期を遵守するための生産統制について、その他の加工品では機械加工部と熱処理部の一元的な生産管理について検討する。(140文字)
解答例
ここまでに整理してきた内容に基づき、140文字以内にまとめます。
C社で検討が必要なのはX社向け部品とその他の加工品で異なる生産管理体制である。X社向け部品では納品予定内示の見直しを反映した日程計画に基づく材料の発注と3日前に確定する短納期を遵守するための生産統制について、その他の加工品では機械加工部と熱処理部の一元的な生産管理について検討する。(140文字) |
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