今回は、「運営管理 ~H28-22 自動機械(1)産業用ロボット~」について説明します。
目次
運営管理 ~平成28年度一次試験問題一覧~
平成28年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
産業用ロボット
「産業用ロボット」とは、主に工場における生産活動など、産業の自動化で用いられるロボットのことをいい、マニピュレータ(機械の腕)と、プログラムで制御する複数の軸(人間でいう関節)で構成されており、屈伸、上下移動、左右移動若しくは旋回の動作又はこれらの複合動作を自動的に行うことができる機械です。
なお、以下の条件に該当する機械は「産業用ロボット」には該当しませんので、ご注意ください。
- 研究開発中のもの
- その他厚生労働大臣が定めるもの
- 定格出力(駆動用原動機が2つ以上有する機械では、それぞれの定格出力のうち最大のもの)が80ワット以下の駆動用原動機を有する機械
- 固定シーケンス制御装置の情報に基づきマニピュレータの伸縮、上下移動、左右移動又は旋回の動作のうちいずれか一つの動作の単調な繰り返しを行う機械
- 当該機械の構造、性能等からみて当該機械に接触することによる労働者の危険が生ずるおそれがないと厚生労働省労働基準局長が認めた機械
マニピュレータ
「マニピュレータ」とは、人間の上肢に類似した機能を有しており、次のいずれかの作業を行うことができるものをいいます。
- 先端部に当たるメカニカルハンド(人間の手に相当する部分)、吸着器等により物体を把持し、空間的に移動させる作業
- 先端部に取り付けられた塗装用スプレーガン、溶接用トーチ等の工具による塗装、溶接等の作業
可動範囲
「可動範囲」とは、記憶装置の情報(プログラム)に基づき、マニピュレータその他の産業用ロボットの各部(マニピュレータの先端部に取り付けられた工具を含む。)が構造上動きうる最大の範囲をいいます。
ただし、この構造上動きうる最大の範囲内に電気的又は機械的ストッパーがある場合は、当該ストッパーによりマニピュレータその他の産業用ロボットの各部が作動できない範囲を除きます。
教示等
「教示等」とは、産業用ロボットのマニピュレータの動作の順序、位置又は速度の設定、変更又は確認のことをいます。
検査等
「検査等」とは、産業用ロボットの検査、修理、調整(教示等に該当するものを除く。)、掃除若しくは給油又はこれらの結果の確認をいいます。
労働安全衛生規則 第36条 第31号(産業用ロボット)
マニプレータ及び記憶装置(可変シーケンス制御装置及び固定シーケンス制御装置を含む。以下この号において同じ。)を有し、記憶装置の情報に基づきマニプレータの伸縮、屈伸、上下移動、左右移動若しくは旋回の動作又はこれらの複合動作を自動的に行うことができる機械(研究開発中のものその他厚生労働大臣が定めるものを除く。)
産業用ロボットに関する法律/規則/規定
「産業用ロボット」の使用については、労働者の安全や衛生を確保することなどを目的として、以下に示す法律などにより規制されています。
- 労働安全衛生法
- 労働安全衛生規則
- 産業用ロボットの使用等の安全基準に関する技術上の指針
- 安全衛生特別教育規程 など
運転中の危険の防止
「産業用ロボット」を運転する際には、労働者への危険を回避するため、柵または囲いを設けるなど危険を防止するために必要な措置を講じる必要があります。
労働安全衛生規則 第150条 第4項(運転中の危険の防止)
事業者は、産業用ロボツトを運転する場合(教示等のために産業用ロボツトを運転する場合及び産業用ロボツトの運転中に次条に規定する作業(※)を行わなければならない場合において産業用ロボツトを運転するときを除く。)において、当該産業用ロボツトに接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、さく又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない。
(※)次条に規定する作業は「検査等」です。
特別教育
「産業用ロボット」の使用に際しては、「教示等の業務」「点検等の業務」に従事する労働者に対して、事業者が「特別教育」を実施することが義務付けられています。
特別教育の内容
「教示等の業務」「点検等の業務」に従事する労働者に対する「特別教育」の内容を以下に示します。「特別教育」は「学科教育」と「実技教育」から構成されており、「実技教育」には産業用ロボットに異常が発生した場合にとるべき措置を含める必要があります。
教示等の業務従事に必要な特別教育の科目と最低時間
種類 | 科目 | 時間 |
学科 | 産業用ロボツトに関する知識 | 2時間以上 |
産業用ロボツトの教示等の作業に関する知識 | 4時間以上 | |
関係法令 | 1時間以上 | |
実技 | 産業用ロボツトの操作の方法 | 1時間以上 |
産業用ロボツトの教示等の作業の方法 | 2時間以上 |
検査等の業務従事に必要な特別教育の科目と最低時間
種類 | 科目 | 時間 |
学科 | 産業用ロボツトに関する知識 | 4時間以上 |
産業用ロボツトの検査等の作業に関する知識 | 4時間以上 | |
関係法令 | 1時間以上 | |
実技 | 産業用ロボツトの操作の方法 | 1時間以上 |
産業用ロボツトの検査等の作業の方法 | 3時間以上 |
特別教育の担当者
特別教育の担当者は、産業用ロボットに関する知識及び作業についての経験を有する者とされています。
また、必要に応じてメーカーの技術者、労働安全コンサルタントといった専門知識を有する者を活用する必要があります。
記録
「受講者/受講科目/受講時間」など「特別教育」の実施結果に関する記録を3年以上保管する必要があります。
労働安全衛生法 第59条 第31号(安全衛生教育)
- 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
- 前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。
- 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。
労働安全衛生規則 第36条(特別教育を必要とする業務)
第31項
産業用ロボツトの可動範囲(記憶装置の情報に基づきマニプレータその他の産業用ロボットの各部の動くことができる最大の範囲をいう。以下同じ。)内において当該産業用ロボツトについて行うマニプレータの動作の順序、位置若しくは速度の設定、変更若しくは確認(以下「教示等」という。)(産業用ロボツトの駆動源を遮断して行うものを除く。以下この号において同じ。)又は産業用ロボツトの可動範囲内において当該産業用ロボツトについて教示等を行う労働者と共同して当該産業用ロボツトの可動範囲外において行う当該教示等に係る機器の操作の業務
第32項
産業用ロボツトの可動範囲内において行う当該産業用ロボツトの検査、修理若しくは調整(教示等に該当するものを除く。)若しくはこれらの結果の確認(以下この号において「検査等」という。)(産業用ロボツトの運転中に行うものに限る。以下この号において同じ。)又は産業用ロボツトの可動範囲内において当該産業用ロボツトの検査等を行う労働者と共同して当該産業用ロボツトの可動範囲外において行う当該検査等に係る機器の操作の業務
産業用ロボットの使用等の安全基準に関する技術上の指針 第6条(教育)
事業者は、労働安全衛生法第59条及び関係省令等に定めるところを含め、次に定めるところにより、産業用ロボットの関係業務に従事させる労働者に対し、必要な教育を実施すること。
教育の内容
教育は、学科教育及び実技教育によって行うものとし、当該労働者が従事する作業に適した内容及び時間数とすること。
教育の担当者
教育の担当者は、産業用ロボットに関する知識及び作業についての経験を有する者とし、必要に応じてメーカーの技術者、労働安全コンサルタント等専門知識を有する者を活用すること。
異常時の措置についての教育
実技教育には、産業用ロボットに異常が発生した場合にとるべき措置を含めること。
記録
教育を行ったときは、受講者、科目等教育内容について記録し、3年以上保存すること。
産業用ロボットの種類
産業用ロボットには、「垂直多関節ロボット」「水平多関節ロボット」「パラレルリンクロボット」「直交ロボット」「双腕ロボット」といった種類があります。
垂直多関節ロボット
「垂直多関節ロボット」は、人間の腕の構造に近く、自由度の高い3次元的な動作が可能なロボットです。運搬や溶接をはじめとした多岐にわたる用途で活用されており、最も普及しています。
水平多関節ロボット
「水平多関節ロボット」は、関節の回転軸がすべて垂直に揃っており、3次元の動作はできません。制御が容易で、強度が高く、平面的な動きが正確かつ高速という特徴を有しているため、主に基盤の組み立てや運搬作業に活用されています。
パラレルリンクロボット
「パラレルリンクロボット」は、関節を並列に配置したパラレルリンク構造をしているロボットです。最終出力先を複数のアームで制御するため、非常に高速な動作が可能ですが、稼働範囲が狭く、重量があるものを扱うことができないため、主に食品の選定や整列に活用されています。
直交ロボット
「直交ロボット」は、単軸直動ユニット(直線的なユニット)を組み合わせた構造をしているため、直線的な動作に限定され、旋回するような動きはできません。非常にシンプルな構造なため、誤作動が起こりにくく、低出力で省エネであるという特徴があり、自由度の高い垂直多関節ロボットを組み合わせることによって、小さな部品の組み立てや半導体の検査、薬品のピッキング、製品の搬送など、様々な作業に活用されています。
双腕ロボット
「双腕ロボット」は、人間のような2本のアームを持ち、精密で繊細な作業を繰り返し行うことができるロボットです。通常は1つの作業しかできないロボットが主流ですが、双腕を巧みに操ることで、様々な作業を行うことができます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成28年度 第22問】
工場内で利用される産業用ロボットに関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 運転中の作業者への危険を回避するため、労働安全衛生法の規制対象となる産業用ロボットを運転する際には、柵または囲いを必ず設けなければならない。
イ 垂直多関節型ロボットは、上下方向に部品を強く押し込んだりする作業の自動化に向いている。
ウ 水平多関節型ロボットは、多方向からの複雑な作業の自動化に向いている。
エ 労働安全衛生法の規制対象となる産業用ロボットの可動範囲内において教示等を行う作業者は、同法で定める特別教育を必ず受講しなければならない。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
「産業用ロボット」に関する知識を問う問題です。
「産業用ロボット」の種類について知っていれば、選択肢(イ)と(ウ)は不適切だと判断することができますが、選択肢(ア)と(エ)のどちらが正解かを判断するのが非常に難しい問題です。
(ア) 不適切です。
労働者の安全を確保するため、「労働安全衛生規則」において「当該産業用ロボツトに接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、柵又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない。」と定められています。
選択肢では「柵または囲いを必ず設けなければならない。」と記述されていますが、必ずしも「柵または囲い」である必要はなく、当該危険を防止するために必要な措置が講じられていればよいため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
「垂直多関節ロボット」は、人間の腕の構造に近く、自由度の高い3次元的な動作が可能なロボットです。
「垂直多関節ロボット」は、3次元的な動作が可能な構造をしているため、上下方向に部品を強く押し込んだりする作業には適していません。上下方向に部品を強く押し込んだりする作業の自動化に向いているのは、その構造上から間接が上下方向に曲がらない「水平多関節ロボット」であるため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
「水平多関節ロボット」は、関節の回転軸がすべて垂直に揃っており、3次元の動作はできません。したがって、多方向からの複雑な作業の自動化には向いていないため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
「産業用ロボット」を使用する場合、「教示等の業務」に従事する労働者に対して、事業者が「特別教育」を実施することが義務付けられているため、選択肢の内容は適切です。
なお、労働安全衛生規則では、「点検等の業務」に従事する労働者に対しても、同様に事業者が「特別教育」を実施することが義務付けられていますので、ご注意ください。
「点検等を行う作業者」も特別教育を必ず受講しなければならないから不適切だと判断した受験者の方も多かったのではないかと推測されます。
答えは(エ)です。
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