平成26年度の事例Ⅳに関する解答例(案)を説明していきます。
私なりの思考ロジックに基づく解答例(案)を以下に説明しますので、参考としてもらえればと思います。
目次
事例Ⅳ ~平成26年度試験問題一覧~
平成26年度の他の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
限界利益と貢献利益による分析
「限界利益と貢献利益による分析」とは、限られた経営資源で、企業の営業利益を増やすために「製品」や「事業部門」の採算性を分析することをいいます。
「限界利益分析」と「貢献利益分析」は、以下のように使い分けられます。
- 「限界利益分析」は、限られた経営資源で、企業の営業利益を最大にするために、販売(生産)する製品の最適な販売比率(最適セールスミックス)を求めるために活用されます。
- 「貢献利益分析」は、製品ラインナップや事業部門の採算性を見極め、企業全体の利益に貢献していない製品の生産を中止したり、事業部門を廃止する判断をするために活用されます。
第3問(設問1・2)
第3問(配点30点)
D社のセントラルキッチン部門における、人気商品X、Y、Zのロット単位当たり原価情報等は以下の資料のとおりである。生産はロット単位で行われている。生産したものはすべて販売可能であり、期首・期末の仕掛品などはないものとする。
下記の設問に答えよ。
資料 X Y Z 販売単価 5,300円 5,000円 5,500円 変動費 1,500円 1,400円 1,650円 直接作業時間 0.4時間 0.6時間 0.5時間 個別固定費 18,000,000円 17,000,000円 17,000,000円 共通固定費 15,000,000円
(設問1)
現状におけるX、Y、Zそれぞれの限界利益率を求めよ(単位を明記し、小数点第3位を四捨五入すること)。
(設問2)
平成27年度の需要予測がX、Y、Zの順で、10,000、8,000、4,000(それぞれロット数)と予想されている。平成27年度の工場における最大直接作業時間が年間9,600時間とした時、営業利益を最大化するX、Y、Zの生産量の構成比と、その求め方を述べよ。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方(設問1)
「商品X」「商品Y」「商品Z」の「限界利益率」を算出することを求められています。
「限界利益」とは「売上高」から「変動費」を控除した金額であり、「限界利益率」とは「限界利益」を「売上高」で除した数値です。
限界利益
限界利益の公式は以下の通りです。
限界利益率
限界利益率の公式は以下の通りです。
上記の公式により、各商品X、Y、Zの「限界利益率」を求めると以下の通りとなります。
X | Y | Z | |
販売単価 | 5,300円 | 5,000円 | 5,500円 |
変動費 | 1,500円 | 1,400円 | 1,650円 |
限界利益 | 3,800円 | 3,600円 | 3,850円 |
限界利益率 | 71.70% | 72.00% | 70.00% |
解答(設問1)
各製品の限界利益率は以下の通りです。
X | Y | Z |
71.70% | 72.00% | 70.00% |
考え方(設問2)
「商品X」「商品Y」「商品Z」の「最適セールスミックス」に関する問題です。
「最適セールスミックス」とは、限られた経営資源で、企業の営業利益を最大にするために、販売(生産)する商品の最適な販売比率を求めることをいいます。
今回の問題では、「工場における最大直接作業時間が年間9,600時間」との制約があるため「直接作業時間単位の限界利益」が大きい商品を優先して生産することによって、営業利益を最大化することができます。
各商品の「1時間当たりの限界利益」は「商品X:9,500円 > 商品Z:7,700円 > 商品Y:6,000円」となるため、「①商品X」「②商品Z」「③商品Y」の順番に生産数量を決めていきます。
X | Y | Z | |
限界利益 | 3,800円 | 3,600円 | 3,850円 |
直接作業時間 | 0.4時間 | 0.6時間 | 0.5時間 |
1時間当たりの限界利益 | 9,500円/時間 | 6,000円/時間 | 7,700円/時間 |
商品生産の優先順位 | ① | ③ | ② |
問題文において、需要予測が「X:10,000ロット、Y:8,000ロット、Z:4,000ロット」と与えられているため、需要予測の数量までであれば、商品を生産すれば販売することができると見込まれることを示しています。
需要予測以上の商品を生産しても売れ残ってしまうので、需要予測を最大生産数量として各商品の生産数量を求めていきます。
それでは、「①商品X」「②商品Z」「③商品Y」の順番に生産数量を決定していきます。
①商品Xの生産数量
最初に「1時間当たりの限界利益」が一番大きい「商品X」の生産数量を求めるため、「商品X」の需要予測である「10,000ロット」を生産するだけの生産能力を確保できるかについて確認します。
工場における最大直接作業時間が「年間9,600時間」であり、「商品X」を「10,000ロット」生産した場合、直接作業時間が「10,000ロット × 0.4時間/ロット = 4,000時間」であるため、「商品X」を「10,000ロット」生産するための生産能力を確保することが可能です。
- 10,000ロット × 0.4時間/ロット = 4,000時間 < 9,600時間
- 9,600時間 - 4,000時間 = 5,600時間
「商品X」は「10,000ロット」生産して、残りの直接作業時間「年間5,600時間」を他の商品の生産に割り当てることとします。
②商品Zの生産数量
続いて「1時間当たりの限界利益」が大きい「商品Z」の生産数量を求めるため、「商品Z」の需要予測である「4,000ロット」を生産するだけの生産能力を工場で確保できるかについて確認します。
「商品X」を生産した残りの直接作業時間が「年間5,600時間」であり、「商品Z」を「4,000ロット」生産した場合、直接作業時間が「4,000ロット × 0.5時間/ロット = 2,000時間」であるため、「商品Z」を「4,000ロット」生産するための生産能力を確保することが可能です。
- 4,000ロット × 0.5時間/ロット = 2,000時間 < 5,600時間
- 5,600時間 - 2,000時間 = 3,600時間
「商品Z」は「4,000ロット」生産して、残りの直接作業時間「年間3,600時間」を「商品Y」の生産に割り当てます。
③商品Yの生産数量
最後に「1時間当たりの限界利益」が一番小さい「商品Y」の生産数量を求めるため、「商品Y」の需要予測である「8,000ロット」を生産するだけの生産能力を工場で確保できるかについて確認します。
「商品X」「商品Z」を生産した残りの直接作業時間が「年間3,600時間」であり、「商品Y」を「8,000ロット」生産した場合、直接作業時間が「8,000ロット × 0.6時間/ロット = 4,800時間」であるため、「商品Y」を「8,000ロット」生産するだけの生産能力を確保することができません。
「商品Y」については、残りの直接作業時間「年間3,600時間」で生産可能な数量だけ生産することとなります。「商品Y」は1ロットを生産するための所要時間が「0.6時間/ロット」のため、「3,600時間 ÷ 0.6時間/ロット = 6,000ロット」だけ生産するということになります。
- 8,000ロット × 0.6時間/ロット = 4,800時間 > 3,600時間
- 3,600時間 ÷ 0.6時間/ロット = 6,000ロット
- 3,600時間 - 3,600時間 = 0時間
「商品Y」は「6,000ロット」生産します。
④営業利益の確認
「商品X:10,000ロット」「商品Y:6,000ロット」「商品Z:4,000ロット」生産した場合の営業利益を求めてみると、ある事に気が付きます。
「商品Z」の貢献利益がマイナスです!
X | Y | Z | |
売上高 | 53,000,000 | 30,000,000 | 22,000,000 |
変動費 | 15,000,000 | 8,400,000 | 6,600,000 |
限界利益 | 38,000,000 | 21,600,000 | 15,400,000 |
個別固定費 | 18,000,000 | 17,000,000 | 17,000,000 |
貢献利益 | 20,000,000 | 4,600,000 | ▲1,600,000 |
共通固定費 | 15,000,000 | ||
営業利益 | 8,000,000 |
「貢献利益」がマイナスということは、その商品を生産するための費用すら回収できておらず、企業の営業利益を食いつぶしていることを意味しています。
つまり、商品を生産しない方が企業の営業利益は大きくなります。
例えば、上述の営業利益表においては、「商品Z」を生産しなければ、営業利益が「160万円」増加して「960万円」となります。
上記の理由から、営業利益を最大化するためには「商品Z」は生産せずに「①商品X」「②商品Y」の順番に生産数量を決定するという方針に切り替え、「②商品Y」の生産数量をもう一度再計算します。
⑤商品Yの生産数量(再計算)
「商品Y」の生産数量を求めるため、「商品Y」の需要予測である「8,000ロット」を生産するだけの生産能力を工場で確保できるかについて確認します。
「商品X」を生産した残りの直接作業時間が「年間5,600時間」であり、「商品Y」を「8,000ロット」生産した場合、直接作業時間が「8,000ロット × 0.6時間/ロット = 4,800時間」であるため、「商品Y」を「8,000ロット」生産するだけの生産能力を確保することが可能です。
- 8,000ロット × 0.6時間/ロット = 4,800時間 < 5,600時間
- 5,600時間 - 4,800時間 = 800時間
「商品Y」は「8,000ロット」生産します。
直接作業時間に「800時間」の余剰がありますが、これ以上商品を生産しても売れ残ってしまうので、これが営業利益を最大化する商品の生産数量ということになります。
⑥営業利益の確認
改めて「商品X:10,000ロット」「商品Y:8,000ロット」「商品Z:0ロット」とした場合の営業利益を以下に示します。
X | Y | Z | |
売上高 | 53,000,000 | 40,000,000 | - |
変動費 | 15,000,000 | 11,200,000 | - |
限界利益 | 38,000,000 | 28,800,000 | - |
個別固定費 | 18,000,000 | 17,000,000 | - |
貢献利益 | 20,000,000 | 11,800,000 | - |
共通固定費 | 15,000,000 | ||
営業利益 | 16,800,000 |
解答(設問2)
営業利益を最大化するX、Y、Zの生産量の構成比と、その求め方は以下の通りです。
営業利益を最大化するX、Y、Zの生産量の構成比は以下の通りである。 X、Y、Zの生産量の構成比:X:Y:Z=10,000ロット:8,000ロット:0ロット 最大直接作業時間に制約があるため「直接作業1時間当たりの限界利益」が大きい商品を優先して生産すべきである。 各商品の1時間当たりの限界利益:X:Y:Z=9,500円/時間:6,000円/時間:7,700円/時間 商品の優先順位を「商品X > 商品Z > 商品Y」とした場合、生産量の構成比は「X:Y:Z=10,000ロット:6,000ロット:4,000ロット」となるが、商品Zの貢献利益がマイナスとなるため、商品Zは生産しない方が営業利益を最大化することができる。 したがって、商品の優先順位を「商品X > 商品Y」として計算すると、上記の構成比となり、その時の営業利益は「16,800,000円」となり最大化することができる。 |
明日も、引き続き「平成26年度 解答例(6)(限界利益分析/貢献利益分析)」として「第3問(設問3)」について説明します。
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