今回は、「経済学・経済政策」の「需要の価格弾力性」に関する記事のまとめです。
目次
需要の価格弾力性 -リンク-
本ブログにて「需要の価格弾力性」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R4-14 需要・供給・弾力性の概念(1)需要の価格弾力性
- H30-12 需要・供給・弾力性の概念(2)需要の価格弾力性
- H29-13 需要・供給・弾力性の概念(3)需要の価格弾力性
- H25-15 需要・供給・弾力性の概念(4)需要の価格弾力性
需要の価格弾力性(ε:イプシロン)
「需要の価格弾力性」とは、財の価格が1%増減したときに需要が何%変化するかを表しており「価格の変化率」に対する「需要の変化率」として求められます。
ここで重要なのは「需要の価格弾力性」が「価格の変化量」に対する「需要の変化量」ではなく「価格の変化率」に対する「需要の変化率」として表されるということです。
「商品の価格を20円値下げしたら以前よりも200個多く売れた」と言われても、値下げ前の価格や販売数が分からないと値下げによる効果を判断できませんが、値下げ前の価格や販売数に対する変化率を用いている「需要の価格弾力性」を見れば、その効果を定量的に確認することができます。
需要の価格弾力性の公式
「価格の変化率」に対する「需要の変化率」として表される「需要の価格弾力性」の公式を以下に示します。
「需要の価格弾力性」の公式において「需要の変化率 ÷ 価格の変化率」の前に「-(マイナス)」が付いているということは、価格が低下(上昇)したとき需要が増加(減少)すれば「需要の価格弾力性」が「プラス」になることを表しています。
したがって、価格が低下(上昇)したとき需要が増加(減少)する「右下がりの需要曲線」では「需要の価格弾力性」が「プラス」になります。
また、「需要の価格弾力性」は「価格の変化率」に対する「需要の変化率」として求められるため、「需要の価格弾力性」が高いほど「価格」が低下(上昇)したときに「需要」が大幅に増加(減少)することを表しています。
なお、需要曲線は「垂直」であるとき「需要の価格弾力性」は「ゼロ」になります。
「需要の価格弾力性」の公式を変形して導かれるもうひとつの公式を以下に示します。
変形前の公式と比較すると、価格と需要の変化率を求めなくても、グラフの傾き(需要曲線の傾きの逆数)から「需要の価格弾力性」を求めることができるというメリットがあります。
需要曲線のグラフから価格の需要弾力性の絶対値を求める方法
公式ではなく、需要曲線のグラフから「価格の需要弾力性の絶対値」を求める方法について説明していきます。
なお、ここで説明する内容は、需要曲線が「右下がりの直線」であることを前提とさせてください。(それ以外の需要曲線では確認していないので)
「右下がりの需要曲線」における「点E」の「価格の需要弾力性の絶対値」を求めていきます。
右下がりの需要曲線上の点E
財の価格が「点E」から「点F」まで上昇すると、需要量は「点F」から「点A」まで減少するため、「点E」は同一の需要曲線上の「点A」まで左上にシフトします。
この場合の「価格の上昇量(⊿P)」「価格(値上げ前)(P)」「需要量の減少量(⊿Q)」「需要量(値上げ前)(Q)」を以下に示します。
価格の値上げによる点Eのシフト
「需要量の減少量(⊿Q)」である「線CE」と「需要量(値上げ前)(Q)」である「線0D」は長さが同じであるため、「価格の需要弾力性の絶対値」は「線0C ÷ 線AC」として求めることができます。
これを分かりやすく表現すると以下のようになります。
価格の需要弾力性の絶対値(縦軸=価格)
数学の法則の名称は忘れましたが「右下がりの需要曲線」が比例的に減少する直線であることを前提としているため「縦軸」の「線0C」と「線AC」の比率は「横軸」の「線BD」と「線0D」においても成り立ちます。
価格の需要弾力性の絶対値(横軸=需要)
需要の価格弾力性の代表的な特徴
「需要の価格弾力性」の代表的な特徴を以下に2つ示します。
- 右下がりの需要曲線においては、左上に位置する点の方が需要の価格弾力性が高くなります。
- 2つの右下がりの需要曲線の交点においては、傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなります。
1つ目の特徴
「需要の価格弾力性」には「右下がりの需要曲線においては、左上に位置する点の方が需要の価格弾力性が高くなる」という特徴があります。
これは、「需要の価格弾力性」が変化量ではなく変化率により求められるためですが、比例的に減少していく需要曲線(直線)を見たとき、左上に位置する点の方が「需要の価格弾力性」が高くなるというのは、感覚的に非常に分かりにくいので、以下の例で確認していきます。
「右下がりの需要曲線」において、価格が80円で需要量が200個である「点a」と、価格が40円で需要量が600個である「点b」があるとします。
右下がりの需要曲線の「点a」と「点b」
財の価格を20円値下げすると「点a」と「点b」はそれぞれ同一の需要曲線上の「点A」と「点B」にシフトして需要が200個増加します。
「点a」と「点b」の「需要の価格弾力性」は「εa=4 > εb=0.67」となるため「右下がりの需要曲線」において左上に位置する「点a」の方が右下に位置する「点b」よりも「需要の価格弾力性」が高くなることが分かります。
需要曲線上の「点a」と「点b」における需要の価格弾力性
「点a」の方が「点b」よりも「需要の価格弾力性」が高いと言われても、グラフで見るとやはり感覚的に理解できないので、表にして言葉で表してみます。
「点a」の需要の価格弾力性
価格を「25%」値下げすると需要が「100%」増えるため「需要の価格弾力性」は「4」である。
値下げ前 | 値下げ後 | 変化量 | 変化率 | 需要の価格弾力性 | |
需要(分子) | 200個 | 400個 | 200個 | 100% | 4 |
価格(分母) | 80円 | 60円 | ▲20円 | ▲25% |
「右下がりの需要曲線」において左上に位置する「点a」では、分母である価格の変化率は小さく、分子である需要の変化率が大きくなるため「需要の価格弾力性」が高くなります。
「点b」の需要の価格弾力性
価格を「50%」値下げすると需要が「33.3%」増えるため「需要の価格弾力性」は「0.67」である。
値下げ前 | 値下げ後 | 変化量 | 変化率 | 需要の価格弾力性 | |
需要(分子) | 600個 | 800個 | 200個 | 33.3% | 0.67 |
価格(分母) | 40円 | 20円 | ▲20円 | ▲50% |
「右下がりの需要曲線」において右下に位置する「点b」では、分母である価格の変化率が大きく、分子である需要の変化率が小さくなるため「需要の価格弾力性」が低くなります。
こうやって表にして言葉で表した方が、「右下がりの需要曲線」において左上に位置する「点a」の方が右下に位置する「点b」よりも「需要の価格弾力性」が高くなることを理解しやすいかと思います。
2つ目の特徴
「需要の価格弾力性」には「2つの右下がりの需要曲線の交点においては、傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなる」という特徴があります。
「2つの右下がりの需要曲線の交点において」という条件は省略して表現されることが多いのですが、この条件が無ければ「傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなる」という特徴が成立しないケースについて説明します。
「需要曲線のグラフから価格の需要弾力性の絶対値を求める方法」の補足で説明した通り「需要の価格弾力性」は「右下がりの需要曲線」の中点で必ず「1」となるため、「右下がりの需要曲線」には必ず「需要の価格弾力性」が「1」よりも高くなる部分(中点より左上)と「1」よりも低くなる部分(中点より右下)が存在します。
同一需要曲線上における需要の価格弾力性の変化
つまり、以下のような例では、傾きが急な需要曲線にある「点A」の方が、傾きが緩やかな需要曲線にある「点B」よりも「需要の価格弾力性」が高くなるため、傾きが緩やかな需要曲線であればどこでも、傾きが急な需要曲線より「需要の価格弾力性」が高くなるという訳ではありません。
傾きが異なる需要曲線のある点における需要の価格弾力性
したがって、「傾きが緩やかな需要曲線の方が、傾きが急な需要曲線よりも、需要の価格弾力性が高くなる」という特徴には、「2つの需要曲線の交点において」という条件が必要だということになります。
傾きが異なる需要曲線の交点における需要の価格弾力性
需要の価格弾力性と需要曲線の形状
試験でもよく出題される「需要の価格弾力性が1以上の需要曲線」や「需要の価格弾力性が1以下の需要曲線」とは具体的にどのような需要曲線なのかについて説明していきます。
「需要曲線のグラフから価格の需要弾力性の絶対値を求める方法」の補足で説明した通り「需要の価格弾力性」は「右下がりの需要曲線」の中点で必ず「1」となるため、「右下がりの需要曲線」には必ず「需要の価格弾力性」が「1」よりも高くなる部分(中点より左上)と「1」よりも低くなる部分(中点より右下)が存在します。
そのため、単純に傾きが緩やかな需要曲線の全てが「需要の価格弾力性が1以上の需要曲線」という訳ではなく、また単純に傾きが急な需要曲線の全てが「需要の価格弾力性が1以下の需要曲線」という訳でもありません。
需要の価格弾力性が1以上の需要曲線
「需要の価格弾力性が1以上の需要曲線」とは、傾きが緩やかで「需要の価格弾力性」が1以上となる部分(中点より左上)だけが描かれた「右下がりの需要曲線」のことをいいます。
需要の価格弾力性が1以下の需要曲線
「需要の価格弾力性が1以下の需要曲線」とは、傾きが急で「需要の価格弾力性」が1以下となる部分(中点より右下)だけが描かれた「右下がりの需要曲線」のことをいいます。
需要の価格弾力性と価格・売上の関係
企業としては、財の価格を変化させたときに需要がどれくらい増減するかではなく、売上がどれくらい増減するかを確認したいはずであるため、「価格の需要弾力性」と「財の価格」と「売上」の関係について確認していきます。
「需要の価格弾力性」が「1」よりも高い場合、財の価格を値下げすると、価格の値下げによる売上の減少よりも需要の増加による売上の増加の方が大きくなるため、売上が増加します。逆に、財の価格を値上げすると、価格の値上げによる売上の増加よりも需要の減少による売上の減少の方が大きくなるため、売上が減少します。
「需要の価格弾力性」が「1」よりも低い場合、財の価格を値下げすると、価格の値下げによる売上の減少の方が需要の増加による売上の増加よりも大きくなるため、売上が減少します。逆に、財の価格を値上げすると、価格の値上げによる売上の増加の方が需要の減少による売上の減少よりも大きくなるため、売上が増加します。
「需要の価格弾力性」が「1」の場合、財の価格を変化させても、価格の値下げ(値上げ)と需要の増加(減少)による売上の増減が相殺されるため、売上は増減しません。
価格を値下げした場合
価格を10%値下げした場合の「需要の価格弾力性」と売上の関係を以下に示します。
価格を値下げすると、「需要の価格弾力性」が「1」よりも低ければ売上が減少していき「需要の価格弾力性」が「1」よりも高ければ売上が増加していきます。
これは、「需要の価格弾力性」が「1」よりも高い場合は、価格の値下げによる売上の減少よりも需要の増加による売上の増加の方が大きくなるため、結果として売上が増加することを表しています。
需要の価格弾力性 | 価格 | 数量 | 売上 | 売上の変化率 | ||
変化率 | 価格 | 変化率 | 数量 | |||
現在(値下げ前) | - | ¥100 | - | 1,000 個 | ¥100,000 | - |
0.1 | ▲10% | ¥90 | 1% | 1,010 個 | ¥90,900 | 90.9% |
0.2 | ▲10% | ¥90 | 2% | 1,020 個 | ¥91,800 | 91.8% |
0.3 | ▲10% | ¥90 | 3% | 1,030 個 | ¥92,700 | 92.7% |
0.4 | ▲10% | ¥90 | 4% | 1,040 個 | ¥93,600 | 93.6% |
0.5 | ▲10% | ¥90 | 5% | 1,050 個 | ¥94,500 | 94.5% |
0.6 | ▲10% | ¥90 | 6% | 1,060 個 | ¥95,400 | 95.4% |
0.7 | ▲10% | ¥90 | 7% | 1,070 個 | ¥96,300 | 96.3% |
0.8 | ▲10% | ¥90 | 8% | 1,080 個 | ¥97,200 | 97.2% |
0.9 | ▲10% | ¥90 | 9% | 1,090 個 | ¥98,100 | 98.1% |
1.0 | ▲10% | ¥90 | 10% | 1,100 個 | ¥99,000 | 99.0% |
1.1 | ▲10% | ¥90 | 11% | 1,110 個 | ¥99,900 | 99.9% |
1.2 | ▲10% | ¥90 | 12% | 1,120 個 | ¥100,800 | 100.8% |
1.3 | ▲10% | ¥90 | 13% | 1,130 個 | ¥101,700 | 101.7% |
1.4 | ▲10% | ¥90 | 14% | 1,140 個 | ¥102,600 | 102.6% |
1.5 | ▲10% | ¥90 | 15% | 1,150 個 | ¥103,500 | 103.5% |
1.6 | ▲10% | ¥90 | 16% | 1,160 個 | ¥104,400 | 104.4% |
1.7 | ▲10% | ¥90 | 17% | 1,170 個 | ¥105,300 | 105.3% |
1.8 | ▲10% | ¥90 | 18% | 1,180 個 | ¥106,200 | 106.2% |
1.9 | ▲10% | ¥90 | 19% | 1,190 個 | ¥107,100 | 107.1% |
2.0 | ▲10% | ¥90 | 20% | 1,200 個 | ¥108,000 | 108.0% |
価格を値上げした場合
価格を10%値上げした場合の「需要の価格弾力性」と売上の関係を以下に示します。
価格を値上げすると、「需要の価格弾力性」が「1」よりも低ければ売上が増加していき「需要の価格弾力性」が「1」よりも高ければ売上が減少していきます。
これは、「需要の価格弾力性」が「1」よりも低い場合は、価格の値上げによる売上の増加よりも需要の減少による売上の減少の方が小さくなるため、結果として売上が増加することを表しています。
需要の価格弾力性 | 価格 | 数量 | 売上 | 売上の変化率 | ||
変化率 | 価格 | 変化率 | 数量 | |||
現在(値上げ前) | - | ¥100 | - | 1,000 個 | ¥100,000 | - |
0.1 | 10% | ¥110 | ▲1% | 990 個 | ¥108,900 | 108.9% |
0.2 | 10% | ¥110 | ▲2% | 980 個 | ¥107,800 | 107.8% |
0.3 | 10% | ¥110 | ▲3% | 970 個 | ¥106,700 | 106.7% |
0.4 | 10% | ¥110 | ▲4% | 960 個 | ¥105,600 | 105.6% |
0.5 | 10% | ¥110 | ▲5% | 950 個 | ¥104,500 | 104.5% |
0.6 | 10% | ¥110 | ▲6% | 940 個 | ¥103,400 | 103.4% |
0.7 | 10% | ¥110 | ▲7% | 930 個 | ¥102,300 | 102.3% |
0.8 | 10% | ¥110 | ▲8% | 920 個 | ¥101,200 | 101.2% |
0.9 | 10% | ¥110 | ▲9% | 910 個 | ¥100,100 | 100.1% |
1.0 | 10% | ¥110 | ▲10% | 900 個 | ¥99,000 | 99.0% |
1.1 | 10% | ¥110 | ▲11% | 890 個 | ¥97,900 | 97.9% |
1.2 | 10% | ¥110 | ▲12% | 880 個 | ¥96,800 | 96.8% |
1.3 | 10% | ¥110 | ▲13% | 870 個 | ¥95,700 | 95.7% |
1.4 | 10% | ¥110 | ▲14% | 860 個 | ¥94,600 | 94.6% |
1.5 | 10% | ¥110 | ▲15% | 850 個 | ¥93,500 | 93.5% |
1.6 | 10% | ¥110 | ▲16% | 840 個 | ¥92,400 | 92.4% |
1.7 | 10% | ¥110 | ▲17% | 830 個 | ¥91,300 | 91.3% |
1.8 | 10% | ¥110 | ▲18% | 820 個 | ¥90,200 | 90.2% |
1.9 | 10% | ¥110 | ▲19% | 810 個 | ¥89,100 | 89.1% |
2.0 | 10% | ¥110 | ▲20% | 800 個 | ¥88,000 | 88.0% |
コメント