今回は、「経済学・経済政策 ~R4-6-1 市場均衡・不均衡(14)45度線分析・乗数効果~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~令和4年度一次試験問題一覧~
令和4年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
消費(C)
ケインズ型消費関数(税金を考慮しない場合)
税金を考慮しない場合の「ケインズ型消費関数」は、所得水準に関わらず発生する「基礎消費(a)」と、「限界消費性向(b)」に「GDP(Y)」を乗じた「変動消費(bY)」を合計することにより求めることができます。
基礎消費(a)
「基礎消費(a)」とは、所得水準に関わらず発生する消費のことをいいます。
限界消費性向(b)
「限界消費性向(b)」とは「所得(Y)」が1単位増加したときの「消費(C)」の変化量のことをいいます。
「 Y = C+I+G 」であり「 Y > C 」の関係が成立するため「限界消費性向(b)」は「0 < b < 1」の範囲で推移します。
「限界消費性向」は「ケインズ型消費曲線」の「傾き」として表されます。
平均消費性向( C ÷ Y )
「限界消費性向(b)」に似た指標として「平均消費性向」という指標があります。
「平均消費性向」は、「原点(0)」と「所得(Y)」により決定する「消費(C)」をつなぐ曲線の傾きとして表されます。
「平均消費性向」は「C(縦軸)÷ Y(横軸)」で求められます。
「基礎消費(a)」と「限界消費性向(b)」が一定であるとした場合、「平均消費性向」は「所得(Y)」が増加するにつれて小さくなります。
式で表さなくとも、上述のグラフで「所得(Y)」を増加させる(右に動かす)ことをイメージすると「所得(Y)」が増加するにつれて「平均消費性向(傾き)」が小さくなることが分かると思います。
ケインズ型消費関数(税金を考慮した場合)
税金を考慮した場合の「ケインズ型消費関数」は、所得水準に関わらず発生する「基礎消費(a)」と、「限界消費性向(b)」に「所得(Y)」から「税金(T)」を差し引いた「可処分所得(Yd)」を乗じた「変動消費(b(Y-T))」を合計することにより求めることができます。
税金(T)
「税金(T)」は、「定額税(T0)」と、「所得(Y)」に「税率(t)」を乗じた「定率税(tY)」を合計することにより求めることができます。
「税金(T)」を「定額税(T0)」と「定率税(tY)」で表した場合の「ケインズ型消費関数」を以下に示します。
貯蓄(S)
貯蓄関数(税金を考慮しない場合)
税金を考慮しない場合の「貯蓄関数」は「所得(Y)」から「消費(C)」を控除することにより求めることができます。
「貯蓄関数」に「ケインズ型消費関数( C = a + bY )」を代入して変形すると以下のようになります。
限界貯蓄性向(1-b)
「限界貯蓄性向(1-b)」とは「所得(Y)」が1単位増加したときの「貯蓄(S)」の変化量のことをいい、「限界貯蓄性向 = 1 - 限界消費性向」として求めることができます。
「 S = Y - C 」であり「 S < Y 」の関係が成立するため「限界貯蓄性向(1-b)」は「0 < 1-b < 1」の範囲で推移します。
「ケインズ型消費関数( C = a + bY )」を代入して変形した「貯蓄関数」から分かるように、「貯蓄(S)」は「傾き(1-b)」で「所得(Y)」に比例して増加する金額から「基礎消費(a)」を控除することにより求められます。
「限界貯蓄性向」は「貯蓄曲線」の「傾き」として表されます。
平均貯蓄性向( S ÷ Y )
「限界貯蓄性向(1-b)」に似た指標として「平均貯蓄性向」という指標があります。
「平均貯蓄性向」は、「原点(0)」と「所得(Y)」により決定する「貯蓄(S)」をつなぐ曲線の傾きとして表されます。
「平均貯蓄性向」は「S(縦軸)÷ Y(横軸)」で求められます。
「基礎消費(a)」と「限界貯蓄性向(1-b)」が一定であるとした場合、「平均貯蓄性向」は「所得(Y)」が増加するにつれて大きくなります。
式で表さなくとも、上述のグラフで「所得(Y)」を増加させる(右に動かす)ことをイメージすると「所得(Y)」が増加するにつれて「平均貯蓄性向(傾き)」が大きくなることが分かると思います。
45度線分析
「45度線分析」とは、「45度線図」を用いて、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」の関係を分析する手法のことをいいます。
財市場においては「総供給(YS)= GDP(Y)」の関係が成り立つため、縦軸に「総供給(YS)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「総供給曲線」が角度45度の曲線として描画されることから「45度線図」と呼ばれています。
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
様々な要因により「総需要(YD)」が増加(減少)すると、企業による生産量が調整されて「総供給(YS)」が増加(減少)していき、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図
総供給曲線
財市場の「総供給(YS)」が「GDP(Y)」と等しく「総供給(YS)= GDP(Y)」の関係が成り立つため、縦軸に「総供給(YS)」を、横軸に「GDP(Y)」を取ったグラフにおいて「総供給曲線」は角度45度の曲線となります。
45度線図(総供給曲線)
総需要曲線
財市場の「総需要(YD)」は、試験問題で与えられることが多いですが、「総需要関数」には国内取引のみを対象とした「閉鎖経済(YD = C+I+G)」や、海外との輸出入取引を含む「開放経済(YD = C+I+G+EX-IM)」などのパターンがあります。
なお、「消費(C)」には「ケインズ型消費関数」が用いられます。
- 閉鎖経済(国内取引のみ)
YD = C+I+G(消費:C、投資:I、政府支出:G) - 開放経済(輸出入含む)
YD = C+I+G+EX-IM(消費:C、投資:I、政府支出:G、EX:輸出、IM:輸入)
国内取引のみを対象とする「閉鎖経済」を前提とした「総需要曲線」を以下に示します。
45度線図(総需要曲線)
均衡GDP
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
45度線図(均衡GDP)
超過需要
「GDP(Y)」が「均衡GDP(YE)」よりも低い領域(左側の領域)では「総需要曲線」の方が「総供給曲線」よりも上に位置するため「超過需要(YD>YS)」となっています。
「超過需要(YD>YS)」となっている場合は、企業が生産量(供給量)を増加させていくため、「GDP(Y)」が徐々に増加して、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図(超過需要)
超過供給
「GDP(Y)」が「均衡GDP(YE)」よりも高い領域(右側の領域)では「総供給曲線」の方が「総需要曲線」よりも上に位置するため「超過供給(YD<YS)」となっています。
「超過供給(YD<YS)」となっている場合は、企業が生産量(供給量)を減少させていくため、「GDP(Y)」が徐々に減少して、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図(超過供給)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和4年度 第6問】
下図は、45度線図である。この図において、総需要はAD=C+I+G(ただし、ADは総需要、Cは消費支出、Iは投資支出、Gは政府支出)、消費関数はC=C0+cY(ただし、C0は基礎消費、cは限界消費性向(0<c<1)、YはGDP)によって表されるとする。図中におけるYFは完全雇用GDP、Y0は現実のGDPである。
この図に基づいて、下記の設問に答えよ。
(設問1)
この図に関する記述の正誤の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
a 総需要線ADの傾きは、cに等しい。
b 投資支出1単位の増加によるGDPの増加は、政府支出1単位の増加によるGDPの増加より大きい。
c 総需要線ADの縦軸の切片の大きさは、C0である。
[解答群]
ア a:正 b:正 c:誤
イ a:正 b:誤 c:正
ウ a:正 b:誤 c:誤
エ a:誤 b:正 c:誤
オ a:誤 b:誤 c:正
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問1)
「45度線分析」と「乗数効果」に関する知識を問う問題です。
45度線分析
「45度線分析」とは、「45度線図」を用いて、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」の関係を分析する手法のことをいいます。
「45度線図」において、財市場の「総需要(YD)」と「総供給(YS)」は「総需要曲線」と「総供給曲線」の交点で均衡します。このように、「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「GDP(Y)」のことを「均衡GDP(YE)」といいます。
様々な要因により「総需要(YD)」が増加(減少)すると、企業による生産量が調整されて「総供給(YS)」が増加(減少)していき、最終的に「総需要(YD)=総供給(YS)」となる「均衡GDP(YE)」に落ち着きます。
45度線図
総需要関数(傾き/縦軸の切片)の算出
問題で与えられた「総需要関数(AD)」と「消費関数(C)」は以下の通りです。
- 総需要関数(AD)
AD = C + I + G( ADは総需要、Cは消費支出、Iは投資支出、Gは政府支出 ) - 消費関数(C)
C = C0 + cY( C0は基礎消費、cは限界消費性向(0<c<1)、YはGDP )
問題で与えられた「総需要関数(AD)」において「消費支出(C)」に「消費関数(C0+cY)」を代入して変形します。
- AD = C + I + G
- AD = C0 + cY + I + G (※)「C」に「C0 + cY」を代入
- AD = cY +( C0 + I + G )
「総需要関数(AD)」の傾きと縦軸の切片は以下の通りです。
- 傾き:c
- 縦軸の切片:C0 + I + G
総需要曲線(傾き/縦軸の切片)
乗数(投資乗数/政府支出乗数)の算出
「投資乗数」「政府支出乗数」とは「GDP(Y)」が均衡している財市場において「投資支出(I)」「政府支出(G)」が1単位変化したときに「GDP(Y)」がどれくらい変化するかを表す係数のことをいいます。
財市場において「GDP(Y)」が均衡しているということは「総供給(AD)= GDP(Y)」の関係が成立していることを意味しているため「総需要関数」の左辺(AD)に「GDP(Y)」を代入して「Y=」という形に変形します。
- AD = cY +( C0 + I + G )
- Y = cY +( C0 + I + G ) (※)「AD」に「Y」を代入
- ( 1-c )× Y = C0 + I + G
- Y = 1 ÷( 1-c )× C0 + 1 ÷( 1-c )× I + 1 ÷( 1-c )× G
「投資乗数」と「政府支出乗数」は以下の通りです。
- 投資乗数:1 ÷( 1-c )
- 政府支出乗数:1 ÷( 1-c )
(a) 適切です。
問題で与えられた「総需要関数(AD)」において「消費支出(C)」に「消費関数(C0+cY)」を代入して変形します。
- AD = C + I + G
- AD = C0 + cY + I + G (※)「C」に「C0 + cY」を代入
- AD = cY +( C0 + I + G )
「総需要関数(AD)」の傾きと縦軸の切片は以下の通りです。
- 傾き:c
- 縦軸の切片:C0 + I + G
総需要曲線(傾き/縦軸の切片)
したがって、総需要線ADの傾きは「c」に等しいため、選択肢の内容は適切です。
(b) 不適切です。
「投資乗数」「政府支出乗数」とは「GDP(Y)」が均衡している財市場において「投資支出(I)」「政府支出(G)」が1単位変化したときに「GDP(Y)」がどれくらい変化するかを表す係数のことをいいます。
財市場において「GDP(Y)」が均衡しているということは「総供給(AD)= GDP(Y)」の関係が成立していることを意味しているため「総需要関数」の左辺(AD)に「GDP(Y)」を代入して「Y=」という形に変形します。
- AD = cY +( C0 + I + G )
- Y = cY +( C0 + I + G ) (※)「AD」に「Y」を代入
- ( 1-c )× Y = C0 + I + G
- Y = 1 ÷( 1-c )× C0 + 1 ÷( 1-c )× I + 1 ÷( 1-c )× G
「投資乗数」と「政府支出乗数」は以下の通りです。
- 投資乗数:1 ÷( 1-c )
- 政府支出乗数:1 ÷( 1-c )
したがって、投資支出1単位の増加によるGDPの増加は、政府支出1単位の増加によるGDPの増加より大きいのではなく同じであるため、選択肢の内容は不適切です。
(c) 不適切です。
問題で与えられた「総需要関数(AD)」において、「消費支出(C)」に「消費関数(C0 + cY)」を代入して変形します。
- AD = C + I + G
- AD = C0 + cY + I + G (※)「C」に「C0 + cY」を代入
- AD = cY +( C0 + I + G )
「総需要関数(AD)」の傾きと縦軸の切片は以下の通りです。
- 傾き:c
- 縦軸の切片:C0 + I + G
総需要曲線(傾き/縦軸の切片)
したがって、総需要線ADの縦軸の切片の大きさは「C0」ではなく「C0 + I + G」であるため、選択肢の内容は不適切です。
「a:正 b:誤 c:誤」であるため、答えは(ウ)です。
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