今回は、「財務・会計 ~R4-23 株式指標(8)配当政策による影響~」について説明します。
目次
株式指標 -リンク-
一次試験に向けて「株式指標」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- R5-14 株式指標(9)
- R4-17 株式指標(7)サスティナブル成長率
- R1-19 株式指標(6)
- H30-21 株式指標(5)
- H26-20-2 株式指標(1)
- H25-20 株式指標(2)
- H23-20-3 株式指標(3)
- H22-19 株式指標(4)
ROE(自己資本当期純利益率/Return On Equity)
「ROE(自己資本当期純利益率)」とは、「純資産(株主資本、自己資本)」に対する「当期純利益(税引後当期純利益)」の比率を示す指標であり「自己資本利益率」「株主資本利益率」とも呼ばれます。
「ROE(自己資本当期純利益率)」は、企業の収益力を示す財務指標の一つであり、自己資本によってどれだけ効率的に利益を生み出すことができているかを表す重要な指標であり、数値が高いほど収益性が高いことを示しています。
企業は、「株主資本(自己資本)」と「負債(他人資本)」で構成される「資本」を投下して事業を行い、その結果として「営業利益」を獲得します。さらに、「営業利益」から「他人資本」の債務者に対して「利息」を支払った後の残額を「経常利益」といい、「経常利益」から法人税等を納付した後の残額を「税引後当期純利益」といいます。
したがって、債務者への支払額や法人税等の納付額を控除した「税引後当期純利益」が「株主資本(自己資本)」を元手にして獲得した純粋な利益であり、株主に対する配当金の源泉となるため、「税引後当期純利益」を「株主資本(自己資本)」で除して求めた「ROE(自己資本利益率)」は、配当金を受け取る株主にとって非常に重要な指標です。
「ROE(自己資本当期純利益率)」は、この後説明する「PER(株価収益率)」と「PBR(株価純資産倍率)」を用いて、以下の公式でも算出することができます。
ROEの分解による理解
上述の通り、「ROE(自己資本当期純利益率)」は「純資産(株主資本、自己資本)」に対する「当期純利益(税引後当期純利益)」の比率として表されますが、「収益性」と「効率性」と「安全性」の指標に分解すると、「ROE(自己資本当期純利益率)」を高めるためには「収益性を高める」「効率性を上げる」「負債の割合を増やす」という3つの方法があることが分かります。
財務レバレッジ
上図で出てきた「財務レバレッジ」とは安全性を示す財務指標であり、自己資本比率の逆数(総資本÷自己資本)で求められます。総資本に占める自己資本が小さくなるほど高くなるため、銀行からの借入金などの負債を増やすほど、財務レバレッジの数値が高くなります。
一般的に資本構成における負債の割合が高くなると倒産リスクが高まり経営上好ましくないと考えがちですが、借入金等により調達した資本で利益を上げることができれば、企業としては良い経営状態にあるということになります。
ここで注意が必要なのは、ROEを高くするためには、ただ単に借入金を増やせばよいのではなく、借入金により調達した資本で売上や当期純利益を高める必要があるということです。
「財務レバレッジ」の「レバレッジ」とは、日本語では「てこの原理」のことを示しており、少ない資金で大きな利益を手に入れるという意味で使われます。
つまり、少ない資金(自己資本)でも借入金(他人資本)を活用することで、事業の効率性を高める(大きな利益を手に入れる)ことができるということを示しています。
配当性向
配当性向は、当期純利益(税引後利益)に対する配当金の比率を示す指標であり、当期純利益1円当たりいくらの配当金が支払われているかを示しています。
投資家にとって、配当性向は企業がどの程度の利益を還元しているかを確認する重要な指標です。
発行済み株式全体で考えた場合、配当性向は以下の式で表されることもあります。
配当利回り
配当利回りは、株価に対する配当金の比率を示す指標であり、1株当たりいくらの配当金が支払われているかを示しています。
投資家にとって、配当利回りは企業がどの程度の利益を還元しているかを確認する重要な指標です。
発行済み株式全体で考えた場合、配当利回りは以下の式で表されることもあります。
DOE(株主資本配当率/Dividend on Equity)
株主資本配当率(DOE)は、純資産(株主資本、自己資本)に対する配当金の比率を示す指標であり、企業が株主に対してどの程度の利益還元を行っているかを示す指標です。
株主への配当水準を示す指標としては、一般的に「配当性向(=配当金÷当期純利益)」という指標が用いられますが、「配当性向」を算出するための「当期純利益」は毎期の数値変動が大きいため、投資家は株主資本という金額変動の少ない数値を基準にした「株主資本配当率」を用いて配当水準を確認することもできます。
株主資本配当率(DOE)は「株主資本利益率(ROE)」と「配当性向」から以下の公式でも求めることができます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和4年度 第23問】
配当政策に関する記述として、最も適切なものはどれか。ただし、他の条件は一定とする。
ア 1株当たり配当金額を一定にする政策では、当期の利益額にかかわらず配当性向は変わらない。
イ 自己資本配当率( 配当額 ÷ 期首自己資本 )を一定にする政策では、当期の利益額にかかわらず1株当たり配当金額は変わらない。
ウ 当期の利益額のうち投資に必要な支出分を留保し、残余を配当する政策では、当期の利益額にかかわらず配当性向は変わらない。
エ 配当性向を一定にする政策では、当期の利益額にかかわらず自己資本配当率( 配当額 ÷ 期首自己資本 )は変わらない。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
配当政策による株式指標への影響に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
配当性向は、当期純利益(税引後利益)に対する配当金の比率を示す指標であり、当期純利益1円当たりいくらの配当金が支払われているかを示しています。
1株当たり配当金額を一定にする政策では、「1株当たり配当金額(分子)」は固定されますが、当期の利益額が変動すると「1株あたりの当期の利益額(分母)」が変化するため「配当性向」も変化します。
したがって、1株当たり配当金額を一定にする政策では、当期の利益額が変動すると配当性向が変化するため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
株主資本配当率(DOE)は、純資産(株主資本、自己資本)に対する配当金の比率を示す指標であり、企業が株主に対してどの程度の利益還元を行っているかを示す指標です。
「自己資本配当率( 配当額 ÷ 期首自己資本 )」を一定にする政策では、当期の利益額が変動しても「配当額(分子)」「期首自己資本(分母)」は両方とも変化しません。
したがって、自己資本配当率( 配当額 ÷ 期首自己資本 )を一定にする政策では、当期の利益額にかかわらず1株当たり配当金額は変わらないため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
配当性向は、当期純利益(税引後利益)に対する配当金の比率を示す指標であり、当期純利益1円当たりいくらの配当金が支払われているかを示しています。
発行済み株式全体で考えた場合、配当性向は以下の式で表されます。
当期の利益額のうち投資に必要な支出分を留保し残余を配当する政策では、当期の利益額が変動すると「配当額(当期の利益額-内部留保額)(分子)」「当期の利益額(分母)」の両方が変化します。
「分子」と「分母」の両方が変化するため、当期の利益額が変動したとき「配当性向」が変化するのかについて仮の金額で確認してみます。
当期の利益額が1,000万円の場合
- 当期の利益額:1,000万円
- 内部留保額(投資に必要な支出分):800万円(固定)
- 配当性向
=( 当期の利益額 - 内部留保額 )÷ 当期の利益額
=( 1,000万円 - 800万円 )÷ 1,000万円 × 100% = 20%
当期の利益額が900万円の場合
- 当期の利益額:900万円
- 内部留保額(投資に必要な支出分):800万円(固定)
- 配当性向
=( 当期の利益額 - 内部留保額 )÷ 当期の利益額
=( 900万円 - 800万円 )÷ 900万円 × 100% ≒ 11%
当期の利益額が変動したとき「配当性向」が変化することが確認できました。
したがって、当期の利益額のうち投資に必要な支出分を留保し残余を配当する政策では、当期の利益額が変動すると配当性向が変化するため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
株主資本配当率(DOE)は、純資産(株主資本、自己資本)に対する配当金の比率を示す指標であり、企業が株主に対してどの程度の利益還元を行っているかを示す指標です。
株主資本配当率(DOE)は「株主資本利益率(ROE)」と「配当性向」から以下の公式でも求めることができます。
「配当性向」を一定にする政策では、当期の利益額が変動しても「期首自己資本(分母)」は変化しませんが「配当額(分子)」が変化するため「自己資本配当率」も変化します。
したがって、配当性向を一定にする政策では、当期の利益額が変動すると配当額が変化するため、自己資本配当率( 配当額 ÷ 期首自己資本 )も変化します。選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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