今回は、「運営管理 ~R3-12 資材調達(9)発注方式~」について説明します。
目次
運営管理 ~令和3年度一次試験問題一覧~
令和3年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
日程計画 -リンク-
本ブログにて、日程計画の「在庫管理」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 資材調達
- R3-12 資材調達(9)発注方式
- R2-13 資材調達(8)発注方式
- R1-10 資材調達(7)経済的発注量(EOQ)
- H30-13 資材調達(1)資材調達
- 商品在庫管理
在庫管理
「在庫管理」は、「部品・材料・仕掛品・商品・製品」といった一時的に保管する物品について、適切な在庫水準を設定して維持管理していくことを目的としています。
「在庫管理方式」には、「定期発注方式」「定量発注方式」「ダブルビン方式」といった方式があり、「ABC分析」によって、それぞれに適した「在庫管理方式」を採用して運用します。
在庫管理
必要な資材を、必要なときに、必要な量を、必要な場所へ供給できるように、各種品目の在庫を好ましい水準に維持するための諸活動。
備考 在庫管理の方式として、定量発注方式と定期発注方式に大別される。(JISZ8141-7301)
在庫管理方式
「在庫管理方式」には、「定期発注方式」「定量発注方式」「ダブルビン方式」といった方式があります。それぞれの「在庫管理方式」の概要を以下に示します。
在庫管理方式の概要
- 定期発注方式
「定期発注方式」とは、「あらかじめ定めた発注間隔」で、発注の都度、必要な発注量を計算して発注する「在庫管理方式」のことをいいます。 - 定量発注方式
「定量発注方式」とは、在庫量がある一定量まで減少した時点で、「あらかじめ定められた一定量」を発注する「在庫管理方式」のことをいいます。 - ダブルビン方式
「ダブルビン方式」とは、複棚法、二棚法、ツービン法とも呼ばれる「在庫管理方式」であり、同じ容量のビン(容器・箱)を2つ用意して、片方のビン(容器・箱)が空となり、他方のビン(容器・箱)に入った在庫を使用し始めたタイミングで、空となったビン(容器・箱)の分だけ発注する方式です。
発注する容量は、ビン(容器・箱)の大きさで一定量となるため、定量発注方式の簡易版と位置づけられます。
在庫管理方式のメリットとデメリット
「定期発注方式」「定量発注方式」「ダブルビン方式」のメリットとデメリットを以下に示します。
在庫管理方式 | メリット | デメリット |
定期発注方式 | 需要変動の激しいものであっても、発注量の調整によって、品切れや過剰在庫を防ぐことができるため、適正在庫水準の維持管理に適している。 | 発注の都度、必要な発注量を計算して発注するため、手間がかかり運用管理が複雑である。 |
定量発注方式 | 手間がかからず運用管理が容易である。 | 需要変動の激しいものの場合、品切れや過剰在庫を起こしやすいため不向きである。 |
ダブルビン方式 | 最も手間がかからず運用管理が容易である。 | 需要変動の激しいものの場合、品切れや過剰在庫を起こしやすいため不向きである。 |
それぞれの物品に、どの在庫管理方式を適用するかについて検討するためには、「ABC分析」を活用します。
定期発注方式
「定期発注方式」とは、「あらかじめ定めた発注間隔」で、発注の都度、必要な発注量を計算して発注する「在庫管理方式」のことをいいます。
定期発注方式
あらかじめ定めた発注間隔で、発注量を発注ごとに決めて発注する在庫管理方式。
備考 発注量は、次の式で表される。
発注量 =( 発注間隔 + 調達期間 )中の需要推定量 - 発注残 - 手持在庫量 + 安全在庫量(JISZ8141-7321)
定期発注方式のメリットとデメリット
「定期発注方式」では、あらかじめ定期的に設定した発注の都度、必要な発注量を計算するため、需要変動の激しいものであっても、発注量を調整することによって、品切れや過剰在庫を防ぐことができるため、適正在庫水準の維持管理に適しているというメリットがあります。
一方で、「定期発注方式」では、あらかじめ定期的に設定した発注の都度、必要な発注量を計算する必要があるため、手間がかかり運用管理が複雑であるというデメリットもあります。
定期発注方式のイメージ
「定期発注方式」のイメージを以下に示します。
- 品切れを起こさないように、最低限保有しておくべき「安全在庫」を設定して、在庫量が「安全在庫」を下回らないように在庫管理を行います。
- あらかじめ定めた発注間隔で発注を行います。
- 1回当たりの発注量は、発注の都度計算して適切な数量に設定します。
発注量
「定期発注方式」における発注量は、以下の計算式により算出することができます。
発注量は、「発注サイクル(発注間隔)」と「調達リードタイム(調達期間)」に消費されると推定される需要量から、倉庫に保有している在庫量である「手持在庫(実在庫/現品在庫)」と発注しているがまだ納品されていない在庫量である「発注残」を差し引いた在庫量に、品切れを防ぐために必要最低限ストックしておくべき在庫量である「安全在庫」を加えて算出します。
手持在庫
現物が手元にある在庫量。
備考 実在庫又は現品在庫ともいう。(JISZ8141-7309)
発注残
発注済みであるがまだ手元にない在庫量。(JISZ8141-7308)
安全在庫
急な需要の増減等により品切れが発生すると、売上の機会を逃す(機会損失が発生する)だけでなく、顧客からの信用失墜を招く恐れがあるため、企業にとって「品切れ」を回避することは重要な課題です。
「安全在庫」は、そのような「品切れ」を防止するため、需要のバラつきと発注してから納品されるまでの期間である「調達リードタイム」を考慮した上で、必要最低限ストックしておくべき在庫のことをいいます。
「品切れ」を防止するという観点だけ考えれば、「安全在庫」は多ければ多いほどそのリスクを回避する可能性を高めることができますが、「安全在庫」が多くなるとその保管スペースが必要であったり、売れ残り商品が増えるなど過剰在庫のリスクが高まってくるため、「安全在庫」を決定するときには、品切れが発生したときの影響度も考慮して設定する必要があります。
「安全在庫」を求める公式を以下に示します。(難しいです。)
安全在庫
需要変動又は補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫。(JISZ8141-7304)
定量発注方式
「定量発注方式」とは、在庫量がある一定の量まで減少した時点(発注点)で、あらかじめ定められた一定量(発注量)を発注する「在庫管理方式」のことをいいます。
定量発注方式
発注時期になるとあらかじめ定められた一定量を発注する在庫管理方式。
備考 一般には、発注点方式を指す。(JISZ8141-7312)
定量発注方式のメリットとデメリット
「定量発注方式」では、あらかじめ「発注点」と「発注量」を設定すれば、機械的に在庫を管理することができるため、手間がかからず運用管理が容易であること、さらに自動発注等の仕組みを取り入れれば、事務処理の効率化も実現することができるというメリットがあります。
一方で、「定量発注方式」では、機械的に在庫をするため、需要変動の激しいものの在庫管理には不向きというデメリットもあります。
「定量発注方式」が不向きとされているものには以下のようなものがあります。
- 需要変動の激しいもの
- 調達に長期間を要するもの
定量発注方式のイメージ
「定量発注方式」のイメージを以下に示します。
- 品切れを起こさないように、最低限保有しておくべき「安全在庫」を設定して、在庫量が「安全在庫」を下回らないように在庫管理を行います。
- 「安全在庫」と「調達リードタイムの消費量」を元に設定した「発注点」まで在庫量が減少したら発注を行います。
- 1回当たりの発注量は「在庫関連費用」を最も少なく抑える「経済的発注量」に設定します。
発注点
「定量発注方式」では、在庫量が「発注点」まで減少したら発注を行います。
つまり、「発注点」とは、発注するためのトリガーとなる在庫量です。
「発注点」は、在庫切れを防ぐための「安全在庫」に、発注してから納品されるまでの期間中に消費される在庫量である「推定需要量」を加算して設定します。
発注してから納品されるまでの期間中に消費される在庫量である「推定需要量」は、以下の計算式により求めることができます。
発注点
発注点方式において、発注を促す在庫水準。
備考 注文点ともいい、調達期間中の推定需要量と安全在庫の和として求められる。
(JISZ8141-7314)
経済的発注量(EOQ:Economic Order Quantity)
「定量発注方式」では、在庫量が「発注点」まで減少した時点で、あらかじめ定められた一定量(発注量)を発注します。
「在庫管理」においては、在庫を保管するために発生する費用(保管費用)と発注処理や受入処理のために発生する費用(発注費用)が発生しますが、「保管費用」を抑えるために1回当たりの発注量を減らすと発注回数が増えるため「発注費用」が増加します。逆に「発注費用」を抑えるために1回当たりの発注量を増やすと「保管費用」が増加します。
このようにトレードオフの関係にある「保管費用」と「発注費用」を合計した「在庫関連費用」を最も少なく抑える1回当たりの発注量のことを「経済的発注量」といいます。
「経済的発注量」は、以下の公式により算出することができます。
経済的発注量
一定期間の在庫関連費用を最小にする1回当たりの発注量。
備考1. 一般的には、発注費と保管費の和を最小にする発注量を指し、次の式で表される。
Q:経済発注量
R:1期当たりの推定所要量
c:1回の発注費用
h:1個1期当たりの保管費備考2. 経済的注文量又は経済発注量ともいう。(JISZ8141-7313)
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【令和3年度 第12問】
発注方式における発注点あるいは発注量の決定に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア ダブルビン方式における発注量として、発注点の2倍を用いた。
イ 定量発注方式における発注点として、調達期間中の平均的な払い出し量を用いた。
ウ 定量発注方式における発注量として、経済発注量を用いた。
エ 定期発注方式における発注量として、(発注間隔+調達期間)中の需要量の推定値に安全在庫を加えた量を用いた。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
発注方式における発注点あるいは発注量の決定に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
「ダブルビン方式」とは、複棚法、二棚法、ツービン法とも呼ばれる「在庫管理方式」であり、同じ容量のビン(容器・箱)を2つ用意して、片方のビン(容器・箱)が空となり、他方のビン(容器・箱)に入った在庫を使用し始めたタイミングで、空となったビン(容器・箱)の分だけ発注する方式です。
発注する容量は、ビン(容器・箱)の大きさで一定量となるため、定量発注方式の簡易版と位置づけられます。
したがって、ダブルビン方式における発注量として、発注点の2倍を用いるのではなく、空となったビン(容器・箱)の量を用いるため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
「定量発注方式」では、在庫量が「発注点」まで減少したら発注を行います。
つまり、「発注点」とは、発注するためのトリガーとなる在庫量です。
「発注点」は、在庫切れを防ぐための「安全在庫」に、発注してから納品されるまでの期間中に消費される在庫量である「推定需要量」を加算して設定します。
発注してから納品されるまでの期間中に消費される在庫量である「推定需要量」は、以下の計算式により求めることができます。
したがって、定量発注方式における発注点として、調達期間中の平均的な払い出し量を用いるのではなく、在庫切れを防ぐための「安全在庫」に、調達期間中の平均的な払い出し量を加算して設定するため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 適切です。
「定量発注方式」では、在庫量が「発注点」まで減少した時点で、あらかじめ定められた一定量(発注量)を発注します。
「在庫管理」においては、在庫を保管するために発生する費用(保管費用)と発注処理や受入処理のために発生する費用(発注費用)が発生しますが、「保管費用」を抑えるために1回当たりの発注量を減らすと発注回数が増えるため「発注費用」が増加します。逆に「発注費用」を抑えるために1回当たりの発注量を増やすと「保管費用」が増加します。
このようにトレードオフの関係にある「保管費用」と「発注費用」を合計した「在庫関連費用」を最も少なく抑える1回当たりの発注量のことを「経済的発注量」といいます。
「経済的発注量」は、以下の公式により算出することができます。
したがって、定量発注方式における発注量として、経済発注量を用いたという選択肢の内容は適切です。
(エ) 不適切です。
「定期発注方式」における発注量は、以下の計算式により算出することができます。
発注量は、「発注サイクル(発注間隔)」と「調達リードタイム(調達期間)」に消費されると推定される需要量から、倉庫に保有している在庫量である「手持在庫(実在庫/現品在庫)」と発注しているがまだ納品されていない在庫量である「発注残」を差し引いた在庫量に、品切れを防ぐために必要最低限ストックしておくべき在庫量である「安全在庫」を加えて算出します。
したがって、定期発注方式における発注量として、(発注間隔+調達期間)中の需要量の推定値に安全在庫を加えた量を用いるのではなく、(発注間隔+調達期間)中の需要量の推定値から手持在庫と発注残を控除して安全在庫を加えた量を用いるため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(ウ)です。
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