今回は、「経済学・経済政策 ~H27-13 代替効果と所得効果(4)代替効果と所得効果~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成27年度一次試験問題一覧~
平成27年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
代替効果と所得効果 -リンク-
本ブログにて「代替効果と所得効果」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 無差別曲線・予算制約線・最適消費点・代替効果と所得効果のまとめ
- R3-16 代替効果と所得効果(8)予算制約線・代替効果と所得効果
- R2-15 代替効果と所得効果(1)代替効果と所得効果
- H29-16 代替効果と所得効果(2)代替効果と所得効果
- H28-16 代替効果と所得効果(3)代替効果と所得効果
- H26-16 代替効果と所得効果(5)代替効果と所得効果
- H25-14 代替効果と所得効果(6)代替効果と所得効果
- H24-17 代替効果と所得効果(7)代替効果と所得効果
効用
消費者は、財を消費することによって「効用」を得ることができます。
「効用」とは「財の消費によって消費者が得られる満足度」のことをいいます。
無差別曲線
「無差別曲線」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、縦軸に「Y財の消費量」を、横軸に「X財の消費量」を取ったグラフで表される「ある消費者が等しい効用水準を得られる2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
消費が増加すると効用が高まる一般的な2つの財の「無差別曲線」は以下の図のようになります。
「無差別曲線」では、「同一の無差別曲線上においてはどの点を取っても効用水準は等しい」という特徴を理解しておくことが重要です。
また、もう一つ、「無差別曲線」は以下の図のように「3本」しかないわけではなく無数に存在するという特徴も理解しておくことが重要です。
予算制約線
「予算制約線」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、「X財の消費量X」と「Y財の消費量Y」のグラフで表される「予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
最適消費点
「最適消費点」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、「X財の消費量X」と「Y財の消費量Y」の2軸のグラフで表される「限られた予算の中で、ある消費者の効用を最大化する2財の消費の組み合わせを示す点」のことをいいます。
ある消費者が等しい効用を得られる2財の消費の組み合わせを表す「無差別曲線」と、予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを表す「予算制約線」の接点が「最適消費点」となります。
予約制約線の変化による最適消費点のシフト
予約制約線の変化によって「最適消費点」がどのようにシフトするのかについて確認するため「X財の価格が下落した場合」を例として以下に説明します。
- X財の価格が下落すると「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)」は変わらずに「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量」が大きくなるため「予算制約線」が右方に拡大します。
- 拡大した「予算制約線」は、X財の価格が下落する前の「予約制約線」と接していた「無差別曲線」よりも効用が高い「無差別曲線」と接することとなるため、この新たな「無差別曲線」との接点が、X財の価格が下落した場合の「最適消費点」となります。(無差別曲線がシフトするわけではありません。もともと無差別曲線は無数に存在しています。)
価格効果(全部効果)
社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、財の価格変動が「最適消費点」に与える効果のことを「価格効果(全部効果)」といいます。
「価格効果(全部効果)」は、効用水準が一定という条件の下で2財の相対価格比の変化が「最適消費点」に与える効果である「代替効果」と、2財の相対価格比が一定という条件の下で実質取得の変化が「最適消費点」に与える効果である「所得効果」を掛け合わせた効果として表されます。
代替効果 | 効用水準が一定という条件の下で、2財の相対価格比の変化が最適消費点に与える効果 |
所得効果 | 2財の相対価格比が一定という条件の下で、実質取得の変化が最適消費点に与える効果 |
代替効果
「代替効果」とは、効用水準が一定という条件の下で、2財の相対価格比の変化が「最適消費点」に与える効果のことをいいます。
言葉の定義が難しいですが、X財の価格が下落すると、X財の方がY財より相対的に価格が安くなるため、Y財よりX財を購入するようになるという感覚だと理解すれば大丈夫だと思います。
「代替効果」は、同一の「無差別曲線」に接する(効用水準が一定)ように「予算制約線」の傾きを変えながらシフトさせた(2財の相対価格比の変化)場合の「最適消費点」のシフトとして表されます。
「代替効果」のイメージ
所得効果
「所得効果」とは、2財の相対価格比が一定という条件の下で、実質取得の変化が最適消費点に与える効果のことをいいます。
言葉の定義が難しいですが、X財の価格の下落により「実質所得」が増加する(財を消費できる量が増加する)ため、2財を消費する量を増やすという感覚だと理解すれば大丈夫だと思います。
「所得効果」は、財の価格が変動した後の「予算制約線」を、傾きを変えず(2財の相対価格比が一定)に平行シフトさせた(実質取得の変化)場合の「最適消費点」のシフトとして表されます。
「所得効果」のイメージ
スルツキー分解
「価格効果(全部効果)」を「代替効果」と「所得効果」に分解することを「スルツキー分解」といいます。
X財の価格が下落すると「予算制約線」がシフトして「最適消費点」もシフトします。
この「最適消費点のシフト(赤→青)」は、財の価格変動が「最適消費点」に与える効果である「価格効果(全部効果)」を表しています。
財の価格が変動した後の「予算制約線」を、傾きを変えず(2財の相対価格比が一定)に、X財の価格が下落する前の「予算制約線」が接していた「無差別曲線」と接する点(緑)まで平行シフト(実質取得の変化)します。
財の価格変動が「最適消費点」に与える効果である「価格効果(全部効果)」を、同一の「無差別曲線」に接する(効用水準が一定)ように「予算制約線」の傾きを変えながらシフトさせた(2財の相対価格比の変化)場合の「最適消費点」のシフトとして表される「代替効果(赤→緑)」と、財の価格が変動した後の「予算制約線」を、傾きを変えず(2財の相対価格比が一定)に平行シフトさせた(実質取得の変化)場合の「最適消費点」のシフトとして表される「所得効果(緑→青)」に分解することができました。
実際の問題では「スルツキー分解」が終わった後の図が示され、どれが「代替効果」と「所得効果」を表しているかという形で出題されます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成27年度 第13問】
近年では、企業の業績が上向いてきたことなどもあり賃金が上昇傾向にあるが、賃金上昇が労働者に与える影響を経済モデルで考えてみたい。
いま、ある消費財の消費量を C 、その価格を 1 とする。個人は、賃金率 w で L という時間だけ労働して wL という所得を稼ぎ、当該の消費財を消費することができる。1日24時間のうち労働以外の時間を余暇 R とすると、労働時間は L=24-R と表すことができる。こうした仮定のもとにある個人は、C=w(24-R) という制約の中で、C と R を組み合わせることになる。ただし、労働に投じることができる時間は、最大で12時間(L≦12)であるものとする。下図は、上記の仮定を踏まえて、賃金率 w の場合と賃金率 w’ の場合(w<w’)とに分けて、個人が直面する制約が右下がりの直線として描かれている。また、この制約線と無差別曲線 Ui( i = 1,2 )との接点として、それぞれの場合における最適な C と R の組み合わせが与えられている。この図で、賃金率が w から w’ へ上昇したものと想定した場合の記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア この図では、賃金率の上昇に伴って生じる所得効果と代替効果を合計した効果(全効果)は、余暇時間を減少させる。
イ この図では、賃金率の上昇に伴って生じる所得効果と代替効果を合計した効果(全効果)は、労働時間を減少させる。
ウ この図では、賃金率の上昇に伴って生じる所得効果は、労働時間を増加させる。
エ この図では、賃金率の上昇に伴って生じる代替効果は、余暇時間を増加させる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
代替効果と所得効果に関する知識を問う問題です。
問題文を読むとすごく難しく感じますが、問題で与えられた図と選択肢を見れば、それほど難易度が高い問題ではなく、「価格効果(全部効果)」と「スルツキー分解」による「代替効果」と「所得効果」への分解について理解できていれば、正解することができる問題です。
賃金率の上昇に伴って、ある消費財の「消費量 C」と「余暇時間 R」のバランスを示す「最適消費点」がどのようにシフトしていくのかを確認していきます。
- 賃金率の上昇に伴って、ある消費財の「消費量 C」が「C=w(24-R)」から「C=w‘(24-R)」に変化するため「予算制約線」が上方に拡大シフトします。
- 「最適消費点」は、上方に拡大シフトした「予算制約線」が「無差別曲線(U2)」と接する「点」にシフトします。(無差別曲線がシフトするわけではありません。もともと無差別曲線は無数に存在しています。)
続いて、賃金率の上昇に伴って生じる「価格効果(全部効果)」を「代替効果」と「所得効果」に分解します。
- 賃金率の上昇に伴って、上方に拡大シフトした「予算制約線」を、賃金率が上昇する前の「予算制約線」が接していた「無差別曲線(U1)」と接するまで平行に下方シフトします。
- 平行に下方シフトした「予算制約線」と「無差別曲線(U1)」の接点を求めれば、「価格効果(全部効果)」を「代替効果」と「所得効果」に分解することができます。
(ア) 不適切です。
賃金率の上昇に伴って生じる「価格効果(全部効果)」は以下のようになります。
賃金率の上昇に伴って生じる「価格効果(全部効果)」は、ある消費財の「消費量 C」と「余暇時間 R」を増加させていることが分かります。
また、「価格効果(全部効果)」が「余暇時間 R」を増加させるということは「 L=24-R 」として表される「労働時間 L」を減少させるということを表しています。
したがって、この図では、賃金率の上昇に伴って生じる所得効果と代替効果を合計した効果(全効果)は、余暇時間を減少させるのではなく余暇時間を増加させる(労働時間を減少させる)ため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
選択肢(ア)で説明した通り、賃金率の上昇に伴って生じる「価格効果(全部効果)」は、ある消費財の「消費量 C」と「余暇時間 R」を増加させていることが分かります。
また、「価格効果(全部効果)」が「余暇時間 R」を増加させるということは「 L=24-R 」として表される「労働時間 L」を減少させるということを表しています。
したがって、この図では、賃金率の上昇に伴って生じる所得効果と代替効果を合計した効果(全効果)は、労働時間を減少させる(余暇時間を増加させる)ため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
賃金率の上昇に伴って生じる「価格効果(全部効果)」を「スルツキー分解」により「代替効果」と「所得効果」に分解すると以下のようになります。
「所得効果」は、賃金率が上昇した後の「予算制約線」を、傾きを変えずに平行シフトさせた場合の「最適消費点」のシフトであり、問題で与えられた図においては「余暇時間 R」を増加させていることが分かります。
また、「所得効果」が「余暇時間 R」を増加させるということは「 L=24-R 」として表される「労働時間 L」を減少させるということを表しています。
したがって、この図では、賃金率の上昇に伴って生じる所得効果は、労働時間を増加させるのではなく労働時間を減少させる(余暇時間を増加させる)ため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
賃金率の上昇に伴って生じる「価格効果(全部効果)」を「スルツキー分解」により「代替効果」と「所得効果」に分解すると以下のようになります。
「代替効果」は、「無差別曲線 U1」に接するように、賃金率が上昇する前の「予算制約線」の傾きを変えながらシフトさせた場合の「最適消費点」のシフトであり、問題で与えられた図においては「余暇時間 R」を減少させることが分かります。
また、「代替効果」が「余暇時間 R」を減少させるということは「 L=24-R 」として表される「労働時間 L」を増加させるということを表しています。
したがって、この図では、賃金率の上昇に伴って生じる代替効果は、余暇時間を増加させるのではなく余暇時間を減少させる(労働時間を増加させる)ため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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