今回は、「経済学・経済政策 ~H24-3 主要経済理論(11)フィリップス曲線~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成24年度一次試験問題一覧~
平成24年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
雇用・失業 -リンク-
本ブログにて「雇用」「失業」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 雇用・失業のまとめ
- R3-11 主要経済理論(14)雇用と失業の用語
- R2-8-1 主要経済指標(2)労働力調査
- R2-8-2 主要経済理論(3)失業の分類(発生要因)
- R1-9 主要経済理論(6)自然失業率仮説
- H27-8 主要経済理論(8)自然失業率仮説
- H25-1 主要経済指標(9)労働力調査
フィリップス曲線
「フィリップス曲線」とは、1958年にフィリップスが過去のデータに基づき発表した「賃金上昇率」と「失業率」の関係を表す曲線のことをいいます。
「フィリップス曲線」は、縦軸に「賃金上昇率(⊿W÷W)」を、横軸に「失業率(U)」を取ったグラフにおいて「右下がりの曲線」として表され、「賃金上昇率」と「失業率」に負の相関関係(トレード・オフの関係)があることを表しています。
フィリップス曲線
自然失業率仮説
「自然失業率仮説」とは、1968年にフリードマンにより提唱された「物価上昇率」と「失業率」に関する仮説のことをいいます。
「自然失業率仮説」では、短期的には物価が上昇すると「失業率」は低減するが、長期的には物価が上昇しても「失業率」は低減せずに「自然失業率(UN)」で一定になるとしています。
つまり、「自然失業率仮説」では、物価を上昇させる政策は、短期的に「失業率」を低減させる効果はあるが、長期的に「失業率」を低減させる効果はないということを説明しています。
「フィリップス曲線」では、縦軸に「賃金上昇率」を取っていましたが、「自然失業率仮説」では「賃金上昇率」と「物価上昇率」に正の相関関係があることに着眼し、縦軸に「物価上昇率(⊿P÷P)」を、横軸に「失業率(U)」を取った「物価版フィリップス曲線」を用いて「物価上昇率」と「失業率」の関係を説明しています。
自然失業率(UN)
「自然失業率(UN)」とは、労働市場の需要と供給が均衡している「完全雇用状態」において発生する「失業率」のことをいいます。
「完全雇用状態」とは、現行の賃金率で働く意思がある全ての人が職に就くことができている状態のことをいうため、「完全雇用状態」においては「非自発的失業」は発生していません。
なお、「完全雇用状態」においても「自発的失業」や「摩擦的失業」は発生しています。
- 自発的失業
現行の賃金率で働く意思がなく自発的に失業している状態 - 非自発的失業
働く意思と能力があるにも関わらず、景気が悪いため失業している状態 - 摩擦的失業
景気とは関係なく、転職などにより一時的に失業している状態
物価版フィリップス曲線(短期)
「自然失業率仮説」では、短期においては物価と「失業率」に負の相関関係(トレード・オフの関係)があり物価が上昇すると「失業率」が低減するとしており、短期において物価が上昇すると「失業率」が低減するのは、雇い主である「企業(労働需要者)」と「労働者(労働供給者)」において情報の非対称性が存在しているためとしています。
「企業(労働需要者)」は「物価(P)」が上昇していることを認識した上で「名目賃金(W)」の引き上げを行いますが、「労働者(労働供給者)」は「物価(P)」が上昇していることに気が付かず「名目賃金(W)」の上昇を「実質賃金(W÷P)」の上昇と錯覚(貨幣錯覚)してしまうため、賃金が高くなるのであれば働こうと考え「労働供給量」を増加させて「失業率」が低減します。
そのため、短期における「物価版フィリップス曲線」は右下がりの曲線となります。
物価版フィリップス曲線(短期)
物価版フィリップス曲線(長期)
「自然失業率仮説」では、長期においては物価と「失業率」に相関関係はなく、物価に関わらず「失業率」は「自然失業率(UN)」で均衡するとしています。
また、長期において物価に関わらず「失業率」が「自然失業率(UN)」で均衡するのは、雇い主である「企業(労働需要者)」と「労働者(労働供給者)」に存在していた情報の非対称性がなくなるためとしています。
「労働者(労働供給者)」は「名目賃金(W)」と同時に「物価(P)」も上昇していて「実質賃金(W÷P)」が上昇していないという事実に気付き「労働供給量」を減少させるため、低減していた「失業率」は元に戻り「自然失業率(UN)」で均衡します。
そのため、長期における「物価版フィリップス曲線」は垂直な曲線となります。
物価版フィリップス曲線(長期)
スタグフレーション
「スタグフレーション(Stagflation)」とは「停滞(Stagnation)」と「インフレーション(Inflation)」の合成語です。
景気が停滞して不況に陥ると通常は需要の減少に伴い物価は下落しますが、不況であるにもかかわらず、原油など原材料価格の高騰といった様々な理由により、持続的に物価が上昇することを「スタグフレーション」といいます。
「スタグフレーション」が発生すると、不況により賃金が上がらない状況であるにもかかわらず、物価が上昇するという厳しい経済状態となります。
リフレーション
「リフレーション」とは、日本語では「通貨再膨張」と訳され、景気循環の中で「デフレーション」からは脱却したが、本格的な「インフレーション」には至っていない状態のことをいいます。
ディスインフレーション
「ディスインフレーション」とは、「インフレーション」が進行する中で、金融引き締め政策などにより物価上昇ペースが鈍化する経済状態のことをいいます。
なお、物価上昇ペースが鈍化したとはいえ、物価の上昇は続いている状況を表しているため、物価が下落する状態を示す「デフレーション」とは異なります。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成24年度 第3問】
下図は、4つの国について、物価上昇率と失業率の関係を見るために作成されたものである。なお、統計は、2000年~2010年暦年と2011年Q1〜Q3の3四半期データにもとづき、中国のみは2010年までのデータである。
これらの図の説明として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
[解答群]
ア アメリカのデータには、失業率と物価上昇率との間に負の相関が緩やかに見てとれるので、オークンの法則が部分的には満たされている。
イ 英国のデータは、短期的なフィリップス曲線の有する典型的な特性とは異なる姿を示している。
ウ 中国のデータは、ペティー=クラークの法則が示した物価上昇率の停滞を表す状況を示している。
エ ブラジルのデータによれば、物価上昇率と失業率の値がともに10%を超えていたが、こうした状況はリフレーションといわれる。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答
短期的なフィリップス曲線に関する知識を問う問題です。
(ア) 不適切です。
「オークンの法則」とは、1962年にアーサー=オークンが過去のデータに基づき提唱した「実質国内総生産(実質GDP)の成長率と失業率には負の相関関係がある」という経験則のことをいいます。
問題で与えられたアメリカのデータには、物価上昇率と失業率の関係が表されていますが、実質国内総生産(実質GDP)の成長率と失業率の関係は表されていないため、「オークンの法則」との関連性を見出すことはできません。
選択肢に記述されている「アメリカのデータには、失業率と物価上昇率との間に負の相関が緩やかに見てとれる」という内容は短期における(物価版)フィリップス曲線の有する典型的な特性を表しています。
また、アメリカのデータの最後の方では、物価が上昇しても失業率が低減しておらず、短期における(物価版)フィリップス曲線の有する典型的な特性とは一致していませんが、この点についても選択肢に「部分的には満たされている」と記述されているため、その内容に矛盾はないと考えられます。
物価版フィリップス曲線(短期)
したがって、アメリカのデータには、失業率と物価上昇率との間に負の相関が緩やかに見てとれるので、オークンの法則ではなく、短期的な(物価版)フィリップス曲線の有する典型的な特性が部分的には満たされているため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 適切です。
短期的な物価版フィリップス曲線は「右下がりの曲線」であり「物価上昇率」と「失業率」に負の相関関係(トレード・オフの関係)があることを表しています。
物価版フィリップス曲線(短期)
問題で与えられた英国のデータでは、「物価上昇率」が上昇すると「失業率」も上昇している(正の相関関係がある)ように見えるため、「物価上昇率」と「失業率」に負の相関関係(トレード・オフの関係)があるという短期的な(物価版)フィリップス曲線の有する典型的な特性とは一致していません。
したがって、英国のデータは、短期的なフィリップス曲線の有する典型的な特性とは異なる姿を示しているため、選択肢の内容は適切です。
(ウ) 不適切です。
「ペティ=クラークの法則」とは、経済や産業が発展するについて、産業構造や労働者構成の中心が、第1次産業(農林水産業)から第2次産業(工業)へと、さらに第2次産業(工業)から第3次産業(サービス産業)へと遷移していくという経験則のことをいいます。
問題で与えられた中国のデータには、物価上昇率と失業率の関係が表されていますが、「ペティ=クラークの法則」との関連性を表すデータはありません。
また、問題で与えられた中国のデータでは、「失業率」は一定で推移していますが「物価上昇率」は変動しており停滞しているようには見えません。
したがって、中国のデータは、ペティー=クラークの法則と関連性がなく、物価上昇率ではなく失業率の停滞を表す状況を示しているため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 不適切です。
「リフレーション」とは、日本語では「通貨再膨張」と訳され、景気循環の中で「デフレーション」からは脱却したが、本格的な「インフレーション」には至っていない状態のことをいいます。
また、「スタグフレーション(Stagflation)」とは「停滞(Stagnation)」と「インフレーション(Inflation)」の合成語です。
景気が停滞して不況に陥ると通常は需要の減少に伴い物価は下落しますが、不況であるにもかかわらず、原油など原材料価格の高騰といった様々な理由により、持続的に物価が上昇することを「スタグフレーション」といいます。
したがって、ブラジルのデータによれば、物価上昇率と失業率の値がともに10%を超えていたが、こうした状況はリフレーションではなくスタグフレーションといわれるため、選択肢の内容は不適切です。
答えは(イ)です。
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