今回は、「経済学・経済政策 ~H25-14 代替効果と所得効果(6)代替効果と所得効果~」について説明します。
目次
経済学・経済政策 ~平成25年度一次試験問題一覧~
平成25年度の試験問題に関する解説は、以下のページを参照してください。
代替効果と所得効果 -リンク-
本ブログにて「代替効果と所得効果」について説明しているページを以下に示しますのでアクセスしてみてください。
- 無差別曲線・予算制約線・最適消費点・代替効果と所得効果のまとめ
- R3-16 代替効果と所得効果(8)予算制約線・代替効果と所得効果
- R2-15 代替効果と所得効果(1)代替効果と所得効果
- H29-16 代替効果と所得効果(2)代替効果と所得効果
- H28-16 代替効果と所得効果(3)代替効果と所得効果
- H27-13 代替効果と所得効果(4)代替効果と所得効果
- H26-16 代替効果と所得効果(5)代替効果と所得効果
- H24-17 代替効果と所得効果(7)代替効果と所得効果
効用
消費者は、財を消費することによって「効用」を得ることができます。
「効用」とは「財の消費によって消費者が得られる満足度」のことをいいます。
無差別曲線
「無差別曲線」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、縦軸に「Y財の消費量」を、横軸に「X財の消費量」を取ったグラフで表される「ある消費者が等しい効用水準を得られる2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
消費が増加すると効用が高まる一般的な2つの財の「無差別曲線」は以下の図のようになります。
「無差別曲線」では、「同一の無差別曲線上においてはどの点を取っても効用水準は等しい」という特徴を理解しておくことが重要です。
また、もう一つ、「無差別曲線」は以下の図のように「3本」しかないわけではなく無数に存在するという特徴も理解しておくことが重要です。
予算制約線
「予算制約線」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、「X財の消費量X」と「Y財の消費量Y」のグラフで表される「予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを結んだ曲線」のことをいいます。
最適消費点
「最適消費点」とは、社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、「X財の消費量X」と「Y財の消費量Y」の2軸のグラフで表される「限られた予算の中で、ある消費者の効用を最大化する2財の消費の組み合わせを示す点」のことをいいます。
ある消費者が等しい効用を得られる2財の消費の組み合わせを表す「無差別曲線」と、予算を全て使い切った2財の消費の組み合わせを表す「予算制約線」の接点が「最適消費点」となります。
予約制約線の変化による最適消費点のシフト
予約制約線の変化によって「最適消費点」がどのようにシフトするのかについて確認するため「X財の価格が下落した場合」を例として以下に説明します。
- X財の価格が下落すると「X財の消費量がゼロである場合のY財の消費量(Y軸の切片)」は変わらずに「Y財の消費量がゼロである場合のX財の消費量」が大きくなるため「予算制約線」が右方に拡大します。
- 拡大した「予算制約線」は、X財の価格が下落する前の「予約制約線」と接していた「無差別曲線」よりも効用が高い「無差別曲線」と接することとなるため、この新たな「無差別曲線」との接点が、X財の価格が下落した場合の「最適消費点」となります。(無差別曲線がシフトするわけではありません。もともと無差別曲線は無数に存在しています。)
価格効果(全部効果)
社会に2つの財しか存在しないという仮定の「2財モデル」において、財の価格変動が「最適消費点」に与える効果のことを「価格効果(全部効果)」といいます。
「価格効果(全部効果)」は、効用水準が一定という条件の下で2財の相対価格比の変化が「最適消費点」に与える効果である「代替効果」と、2財の相対価格比が一定という条件の下で実質取得の変化が「最適消費点」に与える効果である「所得効果」を掛け合わせた効果として表されます。
代替効果 | 効用水準が一定という条件の下で、2財の相対価格比の変化が最適消費点に与える効果 |
所得効果 | 2財の相対価格比が一定という条件の下で、実質取得の変化が最適消費点に与える効果 |
代替効果
「代替効果」とは、効用水準が一定という条件の下で、2財の相対価格比の変化が「最適消費点」に与える効果のことをいいます。
言葉の定義が難しいですが、X財の価格が下落すると、X財の方がY財より相対的に価格が安くなるため、Y財よりX財を購入するようになるという感覚だと理解すれば大丈夫だと思います。
「代替効果」は、同一の「無差別曲線」に接する(効用水準が一定)ように「予算制約線」の傾きを変えながらシフトさせた(2財の相対価格比の変化)場合の「最適消費点」のシフトとして表されます。
「代替効果」のイメージ
所得効果
「所得効果」とは、2財の相対価格比が一定という条件の下で、実質取得の変化が最適消費点に与える効果のことをいいます。
言葉の定義が難しいですが、X財の価格の下落により「実質所得」が増加する(財を消費できる量が増加する)ため、2財を消費する量を増やすという感覚だと理解すれば大丈夫だと思います。
「所得効果」は、財の価格が変動した後の「予算制約線」を、傾きを変えず(2財の相対価格比が一定)に平行シフトさせた(実質取得の変化)場合の「最適消費点」のシフトとして表されます。
「所得効果」のイメージ
スルツキー分解
「価格効果(全部効果)」を「代替効果」と「所得効果」に分解することを「スルツキー分解」といいます。
X財の価格が下落すると「予算制約線」がシフトして「最適消費点」もシフトします。
この「最適消費点のシフト(赤→青)」は、財の価格変動が「最適消費点」に与える効果である「価格効果(全部効果)」を表しています。
財の価格が変動した後の「予算制約線」を、傾きを変えず(2財の相対価格比が一定)に、X財の価格が下落する前の「予算制約線」が接していた「無差別曲線」と接する点(緑)まで平行シフト(実質取得の変化)します。
財の価格変動が「最適消費点」に与える効果である「価格効果(全部効果)」を、同一の「無差別曲線」に接する(効用水準が一定)ように「予算制約線」の傾きを変えながらシフトさせた(2財の相対価格比の変化)場合の「最適消費点」のシフトとして表される「代替効果(赤→緑)」と、財の価格が変動した後の「予算制約線」を、傾きを変えず(2財の相対価格比が一定)に平行シフトさせた(実質取得の変化)場合の「最適消費点」のシフトとして表される「所得効果(緑→青)」に分解することができました。
実際の問題では「スルツキー分解」が終わった後の図が示され、どれが「代替効果」と「所得効果」を表しているかという形で出題されます。
試験問題
それでは、実際の試験問題を解いてみます。
【平成25年度 第14問】
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
いま、余暇時間Lと労働所得Yからのみ効用を得るような個人を考える。余暇時間の増加は、24時間のうち労働する時間が減少することを意味し、賃金率×労働時間で与えられる労働所得が減少するという関係にある。下図では、この個人が直面する予算線はJKであり、無差別曲線U1と接する点Aで最適な余暇時間と労働所得の組み合わせが与えられている。
この状態から、政府が労働所得に比例税率αを課したとき、予算線はHKへ変化し、最適点は、HKと無差別曲線U2が接する点Bによって与えられる。点線MNは、政府が一括税を課した場合の予算線であり、JKと平行で点Bを通るように描かれており、点Cで無差別曲線U3と接する。点線WWは、HKと平行で無差別曲線U1と点Dで接するような補助線である。
(設問1)
この図に関する説明として、最も適切なものはどれか。
ア 線分HOの長さを線分JOの長さで除した値は、賃金率となる。
イ 線分KOの長さを線分JOの長さで除した値は、労働所得に課される比例税率αとなる。
ウ 線分MNが示す一括税は、線分HKが示す比例税よりも、この個人が合理的に選択する労働時間を短くする。
エ 点Bの税収は、点Cの税収と同じである。
(設問2)
政府が労働所得に比例税率αを課すと、最適な余暇時間と所得との組み合わせは、点Aから点Bへと移る。所得への課税が余暇時間に与える影響を、「代替効果」と「所得効果」とに分けた記述として、最も適切なものはどれか。ただし余暇は、下級財ではないものとする。
ア 「代替効果」は相対的に高くなった余暇時間を増やす点Aから点Dへの変化で表され、「所得効果」は点Dから点Bへの変化で表される。
イ 「代替効果」は相対的に安くなった余暇時間を増やす点Aから点Dへの変化で表され、「所得効果」は点Dから点Bへの変化で表される。
ウ 「所得効果」は点Aから点Dへの変化で表され、「代替効果」は相対的に高くなった余暇時間を減らす点Dから点Bへの変化で表される。
エ 「所得効果」は点Aから点Dへの変化で表され、「代替効果」は相対的に安くなった余暇時間を減らす点Dから点Bへの変化で表される。
中小企業診断協会Webサイト(https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)
考え方と解答(設問1)
比例税率αの課税による労働所得と余暇時間のバランスの変化を示す図について読み取る力を問う問題です。
(ア) 不適切です。
問題で与えられた図から「賃金率」を求めてみます。
「賃金率」とは「単位時間当たりの賃金」のことをいい「労働所得=賃金率×労働時間」であるため「賃金率=労働所得÷労働時間」として求めることができます。
問題で与えられた図のどこに「労働所得」と「労働時間」が表されているのかを探していきます。
まず、「線分JOの長さ」は「税引前の労働所得の最大値(余暇時間はゼロ)」を表しており、「線分HOの長さ」は「比例税引後の労働所得の最大値(余暇時間はゼロ)」を表しています。
また、「線分KOの長さ」は「余暇時間の最大値(労働時間はゼロ)」を表していますが、余暇時間が増加すると労働時間が減少する関係にあるため、「余暇時間の最大値(労働時間はゼロ)」と「労働時間の最大値(余暇時間はゼロ)」は同じであり、「線分KOの長さ」は「労働時間の最大値(余暇時間はゼロ)」を表しています。
つまり、税引前の「賃金率」は「線分JOの長さ」を「線分KOの長さ」で除して求めることができ、比例税引後の「賃金率」は「線分HOの長さ」を「線分KOの長さ」で除して求めることができます。
したがって、線分HOの長さを線分JOの長さで除した値は、賃金率ではないため、選択肢の内容は不適切です。
(イ) 不適切です。
問題で与えられた図から「比例税率」を求めてみます。
「比例税率」は「比例税率=比例税額÷税引前の労働所得」として求めることができます。
問題で与えられた図のどこに「比例税額」と「税引前の労働所得」が表されているのかを探していくと、「線分JHの長さ」は「比例税額の最大値(余暇時間はゼロ)」を表しており、「線分JOの長さ」は「税引前の労働所得の最大値(余暇時間はゼロ)」を表していることが分かります。
つまり、「比例税率」は「線分JHの長さ」を「線分JOの長さ」で除して求めることができます。
したがって、線分KOの長さを線分JOの長さで除した値は、労働所得に課される比例税率αとはならないため、選択肢の内容は不適切です。
(ウ) 不適切です。
問題で与えられた図において、交点Bより左側の領域(余暇時間が短い/労働所得が多い)では、税引前の労働所得が同じであれば、政府が労働所得に一括税を課したときの方が比例税を課したときよりも、個人が納付する税額が少なくなるため、税引後の労働所得が多くなります。
また、交点Bより右側の領域(余暇時間が長い/労働所得が少ない)では、税引前の労働所得が同じであれば、政府が労働所得に一括税を課したときの方が比例税を課したときよりも、個人が納付する税額が多くなるため、税引後の労働所得が少なくなってしまいます。
つまり、政府が労働所得に一括税を課したとき、このグラフで表される特性を有する個人は、交点Bより左側の領域(余暇時間が短い/労働所得が多い)となるように、労働時間を長くします。
したがって、線分MNが示す一括税は、線分HKが示す比例税よりも、この個人が合理的に選択する労働時間を短くするのではなく長くするため、選択肢の内容は不適切です。
(エ) 適切です。
政府が労働所得に一括税を課した場合の税引後の労働所得を表す「点線MN」は、政府が課税する前の「予算線JK」と平行に描かれており、「点線MN」上にある全ての点において、個人が納付する税額(政府の税収)は同じとなります。
つまり、政府が労働所得に一括税を課した場合の税引後の労働所得を表す「点線MN」上にある「点B」と「点C」において個人が納付する税額(政府の税収)は同じです。
したがって、点Bの税収は、点Cの税収と同じであるため、選択肢の内容は適切です。
答えは(エ)です。
考え方と解答(設問2)
代替効果と所得効果に関する知識を問う問題です。
政府が労働所得に比例税を課した場合、労働所得の減少に伴って労働所得と余暇時間のバランスを示す「最適消費点」がどのようにシフトしていくのかを確認していきます。
- 比例税による労働所得の減少に伴って「労働所得」が「J」から「H」に変化するため「予算制約線(JK)」が「予算制約線(HK)」にシフトします。
- 「最適消費点」は「予算制約線(HK)」が「無差別曲線(U2)」と接する「点B」にシフトします。(無差別曲線がシフトするわけではありません。もともと無差別曲線は無数に存在しています。)
続いて、政府が労働所得に比例税を課した場合の労働所得の減少に伴う「価格効果(全部効果)」を「代替効果」と「所得効果」に分解します。
- 比例税による労働所得の減少によりシフトした「予算制約線(HK)」を、比例税により労働所得が減少する前の「予算制約線(JK)」が接していた「無差別曲線(U1)」と接するまで平行に上方シフトします。
- 平行に上方シフトした「予算制約線(WW)」と「無差別曲線(U1)」の接点を「点D」とします。
- 比例税による労働所得の減少に伴う「価格効果(全部効果)(A → B)」を「代替効果(A → D)」と「所得効果(D → B)」に分解することができました。
したがって、「代替効果」は相対的に安くなった余暇時間を増やす点Aから点Dへの変化で表され、「所得効果」は点Dから点Bへの変化で表されるため、選択肢(イ)の内容が適切です。
答えは(イ)です。
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